感動する話・泣ける話まとめ 短編5話【43】
ひょこりと帰ってきた
病弱な母がとても猫好きで、母が寝ているベッドの足元にはいつも猫が丸まっていた。
小さな頃は、母の側で寝られる猫がうらやましくて、押しのけては私も母の足元で丸まってた。
「たま」って名前の猫で誰にも懐かず母にだけ懐いていた。
そんな母が、自宅療養では治らないということで入院することになった。
入院してからすぐに、たまきちは家出してしまい、母に「たまどうしてる?」と聞かれると「ちょっと寂しそうだけど元気だよ」と言って、誤魔化していた。
しばらくして母は、入院の甲斐もなく病院で息をひきとった。
私達は母に本当のことを言ったほうがよかったのかなぁ?
などと言っていたのだが、母が亡くなって数日後の夜、そのたまがひょこりと帰ってきた。
見る影もなくやつれ果てたたまきちは、母のベッドによろよろとたどり着くと、いつもなら飛び上がって登れるベッドに登れず、私が抱き上げてベッドに乗せてやると、いつもの母の足元の指定席で
丸まって眠ってしまった。
「なんだか疲れ果ててるみたいだねぇ?」
とそのままにして私達も眠ったのだが、次の日の朝見に行ってみると、たまはその場所で冷たくなっていた。
私と父で裏庭に埋めてやったのだが、そのとき父が
「きっと、かーさんが寂しくてたまを呼んだんだろうな」
とぽつりと言った。
そんな父もすでに亡くなり私は今でも猫を飼っている。
この猫は私が呼んだら、来てくれるのだろうか。
膝の上で大きなあくびをしている、私の「たま」や。
大喧嘩した次の日
大喧嘩した次の日、ぶっきらぼうに弁当を渡されて「いってきます」って俺の言葉も無視しやがった嫁に、益々腹が立った。
でも、昼に弁当箱を開けたら俺の好きな食べ物だらけ。
もう本当にアイツは不器用だな、悪いとは思ってんだろうな、謝るのが悔しいんだろうな、とか思ったら、可愛くてさ「弁当まじ上手かった、お前は馬鹿だな」とメールした。
で、夜帰ってきたら、これまた豪華な夕飯なわけよ。
ケーキまで焼いてる始末。
可愛いから、喧嘩の内容は俺は悪くないと思ってたけど
「昨日ごめんな」って言ったら、涙ぐんで
「本当よ!ちゃんと反省してね」とか言っちゃってさ、これまた可愛いから、本当は反省なんかしてないけど、「うん、悪かった」て言って
その夜は二人で燃え尽きたぜ。
嫁大好きだー。
あー、もう何ていうかさ、幸せなんだよ。
喧嘩しても。
俺が馬鹿でも。
ビビッときた
彼女を拾ったのは、雪がちらほらと舞う寒い2月の夜。
友人数人と飲みにいった居酒屋で、トイレにいった帰り、厨房が騒がしく、『なんだ?』と思ったら、小さな子猫を摘んだバイトが出てきて、窓から表に捨てようとし、慌ててとめてその子猫を引き取った。
友人に訳を話て家に帰ると、とりあえずテッシュの箱に、テッシュを丸めて敷き詰めて、寝床を作ってやった。
温かいミルクをやったが飲まない。
水と猫カンをあげたら、猫カンを少し食べたので、ちょっと安心。
部屋を暖かくして眠りについた。
翌日、獣医さんにみせたら、『よく生きてたね』と言われた。
私は、生後二ヶ月になるかならないかくらいと思っていたから、そりゃそうだと思ったが、先生がいうには
『このコは、生後三ヶ月はたってるよ。多分、親猫からはぐれてから、ほとんど食べてないから育たなかったんだね。でもね、このくらいの時期に親がいなかったら、普通は死んでしまうけど、このコは強運としか言えないよ。寒さと飢えだけじゃなく、ネズミやカラス、雄猫に人間、子猫の敵はたくさんいるから』
もう、居酒屋で出会ったのは運命だ!!とビビッときた。
その日、常連のお店ではなく、たまたま入った初めての居酒屋で、空腹で厨房に迷いこんだこの子猫を、バイト君が捨てようとした場面にでくわしたのは、偶然じゃなく必然、出会うべく出会ったのだ。
(ネコリータにはありがちな思い込みかもだけどねW)
心配した排便も、飼ってから三日後にやっと出た。
先生がいうには、何も食べてなかったから、出るものもなかったらしい。
