『召喚』藍物語シリーズ【30】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ – 怖い話・不思議な話

『召喚』藍物語シリーズ【30】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ - 怖い話・不思議な話 シリーズ物

 

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藍物語シリーズ【30】

 

藍物語シリーズ【全40話一覧】

 

 

『召喚』

 

「ね、翠。やっぱり止めた方が良いんじゃない?今夜は2人だけだし、怖いかも。」
「お父さんが一緒だから大丈夫。それに、きっと色々面白いよ。」

リビングの床に広げた新聞を読む翠の、小さな背中。
翠の精神的な成長が著しいのは、良いことなのだろう。
しかし、新聞のTV欄を不自由なく読めるようになってから、時々問題も起こる。
翠が見たいと望むTV番組が、俺たちの方針と異なることがあるからだ。
そんな時、Sさんは翠を甘やかさずピシリと言ってくれるし、
姫はTVを見るよりずっと魅力的なイベントを考えてくれる。 しかし今夜は違う。
丹の、ある儀式のためにSさんと姫は昼前からお屋敷を離れていて、明日まで戻ってこない。
藍も一緒に出かけたから、お屋敷には俺と翠が2人きり。
しかも翠は俺が翠に甘いのを理解している。結局2人でその番組を見ることになった。

 

まあ、夏にはお決まりの企画。 『心霊●▲特集2時間スペシャル』
この手の企画には珍しく、何年か続いているらしい。局のやる気(?)は感じる。
しかし、本気でこの手の企画を実行したらそれはそれで...悪い予感しかしないが。

 

翠がいつもより早く食べ終えた夕食の後、いよいよ番組が始まった。
最初は心霊写真のコーナーで、一枚映し出される度に出演者達が大げさに怖がる。
自称『専門家』が写真を解説して、また出演者達が怖がる。
お決まりの演出なんだろうが、当然、本物の心霊写真なんて滅多にない。
光の反射か何かでそれらしい影が映り込んだ写真や、あきらかに作為を感じる写真。
どちらかというと翠は心霊写真よりも出演者達の反応に興味が有るようだった。
「ホントに、怖いのかな?」 「え?」 「だから、あの写真見て怖いのかな?」
「う~ん、本物かどうか分からない人は怖い、かもしれないね。
それにほら、『偽物だ』なんて言ったら、番組の雰囲気が壊れちゃうでしょ?」
「そっか、怖がって、楽しむんだね。」 『怖がって楽しむ』か、確かにそうなんだけれど。
「それで、今までので変な写真あった?本物っぽい写真とか。」
俺は気付かなかったが、俺より感覚の鋭い翠なら。
「え~っと、2枚目の写真には写ってたよ。○印で囲んだところじゃなかったけど。」
「2枚目?公園の木が写ってた写真?」 「そう、端っこに『手』が写ってた。女の人の。」
ぞく、と背中が冷たくなる。○印をつけられて、他の部分には俺の感覚が向かなかったのか。
CMソングが何だか空々しく、不気味な響きに聞こえる。
「翠、あのさ、出てくる写真に何か変なのが写ってたら、教えてくれない?」
「うん、良いよ。」 あっさりと答え、翠はTVの画面に視線を戻した。

 

写ってる人数より腕が多いという写真。 → 「みんなの後ろにかくれんぼした人の手。」

無数のオーブが映っているという写真。 → 「凄いホコリだね。マスクしないと。」

翠は写っているものを淡々と語り続け、それは俺の感覚とも一致していた。 しかし。

 

