陸鯨
父の実家は旧Z村にあった。
堆肥臭やボットン便所が嫌でさー。
そんな旧Z村に長期滞在することになったのは、某事件のせい。
(この話には関係ないので別の機会にでも、、、)
家に住めなくなったのはショックだった。
父は転職するし、母や兄・私・妹の四人で父の実家に居候することになった。
盆と正月くらいしか帰省していなかったし。
中一の九月末の転校生・顔面包帯のせいで、
最初は「訳アリ」って感じでドン引きされてた。
事件のトラウマで軽い失語だったが、
上手く喋れるようになったのはAのおかげだ。
ヤンキーっぽいのに、学級委員やってて人気者。
AのダチBとCも仲良くなって、うちとけた。
D子、E子、F美はいつもフザけるA達に
小言をいいつつ、一緒に行動した。
「そういえば、三年のG先輩が夏肝試しに行って行方不明になったままだよねー」
F美がニヤニヤ笑って「うらめしや~」とかフザけはじめた。
A、Bも「あれって、夜逃げじゃないのかー?」と興味をもった。
C「高校生のグループに混じって、置き去りにされたとかの話だろ?」
F美「E子ん家に昨日、警察来たんでしょ?」
E子「だーかーらー、一緒にいた兄貴に『心当たりあるか?』ってだけ」
D子「単なる聞き込みでしょ?」
F美「今朝から大人が騒がしいじゃん。G先輩の死体でも出たんじゃない?」
A「そういう言い方、止めろよ」
F美「村外れのどこかに肝試しに行ったらしいけど、私は地元じゃないしね」
私「そうなの?」
D子「F美も中学からこっちに移って来たんだよ」
B「F美はともかく。スケキヨ、御前も興味あるのか?」
突然の都落ちにも慣れ、ヤサグレた私はわくわくしていた。
雪が積もる前に、季節外れの肝試しが決行。
Z村の外れには山がある。
全てはE子が兄貴から聞き出して描いた「地図」にかかっていた。
A「おい、ここってさ」
B「あー、、、」
C「赤木家じゃん」
肝試しっぽいなーと私はうかれてた。
F美「じゃあ、中入ろう。わお、二階建てだー」
赤い三角屋根の二階建て。
埃まみれの家具は散乱。カレンダーは昭和のまま。
天井の上、二階からドンと聞こえた。
C「誰か住んでる?」
D子「いったん、外出ようよ」
F美「私、見てくるよー」
外からガヤガヤ聞こえた。
E子「兄貴?」
D子「あっ、Xさん。こんにちはー」
X「母ちゃん、心配してっぞ。帰るぞ」
E子「来たばっかなんだけど」
X「とにかく、ここは何も無い」
C「三年のG先輩、ここで殺されたんですか?」
X「俺らは知らん。はよ帰るぞ」
F美が二階にあがったまま、戻って来ない。
外にはE子の兄貴Xの友達数名が叫んでいる。
皆で外に出ると、F美が泣いて窓をたたいてる。
おかしい。こんなにぼろい廃墟なら
泣き声や窓をたたく音が聞こえないわけない。
C「F美ー、演技してないで帰るぞー」
一瞬のうちに、F美が窓から消えた。
皆、怖くなって逃げ出す。
A、B、私は赤木家に特攻。
グッタリしているF美を三人でかついで
赤木家を脱出する。すると、F美が笑い出した。
Cの言うとおり演技だったのだ。
F美「マジウケる!E子とD子、腰抜かしてるし」
F美にだまされ、肝試しはおひらきとなった。
その翌日、Xが高校に登校中事故で、全身骨折。
F美もほぼ同時刻にベッド上で全身骨折。
命に別状は無いが、肝試しした
昨日の今日で気味が悪かった。
B「G先輩のお兄さん時と一緒じゃんかー」
A「黙っとけ、B」
B「赤木家でアレかよ」
AとBは明らかに何かを隠していた。
廃墟へ行った後、全身骨折になる。
A曰く昔からあの辺はヤバイ土地で有名。
G先輩の兄Hさんが全身骨折して今では寝たきり。
調べようとしたG先輩は行方不明ではなく、転校。
この間のXさん、F美は赤木家で祟られた。
Bもヤバイのは知っているが、何故かは知らない。
大人達も絶対近づかない。
C「女子はビビリだから四人で行こう」
「赤木家の裏な!裏!そこ、重要だから」
週末に、断行した。
赤木家の裏には細い道があって、
その脇をずっと木箱が並んでいた。
Cが開けてみると、水子地蔵の石仏が。
下りの道で、すり鉢上盆地の底が見えた。
何かを何かが囲っている。
一番外の鉄柵には有刺鉄線がまかれてた。
内側は分厚いコンクリート塀。
さらにその内側は木材の何かがある。
底へ着くと、玉砂利が敷き詰められてる。
目の前には「立入厳禁」の文字ではなく、
「車」の大きな家紋が刻印された巨大な石碑。
文字は一切彫られていない。
いったい、何を祀っているのか。何を封じているか。
A「ここ、自動車じゃ来れないよな」
B「あんな大きい石碑運んで来れないよ」
