『拾った携帯』|洒落怖名作まとめ【長編】

『拾った携帯』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編

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拾った携帯

 

なかなか昔の話になります。
何故今更この話を公言しようかと思い立ったのか、自分でも分かりかねますが、恐らくその時と同じ梅雨だからでしょう。
数年前、高校生の私は親に反抗し、隣の県の大学を選びました。
なぜそういった行動に出たかというと、丁度その大学付近の父方の祖父宅が無人になったのが大きな要因でした。
つまり、私は格安で独り暮らしを謳歌したかったのです。
祖父宅が無人になったといっても、私が小学生のころ祖父母は沖縄に家を買い、引っ越したからであって、別に誰かが化けて出る訳でもありません。
それに、私は霊感が全くないのです。
たとえ私のすぐ横で幽霊が何かを囁こうが、私は気付かないでしょう。
現に私は、友達皆に口を揃え、校庭に右半身だけの血まみれの女が浮いていると言われても、全員が泣きだすまで冗談だと思っていましたし、
その女の前で下手なリフティングさえ披露しました。
さて、小学生の頃の記憶ではありますが、川辺の高台の上に建った豪勢な家は、とても涼しく、憧れを抱かせるに十分な広さがありました。
母と父は消極的でしたが、しぶしぶ私の独り暮らしを認め、祖父母も快く快諾してくれました。

私は少しの私物と、母方祖父母から預かっていた老猫を引き連れ、我が家に初の凱旋を遂げました。
やはり県外の大学とあって交友関係など全くの白紙ですから、数日はそこそこの苦労はありました。
家に帰ると、3階まで上がり、丸型の大きなガラス窓の下に敷いた布団へ横になり、即寝る。
そういった生活が続き、やっと馴染み始めたころ、連れてきた猫の様子がおかしい事に気付きます。
地下も含め4階建てに相当する建物は、全ての階にキッチンとトイレ、バスルームがあり、客室として利用される部屋にはユニットバスが付いています。
そのため、私は3階と玄関以外に長くいる事はなかなかありませんでした。
しかし、猫は念入りに家の境界を確かめては、じっと何もない空間に何かを見ているのです、そうして、するりと開けられた窓から出て行き、いつの間にか帰っているのです。
気味が悪い、という思いは湧きませんでした。
猫とはそういう生き物ですし、この猫は元々変なところがありました。
何せ、祖母と母の話では、この猫の母猫が死ぬ間際に連れてきた野良子猫だそうで、そもそもコイツが私にとっては多少不思議な友達だったのです。
ですから、私は特に何も気にしていませんでした。
もしも家の中を埋め尽くさんばかりに怨霊がいたところで、私は何一つ気にしなかったでしょう。

そんなある日、私は珍しい一昔前の携帯を拾います。
今でこそ中学生でも持っていますが、あの頃、あの田舎では、大学生になりやっと持てるかの物だったのです。
しかも、一昔前の機械です。
いまだカメラが付いていないタイプで、汚らしく、塗装が所々剥げ、雑草と思わしき物が絡みついていました。
それを、私は川べりで拾ったのです。
通常そんなところに携帯が落ちているはずもありません。
だから、私は首を傾げ電源を入れようとしました。
しかし、当たり前の様に電源は入りません、ディスプレイは真っ暗なまま、私はひっくり返してバッテリーパックを取り出しました。
そうすると、少し水が流れ出ました。
ショートしたのかな、と思いつつも、私はそれをどうにかして電話帳データーだけでも落とし主に届けたいと思いました。
一昔前の、塗装の剥げたものをわざわざ、ここまで汚らしくなるまで使っていたのなら、これは余程大切な物に違いないと、そう思ったからです。
私は家にそれを持ちかえると、充電しようと試みました。
しかし、その携帯はどうやら他社製で、私はわざわざ最寄りのコンビニまで10分車で走り、充電器を買いました。
どうしてそこまでしたのかは今となっては分かりませんが、私はそうせずにはいられなかったのです。

帰ってくると、夜でした。私は夕食を作り、風呂に入ったあと、ふと忘れていたことに気づいて、靴箱の上のその携帯をとりました。
そして、買い物袋から充電器を取り出すと、コンセントに繋ぎました。
そうして、充電器に繋ぎ、紅いライトが灯った時の喜びは、何とも形容しがたい物でした。
独善的ではありますが、誰かを少しでも救えるのだという確信が、脳髄を痺れさせるような喜びを湧きおこし、
とてつもない善行を行ったような高揚感が訪れました。
つまり、きっと私は幼かったのです。
だから、この携帯を自分の手で落とし主に渡したいと思ったのでしょう。
その裏には、警察などを通さず、ただ自分の身が賞賛され感謝されたい、そんな欲望がありました。
今感じた様な喜びと高揚感を、落とし主の感謝の言葉とともに感じたいと言う様な、そんな欲があったのです。
私は無心で、紅いライトを灯した携帯を開きます。
ライトを塞ぐように添えた右の人差し指が赤くなって、血の様だと思ったのを今でも思い出します、
親指に力を込め電源のボタンを押したのを覚えています、左手をディスプレイに添えていたのを覚えていますし、
起動までの十数秒が長く感じたのを覚えています。
そして、電源が付いた跡の、全身の皮膚が粟立つような感覚を、こうして書いている間も、ありありと感じます。
今ではデスクトップと呼ばれるべき場所に浮かんだ、未送信メール数が異常でした、発信電話数も異常でしたし、電波の三本線がゆっくりと回復した瞬間、私の掌を飛び出し、床で震動し始めたそれに舞い込む着信メール数と着信電話数も異常でした。

