【名作 長編】『閉鎖病院』|本当にあった怖い話・オカルト・都市伝説

【名作 長編】『閉鎖病院』|本当にあった怖い話・オカルト・都市伝説 厳選

 

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閉鎖病院

 

今から17年前の夏休み、高校2年生の時に、高校の先輩で
大学1年の後藤先輩に誘われて肝試しする事になった。

同級生の八嶋も一緒に行く予定だったが前日に八嶋は急に行かないと言い出したので
僕、後藤先輩、後藤先輩の彼女(同級生)と3人で行く事になった。

市外の郊外から更に奥の山岳地帯に入る入り口付近にある廃墟の病院。
85年に過疎化が原因で事実上消滅した村に存在していた病院だ。ようは周りは全て廃墟のゴーストタウンならぬゴーストビレッジ。

その後数年間はまだ数世帯は残っていたらしいが僕らが肝試しをした94年は完全に人一人いない状態だった。

8月の最初の頃だったと思う。僕と後藤先輩カップルで昼に駅前で待ち合わせし後藤先輩の車で目的地に向かった。後藤先輩は直前になって来なかった八島に腹を立てていたようだった。

その日曇り空で嫌な予感はしていたが、やはりというべきか目的地に向かう途中雨が落ちてきた。

後藤先輩が道が分からないと言い出し、郊外から山岳地帯の付近で完全に迷子状態になったもののなんとか目的地付近に辿り着いた。

周りは平屋建ての民家や小さな商店、郵便局、駐在所があったがもちろん人はいない。雨が降りしきる中での住む人を失った小さな町の光景には哀愁を感じさせた。

病院は村の中心から外れた場所にある山の少し高台に建っていた。高台に登る手前に車が2台駐車してあった。一台はよく覚えてないが、もう一台はシルバーのワゴンタイプの車だった。

廃車だろうと思ったが、どう見てもそんなに古くない。僕には何年も放置されているようには思えなかった。後藤先輩も彼女も、その駐車された車をみて「廃車かぁ」と言っていたが、廃車と言われればこんな場所に停車しているんだからまあ廃車だろうという感じだった。

後藤先輩はその車の手前のスペースに停車させ、傘を持ってなかったので僕らは早足で病院へ向かった。

病院は予想以上に大きく、思っていたよりは古い印象はなかった。「I総合病院」と書かれた大きめの看板は玄関脇に建てかけてあった。

入り口の扉を開くと、広い玄関スペースがあり両脇に靴箱があった。大量のスリッパが乱雑に転がっている。

まだ夕方だったが、雨の影響で病院内部は薄暗く、やや不気味な雰囲気はあるものの真っ暗ではなかったので持ってきた懐中電灯は使用せず奥へ進んだ。

玄関スペースから奥へ行くとソファーが並んであり、一番奥に階段がある。

階段に登らず、真横に延びる廊下からまず1階を見て回ろうと思ったが後藤先輩がスタスタ階段を登り始めたので、いきなり2階か、と思いながら後を追った。

2階に着くと1階より薄暗く、さすがに少し怖くなってきた。

「まず2階を回ろう」と言う先輩の後をついて、廊下を歩いた。
歩きながら各部屋のドアを開けて中を覗いていった。
診察室、病室、給水室、食堂…どの部屋も意外と綺麗なままで、正直その頃は怖いというより、へぇ何年も使用してないのに綺麗なもんだなぁという印象しかなかった。

後藤先輩も「なんもないなぁ」とつまらなさそうに言った。彼女も最初は怖いよ~と言っていたが、「幽霊とかぜんぜん出そうじゃないね~」と余裕の態度に変わっていった。

一通り2階を探索し終え、3階へ上がった。

3階へ上がって廊下を歩き出そうとした瞬間、更に上の4階から大きな声が聞こえた。

「おっ!誰かおるんじゃないか!?オリャ~!!」
思わず体がビクッと震えた。後藤先輩は「隠れるぞ」と小声で言って慌てて目の前にあったトイレの女子便所の方へ入っていった。

僕と彼女も女子便所に入り、3人で一番奥の個室へ入ると音がしないようにゆっくり扉を閉め鍵をかけた。

後藤先輩も彼女も僕も狭い個室の中で押し黙ったままだった。

僕はいろいろ考えた。あの車はたぶんこの声の人の車だ、なんで人里離れた村の病院に人がいるんだ、といろいろな考えが頭を巡った。

「おい!!○○!見てこいっ!探せっ!」
「ウィッスッ」というやりとりが遠くから響いた。
「人がおったらどうします?」
「とりあえずコレで足イッたれや」

という言葉が聞こえてきた時は鳥肌が立った。
声の質や会話の内容からカタギじゃない事は明らかだった。

タッタッタッタッと階段を降りてくる音が聞こえた。トイレに入ってきたらどうしよう、と思うと身震いする思いだった。

彼女は下をうつ向き少し震えているように見えた。先輩は顔が硬直していた。足音はトイレではなく廊下の方へ移動していった。ガラガラガラ、ドンッと荒いドアの開閉音が聞こえる。

しばらくすると先輩が小声で「今なら逃げられる。走って階段おりよう」と言った。

僕は「まずいですって。戻ってきて鉢合わせになったらどうするんです?」と止めた。たしかに足音は廊下の奥へと遠のいていったが、いつ引き返してくるか分からないし探せと命令した男が階段付近で待っているかもしれない。

