泣ける話『父がくれたドーナツ』『ぬか漬けの味』『折鶴』など【短編】全10話 |切ない話・泣ける話まとめ

泣ける話『父がくれたドーナツ』『ぬか漬けの味』『折鶴』など【短編】全10話 |切ない話・泣ける話まとめ 泣ける話

 

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泣ける話 短編 全10話

 

カッコ悪く泣かせてくれ

付き合って3年の彼女に唐突に振られた。
「他に好きな男が出来たんだー、じゃーねー」

就職して2年、そろそろ結婚とかも真剣に考えてたっつーのに、目の前が真っ暗になった。俺は本当に彼女が好きだったし、勿論浮気もしたことないし、そりゃ俺は格別イイ男って訳じゃなかったけど、彼女の事は本当に大事にしてたつもりだった。なのに、すっげーあっさりスッパリやられた。

どーにもこーにも収まりつかなくて、電話するも着信拒否、家行ってもいつも留守、バイト先も辞めてた。徹底的に避けられた。
もーショックですげー荒れた。仕事に打ち込みまくった。

それから半年、お陰で同期の中でダントツの出世頭になってた。
彼女の事も、少しずつ忘れ始めてた、そんなある日、携帯に知らない番号から電話がかかってきた。

最初は悪戯とかだと思って無視ってたんだけど、何回もかかってくる。仕方ないから出た。別れた彼女の妹を名乗る女からだった。その女が俺に言った。
「お姉ちゃんに会いに来てくれませんか?」

・・・彼女は白血病にかかっていて、入院していた。
ドナーがやっと見つかったものの、状態は非常に悪く、手術をしても助かる確立は五分五分だという。入院したのは俺と別れた直後だった。

俺は、病院へ駆けつけた。
無菌室にいる彼女をガラス越しに見た瞬間、俺は周りの目を忘れて怒鳴った。
「お前、何勝手な真似してんだよっ!俺はそんなに頼りないかよっ!!」

彼女は俺の姿を見て、しばらく呆然としていた。どうして俺がここに居るのかわからない、という顔だった。
その姿は本当に小さくて、今にも消えてしまいそうだった。
でもすぐに、彼女はハッと我に返った顔になり、険しい顔でそっぽを向いた。

俺は、その場に泣き崩れた。堪らなかった、この期に及んでまだ意地をはる彼女の心が。愛しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。

その日から手術までの2週間、俺は毎日病院に通った。
けれど、彼女は変わらず頑なに俺を拒絶し続けた。
そして手術の日。俺は会社を休んで病院に居た。
俺が病院に着いた時にはもう彼女は手術室の中だった。

手術は無事成功。けれど、安心は出来なかった。
抗生物質を飲み、経過を慎重に見なくてはならないと医者が言った。
俺は手術後も毎日病院に通った。
彼女は、ゆっくりではあるけれど、回復していった。
そして彼女は、相変わらず俺の顔も見ようとしなかった。

ようやく退院出来る日が来た。
定期的に検査の為、通院しなくてはならないし、薬は飲まなくてはならないけれど、日常生活を送れるまでに彼女は回復した。
俺は当然、彼女に会いに行った。お祝いの花束と贈り物を持って。

「退院、おめでとう」
そう言って、花束を手渡した。彼女は無言で受け取ってくれた。
俺はポケットから小さい箱を取り出して中身を見せた。
俗に言う給料の3ヶ月分ってヤツ。
「これももらって欲しいんだけど。俺、本気だから」
そう言ったら、彼女は凄く驚いた顔をしてから、うつむいた。
「馬鹿じゃないの」
彼女の肩が震えていた。
「うん、俺馬鹿だよ。お前がどんな思いしてたかなんて全然知らなかった。本当にごめん」
「私、これから先だってどうなるかわからないんだよ?」
「知ってる。色々これでも勉強したから。で、どうかな?俺の嫁さんになってくれる?」
彼女は顔を上げて、涙いっぱいの目で俺を見た。
「ありがとう」
俺は彼女を抱きしめて、一緒に泣いた。

ウチの親には反対されたけど、俺は彼女と結婚した。
それから2年。あまり体は強くないけれど、気は人一倍強い嫁さんの尻に敷かれてる俺がいる。
子供もいつか授かればいいな、という感じで無理せず暢気に構えてる。


