腕
今から14年程前、地元S県にて俺の身に起こった話。
まずもって先に言っておくが俺は神仏への信仰心は皆無だ。
俺の通っていた高校はとある有名な仏教高校で高尚な寺と密接関係にあったがそこの住職共は高級な車を乗り回して派手な生活送ってたからな。
所詮は金儲けのツールなんだって事をガキの頃から思ってたんだな。
困ったら神頼みで自分で行動しようとしない敬虔な信者様達にも反吐が出ちゃうしな。
その考えは今でも変わらない、変えたくはないが、あの時俺の身に起きた事がたまたまなのか、何かの因果が働いての事だかはわからない。判断はお前等に任せる。
前置きが長くなってスマン。早速本題に入ろう。
あれは俺が高校2年の時だから西暦2000年だな。
平成12年。登場人物は俺と同い年の従兄弟。
俺達は電車で一駅離れた所に住んでいて同じ高校に通っていたんだ。よく泊りにいったりして遊んでいたっけな。
こっからの話は今となっちゃー証拠がねぇから信じる信じないはお前等に任せるがまぁ聞いてくれ。
夏休みのある日の夜、時間は深夜0時頃だな。俺はスーファミでLIVEALIVEをやっててな。
SF編のベヒーモスで心臓バクバクしてたら急に携帯が鳴ったんで軽くチビったね。
俺「こんな時間に電話してくんなよ!なんかあったんかこの暇人が!」
俺は電話越しの従兄弟に今の状況を伝えたよ。
従兄弟「今時スーファミなんかやってるのお前ぐらいやで…。どうでもいいけどヤバイ事になった、今すぐ俺の家に来てくれ!頼む!」
いやいや、完全に無理だと思ったね。チャリで行くのに1時間は掛かるし、夜中の国道沿いは暴走族がいてカツアゲ必死だし、なによりもう眠てーしダルい。
俺「悪りい、もう眠てーし明日朝からバイトなんだわ」
俺の従兄弟は本当にいい奴でこんな見え見えの嘘でも普段なら信じてくれる。
でも今回は明らかに様子が違ったんだな。
従兄弟「今からタクシー会社に電話してお前の家の前の郵便局に向かわせる。勿論金は俺が出す。あとバイトも休んでくれ。金は出す。」
ドケチで経済感覚のしっかりした従兄弟の思わね発言になんかヤバイ事が起こったと思ったね。
風俗街のチンピラと揉めたか?ヤンキーに目ぇつけられたか?
俺「何があった?行く、行かないはそれを聞いてからだわ」
従兄弟「この前俺の部屋でお前の写真撮ったやろ?変やねん。変なもん写ってるねん。怖すぎて寝れへん。早よきてくれ」
コイツが俺に泣き言を抜かすなんてそうそうない事だ。
俺「ゆ、幽霊的な何かが写ってるとでも?」
従兄弟「幽霊は写ってないよ」
俺「は?どういう事?」
従兄弟「お前の右腕がめっさ太い。黒い。お前の腕じゃないってコレ。」
俺はそれ聞いて爆笑したね。
俺「おまwwwそれ影とかちゃうのん?w」
従兄弟「お前がピースしてたの俺の部屋の南側の窓やぞ!これがどういう意味かわかるか!?」
背筋がゾッとした。普段気にも留めて居なかったんだが、従兄弟の家の南側にとある寺が建っている。
そして従兄弟の部屋は二階にあり丁度寺の中にある墓地が見えるんだ。
俺「その写真撮ったの夜やったっけ?」
従兄弟「おう。お前のバックの窓は真っ暗やで。てか影とかそういうレベルじゃない。太すぎ。黒過ぎ。」
俺「今すぐ行くわ。」
俺は暫くして従兄弟が手配したタクシーに乗込んだ。
ずっと背筋に悪寒を感じてはいたが、仏教高校の生徒手帳を持っていき、そこに書いてある般若心経を心の中で唱え続けて気を紛らわした。
家に着きさっそく部屋に向かうと従兄弟も生徒手帳をガン見して般若心経をブツブツ唱えてて爆笑したね。
それを見て従兄弟が激昂したけど俺がポケットから生徒手帳を出して見せると奴も爆笑してくれた。
流石に血が繋がってるだけはある。
俺は早速本題を切り出した。
俺「で?写真は?」
従兄弟「ほれ!」
そこにはインスタントカメラに向かって右肘を90度に曲げてピースをしている俺がいた。そして従兄弟の言う通り。
肘から手首までの部分が肩から肘までより太い。そして深い紫掛かった様に黒い。
俺「何これ、この写真ありえへんくない?なに?」
従兄弟「俺も見た瞬間凍り付いたわ。」
俺「なぁ、これネガ確認した?」
従兄弟「それやねん、そこ確認したかったんやけど怖すぎて1人じゃ無理でな。机の上のジャンプの下にあるわ。」
俺はジャンプを投げ捨てネガを見た瞬間手がガタガタ震えたね。
なんか俺の腕を白い手が掴んでんの。現像した写真じゃー黒くて太いだけ。
ネガだとそれプラス白い手が掴んでる。
それ見て2人で震えたね。震えまくったね。
俺は写真の中で腕バグってるし従兄弟は自分の部屋で撮った写真がバグってるんだもの。
お互い他人事じゃねーからな。結局朝までプレステのトマランナーっていう
知る人ぞ知る名作を朝までプレイして一睡も出来なかったね。
俺が操作をミスる度に従兄弟が俺の右腕見てきやがるから
俺もムカついて負けじと南側の窓ガン見してやったね。
そんなこんなで険悪なムードの中朝の6時半ぐらいかな?
