『かんひも』短編 – 全3話|洒落怖名作まとめ【シリーズ物】

『かんひも』全話|洒落怖名作まとめ【シリーズ物】 シリーズ物
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かんひも

 

 

縛られた人

 

僕が小学生の頃に、夜中に大掛かりな山狩りがありました。
行方不明者の捜索とかじゃなくて、何かを捕まえるって事で山の麓の集落や消防団の人たちが集会所に集まってました。
親父が捜索に行って母親が炊き出しに出てたんですがウチには爺ちゃんも婆ちゃんも居なかったので僕と妹は集会所の部屋で他の子供と遊んでました。
家に子供だけで居るのは良くないってことでした。
しばらくそうしていると、急に大人たちが慌ただしくなって半鐘がカンカン鳴らされたかと思うと山の上の方が明るくなってました。
遠くから見る分には山火事っぽかったのですが、友達の母親に聞くと「あれは山火事じゃなくて火を点けたんだよ」と教えてくれました。
しばらくして大人たちが戻ってきたのですが皆の手に見た事も無いような武器のような棒を持っていてそれを大事そうに集会所の倉庫にしまってました。

□ □ □

しばらくして、

「誰かが怪我か何かをしたみたいだ」

という知らせが入って、集会所がまた騒々しくなり始めました。
僕ら子供は、遊んでいた部屋から出るように言われて大人たちが集まっていた部屋に移動しました。
僕らを追い出したあとに、縄で縛られた人が運ばれてきて部屋の真ん中に寝かされました。
「誰だろう?」と思って、顔を見ようとしたんですが顔から袋がかぶせられていて分かりませんでした。
別に暴れている訳でもないのに、その人は縛られたままで皆が遠くから見守ってるだけなのが、子供心に奇妙に思えました。

□ □ □

しばらくたって、僕は母親と父親と妹と一緒に家に帰りました。
帰り道でずっと縛られた人の事が気になって考えていたので帰ってから母親に「あの人はなぜ縛られていたの?」と聞きました。
母親は、確か「悪い奴に呪文をかけられたから」みたいに答えました。
その話は、あまり子供が聞くものじゃない、とも言われたのでそれっきりになりました。
後で、縛られていた人の近所の子に聞いた話によるとその人は、次の日にお寺へ連れて行かれたそうです。
それからも、その人は普通に暮らしていましたがお寺で指を1本切り落としたという話も聞きました。
確かに、その人の指の一本が第2関節から無かったのですがそういうのは山仕事に人にはけっこう多い事なので真相は分かりません。

落ちもないのにながながと失礼しました。

 

 

坊さんの成れの果て

 

前にお話ししましたとおり、「かんひも」事件の時までは、あまり母の実家へは遊びに行かず、爺ちゃんともそんなに会うことはありませんでした。

しかし、事件後、ミーハーな僕はあの時の爺ちゃんを格好いいと思ってしまい、ちょくちょく遊びに行くようになっていました。

中学1年生の夏。
僕と爺ちゃんは二人で県内のキャンプ場へ、キャンプをしに出かけました。
しかし、わりと有名なキャンプ場だったせいか、ものすごく混んでいました。

「これじゃ、町におるんと変わらん」と

爺ちゃんが駄々をこねるので、そこからさらに林道を奥へと入って行きました。

当時、爺ちゃんは65才くらいでしたが、まだまだ現役バリバリで、テントや諸々の入ったリュックを一人で担いで、どんどん奥へと入っていきました。

□ □ □

しばらく行くと、古い木の標識で「→坊泊(ぼうどまり?)」という看板がありました。
矢印の方へ行くと、ちょっとした川原に出ました。
僕らのほかには、人は誰もおらず、

「きっと坊さんがここに泊まったんじゃのー」

爺ちゃんはご満悦です。

気に入った僕らは、そこにテントを張ることにしました。

「かんひも」以来、多少霊感?というようなものが芽生えた僕ですが、その時は何も感じず、逆に神聖な雰囲気に、すがすがしい気分を味わっていました。

川で釣りをし、夕飯にカレーを食べ、爺ちゃんは晩酌をし、ゆっくりと夜はふけていきました。
いろいろと学校の話しや、男同士の話しをして、気が付くと夜の11時を回っていました。