嫁さんのお腹に新しい命が宿ってるってわかった。
「子供は授かりものだから、無理しないでのんびり構えとこう」
とか言ってたけど、正直諦め気味だった。
まだ豆粒みたいなもんなんだろうけど、俺と嫁さんの子供が嫁さんのお腹の中にいる。
そう思っただけで、何か訳の分からない熱いものが胸の奥からこみ上げてきて、泣いた。
嫁さんも泣いてた。
実家に電話したら、結婚の時あんだけ反対してたウチの親まで泣き出した。
「良かったなぁ、良かったなぁ。神様はちゃんとおるんやなぁ」って。
嫁さんの親御さんは「ありがとう、ありがとう」って泣いてた。皆で泣きまくり。
嫁さんは身体があんまり丈夫じゃないから、産まれるまで色々大変だろうけど、俺は死ぬ気で嫁さんと子供を守り抜く。
誰よりも強いお父さんになってやる。
でも、今だけはカッコ悪く泣かせて欲しい。

 

おはぎをこしらえた

会社が棚卸しで振り替え休日があったので
会社の若い連中、男女3:3で海にドライブに行った
私は途中で腹が減ると思ったので
人数分×3個のおはぎを、前の晩からこしらえた。
「気のきく人」と思われて好感度アップ間違い無しと確信して
寝不足ながらウキウキ気分で出発。
ひそかに思いを寄せるN男さんもお洒落な服で張り切っている。
10時ごろ、ブサイクな同僚♂(29才喪男)が
「ソフトクリームがたべたい」と言い出したので
私は「お、おはぎならありますけど・・」とやや控えめに
18個の色とりどりのおはぎ(あん・青海苔・きなこ)を紙袋からとり出した。
一瞬「しーん」となって、ブサイクな同僚♂が
「喪女さんが握ったの?うわwwおばあちゃんみたいwww」と言った。
他の女が「ちゃんと洗った手で作ったの?今の季節雑菌は危ないよ、ほら、ここやばくない?」と言った。
爆笑が起こった。18個のおはぎは誰の口にも入らなかった。
私はほぼ半泣き状態で、おはぎをしまった。
人づてに聞いた話だけど、N男さんも「ちょっとあれは食べらんないw」と
言っていたらしい。

 

父がくれたドーナツ

学生時代、書類の手続きで1年半ぶりに実家に帰った時のこと。
本当は泊まる予定だったんだが、次の日に遊ぶ予定が入ってしまったので
結局日帰りにしてしまった。
母にサインやら捺印やらをしてもらい、帰ろうとして玄関で靴紐を結んでいると、
父が会社から帰ってきた。
口数が少なく、何かにつけて小言や私や母の愚痴を言う父親のことが苦手で、
一緒に居ると息苦しさを感じていたの私は、父が帰宅する前に帰って
しまいたいというのも、日帰り、ひいては通えない距離の学校を選んだの理由の一つだった。
父が、「お前、泊まるんじゃなかったのか」と訊いたので、
「ちょっと忙しいから」とぶっきらぼうに答えると、手に持っていたドーナツの箱を私に差し出し、
「これやるから、電車の中で食え。道中長いだろうから」と言った。

駅に着くと、電車は行ったばかりのようで人気がなく、30分は待たされるようだった。
小腹が減ったので、父からもらったドーナツの箱を開けた。
3個ずつ3種類入っていた。家族3人でお茶するつもりだったんだなぁ。
でも、私が9個貰っても食べきれないよ。箱の中を覗き込みながら苦笑した。
その直後。あぁ、あの人は凄く不器用なだけなんだろうな―。
ふとそう思うと、涙がぼろぼろ出てきた。
様々な感情や思い出が泡のように浮かんでは消えるけど、どれもこれも切なかったり苦かったりばっかりで。
手持ちのポケットティッシュが無くなっても、ハンカチが洗濯して干す前みたいに濡れても涙は止まらなくて、
結局、一本あとの電車が来るまで駅のベンチでずっと泣き続けていた。

 

デジカメを買った機械音痴の母

なんか機械音痴の母がデジカメを買った。
どうやら嬉しいらしく、はしゃぎながらいろいろと写してた。
何日かしてメモリがいっぱいで写せないらしく
「どうすればいいの?」って聞いてきたが
「忙しいから説明書読め!」とつい怒鳴ってしまった。
さらに「つまらないものばかり写してるからだろ!」とも言ってしまった。
そしたら「・・・ごめんね」と一言。

そんな母が先日亡くなった。
遺品整理してたらデジカメが出てきて、何撮ってたのかなあと中身を見たら
俺の寝顔が写ってた・・・。

涙が止まらなかった。

 