ビーチの写真が映し出された時、翠の表情が変わった。
曇り空の下、並んで座る親子連れ。男の子の右半身に赤い光が重なっていて、
自称専門家が『これは霊障が心配ですねぇ。右半身の怪我とか。』などと解説している。
俺は赤い光に嫌な気配を感じない。しかし、微かな違和感。
振り向いた翠の、キラキラ光る瞳。 「見つけたよ。お父さん、ほらここ。ね?」
指さしたのは家族連れから海側に少し離れた場所、若い男性の後ろ姿。
突然感覚が拡張し、首筋の毛が逆立った。確かに、これは生きた人間ではない。
生きている人間と寸分変わらぬ姿で、ハッキリと写っている霊。
あまりにハッキリと写っていて、写真を撮った人も、この写真を見た人も
それが霊だとは気付かなかったのだろう。
何より、この写真を撮った時、そこにいた人たちに男性の姿は見えていたのか。
どちらにしても、一見ごく普通に見える写真が実は心霊写真の場合もあると言うことだ。
そしてもしかしたら、街中の人混みに混じって...。
俺は幼い頃から写真と人混みが苦手だったが、こういう感覚が原因だったのかも知れない。
軽い気持ちで見ていた番組が、急に禍々しいものに思われた。
『本物』の心霊写真を不特定多数の人に見せて、どんな影響があるのか見当も付かない。

 

「この女の人写してる間に、中に入ったの。」
投稿されたという動画のコーナーになっても、翠の解説は続いていた。
心霊スポットだという廃墟。一度開けたドアの中には誰もいなかったのに、
怖がる若い女性を写したあと、もう一度ドアを開けると白い服を着た人影。子供騙しだ。

「階段が有るから、隠れて後ろから手を出せるんだよ。」
港の岸壁。海側から手が伸びてくるという動画も作り物。
作業用の階段に隠れている協力者が、岸壁の際に立つ女性の足に手を伸ばす。
良く考えられた構図で階段自体は写っていないし、中々の工夫と言えるだろう。
出演者達の表情は引きつっていた。泣きそうな女性タレントもいる。

 

「ねぇ、お父さん。この人たち、怖くないのかな?」
「え?みんな怖がってるでしょ。階段が写らないようにしてるから騙されて」
「騙されてることじゃなくて。」 「え?」 翠は立ち上がり、俺の隣に座って体を寄せた。
その体は少し強張っている。一体何を感じているのか。
「どうしたの?」 「来てるよ。あの人たちの近くに。」
既に動画のスロー再生も終わり、若い芸人が自分の体験談を話している。
「来てるって、何が?」 「分からない。何か、怖いもの。前は、男の人だったもの、かな。」
『集まって怪談をしていると寄ってくる』と、何度か聞いたことがある。
編集済みの録画に、翠はそれを『見ている』のか。 TVの画面越しに?
突然、大きな音。スタジオで何か小道具か倒れたらしく、出演者達はパニック寸前だ。
「あんまり強くないと思うけど、大丈夫かな。」 翠の声は沈んでいる。
心なしかTVの画面が薄暗く見える。 悪意、だ。 今は確かに、俺も感じる。
もし出演者達の身に何か起こって、その場面が放映されたら、
感受性の高い人間が受ける悪影響は心霊写真とは比較に...しかしどうすれば良い?
局に電話したとしても、まともに取り合っては貰えないだろう。
何の証拠もない、イタズラか異常者かも知れない電話一本で放送を止める筈はない。

 

「お父さん。」 我に返る。 俺を真っ直ぐに見上げている、真剣な瞳。
「何?」 「お友達に頼んじゃ駄目?」 お友達って...
そうか。 一瞬、一飛びで遠い距離を越える、『空を往く者』。 翠はこの放送が今。
次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが震えた。 突然の、強い風。 そして、羽音?
リビングの窓ガラス越しに、黄色く光る瞳がこちらを覗き込んでいる。
ソフトボールほどの大きさ。濡れたような艶のある、嘴の一部も。
確かに...式の使役に限れば、翠はSさんの指導を仰いで基本的な修練を終え、
既に当主様の『裁許』を受けている。だが、どんな術者も『時間』だけは操作出来ない。
『戻れ。例え術者の誓いが有ろうとも、これは汝の仕事では無い。』
「お父さん、どうして?」
「あのね、翠。この番組は、ずっと前に撮影されたものを放送してるんだよ。」
「じゃあ、もう、間に合わないの?」 悲しそうな表情、胸が痛くなる。

 

