山にまつわる怖い話【21】全5話
皺だらけの子供
俺の同僚が山奥で工事していた時の話です。
その日は土を掘削するだけだったので、同僚は一人でバックホウを操作していました。
そいつは普段、市街地で道なんかの現場で作業員してたんで、
アームを旋回する際には、こまめにバックミラーを確認するクセがあったんです。
で、何回目かの確認の時に人影が見えたんで、旋回を止めました。
山のオッさんかハイカーが現場に足を踏み入れたのかな?
そう思って、ピッピッと警笛を鳴らしました。
でも、バックミラーの人影はジッと動こうとしません。
もう一度警笛を鳴らして、ミラーを覗いたところで気付きました。
目を凝らしてみても、その人影の輪郭がハッキリ見えないのです。
「全身からいろんな色の粉ふいているみたいで、なんやブワーッてなってるんッスよ」
同僚は、絶対人とちゃうから死なんやろ、と思ってアームを勢いよく旋回させました。
アームを旋回させると運転席も回転するので、当然ミラーに映る景色も変わるんですけど、
人影は中心に映ったまま動かない。ブワーッとなったまま、どうやらこっちを見ています。
「ヤバイて!ヤバイて!ヤバイて!ヤバイて!ヤバイって!!」
パニくってバックホウをグルグル旋回させるんですが、体を振り向かせる勇気が出ない。
なぜなら、その時、頭のすぐ後ろから子供の声が聞こえていたんです。
「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね」
と、バックホウがグラっと傾きかけたので、我に返って旋回を止めました。
ガタン…ガタン…ガタン
3度ほど揺れて、ようやくバックホウは安定しました。
ドッと緊張が解け、大きくため息をついてフロントガラスに手をついた同僚は、
しばらくそのままでいて、やがてゆっくりと頭を上げました。
フロントガラスに、皺だらけの子供の顔が押しつけられていました。
同僚はマッハでドアを開けて現場から逃げ出しました。
その日の作業日誌には、幽霊を見たので作業中止、と書いたそうですが、
当然、監督によって差し替えられました。
同僚が「幽霊を見た!」と騒いでたのは本当です。
ソッコーで別の現場に替えられたので、けっこうマジだったかもしれません。
山奥の神社
今日、近所の山をトレーニングで走ってたら普段行ったことがない道があった。
獣道だろ?と思って走ってたら一時間ぐらい行ったところできったねーボロ神社を発見!
近所に住む俺が知らないんだからよっぽど古いものだろうと思って中をのぞいてみた。
俺はマニアだから御神体とか残ってたらもらおうと思ったんだよ。
小さい神社だからたいしたもんは残ってなかったけど鏡と楽器?が残ってた。
そんで、こりゃいいやと思って頂戴したんだが、いつのものかよくわからないんで
神社にある手を洗う石の入れ物を調べてたら明治時代以前のものだった。
だけど、神社自体は頭の丸い釘と頭の四角い釘で補強されてたんで少なくとも
最後に修繕されたのは昭和初期~戦後の間だと思う。
ぼろぼろの紙も落ちてたが文字は薄くなってて読めなかった。
鏡とか楽器?をもらって帰ろうとしてたら神社の裏の山からガサガサ音がしてきた。
多分野良犬だろうと思ったが、いのししかツキノワグマだったらやばいのでとりあえず神社の柱を登って屋根に隠れた。
そしたら、35~40歳ぐらいの見たこともないおっさんが山から下りてきた。
山奥の超過疎の俺の町では俺の知らない顔の人間などいない。
おっさんは禁猟区の山なのに平気でコウライキジを捕まえてきていた。
俺は「やばいおっさんじゃないの?」と思って屋根の反対側に回って息を潜めた。
おっさんはぶつぶつ独り言を言いながら神社の中に入っていった。
「こいつは絶対にやばい!!」俺の直感がそう告げた。ものすごい恐怖感が湧き上がってきた。
俺はかってに神社に入っていろいろあさっているので、神社の中の異変ににおっさんは気づくだろう。
そう思った俺はおっさんが神社に入ってすぐに、そうっと裏の柱を伝って屋根から下りて石段を降りずに
一気に道のない急斜面をまっすぐに転がるように降りた。おっさんが俺に気づいたかどうかを確かめる余裕もなかった。
とりあえずおっさんが俺より体力がないと信じて逃げるしかなかった。
いいかげん逃げたら息も切れてきたし、ちょっと道にも迷ったので木に登って休んだ。
おっさんはどうやら追いかけてきていないようだった。
それから少し道に迷っていたら沢を見つけたので沢に沿って下っていくことにした。
途中で獣道を見つけたので獣道をたどって山を降りてきた。
