加害者は誰か
眩しさに眼が覚めて、時計を眺めると朝8時頃。
もう朝かと思いながらまばたきすると、目の前の時計は4時頃をさしていた。
周囲の色も、白い光の朝日が夕日に変わりつつあって、何事かと辺りを見回した。
その時は子供なりに「まばたきの一瞬にぐっすり眠ってしまったんだろう」なんて考えて、
うちの母親は比較的そういう話も聞いてくれたので、
飛び起きた自分は母のものとへ行き、さっそくその話をすると、
「一瞬で眠ったり、時間が飛ぶ事もあるかもしれないねぇ」と応じてくれた。
本題のもう一本。長文です。実話。
どうも自分の家系は、父母共にえらい因縁やら怨念を引き継いできたそうだ。
以下、寺の住職が自分や、あるいは親に話したもの。
まず母方の家系には稲荷信仰をやってた先祖が憑いていると言う。
ただ、少し長くなるが、それは悪い狐が憑いたとか、そういう話ではないらしい。
そもそも理解している人間が少ないが、と前置きされたのは、
「神」は万能でも無ければ、無限に力を持っている存在ではないんだという事だった。
お稲荷様に限らず、誰かがお祈りやお願いに訪れると、
神はその願いをなるべく叶えてやろうと考え、参拝者に力を貸してやる。
ところが、ここで『借りた力を返しに来ない者』が必ずいる。
願いが叶った、努力が実ったと、お稲荷様等の神様にお願いした事を忘れる。
その話を聞いて、その無礼な態度に怒って害を為すのか、と聞くとそうでも無い。
この段階では稲荷神は別に何をするでもなく、順番に力を貸してやるのだが、
そのうち、本人(本神?)の力が足りなくなってきてしまう。
こうなるともう、新しい願いを無視するか、
先に力を貸した人から、無理に返してもらうしかない。
つまるところ『借金の取立て』、今風に言えば『不良債権整理』だ。
稲荷信仰にどっぷり使っていたその先祖(商人)も最初は上手くいっていたが、
そのうち「取り立てられる」側に回り、何もかもがうまく行かなくなって、
身代を潰したと言う話だった。
まずそいつの借金と、感じている悔しさ、辛さが圧し掛かっていると言う。
今度は父方の家系。こっちはもっと深刻だ。
戦国時代だか何時代だかは解らないものの、私の先祖は位の高い武将…
…ではなく、そいつを討ち取ったようだ。ただし、それは戦場での事。
もちろん褒美も出ただろうし、功を挙げて名も立っただろう。
だが、討たれた武将の家はそれで完全に傾き、一族郎党が路頭に迷い、
最終的にどうにもならず、全員死んでしまった。これにまず、恨まれている。
ところが当の先祖自身すらも、その事によって出世したは良いが、
彼自身か、その子孫なのかは良く解らないが、父方の先祖もまた、
高い地位を与えられた事による責任から、心労でダメになって家を潰した。
毎日生きた心地がしなかった上、今でも辛い、助けてくれと泣きついてきていると言う。
辛い、辛いだけで子孫に八つ当たりしているのだ。
まだある。
他には、詳細は覚えていないが、その先祖は正義感が強く、
周囲の窮状を見て奮起し、世の為人の為に頑張っていたそうだが、
理想に実力が伴うかどうかは別の問題で、途中からどうにもならなくなっていった。
(先の討ち取られた武将一族の恨みとかが原因かも、等とも)
周囲の人間に失望されると自棄になり、俺はこんな頑張ってるのに何でだ、
あんなに頼ってちやほやしたくせに、何で掌を返すように冷たくなるんだ、
と嘆いた挙句、自殺。
そいつがまた、お前らも俺と一緒になっちまえ、と自分の子孫を呪っている。
他にも殺された赤子やら(母方のお婆ちゃん曰く)淫乱性悪女やら、
あんまりな内容で、それももう覚えきれないほどゴロゴロ出てくる。
流石に「幾らなんでも理不尽すぎる」と腹が立った。
とにかく、内容に八つ当たりや逆恨み、自分が原因であるパターンが非常に多い。
戦場で討ち取られて恨むなんて、侍のくせに潔くないと反発を感じたり、
自分が自殺したからって何で子孫を同じめにあわそうとするんだ、と。
そんな自分の言葉に答えて住職は、
「そもそも怨念や因縁が、理論的なものな訳無いじゃないですか。
殆どの場合、それは逆恨みや難癖で、相手に非があろうが無かろうが、
