間引きのために子供を殺したことはありませんでしたが、
このとき、村で初めて、
この子供を「殺そう」という結論が出たのだそうです。
横糸を斜めに織った長い綿布で首を包んで、
布に少しずつ水を吸わせて、誰も手をかけないうちに
殺そうということになりました。
しかしそこは、素人考えですので、
首は絞まってもなかなか絶命しません。
子供は父と同じ顔で「誰じゃ、食ったのは誰じゃ」
と声を上げていました。
恐れおののいた村人は、父が死んだのと同じように、
井戸に竹を渡してそこから子供を吊るしました。
ものすごい形相でにらむので、
まぶたの上から縦に竹串を通しました。
子供は、数日、糞便を垂れ流して暴れたのち、絶命しました。
その明けた年は、飲み水から病気が発生し、
多くの人が命を失いました。
さらに、本当に穀物を食ったのが、この子供ではなく、
世話役の十三になる子供だったことがわかったのだそうです。
このとき、世話役は躊躇なく、
わが子を同じ方法で吊るしたのだそうです。
あくる年の一月二十八日のことだそうです。
*
「というわけで、一月二十八日はコッケさんの日になったんですよ」
「はー、なるほど。命日なわけな」
うちで飯を食べてもらいながら、彼女(指副担の姪っこ)に、教えてもらいました。
「だから固芥忌(コケキ)っていうのが正しいんですよ。」
「運動会の行事も、意味わかると、ひどいね」
「…村人全員で子供をシめる儀礼ですからね。本来こういう形でやさしく弔ってあげたのに、という。偽善ですよね」
「うん」
(運動会の踊りは、メイポール Maypole の祭りに似てますので、知らない人は検索してもらうとどういう形なのかわかります。中央のポールが子供です)
「…あとですね、これ、私一人で気づいたんですけど」
彼女は、ペンを取って、チラシの裏に、「芥」の字を書きました。
「おお、28やん。オレも今気づいた」
くさかんむりと、その下の八の字で、二十八と読めます。
「え?」
彼女はきょとんとしていました。
「いやだから、にじゅうとはちで、その命日を表してるんでしょ?」
「…ほんとだぁ」
「え、違うの?」
「いや、そっちが正しいんですよねたぶん」
「何よ、教えてよ」
「いや、いいです」
しばらく押し問答した末、彼女は折れて、文字を書き足しました。
「これね、縦書きなんですよ」
固
芥
「目をつぶされた子供が、
竹の枠に首から下がってるの、わかるでしょ?」
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