一瞬、TVの画面が明るくなった気がした。思わず視線をTVに移す。
俺には見えない何か、その『気配』は出演者の間を縫うように、画面左から右に動いていく。
『気配』が画面の右端に消えると、スタジオの雰囲気が変わった。
出演者達は相変わらず大げさに怖がったりしているが、先程までの緊張感はない。
「あれ、『式』だね。お母さんが、あれに似たのを作ったことがある。」
「式?」 「うん。トンボみたいな形、光ってた。ポワ~ッて。」
ふと、思い出した。
怪談を基にした映画や心霊関係の番組を撮影する時は、
スタッフや出演者が揃ってお祓いを受けると聞いた事がある。
しかし、式だとすれば番組を収録した時スタジオに術者がいたか、
あるいは事前に式を仕込んだ代を配置して置いたのか。 2つに1つだ。
そうでなければ、何時寄ってくるか分からない相手に対応できた筈がない。
もし式を封じた代を配置したのなら、かなり力のある『式使い』ということになる。
Sさんの作る式に似ているとしたら一族の術者かもしれない。
TV局からの依頼があるルートで『上』に伝わって、それで。
しかし代に式を封じて配置する程、力のある『式使い』は数える程しかいないと。

 

「どうしたの?まだ時間は残ってるのに。」
俯いた翠を抱き上げた。 左手でリモコンを操作してTVの電源を切る。
「お母さんとお姉さんの言ってた通りだった。怖いTVを面白半分で見ちゃいけないって。
お父さんなら駄目だって言わないと思って、お願いしたから。翠が悪いの。」
ふと、出かける前のSさんと姫の様子を思い出した。
家を空けるとき、気になる事があれば特にSさんは細かく指示をしてくれる。
しかし、今回は何も。当然新聞はチェックしたはずなのに...そうか。
『見せない』から、『見せて気付かせる』へ。 翠がその段階まで成長したと言う事だろう。
「今日、お母さんもお姉ちゃんも『翠にTV見せちゃ駄目』って言わなかったんだよ。」
「何故、かな?」
「翠を、信じていたんだと思う。『今の翠なら見せても大丈夫』って。」
「面白半分で見ちゃいけないわけが分かるってこと?」
「そう。駄目だと言わなければ、翠があの番組見るのは間違いないからね。
それに翠はもう分かったでしょ?面白半分で見ちゃ行けない理由。」
「うん、分かった。」 サラサラの髪をそっと撫でた。

 

自らTVの電源を切って欲しいと言った翠。 その心は、きっと。

「子供の頃、お父さんも好きだったよ。さっきみたいな番組。」 「ホントに?」
「うん。まだ『感覚』が働いてなかったから、怖がって、それを楽しんでいたんだね。
『感覚』が働いていたら、きっとお祖母ちゃんに怒られてたと思う。」
「『怖いTVを面白半分で見ちゃいけません』って?」 「そう。」 小さな、笑い声。
「じゃあ、TVの続き、どうする?」 「見ても大丈夫、かな?」
「『式』が配置されていたんだから、悪い事は起きなかった筈だよ。見たい?」
「うん。」 翠の顔に笑みが戻った。
その後は体験談の再現ドラマとUMAコーナー、式が発動する機会はなかった。

「実は、昨夜翠と2人で視たんですよ。『心霊●▲特集2時間スペシャル』
マズかったですかね?まだSさんには話していないんですけど。」
姫と2人で夕食の準備をしている。子供達とSさんはリビング。穏やかな夕方の一時。
「全然問題有りません。『見せなければ済むという時期じゃない。』って、Sさんも。」
やっぱり、事前の禁止が無かったのはそういうことだったのだ。
「それなら良かった。その番組を見てる時に、その何というか、変わったことが起きたので。」
「変わった、ことですか?」 姫の眼に宿る光が強くなった気がした。
「ソレ系の動画を紹介するコーナーの途中で、翠が『怖いものが来てる』って。
動画自体は作り物だと思ったんですけど、スタジオの雰囲気に惹かれて
『何か』が寄ってきてたんだと思います。」
「それで、術者が前もって配置していた式が発動したんですね?」
心臓が、止まるかと思った。
「あの、どうしてそれを?Lさんは、番組を視ていないのに。」
優しく笑って、姫は鍋を火に掛けた。