大好きな三つ子一番上の兄ちゃん

あたしは三つ子の真ん中でお兄ちゃんが一番上一番下は妹

お兄ちゃんが大好きだった

お兄ちゃんは優しくて泣き虫なあたしをいつも守ってくれた

家族は結婚できないのに結婚の約束した

小さい時あたしが車にひかれそうになったのを守ってお兄ちゃんは死んじゃった

大好きなお兄ちゃんもう会えないなんて

あたしがいなければって何度も思った

お兄ちゃんが亡くなって一年後あたしの本の間に手紙が入ってたそれも新しく買った本の中に

お兄ちゃんからの手紙だった

元気にしてるか?おれは空から見守ってるけんな泣くなよ。そばにいるんから

嬉しかった

お兄ちゃんの字だった

あたしとお兄ちゃんしか知らない秘密の絵が書かれてた

お兄ちゃん大好きだよ。もう会えないけど

 

塩ラーメン

うちの家族は母と私(長男)、弟が二人の母子家庭。
父と母は、私が5才の時に離婚をし親権は母親へ。「扶養金なんかいらない」と言い残し、私たち兄弟を引き取ったらしい。女・酒・ギャンブル。全てに手を付けていた父の下に、一人でも子供を残して行きたくなかったのだろう。
母はそれからというもの、幼い私たちからひと時も目を離したくなかったのだろうか、
私たちの入園した保育園で働き始めた。
お世辞にも給料は良いとは言えない。おそらく12、3万だっただろう。自分には何一つ
買わず、全てを子供の為に注ぎ込んだ母。いつもボロボロの服を着ていたのを覚えている。しかし、それでも生活は厳しく、唯一ボーナスを貰ったときだけ食べに行ったのが、
ある定食屋の塩ラーメンだった。野菜がたくさんのった塩ラーメンを食べているあの時間
だけが、私たち家族の至福の時だった。…そう、夏と冬、二度だけの。

今では兄弟も成人し、家族四人なに不自由なく暮らしている。住むところはまちまちだが、そんなことを感じさせないほど、家族の絆は深い。…兄弟三人。しかも年子で男ばかり。これを、女手一つでここまで育て上げた母を、私は世界中の誰よりも尊敬している。

そして、その定食屋はというと。…大変残念な事に、数年前に店主が癌で亡くなり、今はその形だけが残り、シャッターを下ろしている状態である。しかし、今でもあの店の雰囲気と、四人で過ごしたあの時間を生涯忘れる事はないだろう。

 

ぬか漬けの味

霊感商法の会社に勤め始めたAは焦っていた。

入社して三ヶ月になるがまだ一円の売上もない。今朝も上司から後一週間以内に結果を出さないと辞めて貰うと注意されたばかりだ。
厳しい雇用情勢の中、やっと就職出来たのにクビになったらまた一から就職活動だ。

Aは入社してからここが霊感商法の会社だと気付いた。
毎日が精神的に辛い日々だったが、もう少し貯金をしないと、次の就職先が見つかるまでにお金も尽きるかも知れない。

今日も会社から指示された家を何件か訪ねたがまるで話もさせて貰えない。
昼前にもう一軒行ってこい、と電話で怒鳴られて、気力を振り絞ってチャイムを鳴らす。

出てきた老婦人はあれまあと驚いて、まあ中に入りなさいと招き入れてくれた。
そればかりかAが世間話をしながら商談のきっかけを探している最中にお腹を鳴らすと、お昼ご飯まだなのと聞いて、居間に上げて手料理まで出してくれる。

『おばあちゃんの手料理美味しいですね!特にこの漬物なんか絶品だ!』

なんてお世辞を言うとにこにこと笑って

「そうかい、そうかい。でもそれ浅漬けだからね、あまり漬けてないんだよ、もっと良く漬かったぬか漬けを今度食べさせてあげるからまたおいでよ」

と話が弾む。

商談と言ってもまともな訳もなく、人間関係を作って信用させ、何の価値も無い壺を高額で売り付ける次第だから、Aは老婦人の事をなんとお人好しなのだろうかと思いほくそ笑んだ。

元来押しの弱いAだったので、その日は商談までは出来ず帰ったが、会社には見込みがありますので通えば何とかなります、と報告。
上司は必ずや売上にしろ、と叱咤激励する。

何日か通う内にAが息子さんに似ている事を知る。と言っても息子さんは亡くなった訳でもなく海外に赴任しているだけだったが。
これも何かの縁ですねとか、笑いながらも壺を売る算段をするAだった。

