山にまつわる怖い話【59】全5話
姿を消した妹
山と直接かかわりない話で恐縮ですが、
山間の集落で起きた出来事なので、もしかしたら山の怪と何か関係が
あるかもしれません。
これも父が若かった頃の話です。
父と同じ集落に住む若者の一人が妹をつれて親戚の家へ行きました。
彼らは日が沈んでから家路につきましたが、その途中、若者が
何か違和感を感じ、うしろを振り返って見たところ、自転車の荷台に
乗っているはずの妹が、姿を消していたそうです。
若者は最初「妹が自転車から落ちてしまった」と思い、あわてて道を
引き返しました。しかし、通って来た道のどこにも妹は居ませんでした。
女の子が夜中にいなくなったという事で、集落の男衆が集められ、
捜索が開始されました。
父の記憶によると、かがり火をいくつも焚いた大捜索だったそうです。
そして皆、いなくなった女の子の兄が自転車で通った道 「以 外」 の
場所を、くまなく探しまわりました。
その甲斐あって女の子は無事に発見されましたが、不思議な事に
女の子は、親戚の家→自宅の(一本道と言って差し支えない単純な道のり)
とは全く方向を異にする田んぼの中にうずくまっていたのです。
女の子が発見された時、その横にはウリの実の皮が
落ちていました。
ウリは、人でもケモノでもない者が食べたとした言いようの無い、
溶かされた・・・あるいは、なめ尽くされたような状態で落ちていました。
それを見た人々の間に、「ああ、やっぱり。」というような空気が流れたそうです。
父は、「自分も含めて皆、最初から、女の子は人外のものに隠されたと
半ば以上確信していた」と当時を振り返ります。
盛大にかがり火を焚き、女の子がいるはずのないような場所まで探しに行ったのは、
そういう訳なのだ、と。
ただ、山鳥の件でもそうなのですが、「アレはこういう名前のものだ」とか
「こういう特徴があるんだ」とかいう話は父も耳にした事はないようです。
草刈り
宮城の蔵王にある刈田峠は、その昔、草がすごく生い茂る所で近くに住んでた女性がボランティアで草を刈りに来ていた。
雑草は身の丈もあり大きな鎌でなければ切るのは難しかった。
女性は小さな子供がおり、いつも子供を背中におぶって草を刈っていた。
ある日、いつものように作業していたところ、「ボトッ」と音がしたので女性が振り返ってみると、そこには首がないわが子の姿があった・・・
ショックを受けた女性はその鎌で自ら命を絶った。
その後、その峠一帯は「刈田峠」「刈田岳」と呼ばれるようになった。
今は、登山者のための避難小屋があるのだが、宿泊すると夜な夜な「ザッ、ザッ」という音が聞こえるのだそうだ。それは草を刈る音にも聞こえるし、人が歩く音にも聞こえるらしい。
ライダーハウス
むかし北海道の山奥のライダーハウスでえらい目に遭った話。
そこはライダーハウスって言っても山の中に廃列車が置いてあって勝手に泊まってオッケーな場所なんだけど。
その日は俺ともう一人おっさんが寝泊まりしてたんだ。
で、おっさんと2人で廃列車に寝てたら叫び声やガタガタ壁を叩く音がした気がした。
でも俺はライダーハウス生活に慣れてて多少うるさくても気にならなかったし、イビキがうるさい奴や寝言言う奴、歯ぎしりが酷い奴と同じ部屋で寝ることも多いかった。
そのときもおっさんの寝相が悪いんだろぐらいにしか思わなかった。
朝起きてビビった。
外に出た瞬間、列車の周り一面が血の海。
列車の扉の下にちぎれた腕みたいなもんが見えたけど頭ん中真っ白になってて、後ろからおっさんに引っ張られるまで足が動かなかった。
それからおっさんが俺を落ち着かせてくれて、携帯が圏外だからバイクで警察呼びに行くって話になった。
でも俺はまだ足が震えててまともにバイクに乗れる状態じゃなかった。頼むから置いてかないでって言ったら後ろに乗せてくれた。
このときのおっさん本当に心強かった。
近くの民家で電話借りて警察を待った後、俺とおっさんはパトカーで現場に引き返した。
千切れた腕やら血溜まりやらを見て警官もかなりビビってたが、すぐに応援やら鑑識やらヘリがとんできて慌ただしくなった。
犯人はヒグマだそうだ、被害者は夜になってから泊まりにきたライダーらしく、近くに俺のでもおっさんのでもないバイクが止めてあった。
事情聴取のためパトカーで移動してるとき、おっさんがポツリと「こればっかりはどうにもならねぇもんなぁ。仕方ねぇ、仕方なかったんだ」と言った。
昨夜の叫び声はあの腕の持ち主の断末魔だったんだろうか。
しかし、あの時俺が起きたとして助ける事が出来たんだろうか。
仕方がなかったのかもしれない。
そう考えていたとき、助手席に乗ってた警官が言った「あんたら運がよかったな。鍵の付いてない扉一枚でよく襲われなかった」
俺はぞっとした。
山に入れない日
俺が子供の頃住んでたとこは、家のすぐ後ろが山だった。
俺はよく一人でその山に入って探検ごっこをしていたが、毎年じいちゃんが山に入るなと言う日があった。
その日は何か特別な雰囲気で、じいちゃんは近所の人たちと近くの寺に寄り合って御詠歌を唱えていた。
俺はじいちゃんに理由を聞いたが、教えてもらえなかった。
当時から馬鹿だった俺は何かワクワクしてきて、じいちゃんが寺に行ったのを見計らって、山に入った。