 

「あのTV局には一族の人が働いていて、そういう番組や企画が有ると
『お祓い』を依頼されるんです。でも、実際には式を封じた代を配置して、
次の依頼が来た時にその状態を確認して対応する、そう聞きました。」
『お祓い』では、その後に起こる怪異には対応できないという予想は当たっていた訳だが、
まさか本当に一族の術者が関わっていたとは。
「それで、翠ちゃんには見えたんですか。式の、姿が。」
「見えていた、と思います。トンボみたいな形だと言ってましたから。」
「Rさんには?」 「見えませんでした。気配が移動するのは、分かったんですけど。」
姫は小さく溜息をついた。
「やっぱり適性の違い、なんでしょうね。それに翠ちゃんの感覚はかなり鋭いし。」
「ええと、『式』って写るんですか?ビデオとか、写真とかに。」
俺は気配を感じ、翠が姿を見たなら、収録した映像には『何か』が記録されている筈だ。
「私、実験した事が有るんです。昼寝してる管を、『●ルンです』とデジタルカメラで。」
「どうして、2種類?」 珍しく、姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

 

「『デジタルカメラが普及してから心霊写真』が減った』という話、聞いた事がありますか?」
「はい。『デジカメだと二重露光みたいなトリックが使いにくいから』だ、と。」
デジカメのついたケイタイやスマホを持ち歩く人が増え、
心霊写真が撮れる可能性はむしろ高くなっている筈なのに心霊写真は減っている。
とすれば、デジカメ普及以前の心霊写真はほとんど偽造という結論を導くのに無理はない。
「本当にデジタルカメラでは心霊写真が撮れないのか、それを確かめたかったんです。
全く同じ場面を2種類のカメラで撮影した管の写真を比べたら、手がかりになると思って。
式も幽霊も妖も、私たちとは『在り方』の違う存在だし、
実際に幽霊や妖を相手にする時に、写真を撮っている余裕は有りませんから。」
確かに、仕事中は一瞬の油断が命取りになりかねない。
悠長に写真の撮り比べ実験なんて。 その点管さんがモデルなら100%安全だし、
管さんはもともと独立した妖。 幽霊の代わりの実験台としても最適だろう。

 

「それで結果は、どうだったんですか?その実験の。」
「10枚ずつ写真を撮りました。『●ルンです』で式の姿が撮れたのは2枚、
デジタルカメラで撮れたのも2枚。 4枚とも少し少しボケてました。
でも、デジタルカメラでも本物の心霊写真は撮れると思います。」
デジカメでも撮れる? じゃあトリックって話は...いや、それよりも。
「昼寝してたってことは、管さんが『見える』時に撮ったんですよね?」
「はい。いつものウッドデッキの端っこで。」
肉眼ではハッキリ見える管さんが、10枚中たった2枚ずつ?
「不思議、ですね。姿は見えるのに写真に写らないことの方が多いなんて。」
「以前は幽霊の数が少ないから本物の心霊写真も少ないんだと思ってましたけど、
そんな単純な話では無いみたいです。それに、もっと不思議なのは。」
姫はたっぷりのレタスとミニトマトを盛りつけたサラダボウルをテーブルに運んだ。

 

「式の姿が映っていない写真でも、『気配』を感じるんです。
まるで、私には見えない何かが写真やデータに記録されているみたい。」
それがどういう理由なのか、俺には想像もつかない。しかし、それはまるで昨夜の。
「姿は見えないけど『気配』を感じるというのは、昨夜の僕と同じですね。あの番組の。」
「はい。管の姿は写っていなくても、その写真やデータには確かに『何か』が記録されていて、
私たちはそれを『気配』として感じるけれど、翠ちゃんなら多分映像として見ることが出来る。
ただ、術者でない人が写真に記録された『気配』を感じるのはごく希な事でしょうから、
そんな写真が心霊写真と言えるかどうかは分かりません。間違いなく『本物』だとしても。」
本物だが、心霊写真とは...ふと、思い出した。昨夜の番組、本物の心霊写真。
ビーチの家族連れの背景に立つ、若い男の後ろ姿。 髪型も、海パンの模様も。