従兄弟の母。まぁ俺の叔母が部屋に入って来たんだよ。
そっからはテンプレ展開でさ。夏休みの宿題はやったのかだとか、俺の親には言ってここに来たのだとか。
そしたら従兄弟が早速切り出したんだ。
従兄弟「この写真とネガ見て。あの寺なんか曰くつき?」
そっから叔母から聞いた話を要約するとだね。
1.俺達の生まれ育った街はその昔織田信長に焼き討ちされて多くの人が無念の内に亡くなったこと。
2.件の寺は焼き討ちは免れたものの寺の名前が聖衆が亡者を迎えに行くという意である事。
以上2点からの推論として夏の御盆時期でこの地に成仏できない霊がこの寺に集まってきており、
マヌケな顔した俺のピースポーズに激昂して霊がちょっかい出してきたんじゃない?との事だった。
叔母は随分軽く言ってくれるがこちとら洒落にならない。
笑い事じゃないと憤ると今から寺に行ってお祓いして来いとの事だったので、
叔母の作ってくれた朝食を喉に流し込み従兄弟と2人でその件の寺に訪れた。
その寺には俺達の祖父の墓もあったので墓参りがてら住職に話をしてみたんだな。
そしたら開口1番こう言うわけ。
住職「これはまた悪い奴に捕まったなぁ。このままやと持ってかれるでぇ。」
俺「え?何持ってかれますの?命的なもんですか?」
住職「いや、腕や腕。見たまんまやな。ネガに写ってる白い手。これお兄さんの腕欲しい言うてますわ。」
俺「何とかなりませんか?お祓いとかお願いしたいんですけど…」
住職「なんとかして挙げたいんですけどこの時期はウチでは祓えませんのやわ。
逆に迎え入れなあかんもんですから。
とはいえこのままではお兄さんが危ないな。ちょっとそこでまっててな。」
俺は身体中の汗が冷たくなってくのを感じてたね。
だって目の前の坊さんがなんの迷いもなく俺の腕持っていかれるとか言うんだもの。
こういうのって当事者になるとなんの根拠が無くても死ぬ程震えあがるモンだと痛感したよ。
んで坊さんが帰ってきたんだけどどっかに電話してたみたいでさ。
住職「兄さん今日暇?話つけといたさかい時間あるなら話聞いて貰い。お祓いしてくれるかどうかはそれからやと思うけど。」
俺「暇です!今すぐ行きます!何処に行けばええんですか?」
住職「○っさんやで。場所わかるやろ?」○っさんとは○○神社の略称であり俺達の通う高校の目と鼻の先にある馴染みある場所だ。
かつては織田信長の焼き討ちにより灰燼と帰せられたが秀吉によって熱心に復興されたとかなんとか。
鬼門除け、災難除けで有名な由緒ある神社だと住職から伺った。
俺は従兄弟のチャリの後ろに乗った。
従兄弟は夏のクソ暑い中一睡もして居ないのに立ち漕ぎで急な上り坂をグングン飛ばし神社に向かってくれた。
境内に入り色んな人に事の顛末を話し、住職から連絡を受けた方と落ち合う事ができた。
その方に写真とネガを見せた後、帰ってきた言葉はなんとも残酷なものだったね。
この方はAさんとしようか。
A「お祓いはさせて頂きます。しかしこれはチョイとばかりタチが悪い。さらにこの土地のこの時期。
そして水辺が近しい位置関係。タイミングが悪い。」
俺はAさんの弱気な発言にかなり戸惑ったね。
俺「つまりどういう事でしょう?一応お祓いはしてみるけど的な?」
A「そうですね。祓える事は極めて難しいでしょう。ニュアンスとしては抑え込むって事になるかな?
