鬼とのチャンネル
もう5、6年ぐらい前になるんだけど、ウチのジーサマがガンだったのね。
そんで、ジーサマびびりまくったのかどうか知らないけど、知人の霊能者とよく話してたんだわ。
どんな話してたのかは知らない。
で、その知人から、しょっちゅう霊能アイテムもらってた。お札が多かったかな。
ある日、いつものようにお札をもらったんだけど、
譲った霊能者が、
「このお札を、1週間(だったかな?)家の南東の壁に貼り付けてくれ。1週間経ったら、木で燃やしてくれ」
って言ったんだわ。
なんか、お札についた悪い霊を燃やすってことらしい。
実は当時の俺は、霊みたいなものがよく見えてた。
子供の時からたまにあったんだが、ジーサマがガンを宣告されたあたりから急激に見えるようになった。
今考えると、あのジジイが関係してるとしか思えないんだが。
で、ジーサマが言われたとおり、札を1週間壁に貼ったあと、庭で燃やす準備をオヤジにさせてた。
俺がぼんやり見てる中、準備も整って、オヤジがボーボー燃えてる火の中に札をブチ込んだ。
そしたら・・・
俺は見えたんだ。今でもはっきり目に焼きついてる。
10センチ×5センチの燃えてる札の中央に、両手を挙げて悶えてる鬼の姿を。
コトが終わってから、ジーサマにそのことを話してみたんだ。
俺が何か見たあとに、その話をするとジーサマは喜んでたから。
そしたらジーサマこう言うんだ。
「お前、何で鬼って分かったんだ?」
頭を誰かに思い切りケリ飛ばされた気分だった。
そう、その時初めて気付いたんだよ。何で鬼って感じたのか?って。
それまでは一分の疑問も感じなかったのに、ジーサマの一言でひっくり返っちまった。
その日から、夢に鬼が出てくるようになったんだ。
童話に出てくる赤鬼、青鬼、黒いやつなんかも出たな。
でも、どんな色のやつでも、みんな同じ姿してんだよ。
俺があの時見た、炎に焼かれて悶えてるカッコでこう言いやがんだ。
「何で、燃やす」
1日2日ならどうでもいいが、毎晩毎晩出てこられるとさすがに滅入る。
しかも、工夫もなく同じこと言いやがって。
2週間も経つとみんな心配してくるんだけど、俺自身、解決策が見つからないからどうしようもなかった。
ちなみにその間、しょっちゅう見えてた霊(っぽいやつ)も、全く見なくなった。
1月半ぐらいたって、ジーサマが逝っちまった。
でっかい病院の1室で死んだんだけど、その今際に立ち会った時、聞こえたんだ。
「今回はこれで許してやる」って。
直感で、あの鬼が言ったんだなって思った。
それっきり鬼はおろか、それまで見えてたモノも一切見なくなった。
で、それからは霊のことも忘れて生きてたんだけど、
先週、ジーサマが死ぬ前によく話してた、霊能者と話す機会があった。
その人と会うのはジーサマが死ぬ前だから、ほんとに久しぶりだった。
歳の離れた人だったから、喋るネタもなかったんだけど、
ちょうど近くで火事があったみたいで、すげえ煙が出てたんだ。
それを見てふっと思い出して、あの当時見た鬼の話をしてみた。
そしたらその霊能者のオッサン、目ん玉飛び出そうな顔して、
「その話教えてくれ。ただしここではするな。車に乗れ」とかぬかしやがった。
で、車で1時間近く走って着いたのが、寺だった。
そこで初めて聞いたんだけど、
そのオッサン、今は霊能者として活躍(w)してるけど、若い時にその寺に修行してたらしい。
お祓いなんかもよくしてるらしいけど、俺はよく聞いてなかった。
なんつーか、その寺にいるだけで異常に吐き気がするんだよ。
ぶっちゃけ、すぐに回れ右して帰りたかったけど、オッサン、有無を言わさずに中に入らせるんだよ。