それらは恐らく、表示件数の限界を軽く超えていたのでしょう、私は周りを見渡しました。
何も居ないのです、動いているのは床の異常な携帯だけなのです、音を立てているのも床の携帯だけなのです。
それでも、私は何かが床をガリガリと引掻く音を聞きました。
しばらくして、それはとまりました。
静寂の中で、私は放心したように自分の携帯を取り出します、パニックのまま110番を押しました。
呼び出し音が自分の携帯から聞こえます、しかし、普通ならば即座に出るはずの警察の方は全く出ないのです。
ただ呼び出し音が耳元で響くだけです。
そして、床の携帯が、また動き始めました。電話の着信を告げているです。
その携帯が、ヴー、ヴーと、床を擦るのです。私にはそれがゆっくりとこちらに近づいてくるような錯覚さえ覚えました。
いえ、きっとそれはゆっくりこちらに近づいて来ているのです、たゆんでいたはずの充電ケーブルが伸びきり、かつん、と音を立て外れました。
部屋全体が揺れているのではと思うような中、私の掌の中の携帯は未だ間抜けな呼び出し音のままなのです。
私は自分の携帯から、今目の前の携帯に電話をかけているのかと、そう疑う様な状況でした。
しかし、自分の携帯のディスプレイを確認するのはできませんでした。
私の双眸は、目の前をのたうち、生き物のようにゆっくりと近づいてくる電子機器に釘付けでした。
一瞬目を離した瞬間に、ソレが私の目の前に来ているのではないかと、
そして、今真後ろに、きっといつか友人皆が見ていたようなモノが、存在しているのでは無いかと、私は金縛りにあった様に立ちすくんでいました

逃げ場はありませんでした、十分な時間を経て、私の足元の数十センチ先に到着した携帯電話は、唐突に止まりました。
私は、それが着信が切れたのでは無く、電話に出たからだと分かりました。
何故なら、水のたまった洗面台の栓を抜いたようなごぼごぼという音が、携帯から流れ出したからです、
そして、金切声とも、金属を引掻く音とも取れる不快音が響きだし、私は崩れ落ちました。
人の声らしきものが入った瞬間、猫が携帯を押しつぶしました。
きっと、通話終了ボタンを押したのでしょう。獲物を捕えたと言わんばかりの目で、携帯を前足で踏みつぶし、猫は私をじっと見ました。
そこで、耳元に、エコーがかかった警察の方の声が聞こえてきたのでした。

即座に、私は最寄りの交番まで、猫とともにこの不気味な携帯電話を届けに行きました。
数日後、警官の訪れと共に、自宅の目の前の、道路下の地下下水道、
それが川に合流する所にある排水口の鉄格子の内側に手錠で拘束され、衰弱し死亡したと思われる女性の白骨死体が見つかったことを告げられます。
この女性は数年前行方不明になったこと、いつか見つかることを祈って両親が携帯の支払いをし続けていたこと、
そして警察は自分がなぜこの携帯を持っていたか署で聞きたがっていることを告げられました。
署で、私があった事を、丁度今まで書いたように伝えると、即座に釈放になりました。
どうやら祖父宅が建ったかなり後に連れてこられ死んでいたことが判明したのが大きかったようです。
何より、下水道の内側には普通の人は入れません。
そして、これは警察の方が署の出入り口で話してくれた事なのですが、
未送信メールの内容に、犯人らしき名前があった事と、異常な件数に膨れ上がった未送信メール数は、全て圏外で送信失敗だったこと、
何故か長い時間差はあるものの、3年に渡って送り続けられていたことを伝えられます。
家に帰った私は、地下室で、携帯を開きました。
電波が3つあります、壁に額をつけ、もしだれか家にいたら、もし彼女の携帯が自分と同じ機種なら、などと取りとめも無いこと考えていました。
そして、3年間に渡って送り続けられた未送信メールと、最後に私の元で受信した電話に思い当たり、逃げるように地下室を後にしました。

普通に考えれば、3年間もバッテリーが続くはずもないですし
下水管ですからそれなりの量の水も流れ出てたはずです
書き忘れてしまいましたが、警察の方が確認した時は携帯は電源さえ点かず メモリー?から確認したそうです
そして私の目の前で受信したはずのあの着信も記録には無かったそうです。
携帯が圏外にいた数年間と、私が交番に届けるまでの間は
この携帯は何かホント良くわからないオカルト的な存在だったのではと

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