極論いうと何らかの厄災は避けられない。けど事象を最小限に抑える施しは出来るかと。」
俺「そこをなんとかなりませんか?」
普段から俺は無宗派、無信仰だと公言していたがこの時は何かに縋りたい一心だったね。
しかしAさんの口からは俺の求める救いの言葉はでてこないんだな。
A「この土地を離れるのが1番でしょう。しかし貴方まだ学生さんでしょう?ならば卒業まで極力湖に近づかない事。
高校出たら県外に出る事をお勧めします。この白い手は湖から来てますので。」
いやいやいやちょっと待ってAさん。俺の地元はバカでかい湖があるんだって。
無理だって。心の底からそう思ったね。てかここまで言うと俺の地元特定余裕だな。
その後、写真、ネガをお祓いの儀式?と一緒に焼却処分して頂き俺達は帰路に着いた。
まぁそれが8月の頭ぐらいの話でさ、それからは平々凡々とした日々を送っていて
御盆も無事過ぎた頃にはもうそんな事頭の中からどっかいっちゃっててさ。
たかだか2週間ぐらいで忘れちまうなんて。ほんとバカだよな。
てかチョット長くなり過ぎたな。
結論から先書くけど8月後半。俺の右腕。いや正確には右肘から手首までの間だな。もう見事なまでにぐっちゃぐちゃ。
針金8本ぶっ差しす大手術。手術台の上で見た俺の腕がさ。あの写真と同じぐらい太く腫れ上がってて青黒くて泣けてきたね。
まぁここから先は暇な奴だけ読んでくれ。
御盆辺りから変な夢見る様になったんだ。女の笑い声がきゃっきゃ聞こえるのよ。
悲鳴のような甲高い笑い声。んで金縛りで身体動かねーんだけどさ、
ジェットコースター乗ると恐怖で胸がすくむ感覚あるやん?あの感じ。
ジェットコースター乗ってるような感覚で女の笑い声。
でも起きると忘れてるのよ。でまた寝ると同じ夢。夢の中で始めてわかるんだわ。あ、またか、って。
そんでさ、8月後半のある日にさ、丁度ツレと用事があって
湖の近くの大きい道路を借り物の原付で走ってたんだわ。
そしたら突然よ?
たかだか時速40kmぐらいなのにあのジェットコースターに乗ってるような感覚が突然襲ってきたと思ったら女の笑い声が爆音で頭の中に響くのよ。
きゃっきゃうるせーったらありゃしねー。この時始めて夢で見ていた事を現実で認識したんだわ。
そんでもって今俺が湖の近くに来てしまっている事。これから何かヤバイ事が起きる事。色んな思考が一瞬の内に頭の中で渦巻いてさ。
Aさんの顔が浮かんで物凄く後悔したね。そんでもって俺の出した結論はバイクのブレーキを握って停車することだったんだけどさ。
俺は車の左を並走してて後ろに単車が居たから止まれねーんだなこれが。
あーあ、しかし女の笑い声うっせーな怖ぇーな畜生なんて思ってたら突然その時がきたのよ。「パチンッ」つって。
ヘルメットの固定具が急に外れてさ、ヘルメットを頭じゃ無くて顔で被ってる状態。もう視界ゼロ。頭の中でレッドシグナル全開。
咄嗟に左手でヘルメットを取ろうした時には時すでにお寿司な訳さ。気付いたら俺は血塗れでバス停の前に転がっててさ。大量に出血すると目の前に砂嵐が掛かって視界がボヤけるんだな。
んでもって右腕に関節が一つ増えててまーだジェットコースターの感覚と女の笑い声が止まんねーの。そこで気ぃ失って気付いたら家だったよ。
手術は明日の朝一だとさ。痛くて眠れねーよなんて思ったけどその日からジェットコースターと女の笑い声が止まってくれて思いの他爆睡出来たっけな。
後日ツレから聞いた話だと。あの日俺がツレの後ろ走ってたんだけど、ツレとは結構車間距離開けて走ってたんだ。
ツレの斜め前に赤い軽自動車が走ってたらしいんだが急にウインカーも出さずに左手のバス停(停留所。ちょとした凹み)に入って行ったんだと。
ツレも軽自動車に突っ込むと思って急ブレーキしたら間一髪で止まれてホッとしてたら俺がノーブレーキでツレの原付に突っ込んだらしいわ。
そんで血塗れ。あん時の住職さんが言った通り見事に右腕持って行かれましたって話。
色んな事があったんだけどこの事故がたまたまなのかあの写真に起因する事なのか俺にはわからない。
後日談としては従兄弟はそれ以降部屋にカーテンを買って夜は窓を見ないようにしてたらしい。
俺は1年以上に及ぶリハビリを経て右腕を無事取り戻す事ができた。もしあの時お祓いに行ってなければ腕が千切れて居たかも知れないと思うとゾッとする。
あとこの話ほぼフェイク入れてないので俺の事特定出来る人余裕で居ると思うけどそっとしといてね。
コメント