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『半生を振り返ってみた – 双子の女の子の霊』|洒落怖名作まとめ【長編】

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『半生を振り返ってみた』|洒落怖名作まとめ【怖い話 - 長編】 長編
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半生を振り返ってみた

 

小学生の頃に出会ったそいつは本当に普通のヤツだった。
髪の毛は毎日ツインテールで、文章にすると可愛いイメージがあるかもしれないが、
実際のツインテールなんて漫画やアニメほどボリュームはない。

今でこそウィッグなんてモンもあるが、当時はそんな物はなく、三つ編みよりマシか・・・なんて程度だった。
目立つわけでもなく、虐められるわけでもない。

丁度バランスが良い立ち位置の彼女は、小学校5年2組の新学期。俺の席と隣になった。
俺の小学校では当時は男女の席がくっつき合うタイプで、隣になればソコソコ話し合う機会もある物で・・・
一ヶ月よろしくー。みたいなことで割と気楽だったのだが、
後から思えば毎月ある席替えイベントで、こいつと席が一緒になる確率は異常だった。
ブサイクじゃないだけでラッキーだ。そんなことを思っていたのは最初の一月目と三ヶ月目だった

雨の日ってのは運動場に出ることもなく、トイレに行ったりしてクラスの中心人物達の輪に入ったりするもので
俺もどちらかと言えば取り入るタイプだったと思う
雨の日は特別に本を持ってきたり、トランプやカードゲーム・・・ウノだったかな?そんなもんは認められていた
漫画と携帯ゲームは禁止だったが、隠れて持ってくるヤツは持ってくる
当然見つかって説教喰らったり、チクったりチクられたりとか思い出すと割と笑える
で、その俺の隣の席に座る彼女は本を持ってきて読むタイプで、友達も休み時間には寄ってきたりするもんで、遠慮がちに席を離れたりもした
よくある男子vs女子という構図は俺達のクラスにはあんまりなかった。仲が良いというワケでもないのだが先生が異常に怖かったというせいだろう
ムカツクがとりあえず女子はビンタ。男子は殴る蹴るというのがその先生の基本だった
俺も忘れ物した時はビンタと蹴りで半泣きとか今なら確実に問題になりそうな教師だったと言わざるを得ない
しかし、その暴力とはまた正反対の優しさもある人で、慕われてるといえばそんな感じのおばちゃんタイプだった
で、そんな先生に良く殴られてたのは俺を含むいつもの六人で、なんでか切れ無い縁というべきか、雨の日ということもあり、
校庭に出られないからという理由なだけで、その仲間と悪ふざけにスカートめくりに付き合ってシバかれた
二度としませんとか誓約書とういうか反省文みたいなことも作文用紙に書かされたが、終わった後にクッキーくれたりと・・・
あ、書いてる最中に思ったんだが、懐柔されていたのかもしれん

んで、隣に座る彼女。名字は佐藤。下の名前なんて知る機会はなく、後から知る事になったのは随分後だ
佐藤はその先生と仲が良く、スカートめくったのは佐藤を含むある程度許されるであろう女子に対称を絞っていたわけだが・・・
別に怒った風もなく、「告げ口したのは○○ちゃんだよ」なんてボソボソ教えてくれたりと、わりと平気なようだった
先生にシバかれた後は教室の最前面に整列させられて、正にさらし者状態で・・・下見るか天井見るかのどちらか一つという感じで
できれば記憶から消去したいが・・・全員ズボンを下ろされた!
「パンツを見られる恥ずかしさを味わいなさい!」
俺の記憶から消したいフレーズでもあるが、これを機会にパンツマンとか言われたのもきっついトラウマでもある・・・ああ、死にたい
当時はそう思った。訴えたら勝てるかもしれないと真剣に考えたりもしたが、それは関係ないので省くことにする
めくられた女子達も満足した様子で・・・俺もとりあえずみんなに頭を下げて回ったし、佐藤にももちろん頭を下げた
隣の席で気まずそうに座る俺に佐藤は「怒ってないよ」なんて言ってくれたが、「水谷のパンツも見れたし」と止めの一撃もしっかりとくれた
はい、本当にすいませんでした。その直後くらいからは女子は全員ブルマ着用状態で、これならスカートめくっても大丈夫!
という馬鹿な友人とまたシバかれることになるのだが、それも省略する