相手はそんな事に関係無く一方的に暗い感情を溜め込むものだし、
対象を不幸にしたって、それで気が晴れたりなんかはしない。
数人で恨みを晴らして成仏するようなら、まだ良心的ですよ」と言う。
まさしく「末代まで呪ってやる」の世界そのもの。
更に都合が悪いのは、親戚を見回しても、自分と同世代が一人も居ない事。
妹が一人居るが、男性は自分一人。
何人かは結婚しているが、子供は一人も居ない。本人達が望んでいる場合でさえも。
結局、父方と母方で別々に受け継がれてきた怨念(?)的なものは、
最終的には、全部自分か妹へ、特に自分に来る可能性が高いと言われた。
まぁ、それだけなら迷信乙と言って済ます事も出来たのだが、
じゃあ、実際のところ何があったか、という話で、
普通大した事件は無かったり、偶然の事件が殆どかとも思うけど…
母の家系は、父の家に比べるとかなりマシ(それでも少しアレだが)で、問題は父の家。
まず、父方の家は、それはもう酷い家で、父の母(自分にとってのお婆ちゃん)は、
ある日突然、父と父の兄を並んで座らせると、急に改まって、
「私は明日から狂いますから、明日からは二人の力で生きていきなさい」
と宣言し、そして実際におかしくなってしまった。
祖母は美人ながら元々欝の気があったそうだが、もう完全にダメ。家事一つできなくなった。
自分がもの心付いた頃には、祖母(50代半ば)はもう完全にボケていた。
祖父もアル中で、祖母同様、もの心付いた頃にはボケていた。
(昨年、脳の半分が壊死して植物状態になり、一年ほどして死んだ)
両親同様、親戚(後に夜逃げ→消息不明)もロクデナシばかりだった為、母が言うには、
父は口癖のように「あんな人間(両親や親戚の事)にだけはなりたくない」とボヤいていた。
ところがその父自身、事故現場に直面しても、救急車を呼ぶ事すらしない人間で、
それでもまぁその頃はまだ優しい所もあったらしく両親は結婚、工芸関係の仕事を始めた。
自分が生まれ妹が生まれ、ちょっと小学校で苛められもしたが、まぁまぁ何とか暮らし、
何度かの引越しの後、家を建てようという事になり、家を建てた。
ところが、その家が傾いていた。土台の沈下で、現在進行形で酷くなってる。
更に、家を建てた『建築会社がこちらを』訴えてきた。
で、父はその後ショックで酒量が増え…色々省略。
重要なのは『きっかけそのもの』は父に原因は無かった、という事。
結局、父はその「なりたくない人間」そのものになった。
全部話してると長くなるので詳細はカットするけど、人間としてのクズ要素を、
一通り備えていると想像してくれれば、現在の父の人物像はだいたい合ってる。
母は数年間、豹変した父に付き合いつつも一人で家庭を支えていが、流石に離婚した。
(元々離婚しろと喚いていたのは父だったのだが、保留していた)
住宅裁判で支払われた賠償金は全額借金の返済に充てる、という条件で父が受け取ったが、
株に使い込んで全部消えた為、自己破産を申請した。
(…と本人は言っているが、もう喋る内容が全て嘘か本当なのか解らない)
母方の親戚には連帯保証人を頼んでいた為、当然、母は親戚関係と絶縁状態に。
それでも、さあこれから新しい人生を、という時になってガン。
手術は成功したが、転移率が中々高いそうで人生終了です本当に有難う御座いました。
自分は父とも連絡をとれる状態だが、連絡はとっていない。
…何が怖いかと言えば、自分が上の話を聞いていたのは前々からだけど、
だからそ逆に、そんな怨念に負けるか、気をつけて生きるんだ、と思っていた。
だが、父が「あんな人間にだけはなりたくない」とボヤいていた話は、つい最近知ったんだ。
そして自分もまた「父のような人間にだけはなりたくない」と普段からボヤいていた。
若い頃の父の言葉を、この前母から聞いて、目の前が真っ暗になった。
何時か、何時か自分も、あのような人間になってしまうのではないか、と。
という訳で俺は今その傾いた家に一人で住んでいます。
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