□ □ □

「そろそろ寝るかの」

僕と爺ちゃんは、テントの中に入るとそれぞれ持ってきた寝袋にもぐりこみました。
程よく酔っ払っている爺ちゃんは、すぐに寝息を立てはじめました。

慣れない山登りで疲れていた僕も、すぐにウトウトと眠りに落ちていきました。

どのくらい経ったでしょうか?
僕はふと目を覚ましました。

「・・・・・!?」

起きると同時くらいに、背筋にヒヤっとした感じがありました。
首の付け根から、尻にかけて、氷でなでられるようないやな感触です。
「かんひも」以来、怪異を体験するたびに感じる、前触れみたいな感触です。

「爺ちゃん、爺ちゃん」

僕は慌てて爺ちゃんを起こそうとしましたが、酔って寝ているせいか、爺ちゃんは微動だにしません。

□ □ □

「・・・チリン・・・」

そうこうしている内に、外で何か音がしました。

「・・・・・・・・・チリン」

何か、鈴の音のようです。
僕はパニックになりながら、テントの中を見回しました。

「・・・・!!」

その日は煌々と月が光っていて、外の様子がテントの壁に照らされていました。

テントには、笠をかぶった坊さんでしょうか。
よく、お遍路さんがしているような格好の影が映っていました。
そしてその影が、テントの周りをゆっくり回っているのです。
外は砂利なのに、足音はまるでしません・・・。

「やばい、やばい・・・、ちょ、爺ちゃん!」

僕は泣きそうになりながら、爺ちゃんを起こそうと必死でした。

□ □ □

「・・・・ど・・・こ・・・・・さと・・・へ・・・・・つ・・・かん」

なにやら、ぼそぼそとささやく声が聞こえてきました。
さっきより、影が近づいているようでした。
僕はもう怖くなって、寝袋にもぐりこみました。

「なんまいだぶ、なんまいだぶ・・・」

必死になって、よく知りもしないお経を必死に唱えていました。

どのくらい経ったでしょうか、
気が付くと外からは何の音も聞こえなくなっていました。

「・・・・・?」

僕は恐る恐る寝袋から顔を出しました。
もう、テントには何も映っておらず、音も聞こえなくなっていました。

「良かった~」

僕は安堵で涙が出ました。

□ □ □

寝袋から出るため、
中からチャックを開けようとした時です。

「・・・チリン・・」

鈴が聞こえました。

「・・・!」

手が何かに触れました。
冷たくて、なにかごつごつしたもの・・・・。

僕はよせばいいのに、恐る恐る寝袋の中を覗き込みました。
「——————-!!!」
そこには、
目は抜け落ちて、眼窩がぽっかりと空いた、骸骨に皮を貼り付けたような、土色の肌をした坊主がいました。
顔の皮膚のそこら中、風化したかのように黒ずんで、穴が開いて中が見えていました。

「あうあうあうあうあ・・・・・」
僕は恐怖で声も出ませんでした。
坊主は、唇の欠けた口でニイィと笑いました。

□ □ □

「ここ・・・は・・さむ・・い・・・お・・・まえ・・・も・・・・おい・・・で」
坊主はそう言うと、僕の頭をがしっとつかみました。
「わああ!」
そのまま、僕は寝袋の中に引きずり込まれそうになりました。
なぜか、寝袋のくせに底なしになったかのようで、そのままどこかへ連れていかれてしまいそうでした。

その時です。

「ぬしゃあ!!うちのAになにしよる!!」

隣から爺ちゃんのものすごい怒鳴り声が聞こえました。
同時に、体が一気に楽になり、僕はそのまま気を失ってしまいました。

次の日、目が覚めると、爺ちゃんはすでに起きていて、朝のスープを作っているところでした。
爺ちゃんに昨日のことを聞くと、全く知らないとのこと。
ただ、僕が知らない坊さんに、無理やり連れていかれそうになっている夢を見たそうな。

□ □ □

僕らは朝飯もそこそこに、あわてて山を降りました。
帰り道、キャンプ場の管理人さんに、「坊泊」について聞いてみました。

昔、冬のある日、旅の坊様がこの村を通ったとき、隣村へ通じる道を村人に尋ねました。
村人は、冗談で山に通じる嘘の道を教えたそうです。
きっとすぐ、だまされたと思って帰ってくると・・・。
しかし、真面目な坊様は、村人に教えられたとおり、どんどんどんどん、山奥へと入っていってしまった。
次の日、坊様が帰って来ないことを知った村人は、村の若い衆と、山の中へ坊様を探しに出かけた。
かなり奥に入って行くと、例の沢に、凍え死んだ坊様の遺体があったと。
少しでも寒さを凌ごうとしたのか、首から下は雪に埋もれていたそうです。

あれはその坊様の霊なんでしょうか・・・。

 

 

恐怖郵便

 