佐藤と割と仲よくなったのは恐らくその一件があってからだと思う
新学期初めということで、なかなか馴染めないクラス替えではあったが結構良い雰囲気だった
まあ、そう思ったのはスカートめくり事件後の事で、それまでは手探り状態という感じだったが
二年で一回クラス替えがある学校で、5年生ってことで今まで付き合うこともなかったような連中も混ざり、上下関係と言えば言い方が悪いが
そんなものが出来上がりつつある時期でもあった。で、俺も佐藤も虐めという対称からは難なく逃れられるなぁなんて思っていた
どのクラスにも変なのはいて、虐めのターゲットってのは順番に回ってくるもので、嫌なヤツとか強いヤツとかには適当に合わせていたし、一緒に虐めもした
ただ、女子をターゲットにした物はなく、見た目で虐めてたのが二人ほどいた。高橋というアトピー持ちのヤツと倉田という見た目がキモイというだけの可愛そうな二人だった
俺も虐めたこともあるし、毎日のように蹴りを入れられている姿は可愛そうな物だったが、それ以上でもそれ以下でもなく
助けようなんて微塵も思わなかったし、近寄っても来なかった
女子の方の虐めってのは俺達のようにあからさまに目に見えるものじゃなく、持ち物を隠されたりだとか(教科書とか。ついでに絶対に出てこない)
ガン無視が基本で、佐藤から聞かなければ分からないような虐めで、教室で孤立するという感じだった
まあ、見た目ブスだしどうでもいいというのが本音だった。女子の中でもキモイのは居るだろ?あと奇声発して急に泣き出すヤツも前の学年で同じクラスに居たが、
そいつは学校に来なくなったので更にどうでも良かった

3回目の席替えを終えて「また一緒だなぁ」なんて言うと「水谷なら気が楽だよ」なんて言われて、俺もそうだなぁなんて言い返したっけか
梅雨入りになると更に教室で過ごす時間が増えて、廊下で卓球モドキなんてものよくした
ラケットはなく、ピンポン球じゃなくて手で持つゴムボールで負けたら交代というシンプルなもので、人数が多いと回ってこないまま休み時間が終わる
俺は弱い方だったから教室でゲームの話するほうが楽しかった。当時何が流行っていたのか書くとバレるので書かない
で、その日は朝は快晴だったのだが、昼頃から降り出した。給食が終わると佐藤は本を読み出して、なんとなく何読んでるのかな?
と思って軽く覗き込んだ。文字ばっかりで何考えてるんだコイツは・・・正直そう思った
「挿絵もない本とかありえねぇ・・・」
「これは絵があったら怖いと思うけど?」
確かそんなやり取りだった。佐藤が読んでいる本の内容は恐怖小説というか都市伝説だとか、心霊現象だとかのオカルトチックな本だったらしい
「そんな本読んで怖くならないのか?」
「絵があったら怖いかも」
ま、そりゃそうだ。俺が知ってる心霊関係の本と言えば心霊写真解説書みたなのとか、稲川淳二の怖い話シリーズとかそんなんだったから
「絵とか写真付きじゃないのって、本当の話じゃないんだろ?」
当時の俺は創作だとか実話、空想、物語なんていう言葉を知らないレベルでお子様だった

「違う違う。コッチは本当の事が書いてあるっていうことだから面白いかなって思って」
「ふーん・・・俺は写真とか絵がなかったら無理だな・・・漫画の方がいい」
「おもしろいんだけどなぁ・・・」
と、また本に視線を戻した。邪魔するつもりもない俺は、心霊写真とかUFO写真とかの方が面白いよなぁと思いつつ、いつものゲーム話仲間の方へと向かった
「で、佐藤と何話してたんだ?」
「ああ、何の本読んでるのかと思って」
「ああ、あいつ何時も気持ち悪い本読んでるよな」
「知ってたのか・・・でも絵がないからパス」
そんな感じの会話がなんとなく頭に残っている
帰り際に佐藤がなんとなく暗い顔してるなと思ったのは傘立ての前だった
教室の外に傘立てがあるんだが、当然梅雨ということもあって、みんな置き傘したり余分にビニール傘を置いてたりとするわけだが
俺が自分の傘を取ろうと思った時、佐藤が突っ立っていたままだった。
ま、理解した。傘がないんだろうと思った俺はコンビニかどこかでパクった青い半透明のビニール傘を渡して、
「これ俺のだから持っていけよ」と、周りに誰も居ないのを確認してから手渡した
女子と仲良くというのはからかわれるとか以前に恥ずかしい行為と当時は思っていたもので、佐藤がどんな顔してたとか全く記憶にない
っつーか見なかったと思う。でも「ありがとう」って声は聞いた。
で、俺は濡れたまま帰ったというわけじゃなく、同じクラスの同じ方向のやつ捕まえて相合い傘して帰った。ちなみに男だが気持ち悪いテンションだったと思う
何故かしょーもない記憶の方が鮮明に残ってたりで申し訳ない