それから、アパートで猫を飼うわけにもいかず、彼女のために、古いがペットOKの庭付き一戸建ての家を借りた。
そこで、彼女との蜜月は十三年間、続いた。
ありがとう、こはくちゃん。
私を幸福にしてくれて。
また、私のところへ帰ってきてね。
一匹の猫の話
Rの実家は猫好きな一家で、野良猫に餌をあげているうちに家中猫だらけになってしまったそうだ。
(高校の頃遊びに行ったが、ほんとにそうだった。)
住み着いた猫が仔をつくり、その仔もまた仔をつくる。一時は家庭崩壊しかけたほど猫が増えたそうだ。
そのうちの一匹の猫の話。
その猫も他の猫同様、野良時代に餌をもらい、それが何度か続くうちにRの家に住み着いた。
そして、その猫も仔を宿し、五匹の子猫を生んだ。しかし母猫は病気だった。出産後、餌は食べても吐いてしまうか、もしくはひどい下痢だった。
だが、子供はまだ小さい。母猫はじっと耐えるように五匹の子猫達を守っていた。
あまりにひどそうなので、見かねたRの母親が病院に連れていこうと近寄るが、
母猫は子供を取られると思っているのか、決して触らせようとしない。怒り狂って引っ掻いてくるのだ。
次の日、母猫はついに動けなくなっていた。出産の疲労と病気による衰弱のためであろう。
母猫の周りは、自らの汚物でいっぱいだった。
しかし、母猫はいとおしそうに五匹の仔をまんべんなくなめていた。
こいつは今日死ぬな。。衰弱しきった母猫をみてRはそう思ったそうだ。
そしてその夜、Rの母親が2階の自室で寝ていると、もぞもぞと布団の中で何かが動く。
それは子猫だった。
あれ?と思い電気をつけてみると、他の四匹の子猫たちも自分の布団のまわりにいる。
子猫たちは寒いのか、か細い声で鳴きながら布団に入ろうとしている。
そして、少し離れたところに、あの病気の母猫が静かに横たわっていた。
もう息はしていなかった。
決して子供達に近寄らせようとしなかった母猫は、最後の力を振り絞って一匹一匹わが仔をここまで運んできたのだろう。
死ぬ姿を人に見せないと言われるプライドの高い猫が、寝室の真ん中で死ぬことを選んだのだ。
子供達を託すために。
家族であり、親友
前の飼い主の都合で初めて我が家に来た夜、お前は不安でずっとないていたね。
最初、お前が我が家に慣れてくれるか心配だったけど、少しずつ心を開いてくれたね。
小学生の時、空き地でお前とよく追いかけっこしたよね。
速かったなぁ。
全然追いつけなかったよ。
買い物に行った時なんかは、柱に紐をくくりつけておけば、きちんとお座りして待っていてくれたね。
利口なお前が本当に大好きだったよ。
可愛かったなぁ。
俺もお前をよく可愛がったと思うが、お前もよく俺になついてくれたね。
でも、年をとるにつれ少しずつ元気がなくなっていったね。
家から五分の公園に行って、ベンチにチョコンと座ったまま動かないんだもんね。
しょうがないから二人でボーっとしてたね。
なんか日向ぼっこしてるみたいだったな。
最期のほう、散歩ついて行かなくてゴメンよ。
前は庭に出るだけで、駆け寄ってきたお前が小屋から出るのも、大変そうにしてるのつらくて見てられなかったんだ。
でもあの時サチは死なない。
死なない。
て何の根拠もなく、勝手に思い込んでいたんだ。
だからお前が死んでしまったって、母親が言ったときとてもじゃないけど信じられなかったよ。
冬の寒い朝だったね。
小屋からでて口を少し開けて、本当寝てるような感じだったよ。
あの時、頭をちょっと撫でただけですぐに二階に行ったのは、あのままずっとお前を見ていたら
涙が止まらなくなってしまいそうだったからだよ。
もうお前がいなくなってから
犬は飼っていません。
飼う気もおきません。
頭を撫でてやると耳をずらし、目を細めるお前の顔は一生忘れません。
最期の方
お前をかまってやらなくてゴメン。
本当にゴメン。
今でも後悔してるよ。
お前は、他人から見れば、ただの雑種ですが、俺にとっては家族であり、親友であり、そして何よりかけがえのない大切な存在でした。
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