これは僕が高校の頃の話です。

「かんひも」に関わって以来、微妙な霊感に目覚めてしまったわけですが、友人たちから、その系統の相談を受けるようになっていました。
まあ、霊感といっても、僕の場合、ただ見えるだけなので、本当に話を聞くだけ・・・なんですが。
それでも、中には気のせいだったり、話を聞いてあげるだけで解決したりする場合も多く、以外と役に立っていました。

 

●10月25日●
その日の夕方、僕は友人のJに、近所の喫茶店に呼び出されました。
Jは、サッカー部に所属しており、そのマネージャーのYさんが、奇妙なことで苦しんでいるとのことでした。

喫茶店に着くと、すでにJとYさんは来ていました。
恥ずかしながら帰宅部で自由を謳歌していた僕は、Jの試合の応援などで、何度かYさんとは顔をあわせたことがありました。
Yさんは、大きな目をした、表情豊かな可愛らしい子で、サッカー部のマスコット的な存在でした。

しかし、久しぶりに会うYさんは、いつもの明るさは影を潜め、やつれ果てていました。

□ □ □

「すまん、A」

僕の顔を見ると、Jが心底困り果てた様子で話しかけてきました。

「どうも、本気でやばいらしいんだ・・・」
「どうしたの?」

僕はJに頷くと、Yさんに話しかけました。
Yさんは泣きそうな顔で、ゆっくりと話し始めました。

□ □ □

ここからは、分かりやすいように、Yさんから聞いた話をYさん視点でお話しします。

今から1ヶ月ほど前。
●9月23日●
Yさんは、自分のアパートの部屋で夜中に目を覚ましました。
Yさんは高校に通うのに、親元から離れて、学校の近くのアパートに一人暮らしをしています。
アパートといっても、そこは女性の一人暮らし。
1階には大家さんたちが住み込み、玄関はオートロックというなかなかのアパートです。
もともとは古いアパートなのですが、後からセキュリティ関係を強化してあるようでした。

Yさんがふと時計を見ると、夜の2時45分・・・。
妙な時間に起きてしまったものだと、トイレに行こうとベッドを出ました。
すると、玄関の向こうの廊下で何か音がします。
「カッ、コッ、カッ、コッ・・・・・・・」
良く聞くと、それは足音のようでした。
革靴や、ハイヒールのような、かかとの硬い靴の音です。

□ □ □

「こんな夜更けに・・・誰か帰ってきたのかしら・・・」

Yさんは、同じ階の誰かが帰ってきたのだと思いました。
眠い目をこすりながら、気を取り直してトイレに行こうとすると、

「カッ、コッ、カッ」

足音が、ちょうどYさんの玄関の前あたりで止まりました。

「・・・?」

Yさんは不審に思いながら、息を潜めていました。
すると

「カコンッ」

ポストから何かが投函されました。

このアパートはもともとは古いため、玄関のドアは下部に穴が開いており、そこに郵便が投函される、昔ながらのポストでした。
ポストに投函された「何か」は、そのまま玄関の靴の上に落ちていました。

「郵便・・・です」

ドアの向こうからかぼそい男性の声が聞こえました。
そして、また足音をさせて去っていきました。
「なんだ・・・郵便屋さんか・・・」
Yさんは一瞬、安心しかけたものの、そんなわけがありません。
もう一度時計を確認しました。

2時49分。
間違ってもこんな時間に配達をする郵便局員がいるわけがありません。
Yさんは恐ろしくなり、ベッドに潜り込むと、震えながら朝になるのを待ちました。

□ □ □

朝、ようやく辺りが明るくなってくると、Yさんはベッドから出て、郵便を確認しに行きました。
見ると、普通の官製はがきです。
恐る恐る拾い上げて、あて先を確認してみました。

「○山 ×夫 様」

Yさんはほっとしました。
あて先が自分宛でないことに、まずは安心したのです。
そして、手紙をひっくり返して文面の方を確認しました。

「・・・!」

Yさんは、心臓がすくみ上がるのを感じました。
はがきの縁が、1センチくらいの幅で、黒く縁取られていました。
そして、空白が大部分を占める中、真中に無機質なパソコンの字で1行だけ、「9月27日  19時31分  死亡」

とだけ記されていました。
Yさんは、誰かのたちの悪いいたずらだと思い、そのはがきを捨ててしまいました。

そして、Yさんはそのままはがきのことなど忘れて、普通に生活を送っていました。
9月の27日も、別段なにごともなく過ぎていきました。

□ □ □

●9月28日●
その日は休日で、Yさんは友達とファミレスで昼食を取っていました。
今度の休みの計画や、好きな歌手のライブの話しなど、いつものように、話しは弾んで楽しいランチのひと時でした。