遂に上司から区切られた期限の日、覚悟を決めたAは商談を切り出す。
老婦人はそれでもにこにこと笑って

「そんなに霊験あらたかな壺なら一つ貰おうかね」

と通帳と印鑑を引き出しから出してきた。

「私はまだまだ若いからね。それに壺があればまたすぐに貯金も貯まるでしょう」

Aはこれで首が繋がった。助かったと感謝するばかりだった。

一応首は繋がったものの、それからもAはさっぱりと売上を上げられない。
一ヶ月もしない内に困り果て何とかならないものかと老婦人の家を訪ねる始末。

家に居たのは海外に居るはずの息子さんだった。
なるほど良く似ていると変な感心をしながら、おばあさんはどうされましたと尋ねると入院したと言う。

『お会い出来なくて残念です。お大事に』

とそそくさと去ろうとすると

「お待ち下さい、渡したい物があります」

居間に上がる様に促す。
息子さんが出してきたのはぬか漬けだった。

『前に頂いた浅漬けも美味しかったですけど、これは更に美味しいですね』

とお世辞を言うと

「それは良かった。もしよろしければ全部お持ち下さい。私は母の看病で手入れもままなりませんので」

とぬか床ごと持ってきた。

ぬか漬けは壺に浸けられていた。それを見たAの目から堰を切った様に涙が溢れた。
不思議がる息子さんに事情を話して、お金は少しずつ返しますと謝る。

息子さんはあのお金は万一何かあった時の為にと、老婦人が貯めておいた物である事を話して

「でもそれで良かったと思います。そのおかげで私は母に少しでも親孝行出来たのですから」

と笑っていた。

Aはその後霊感商法の会社を辞めて介護職に就いている。
仕事はきついけどやりがいはあるよと笑顔で話す。

今は退院して元気になった老婦人の家にぬか漬けのアドバイスを貰いに行くと、老婦人はあれやこれやと手料理を出してにこにこと笑っている。

それがAがぬか漬けに凝り出したきっかけ。
手入れが良いためか、ぬか漬けの味は日増しに美味しくなっていくのだった。

 

折鶴

半年ほど前、漏れのじいちゃんが入院した。
それまでにも何回か入院と退院を繰り返していたが、今回はやや長くなりそうだということで、お見舞いに行った。病室は6人部屋の一般病棟。
その中にまだ小学校に上がってないくらいの女の子もいた。じいちゃんと他愛もない話を2,30分ほどして漏れはコーヒーを買いに席をはずした。自販機のそばにあったベンチでコーヒーを飲んでいた漏れは、ふと近くにあった部屋を覗き込んだ。そこはいわゆるプレイルームってやつでTVがあったり、おもちゃや本がおいてある部屋だった。

その部屋にさっきじいちゃんの病室にいた女の子が座ってた。
漏れはなんとなくプレイルームに入って、その女の子に声をかけた。「こんにちは、さっき病室にいた子だよね。名前はなんていうの?」女の子は小さな声で「ユカ」と答えた。
どうやら折り紙を一生懸命作っているようだった。「ユカちゃんか。僕は○○○だよ。よろしくね」ユカちゃんは折り紙をやめて漏れのほうを見て小さい声で「よろしくね」って答えてまた折り紙をはじめた。

そのときはそれで終わり、漏れはプレイルームを後にして病室に戻った。
そしてその日はそのまま家に帰った。じいちゃんの入院は長くなるとのことだったので漏れの家族が一週間おきに輪番でお見舞いをすることになった。4人家族だからおよそ一ヶ月にいちどのお見舞いになる。

そして漏れの当番の日。着替えなどを持って病院に行き、じいちゃんと話をして、またコーヒーを買いにいった。
プレイルームをのぞくとそこにはユカちゃんがひとりでいた。

漏れは部屋のドアを開け声をかけた。「ユカちゃん、こんにちは。僕のこと覚えてる?」「うん」そういったユカちゃんは立ち上がり、漏れのそばに近づいてきた。そして「これあげる」と漏れにあるものを渡した。

それは小さな折鶴だった。漏れはそのまま部屋に入り、色々な話をした。病気で幼稚園にいけなくなったこと、ピアノのお稽古が嫌いなこと、来年から小学校にあがること。
折り紙は看護婦さんが教えてくれたらしい。漏れは夏にとある国家試験をひかえていたのでユカちゃんに「ユカちゃん折り紙が得意だったら、お兄ちゃんにいっぱい鶴を折ってよ。夏に大事な試験があるんだ。」てお願いした。
たぶんユカちゃんは「試験」の意味も分かってなかったと思う。

