『双子の姉弟』|洒落怖名作まとめ【長編】

『双子の姉弟』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編

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双子の姉弟

 

姉の腕に抱かれ、眠る。
僕がドアをノックしたらお姉ちゃんは優しく迎え入れてくれないといけないよ。
それは義務、使命だ。

私の弟は異常者だ。
姉弟である自分に姉弟愛では無い、恋愛感情を求めている。
その弟の異常性に気付いたのは彼が中学二年の頃だ。
私と弟の部屋は共同で、ベッドも一つ。
双子として産まれてきて物心がついてからはいつも
二人で一緒に寝てきたことを覚えている。
だけど異常な弟の性に気付くまで私は彼と二人で寝ることを
嫌だとは思っていなかったし、隣に弟がいると安心した。
周りには仲の良い姉弟だと認識されていたと思う。
私も弟のことが好きだったし、弟も私のことが好きであったと思う。
だけどその間に有ったのは姉弟としての愛だ。
引っ込み思案であった弟は、あまり友達の多い方では無かったし
性格も明るくは無かった。でも姉である私に対しては
優しくて思いやりのある弟だった。
誕生日には私の欲しがっていた手帳をプレゼントしてくれたこともあったし、
母親や父親と喧嘩して泣いていた私に、弟はいつも優しくしてくれた。
つまり私にとって弟は心強い味方であったし、優しい友達でもあった。
だから毎日弟とばかり遊ぶのは嫌では無かったし、楽しかった。
幼稚園、小学生、と同じ学校を通ってきた私達は中学も当たり前かのように
同じ公立の中学校へ進学した。
周りの環境は変わったけれど、本質は何も変わっていない毎日が
繰り返されているだけだと思っていた。

ある晩いつもの様に弟とベッドで眠っていた時
私は深夜に不意に目を覚ましてしまった。
ゆっくりと目を開けた。そこには薄暗い闇の中で私を見下ろしながら
性器を取り出し、必死にそれを揺れ動かしている弟の姿があった。
口元には笑みを浮かべていた。
しかし私の目が開いているのに気付いたのか
弟は不思議そうな表情でまじまじとこちらを見つめている。
「あれ・・・?お姉ちゃん・・・起きてたの?」
その時の私は弟の行為の意味を理解していなかった。
だが背筋に走る冷たいものが、理解し難い何かが走った。
私は返事をしなかった。いや、出来なかったのかもしれない。
とにかく言葉を失った。
そしてそのまま寝返りを打ったフリをして目をつぶった。
弟は私が寝ているのを半信半疑の様子だったが
そのまま横で眠りについたようだ。
いつも横にいて安心を与えてくれるはずの弟が
今日は何か得体の知れない人間に感じられた。
怖い。恐怖で身を固まらせながらも私はやがて深い眠りに落ちた。

次の日の朝、弟は何も変わらない様子だった。
少し私はほっとした。
(アレは何かの見間違え、もしくは夢か何かだったのだろう・・・)
いつもと同じ学校の授業を終え、帰宅してテレビを見て入浴。食事を経て・・・
「おやすみ。お姉ちゃん」
「うん、おやすみなさい」
灯りを消してそのまま眠る。
昨日のはやっぱり何かの間違いだったんだな・・・

やがて意識が薄れていき、完全に睡魔に意識を奪われる直前
背中に何か熱い何かを感じた。
文章表現の類では無い、実在する物体の熱さ。
振り向くと弟の寝顔があった。私に密着したまま眠っていた。
(なーんだ・・・。あれ?でもコレって・・・」
私の背中に当たっていた何かは、大きく怒張した弟の性器だった。
悪寒がした。気持ち悪いと思った。嫌悪感を抱いた。
昨日の夜の出来事が何かの間違いでは無かったことに気付いた。
それからは毎日就寝の時間が怖くて仕方が無かった。
弟との普段の生活中での会話も減った。
弟は私に何度も声をかけてきたが
そのたびに何度も素っ気無い返事を返して過ごして来た。
中学も終わりに近づき、高校受験を迎えることになった。
私は女子校を受験した。
更に母親に私と弟の部屋を分けて欲しい、と伝えた。
母親は承諾し、姉弟別々の部屋になった。
その日の夜一人で眠りにつこうとすると
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「お姉ちゃん、一緒に寝てもいいかな・・・?」
息を飲んだ。気力を振り絞って
「ごめん。今日は一人で寝たいんだ・・・」
すると扉の向こうから足音が遠ざかっていくのを聞いた。
その日は本当に久しぶりの安眠を貪ることが出来た。
だけどそんな日々が続くのも僅かな時間だった。
次の日も弟は、私と一緒に寝たいと伝えにドアをノックしにやってきた。
その日も私は断ったが、その次の日も、次の日も、次の日も、次の日も、次の日も・・・
弟はやって来た。

「お姉ちゃん。なんで無視するの?」
「お姉ちゃん。どうして一緒に寝てくれないの?」
「お姉ちゃん。僕たち姉弟じゃなかったの?」
ドア越しに弟の声を聞く。
耳を塞ぐ。
ある日の朝、私が目覚めるとたくさんの丸まったティッシュペーパーが散乱していた。
事態を飲み込めなかったがティッシュペーパーを拾い、広げてみると
中には粘着性の液体が付着していた。
私はそれが何か瞬時に理解した。
(弟だ・・・弟がこの部屋に入ってきたんだ・・・。でもカギはかけているのにどうやって・・?)
次の日の夜、私は眠りにつくことが出来なかった。
弟が部屋を自由に出入りできることを考えると気が気で無かった。
「もう嫌だ・・・こんな家早く出て行きたい・・・」
口に出して呟くとその時ドアからガチャリと音が鳴り、開いた。
「どうして・・・」
弟がにやりと口元を歪めた。
「合鍵を作ってもらったんだよ・・・。お姉ちゃんの事を考えたら安い投資だ・・・。
最近のお姉ちゃんはおかしいよ・・・。僕は姉弟じゃないの?愛情を与えるのに値しないの?
この地上で同じ時間同じ場所で生まれた二人じゃないの・・・?愛し、同じ使命に従うべき・・・」
「あんたなんて弟じゃない・・・気持ち悪い。」
弟の口元が呆けた様に開いた。何を言っているのか理解できない風の顔をしながら
こちらに近づいてくる。

恐怖で体が動かない。そして私の耳元で弟が囁いた。
「お姉ちゃん、これからは毎日一緒に寝ようね。前と一緒みたいに・・・」
そう言って布団に潜り込んできた。
布団から抜け出そうとすると弟が腕を強引に掴んできた。
「駄目だよ・・・一緒に居てくれなきゃ・・・」
高校生男子の腕力にかなうはずも無く、そのまま一夜を明かした。
一晩中弟は私の方を向いたまま、まばたきもせずに丸い目でこちらを見つめていた。
反対側を向こうとすると無理矢理弟の方に力ずくで向かせられた。
一晩、ずっと弟の顔を見つめさせられた。
異常者の顔にしか見えなかった。
それから毎日弟は私の部屋にやって来る。
高校も1年が過ぎ2年が終わり3年目に突入した。
それでも弟は毎日やって来る。母や父には相談出来るはずも無い。
二人は私達のことを今でも仲の良いただの、普通の、双子だと思っているのだろう。
今日も外は静まり返り、夜がやって来た。
ドアをノックする音が聞こえた。

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