「・・・・!」

Yさんは、友達と話しながら、見るとはなしに見ていたテレビの画面に、信じられないものを見つけました。

「・・・・昨晩午後7時30分ごろ、××市に住む・・・・・○山 ×夫さん、3○才が、自宅で死んでいるのが発見されました・・・死因は・・・・警察では事件と事故の・・・・ 」

それは、まさしくあのはがきに記入された名前でした。
Yさんは恐ろしくなり、慌てて家に帰りました。
はがきの名前を確認するためです。

家に着くなりYさんは、玄関の隅に置いておいたごみ袋の中を探してみました。
あのはがきが来てから、まだごみは出していないので、この袋の中にあるはずなのに、全く見当たりませんでした。
でも、あれは間違いなく、あのはがきに書いてあった名前だったのです。

□ □ □

「う~ん・・・」

話しを聞き終わって、僕は思わずうなってしまいました。

「まあ、でも、その後はなんともないんでしょ?」

僕が口を開くと、Jが首を振りました。

J「それだけじゃ、ないんだって。 それから、もう4回・・・同じことがあったって・・・ もう、5人、死んでるって・・・」

僕「でも、それだったら、変質者か、悪質ないたずらじゃないの?  警察に行った方がいいんじゃない? へたしたら、殺人犯からとかってことも・・・」

僕とJが話すのを黙って聞いていたYさんが、

Y「違うの。 だって、みんな、死に方が違うの。 調べてみたけど、心臓麻痺の人や、交通事故の人、病気の人。 殺されたとかじゃないし、みんな住んでるところがバラバラなの」

僕は途方に暮れてしまいました。
今まで、そんな例は見たことも聞いたこともありません。

J「それに、ゆっくりもしてられないんだ・・・」

Jはそういうと、Yさんに目配せをしました。
Yさんは、少しためらうと、バックから何かを取り出しました。

□ □ □

「・・・・!」
それを見た瞬間、僕の背中にひやっとした感覚が通りました。
いつもの、いやな感覚です。
今までそこのバックに入ってたのに、何故気が付かなかったのか、というほどの、いやな感覚。

それは、縁を黒く塗られたはがきでした。

「10月26日 2時00分 死亡」

と書かれていました。

「まさか・・・」

僕が聞くと、Yさんは頷いて、はがきの宛名面を出しました。

「K○ Y子 様」

宛名には、Yさんの名前が書かれていました。

「このはがきだけは、消えないの・・・ ほかのはがきはみんな、どこかに行っちゃうのに、 このはがきだけはずっとあるの・・・」

Yさんは、震える声でそう言いました。

「いつ来たの!?」

僕は、そのはがきのいやな感覚に、思わず声を荒げてしまいました。

Y「おとといの、夜・・・」
僕「なんで、もっと早く相談しなかったの!?
こいつは、本物だよ!」
J「A!、A!ちょ、声が大きい」

僕の声に、周りがこちらに注目しているのが分かりました。
僕は、中年のおっさんみたいに、机にあった手拭で、額を拭き、
(・・・落ち着け、落ち着け・・・)
深呼吸をすると、どうすべきか考えました。

□ □ □

僕には、霊をどうこうする力なんてありません。
警察に行っても、まともに取り合ってもらえる内容でもないし、警察でどうこうできる内容でもありません。
しかし、話しの流れから、なにもしなければYさんは今夜、2時になにかしらの理由で死んでしまいます。

「ちょっと、待ってて」

僕はJとYさんにそういうと、喫茶店から外に出ました。
こんな時に頼りになるのは、一人しかいません。
携帯を取り出すと、僕は爺ちゃんに電話し、今までのいきさつを話しました。

僕「・・・というわけなんだ、どうしよう、爺ちゃん!」

爺「ふ~む、そりゃ、いかんわなあ」

爺ちゃんは、しばらく何か考えるように黙りこくったあと、

爺「あれじゃ、前に、大畔(おおぐろ)の坊主に書いてもらった、お札があるじゃろ。あれを、ポストと、  ドアのノブ、部屋の窓という窓に貼るんじゃ。

たぶん、そいつは、招かれ神の類じゃ。

中から招かんかぎり、悪さはできんはずじゃ。」

僕「夜中、部屋に戻らないようにしてもダメ?」

爺「だめじゃな。外じゃ、余計にいかん。
四角く封ずる門がないぶん、連れいかれ放題じゃ」

□ □ □

僕はJとYさんに、先にYさんの部屋に戻るように言い、僕の家にお札を取りに戻りました

大畔の坊さんというのは、「かんひも」の時に、僕とKを祓ってくれた坊さんです。

普段は、酒飲みで肉も食べるわ、嫁がいてバツイチだわ、生臭さがプンプンする坊主ですが、霊験はあらたかなようです。
僕が、変なモノを見るようになってから、魔よけのお札を書いて送ってくれていました。