竹藪を越えてしばらく行くと、大きな岩があって、そばに小さな祠がある。いつもはひっそりとしているその祠に灯りが灯され、 お供え物が置かれていた。
それを眺めていると、後ろから女の人の声で「あこ…。」と声がした。
俺は焦って振り返ったが、何も居なかった。しかし、カッカッカッと不気味な音がこちらに近づいてくる。
俺はびびって叫びながら山を駆け下りた。俺は泣き叫びながら竹藪を抜け、家の中に入った。
そこには寺から帰ったじいちゃんがいた。 俺の顔色を見たじいちゃんは「お前山に入ったのか!」 と俺を叱りつけた。
じいちゃんが俺を寺に連れて行き、住職がお経を唱えてくれた。
じいちゃんが「子供やから逃げられたんや。」といったので理由を聞いたが教えてはくれなかった。
そんなことも夢の中の出来事のように思っていたのだが、久々に里帰りした時、偶然住職に会い、その話になった。
すると住職は、「因果というもんやな。」といってこんな話をした。
昔、都からさる高貴な女性がこの地域に逃れてきた。彼女は身ごもっていて、村人に助けを求めたが、村人は巻き込まれることを恐れて助けなかったばかりか、男たちがなぶり殺してしまったという。
それ以来、祠を立ててまつってはいるが、昔は山で変死するものが多く出て、それで命日には山に入らず寺に籠もるようになった、という話だった。
だけど、一つだけ疑問がある。あの時聞こえた「あこ」という言葉。あれはどういう意味だったんだろう。
歌声
俺の実家は奈良の田舎にあって、幼少の頃は遊びと言えば山を駆け回っていた。
友達と探検したり、秘密基地を作ったりで本当の田舎の子って感じだった。
あれは小学校6年生の最後の春休み、俺は私立の中学行くので地元の皆とは会える機会が減るってことで、最後の探検と称して普段よりも山の奥深くまで冒険しに行くことになった。朝からリュックサック背負い、母ちゃんに作ってもらった弁当と長年使った剣みたいな木の棒持って。4人で隊列組んで。
普段よく行く見慣れた場所を過ぎて、更に奥深くまで進んで行くと、竹薮から植林が多い森から雑木林へと変わり、2時間も歩くとあたりはかなり薄暗くなってきた。
俺達ガキは怖いもの知らずだったので、もっともっと行けるまで進んで行こうとしてた。
3時間ほど歩いて、一番先頭を歩いていた奴が急に止まった。「もう疲れたんかい」と俺が訊くと、「ちゃうねん、何か聞こえへん?歌みたいなん」と言う。俺達は耳をしまして、じっくりと聞いてみると、時たま聞こえる鳥の囀りの中に奇妙な歌声が見つけた。
「ほんまや、何か聞こえるな!声のする方行ってみようや!」ってことになって、俺達は
その声のする方向へと歩いて行った。
再び歩き出して1時間、その歌声は徐々に大きくなって行き、歌詞も聞き取れるぐらいにまでなった。メロディは中国の民謡みたいな感じで、子供ながらに神秘的に感じ、歌詞は「天から大きな簪(かんざし)降った、地から小さな俵(たわら)がはえた」ってフレーズだけ覚えてるが、他は忘れてしまった。
その歌を聴いてると、かなり気持悪くなってきて、正直俺は引き返したかったが、それを言うと馬鹿にされるので更に声のほうへと進んで行った。
すると、声が急に止み、また先頭の奴が立ち止まった。「どないしたんや、はよ行けや」「おい、前見てみろよ・・・」俺達が前方を見ると、小さな鳥居が立っていた。
「こんな所に鳥居なんか在るんや、珍しいなぁ」と言いながら鳥居をくぐってみた。
鳥居から5mほど離れて、本当に小さな祠があって、何年も手入れされてないんだろうか、めちゃくちゃになっていた。ちょうど朝から出発して、腹が極限まで減っていたので、俺達はそこで母ちゃんの作ってくれた弁当を食べることにした。
俺ら4人が地べたに座って、腹が極限状態まで減っていたので、必死になって弁当食ってると、またさっきのあの歌声が聞こえた。今度はどこで歌っているのか分からず、山全体に響くような感じで聞こえ、その歌声は徐々に大きくなっていくのが分かった。今考えるとかなり怖いが、その時はその歌に聞き込んでいて、4人とも弁当食いながらぼぉ~っとしていた。
弁当食い終わって、歌声の主も分からないので、更に奥に進もうかということになって、俺達が鳥居を再度出るために潜った瞬間、さっきの歌声が間近から聞こえ始めた。
その歌声は祠から発せられていて、お爺さんが叫ぶように歌っている聞こえた。
俺達は子供ながらにヤバイと感じたらしく、一斉に走って逃げようとすると、前20mぐらい先に真っ白な装束?(あの坊さんが着てるような奴)を着た人が3人こっちを向いて立ってた。
これには俺達もマジでビビッテ、全く逆方向に向って走って逃げた。後ろは振り向かずに、ひたすら走って逃げた、だいたい1時間以上逃げ続けて、立ち止まると、後方には誰もいなかった。
俺達は怖くなってそのまま山を別ルートを探して下って行き、5時間かけて山から出ることができた。
今でもその時の友人と会うと、例の歌声の話題で盛り上がる。その事件以後、その山には絶対に近づかないようにしてるが。長々とすまそ、つまんないですが。
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