村社会の強烈ないじめ
小さな田舎町で生まれ、親ともどもその強烈な村社会に馴染めなかった私は、
小・中と苛烈ないじめを受けて育ちました。
教師は助けてくれるどころか、率先していじめに加担していました。
20歳になったとき、しれっと同窓会の通知が来たときは
「あれだけのことをして招待状とはどういう神経か」
と激怒して欠席しましたが、25歳のとき再び招待状が来て、なんだか気まぐれで出席してみたのです。
ひとりひとりマイクの前で挨拶と近況報告をするという流れになり、
(小さな町で同窓生の人数も少なかったので、そんなこともできたわけです)
何を話すか全く考えていなかったのですが、自分の番が回ってきたとき、以下のようなことを話が口をついてでてきました。
「私は皆さんにひどいいじめを受けた。申し訳ないが皆さんは不幸になるかもしれない。
今まで私を酷い目に遭わせた人、例えば浮気をして私を裏切った恋人や
会社で私を理不尽にいびった上司などは全員不幸になっている。
私が何かしているわけではないので、助けてあげようにも何もできない。
もしかしたら既に心当たりがある人もいるかもしれない。
大変だろうが、過去の報いだと思って過ぎ去るまで頑張って耐えてほしい」
話はデタラメです。
このとき別れた恋人はひとりだけ、原因は浮気ではなく多忙によるすれ違いで、
彼とは今も友人として仲良くしていますが、結婚もして至って幸せ。
会社で上司にいびられたことなどありません。
しかし、「既に心当たりが」のくだりで数人の顔がすーっと青ざめたのを見た時、
強烈に「あ、これマジで効き目あるかも」と思ったことを覚えています。
そのときは至って軽い気持ちでしたが。
自分のスピーチが終わると、仲の良い友人などもとより一人もいませんし、
「垢抜けた」だのといってベタベタしてきた同級生たちも
化け物を見るような目で見てくるので、
もうどうでもいいやと思ってそのまますたすたと帰りました。
東京に戻って恋人(現在の夫)にこの話をすると、いじめのことを知っていた彼は
「そうだそうだ、そのくらいやってビビらせてやったって生ぬるいくらいだ」
と私よりも憤慨し、
「ちょっとくらいバチでも当たればいいんだよ!」などと言ってくれました。
その2年後、親も東京に来て、彼とも結婚が決まり、順調に暮らしていたある日、
親のマンションに泊まりで遊びにいっていた夕方に、ドアのチャイムが鳴りました。
出てみると、私の元担任の女が鬼の形相で立っています。
中に通すと、私を指して「この子に呪われた」「どうにかしろ」などと喚きだしました。
聞くと、本当に同級生および教師に不幸が連発しているらしい。
それも、笑い話では済まないような不幸。
離婚、流産・死産、交通事故、親族の病気・借金・自殺、本人の病気や解雇など…。
その教師も娘が流産して離婚し、精神を病んでいるほか、
夫もなにかトラブルを抱えている模様。
「どうにかしろ」「オバケ女」
などとヒステリックに言い散らしていましたが、
親が、「娘を助けてやれなかった自分たちも十分に罪はあるが、
あなた方は娘に何をしたかわかっているのか。
自殺未遂をするまで追い詰め、学校の机に菊の花を飾り、暴力を振るい…
そのツケは天が下したものだろう。身から出た錆だ」
「第一、呪いなんて本当にあると思っているのか。
そう思うなら、科学的に実証して警察にでも何でも話せばいい。
あなたの話は非科学的すぎて、とても相手になどしていられない」
と反論されるとトーンは一転、メソメソと泣きながら「あの頃は私もストレスで」などと
言い訳を始めたので、これだけ言われて謝罪も出来ないような人は顔も見たくない
と追い返しました。
親はその日、当時私を守れなかったことを涙ながらに謝ってくれました。
こちらこそ素直に打ち明けもせず、いきなり自殺未遂などして心配をかけて済まなかったと、
私も泣きながら謝りました。
あいつが何度来ても絶対に追い返す、お前に手出しはさせないと親は言ってくれました。
東京の住所は、役場勤めをする教え子から聞いたと言っていたので
(田舎ならではのルーズさ!)、役場にもクレームを入れ、
プライバシーの保護を何だと思っているのかと文句を言いました。
とは言え、住所は知れてしまった。どうしたものかな、と思っていましたが、
同級生も教師も、それ以来今に至るまで訪ねてきたことはありません
最近仕事で、同県に実家があるという女性に会いました。
私が○○町の出身だというと、
「え!じゃああの話知ってます?」と勢い込んで訊いてきました。
教師をなさっている親御さんから聞いた話で、○○町では昔ひどいいじめがあり、
その加害者が成人後にどんどん不幸になり、今年ついに死者がでたとの噂があると。
親御さんは
「担任まで黙って見過ごしていたらしい。信じられない。バチが当たって当然」
とおっしゃり、彼女も
「私もそう思います。いい気味ですよ。いじめ野郎なんかいっそ全滅しちゃえばいいのに」
などと言っていました。
「いじめられた子」が目の前にいるとも知らず…。
それを聞いて、自分の心が少しも動揺していないことに少し戸惑いました。
勿論、こんなことになるとは思っても見ませんでした。
でも、恐怖も、復讐を果たした晴れやかな気持ちも、罪悪感も、何も感じないのです。
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