あのおっさんが何者なのか気になるし、おいてきた鏡と楽器が気になるので
来週の日曜日にでも犬を連れてもう一度いってみるつもりだ。
ばあちゃんに聞いたら「そんなところに神社なんてあったか?」といわれた。
とりあえず来週もう一回行ってくる。
なんでこんな山奥の町に見たこともないおっさんがいるんだ?しかもあんな山の奥に。
今日は興奮して眠れそうにない。
山の声
俺は霊体験も無いが、ただ一つ不思議な話を親父から聞いた。
親父は真面目で嘘をつく様な人間ではない。
毎朝、山仕事で家の近くにある山に行くのが日課になっており、その日も山で作業をしていた。
人の声が聞こえるから、声のする方に向かったが、声のする方との距離は縮まらず姿形は全く見えないが、聞こえる声は、
“今日は三人の客が来るから大急ぎで支度をしなきゃならない”
と言っている。一体何事なのかと訝しんでドンドン山奥に入っていくと、突然声は聞こえなくなり辺りはシーンと静まり返り、
今いる所が何処か全く分からない。
ふと、川の流れる音が聞こえ、その方向に進んでいくと、
小川の向こう岸に蛇・蛙・鼠・鳥など色々な動物の屍骸が、
三つこんもりとした山の形に積まれている光景が現れた。
それを見た親父はどこをどう走ったか、もう無我夢中で駆け、
蒼白の顔をして家に辿り着いた。
それ以来、親父はその光景を見た山に入ろうとはしなかったんだ。
古ぼけたトンネル
昔、山で体験したことを語る。
夏も真っ盛りのある日、東北のある山奥で道に迷った。
日も暮れかけて途方にくれながら歩いていると、ぽっかりと暗い穴がみえてきた。
それは赤レンガを壁材にし、漆喰だかコンクリで固めた電気も通ってない古ぼけたトンネルだった。
どうにも気味悪く怖気が付いたが、覚悟を決めて入った。
瞬間冷たい空気が身を包む。
外が暑かったためか、暗闇の中でなぜか安堵した。
暗くて前がみえないので壁伝いに進んだ。
数メートル進んだときだ、壁に伝わせていた手がなにか暖かい物をつかんだ。
ハッとして手を引っ込める。
それはどう考えても人のどこかの部分だった。
思わず呼びかけたが、返事は無かった。
暗闇の中途方にくれたものの方々の態でトンネルを抜けた。
すぐに山里に出る道を見つけて人里に戻れた。
里にあった飲み屋でさっきあった事を女将に話すと、
何とも勇気があるもんだ。
と褒めてくれた。
理由を聞くと、言うと良くない事になると教えてもらえなかった。
ワラ人形
甲山へピクニックに行った時の事。
西宮に甲山という、ファミリーハイクにはもってこいの小さなかわいい山がある。
付近には六甲山系を水源とする川と、飯盒炊爨の出来る河原があった。
俺が青色(小坊)1年、弟が幼稚園へ上がる前の事だ。
俺たち兄弟は母親に連れられて、そこへ来ていた。
メニューはご飯と鋤焼。だが、ご飯が出来なければ次が始まらない。
俺たちは母に火の番を任せ、河原で遊んでいた。
ふと、川の方に目をやった弟が声を上げた。
「あ、人形。ほら」
弟の指さした先の浅瀬に、ワラ人形が足をこちらに向けて流れ着いていた。
現物を見るのは初めてだったが、本などで見るものとまったく同じで、きっちりと束ねられており、大きさは15センチくらいだったと思う。しかし、釘などが刺さっていたような形跡はどこにもない。
(なんでこんなものが?)
訝しむ俺に構わず、弟はそれを拾おうとして一歩踏出した。すると、
「だめよ」
いつの間に来たのか、母が俺たちの真後ろにいた。
「そんな物、拾っちゃダメ」
静かだがドキッとするほど鋭い母の言葉の響きに、弟が思わず後ろをふり返った。
その時、弟の後ろでワラ人形が体を起した。
そして、眼無き顔で母と俺をさも悔しそうに睨め付けると、自ら仰向けになり、川の深みへ入ってそのまま流れて行ってしまった。
あれはいったい何だったんだろう。
母に後で聞いてみた。家の母方の人間はわりと霊感が強い人間が多く、中でも母はずば抜けてそれが強い。その母をしてよく分らないと言う。ただ、川の方から弟に向って厭な視線が向けられているような気がしたので、そっちを向くと、真っ黒な小人が蛙のようにうずくまっているのが見え、慌てて駆け寄ったのだと言う。
瞬間、弟が捕られると思ってゾッとしたそうだが、その時、小人が俺の方をずいぶん忌々しげに睨んでいたので、少しほっとした、と母は言った。
俺には全然そんな物は見えていなかった。
ヤツは一体どこへ流れて行ったのか。それともあそこで繰返しああしているのだろうか。
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