 

「昨夜の番組で紹介された中に、本物の心霊写真があったんです。
管さんを狙って撮っても、その姿が写る確率が2割(10枚の内2枚)位だとしたら、
心霊写真が偶然に撮れるなんて有り得ない気がするんですが。」
「偶然なら、本当に『有り得ない』くらい確率は低いでしょうね。
でも、偶然でないなら『有り得ない』から『たまには起こる』位の確率にはなるかも。」
「え?偶然でないならって、そんな事が。」
「結婚の時に撮った記念写真、憶えてますか?」 「はい、憶えてますけど。」
数枚の記念写真。家族全員で撮った一枚は引き延ばして、今も俺の背後の壁に。
「全部の写真に写っていましたよ。ほら、その写真にも。」
姫の視線を辿り、振り返る。 あ。

 

姫の足下に蹲る、小さな白い影。まるでペットが家族と一緒に。そうだ、確かに5枚とも。
『管さんも家族ですから、全員集合ですね。』 俺自身がそう言って笑ったのを思い出した。

「きっと、その気になれば写真に写ることが出来るんです。管さんも、妖も、幽霊も。
それがこの写真みたいに、良い事ばかりじゃ無いのが問題なんですけど。」
内容は別にして、心霊写真は此の世ならぬ存在からのメッセージ? それなら。
「Rさん。」 「あ、はい。」
「完成です。配膳は私が。皆に声を掛けて下さい。お喋りしてた割には時間通りですね。」

ダイニングを出て、リビングに向かう。 Sさんと翠の気配。
藍と丹の気配はかなり薄い。 丹のミルクと藍の離乳食の世話を考えれば神展開。
さすがにSさんだ。 その直後。

 

「ホントだ。TVで見たのと同じだね。すごく綺麗。」 これは、翠の声。
足が動かない。盗み聞きではなく、ただ、2人の会話を邪魔してはいけない。
何故だろう。 その時俺は、そう思った。
「でしょ? この式をTV局に配置したのは、一族で最高の術者の1人だった。」
「もう、その男の人はいないの?」 「そう。」 Sさんはそれが男だなんて一言も。
一瞬の間。 そうか、『上』を通してその依頼を受けていたのは、あの人。
初対面の日、あの人は俺の背中に式を貼り付けた。
通常ではあり得ない、幾つもの適性を併せ持つ、『最高傑作』。
まるで昨日の事のように目に浮かぶ。 端正な顔、長身の黒いスーツ。
「こんなに強い式を封じるには紙の代じゃ駄目。湿気も黴も平気な、例えばこれ。紫水晶。」
そう言えば、当主様の式は翡翠の代に。
「お母さん。その代、どうするの?」

 

「炎の、この仕事を継いだのは私。だからこれを出来るだけ早くTV局に届けて。
でも、お母さんの式は翼を持ってないから...そうね、翠のお友達に頼むのはどう?
もし、炎の式が発動した後に入り込んだ悪いモノがいたら、それを片付けてからこれを。」
「良いのかな? 翠と、翠のお友達で?」

 

『怒り故で無く、憎しみ故で無く。悲しみ故に。』

Sさんの声。 まるで謡うような、不思議な調子。

『ただ、はらから(同胞)の、あんねい(安寧)のために。』

 

それは式を使役する術者の、『誓詞』だとSさんから聞いた事がある。

翠の、鈴を振るような声が、Sさんの声を追いかける。

「そう。これは遊びじゃない。面白半分でなく、真剣な仕事だと、誓える?」
「はい。誓い、ます。」 「良く、分かった。じゃ、お友達を呼んで。翠は、偉いね。」

直後。 突然の強い風が、庭の木々とお屋敷の窓ガラスを揺らした。

 

 

『召喚』 完

 

藍物語シリーズ【全40話一覧】

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