でも、最高の笑顔で「うん」て答えてくれた。「約束だよ、指きりしようね」漏れは指切りをして、部屋を後にした。そして、それがユカちゃんを見た最後の時だった。

次の当番の日、お見舞い道具一式を持ってじいちゃんの病室に行った。そのとき漏れは約束のことなどすっかり忘れていた。じいちゃんに着替えを届けて、話をして、帰ろうと思ったとき一人の女性が声をかけてきた。「○○○さんのお孫さんの方ですか?」見たこともない人に声をかけられた漏れは少し驚いたが「ええ、そうですが。あなたは?」と答えた。

するとその女性はこう答えた。「ユカの母です。」その表情に漏れは何かいやなものを感じた。漏れの予想通りだった。
ユカちゃんは漏れが帰ってから二週間後に亡くなったそうだ。ユカちゃんのお母さんは一通り話を終えると持っていた紙袋からあるものを取り出した。それは透明なビニール袋にいっぱい入った折鶴と手紙らしきものだった。

お母さんはそれを渡しながらこう言った。「○○○さんが来た次の日から妙に張り切って折り紙を作るようになったんです。それに○○○さんのおじいさんに字を教えてくれって頼んだらしいです。おじいさんが理由を聞いたら『手紙をかくんだ』って。」 漏れは袋を開けて中の紙を取り出した。
案の定手紙だった。たどたどしい字で「がんばってね、ユカ」とだけ書いてあった。

それを読んで漏れは病院の待合室で人が大勢いるにもかかわらず大声で泣いた。お母さんも一緒に泣いた。しばらく泣いた後、お母さんは一言「ありがとうございました」といって席を立った。

漏れはこの夏、5歳の女の子の力一杯の応援を背に試験を受ける。ありがとう、そしてさようなら。

 

メロンのアイスの容器

小学校6年くらいの時の事。
親友と、先生の資料整理の手伝いをしていた時、
親友が「アッ」と小さく叫んだのでそちらを見たら、
名簿の私の名前の後ろに『養女』と書いてあった。
その時まで実の両親だと思っていたので心底衝撃を受けた。

帰り道、どんな顔で家に帰っていいか分からず、
公園のブランコに座って立てなくなった私に、
親友はずっと付き添っていてくれ、
「よし、じゃあ私と姉妹の盃を交そう」とか言って、
カバンからメロンのアイスの容器(メロンの形のやつ)を出して、
水道の水をくんで飲んだ。

一体何のテレビを見たのか、「盃の契りは血のつながりより強いんだよっ」
なんてメロンのカップ片手に言う親友がおかしくて、思わず泣きながら笑いあった。

十数年たって私が結婚する事になり、結婚直前に二人で酒でも飲む事にした。
『あの時はありがとう』と、驚かそうと思って、
あの時もらったメロンのカップをカバンにこっそり忍ばせて飲んでたら、
突然親友がポロポロ泣き出して「あの時、あの時、気付かせてしまってごめんね」と。

『養女』の文字を隠さなかった事をずっとずっと悔やんでいたと泣いた。
そんな事、反抗期に親に反発しそうな時も、進学の学費面で親に言えなくて悩んだ時も、
机の上でメロンのカップが見守っていてくれたから、
あなたがいてくれたからやってこれたんだと伝えたかったのに、

ダーダー涙流しながらダミ声でドラえもんのように「ごれ゛ぇ~」
とメロンのカップを出すしかできなかった。
親友もダーダー涙流しながら「あ゛~ぞれ゛ぇ!」
と言って、お互い笑って泣いて、酒を酌んだ。
もちろんメロンのカップで。

もうすぐ親友の結婚式があるので思い出した。

 

マリオ

子供の頃、兄貴がマリオを持ってたんだけど俺にやらせてくれなくってさ
もう泣いたね、わんわん泣いた。んで泣きつかれて寝るころには兄貴もどっか外に遊びに行ってたんだわ
んで寝てるところにさ・・・

「リョータ、リョータ、おにいちゃんにないしょでマリオやろうっかJ( ‘ー`)し」
「(‘∀`)うん!」

俺がマリオで、かーちゃんがルイージ
1回死ぬごとにマリオとルイージが交代でステージ攻略してくんだけどさ、俺下手だったからすぐ死んじゃって
かーちゃんの2コンうばってルイージ動かしてもすぐ死んじゃって・・・
「J( ‘ー`)し あらあら、また穴に落ちちゃったね」って・・・
もうお話できないけどさ、もう一緒にマリオできないけどさ
もし最期になにか一緒にできるとしたら、かーちゃんとマリオがやりたかったよ

 

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