外の様子が分からないので下手に動くべきではないと思った。しかし「最後にココに来るだろ。今しかない」という先輩。僕は扉を開けようとする先輩の腕を掴み必死に止めた。

しばらく出る出ないでモメていると、下のほうから「なんかあったんスか~?」と声が響いてきた。

下から誰かが上がってきている。僕らは再び口を閉じ身構えた。先ほどの男が廊下の奥から走って戻ってきた。

「お前ら人おらんかったか?兄貴が人の声聞いたらしいんよ」
「いや、1階にはおらんかったっス」
「聞き間違いでしょ。こんなとこ誰も来やせんですよ」

どうやら下から登ってきた男は2人組のようだった。

出なくて良かった、と心底思った。出ていたら下の階から来た男たちと鉢合わせだっただろう。この時ばかりは先輩を睨みつけてしまった。

「どんな感じっス?」
「いま最後の分の解体よね。あと10分位で終わると思うで」
「えらい長ごうかかったわ。たいぎ~。はよ帰りたいの~」

と言いながら階段を登っていく音が聞こえた。

階段を登りきり、まったく声が聞こえなくなった瞬間、先輩が「行くぞ!」と言って扉を開いた。

緊張していたのか先輩の扉を開く力が強すぎてキュュ~ドンッと音が響く。走ってトイレの出口に向かう先輩を追う形で僕と彼女は後を走った。

トイレの扉を開き一目散に階段をかけ降りる先輩。気にせずに足音をキュッキュッと響かせながら走る先輩。僕も彼女ももう音は気にせず走り降りた。

「ドリャ~~~!なんかおるで!」と上の方から叫び声が聞こえてきた。
僕らは足を止める事なくかけ降りる。

しかし彼女が1階と2階の踊り場で体勢を崩してしまった。
先輩の姿はもう見えない。1階を降りきる寸前だった僕は

「あ~はやく!」と叫ぶも彼女は腰を抜かしたのか、手すりに寄りかかるようにして動かない。

僕は彼女の肩に手を回して体ごとひきずるように走った。玄関口まであと少し。外は来た時以上に大雨が降っている。玄関口を出て一瞬後ろを振り返ると男が階段を降りてくる姿が下半身だけ見えた。

追い付かれる、と思った。

玄関口を出て、来た時の砂利道の迂回ルートではなく、高台の斜面を滑り降りた。
先輩は駐車した車をUターンさせている。

まさか一人で逃げるんじゃ…っと思い、泣きそうな気持ちになったが先輩はUターンさせると車から降り後部座席のドアを開けて
「はやく来い!はやく!」と叫んだ。

斜面を降りて車までの約20メートルが近いようで遠い。先輩が「後ろ!後ろ!」と叫んだ。

振り返ると真後ろに、明らかにチンピラ風の男が迫っていた。
「待てや~!殺すどっ!」
彼女の体を掴もうとするチンピラだったが、勝手に足を滑らせてドテッと転げた。

サンダル履きだったので濡れた地面で滑ったようだ。
僕は最後の力を振り絞り、彼女を引きずると
後部座席になだれ込むように入った。

その瞬間アクセル全開の先輩。後部座席のドアは開いたまま発進した。
しかしもう一人の坊主のチンピラが走りながら手を伸ばしてきて、
車体と彼女の足首を掴んだ。

目を血走らせながら「こ~ろ~す、絶っ対こ~ろ~す」と低い声で言っている。
先輩はスピードを上げるがチンピラは全身を強引に車に乗せる格好でほぼ半身が車内に入っていた。僕は後部座席の中央でチンピラの手を引き離そうとするが、チンピラは片手で僕の服のお腹の辺りを鷲し掴みにし踏ん張っている。

運転しながら先輩は「蹴れ!顔面蹴れ!」と叫んだ。

正直かなり勇気がいったが、僕は横になった格好で思いきりチンピラの顔面めがけて何度も蹴りを入れそれでも踏ん張るチンピラに後部座席にあった炭酸ジュースを落ち着いて目の辺りにかけて、二回、三回と思いきり蹴りを入れた。

体が車からはみ出そうなチンピラの頭を足でグイ~ッと押すとチンピラは「がっ」と言葉を漏らし、車から落ちていった。

その後もスピード全開で走り続け、県道の手前で一旦スピードを落とし、ドアを閉め鍵をかけた。

後ろを見ても追いかけてくる車の気配はなかった。帰り道はただ無言。彼女は後部座席でずっと僕にしがみついていた。県道を抜け賑やかな市内に入り、先輩はようやく口を開いた。

「ヤバかった。マジで怖かった…」
先輩がさっさと逃げた事は責められないと思った。

先に行って車をUターンさせ後部座席を開けてスタンバイさせてなかったら間違いなく追いつかれていただろう。

その後、家に着くまで先輩がやたらナンバーを見られていないかを気にしていた。

僕は「大丈夫ですよ。車に気づいたのは僕らが降りてからが初めてだったでしょうし、
すぐにスピード出したし大雨で見えなかったでしょう」と言ってあげたが、それでも先輩は心配そうにしていた。

僕はそのままマンション前まで送ってもらい家に帰った。
先輩から最後に「今日の事は3人の秘密にしよう」と言われたが僕もそのつもりだった。あんな事があってこれ以上この件に深入りしたくなかった。

なんとなく気まずくなり先輩とはその日を境に疎遠になった。

人づてに先輩と彼女も別れたと聞いた。しばらくは、行方不明事件や遺体発見などのニュースがないか意識してテレビや新聞を見たが、そういうニュースは一切出てこなかった。

あの時もし1階から見て回っていたら、トイレからすぐ出ていたら、雨が降ってなかったら、先輩が先に行ってなかったら…そう考えると17年経った今でもゾッとする。

あのチンピラたちがあんな場所で何を解体していたのか、それもなるべく考えたくない。ただあの時、奇跡的に逃げ切れた事に感謝したいと思う。

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