で、入ったのは講堂(?)の奥にある、すげえ狭い部屋だった。
立って5人ぐらいしか入れないような部屋の壁に、
『東清(?達筆でよく読めなかった)』みたいな、方角+清(みたいな字)が書かれたでかい札が貼ってあった。
その部屋に入ると、吐き気はきれいになくなったよ。
でも、やっぱり空気は異常だった。
オッサンが北、俺が南の方角(札の)に座って、俺はあの時の話を、オッサンの質問に答えながら話した。
で、話し終わった後にオッサンが、
「鬼は本来、全ての悪い生き物の上位にいるやつだ。
だからそんな上等なやつは、
ちゃんと修行を受けたやつか、普通の人間とはほぼ全くチャンネルの違う人間にしか見えない。
しかも、鬼がとりつくのは、大抵が人間じゃない。
知能が低くて、野性の高い動物がよくとりつかれる。
そしてあの札も、上等っちゃあ上等だが、せいぜいが紙で制御できるモノしか吸収できない。
つまり、鬼が出てくるなんて、絶対にあってはならないことなんだ」
って言った。
が、見えたり、つかれたもんはしょーがなくね?
そっから、なんか有難いっぽい話を延々とされたが、
結局、オッサンの結論は、「お前は、おかしい。異常だ」ってことだった
俺は、あれ以来鬼どころか霊も見てないし、鬼のことなんか思い出すこともなかった。
誰かに話したのもあれ以来だって言ったら、オッサンの顔が蒼白になった。俺がびびるくらいに。
で、顔面真っ白になったオッサンがこう言った。
「2ヶ月も鬼につかれたのに、6年もの間、一度も思い出さなかったことを不思議に思わないのか?
そして、6年も忘れていたものを、今になって急に思い出したことに疑問を感じないのか?」
言われて初めて気付いた。
何で俺はあんな死にたくなることを、綺麗さっぱり忘れていたのか。
何で忘れたままでいたものを、いきなり思い出したのか。
原因は1つしかない。
あの火事だ。
最初に行ったオッサンの家の周りに、何軒かオッサンがお祓いした家がある。
他の人は知らないけど、オッサンは大抵が札を使った祓いをする。
オッサンが祓った家の中に、あの当時に使った札があったら・・・
そして、その家が偶然にも火事に遭ったのなら・・・
そこで全てが繋がった。
オッサン曰く、俺は普通の人とは完全にチャンネルが違うらしい。
言い換えれば、きちんとした修行を受けた霊能者と同等だ。
霊感の強いやつは、何もしなくてもナニカが寄ってくるらしい。
つまり、偶々燃やされたあの鬼が、俺につくことが完全に無いわけじゃない。
「鬼が見えた人間は、鬼とのチャンネルが近くなる。
要するに、自分が鬼を見なくとも、鬼が自分とのチャンネルが近いやつに吸い寄せられる」
この言葉を聞いて、意識がなくなった。
起きたら、オッサンの家のベッドにいた。
すげえいいマット使ってやがった。
「こんな事、霊能者として言いたくはないが、お前に鬼がつくことはほぼ確実だろう。
俺は鬼をみたことがないからな。つくとなれば、お前に間違いない」
もう一度倒れそうだったけど、オッサンがお守りを渡してきた。
「この封(お守りのことらしい)は、俺が持ってる中で最高のものだ。
日中は肌身離さず、寝てる間は北東の壁に掛けろ。
もしかしたら、鬼も帰ってくれるかも知れない」
とか言って俺にくれた。
それだけが救いだった。
何かあればすぐに連絡することを言って、家に帰った。
あれ以来、オッサンの言われたとおりにしてるんだけど、昨日あたりから変なものが見えるようになった。
ジジイが死んでから全く見なかったのに。
何かまた鬼が来そうな気もするぜ。
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