僕は、札を取ると、教えられたYさんのアパートへ向かいました。
時刻は夜の8時でした。
部屋に入ると、青ざめたYさんとKが待っていました。

僕は爺ちゃんに教えられてとおり、部屋中の窓と、玄関のドアノブに、札を貼りました。
そして、落ち着かないまま、3人で時間を待ちました。

□ □ □

緊張していたせいか、時間がたつのはあっという間でした。
時計の針は、1時55分を指していました。

「・・・・!」

一番最初に異変気付いたのは、
Yさんでした。

「来た!!」

震えながらYさんは、自分のベッドに潜り込みました。

「・・・・カッ、コッ、カッ、コッ・・・・」

足音です。
同時に、僕の背中に、冷たい電流が走りました。
ものすごく、嫌な感じがします。

「・・・・カッ、コッ、カッ」

足音が、部屋の前に止まりました。

そこで、僕は重大なことに気がつきました。
なんと、間抜けなことでしょう!
一番肝心な、ポストのフタに、札を貼ってありません!
かといって、今から貼る勇気はありません。

何かが投函されるのか、と、僕とJはポストを凝視していました。

□ □ □

「コンコン、コンコン!」

しかし意表をついて、ポストではなく、ドアがノックされました。

「K○さ~ん、郵便で~す」

ドアの向こうからは、張りの無い無機質な男の声がしました。

「K○さ~ん、郵便ですよ~」

ノックと、声は続きます。
僕たちは声を潜めて様子を伺いました。

しばらく、ノックと声が続いた後、ふっと、音が止みました。

そして、

「カッ、コッ、カッ、コッ・・・・」

足音が歩き出しました。
そしてそのまま、小さくなり消えていったのです。

ほっとして、僕らはその場にへたり込んでしまいました。
布団に潜っていたYさんも顔を出し、安堵で泣きじゃくっていました。

「ふう・・・・」

僕は、ため息をつくと、立ち上がりながら、なんとはなしに目をドアの方へ向けました。

□ □ □

「・・・・・・!」

僕は、恥ずかしながら、腰を抜かしてしまいました。
僕のただならぬ様子に、JとYさんもドアの方を向きました。

ドアのポスト。
フタが上がり、ギラギラした2つの目がこちらを睨みつけていました。

『なんだ・・・・いるじゃないかよお』

先程とは打って変わって、野太いしわがれ声が、部屋の中に向かって放たれました。

「ガンガンガン! ガンガンガン!」
激しく、ドアを殴りつける音!
「ガチャガチャ!」
ドアノブも、もげてしまいそうな勢いで、激しく上下しています。

同時に、部屋中の窓という窓が、ガタガタと音を立てて震えだしました。

「キャーーーーーーーーーーー!」
Yさんは、悲鳴を上げると気を失ってしまいました。
僕とJは、Kさんの上に覆い被さったまま、何もできずにいました。

□ □ □

どのくらいの時間が経ったでしょうか。
気が付くと、あたりは明るくなってきていました。
音も止んでいました。

「・・・・Yさん!」
僕とJは、慌ててYさんを確認しましたが、Yさんは気を失っているだけで、命に別状はなさそうでした。

あれほどの騒ぎにも関わらず、1階の大家さんも、隣の部屋の住人も、全く夜中のことは気付いていませんでした。

Yさんは、その後、そのアパートを引き払い、別の場所に引っ越しました。
その後は何もないようです。

□ □ □

後日談ですが。
なぜ、変なモノがYさんの処にきたかというと。
おそらく、これが原因でないかと思うのですが・・・。

僕は知りませんでしたが、僕らの高校では、変なおまじないが流行っていたようです。

場所は詳しく書けませんが、ある場所にあるポストに、夜中の2時49分に、憎い相手の名前を書いて、縁を黒く塗り、投函すると。
その相手に不幸が起こる・・・・と。

Yさんはそのまじないをやってしまったようです。
相手は、Yさんの好きな先輩の彼女・・・

僕は、あんな屈託のない、明るいYさんがそんなことをしたのに驚きを隠せませんでした。
よく、このスレでも出てきますが・・・
「一番怖いのは人間の心だな」と。

みなさんも、お気をつけください。
人を呪わば穴二つということです。

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