C「ここで彫ったんだよ」
5/9]AとBは首を傾げたままのCから後ずさりした。
C「中へ入ろう。父ちゃんから聞いたんだ」
A「C、帰るぞ」
Cは柵の鍵を壊し、どんどん中へ入っていく。
よく見ると、柵にもコンクリートにも扉と錠前があった。
B「Cを止めなきゃな」
A「中へ入るぞ。スケキヨはどうする?」
ふと、背後に気配を感じ、私もついていく。
A「鍵がついてる=中へ入ることもあるんだろう」
大丈夫ではなかった。
木で出来た小さな社がただぽつりとあった。
Cが社の中に手を突っ込んでいる。
何かを取ろうとした瞬間、耳鳴りがした。
Cは何かを持っている。黒いマフラーのようなものだ。
社の中の物をまた探り始めた。
周囲で気配がし、悪寒がする。
社の後ろに身を隠して顔をのぞかせている何か。
人間の幼女のようで、こちらを見上げている。
目の無い眼底は大きい穴だ。
口に歯は無く、白い髭のようなものが伸びている。
手に指はなく、円い何かに見える。
A「C、急げ!」
B「スケキヨ、ガンバレ!」
赤木家の辺りまで戻ってこれたが
もう、辺りは真っ暗。
そこへCの父がワゴン車でやって来た。
C父「探したぞ。早く乗れ!」
村の公民館へ行き、ホースの水で洗浄された。
塩をまかれ、酒をふりかけられた。
毛布にくるまれ、公民館の中へ連行。
色々聞かれたが、また耳鳴りがして解からない。
その間に、Cが苦しみだした。
Cが陸に上がった魚のごとく跳ね続ける。
骨の折れる音が続くまで、Cは跳ね続けた。
Cは全身骨折で手遅れとジジババに宣告された。
実害の出ていないA、B、私はAの父と一緒に
ある除霊師の家に向かった。
Bと私の家族は公民館に呼ばれてないし、不安で号泣。
石碑の家紋=社の管理者で
問題が起これば、車さんという家に頼むそうだ。
車さん宅はふっつーの民家だったので拍子抜けした。
車「御三人さん、何見たの?」
A「黒いマフラーと、ミイラの干物」
B「俺はマフラーだけ」
私「黒いマフラーと、、、」
車「正直に言いなさい。怒らないから」
私「、、、変な女の子」
車「あら、そう。A君とB君は大丈夫よ」
車「スケキヨさん、困ったことになったわね」
私「あー、耳鳴り以外は普通です」
車さんはアレの正体を説明してくれた。
アレは「陸鯨(リクケイ)」。地域によって「髭子」。
昔は雄を見ると縁起が良い。雌だと悪い。
そういった吉兆に関係する妖怪だったらしい。
A「件みたいなのですか?」
車「まあ、、、でも、火は弱点」
B「縁起物を燃やしたらバチが当たりませんか?」
車「Z村に恨みのある人が村の外れでやったのよ」
誰かが陸鯨を燃やしたことで村に不運が続く。
そこで、Z村は犯人を突き止めて住まわせた。
犯人の末裔が赤木家だったのだ。
車「黒いマフラーにみえたのは赤木家に生まれた娘の毛束」
私「何故に毛束なんですか?」
車「自分達が祟られないための供物かもね」
私「除霊すれば陸鯨も成仏?出来るんですね」
車「家も社も朽ちてしまえば、全て終わるはず」
A「G、HとCはいとこで、F美は赤木家の遠縁です」
車「C君は他人をまきこんだ甲斐があったでしょ?」
C君はあの社を調べるために他人を使っていた。
陸鯨を見るのはそれを燃やした赤木家の血のせい。
F美ちゃんは赤木家の血が少し混じってたらしい。
私「Xさんが巻き込まれたのは?」
車「F美ちゃんとヤったんじゃない?」
ケロリと言う車さん。
A「スケキヨ。村来る前に御前家が燃えて火傷したんだろ?」
私「そんなことで、見えちゃうか?」
車「火傷から火の気を察知して、威嚇したのかもね」
車さんってかなり適当な人だなーと思った。
車「折られた骨は元には戻らない。さっさと手を打とうか」
除霊は三人一緒にしてもらった。
車「念のため、スケキヨさんは村には戻らない方が良い」
私「いつ、戻れますか?」
車「今は火傷のおかげで実害は無いけれど」
A「Z村に戻れないってことですか?」
車「そうなるわね。陸鯨は扱いが難しいの」
車さんはどこかへ電話しに行った。
AもBも私も、生きているのに何だかどっと疲れた。
車「スケキヨさんは車の本家預かりってことで良い?」
私「え、、、」
車「私は社の修復に立ち会わなくちゃいけないから」
中一で家族と暮らせなくなったのはきつかった。
世話になった車本家の人が私を見て、
「アンタより苦しんでる子もいるんだから」と説教された。
本当にそうだと思う。陸鯨よりヤバイのもウジャウジャいる。
危ない所はマジで危険。
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