次の日もやっぱり雨で、俺は大量にあるビニール傘のウチ、見た目が綺麗なのを二本持って家を出た
名前は書かずに、学校に着いてから先生の机の引き出しにあった青いビニールテープを目印に貼った。もちろん先生に言ってからだ
シバかれたトラウマはそうそう拭えるもんじゃなく、外面だけでもよくしようと心がけていたと思う
んで、二本持ってきたというのは佐藤用というかそんなんで、昨日の傘立ての前で別れた時にフト思い返してたことがあった
今回は佐藤が虐めのターゲットになっているようだった。いつもなら本を読んでても近寄ってくるはずの友達も来てなかったし・・・
虐めが始まってからどれくらい経ったとかは正直分からなかった
ただ、その時は佐藤が虐められるという事がそんなに長く続くとは思っていなかったし、辛そうな顔をしてたわけじゃなかったからだ
ついでに傘もあるし、盗られる事前提というのは如何なものかと思うが、小学生的考えで言えば賢い方だったと思う

で、持ってきたはいいが、その日、佐藤は学校に来なかった
隣りの席に誰も居ないってのは変な気分で、妙な空間がぽっかりと空いてある
終わりの会も終わって今日は誰と遊ぶだとかの話で少しだけ居残った
んで、なんとなく佐藤の机の中を覗く俺が居た。虐めで基本はゴミ入れたりとかするんだろうか?そんな事を思ったからだ
実際、高橋や倉田は当たり前のように入れられていたし、女子でもするんじゃないかと考えたわけで
妙な期待をしつつ見た物の、何にもなかった。ただ、何故か俺の持ってる消しゴムが入っていた
貸したこともなんどかあったかな?とか思い、既に新品を持ってる俺はそのまま放置して帰った。どうせ切り刻んで練り消しだの飛ばし合いだので消えていく物だ

 

次の日も佐藤は学校には来ないようで、まあ虐められてたら来たくもないかなとか思っていた
でも、一週間も来なくなると気持ちが悪い物で、入院とかしてんのかなぁなんて思い始めていたんだが、終わりの会が終わった後に先生に呼び止められた
教室に人が残っているウチは、先生の話というのは最近何のゲームが流行っているのだとか、アニメや漫画は何が面白いのかとか、早く帰らせろと言うような話ばかりしていた
でも、引き止めたいってのは何となく分かってしまい、俺の方もズルズルと付き合った。教室に誰も居なくなるとやっとこさ本題に入るようだった
「佐藤さんは虐められてるの?誰に虐められてるか知らない?」
そんな感じのことを聞かれて「さあ?」としか答えられなかった
先生からすると俺と佐藤は仲が良いように見えていたらしく、俺なら何か知ってるのかもしれないという感じの話だった
女子グループの上下関係は上から種類分けするとAグループ、Bグループ、Cグループ、その他と分けられ、休み時間になると当たり前のように集まる
佐藤はBグループのはずで、そういう対称にはならないはずなんだけど・・・みたいな感じの事は言ったと思う

 

「男子が虐めてるわけじゃいのよね?」
とも聞かれ、それは無いと言い切れた。実際いなかったし
んで俺はよかったら電話して上げてくれないか?なんて事を言われて、人生で初めて女子の家に電話をするというイベントが起こった
ただ、好きな子の家に電話を架けるという事じゃ無いのが残念なところだが、それでも緊張はしたと思う
そして、電話から聞こえる佐藤の親に先生から架けてみてくれと言われたことを説明して、本人が出るのをしばらく待った
聞く内容は確か3つくらいで、学校に来いよみたいなことと、誰に虐められてるのか?と、先生が心配してるぞ?みたいなことを言ってくれということだった
先生が電話しても絶対に出ないそうで、何で俺が・・・みたいな感じでうっとうしいなぁと思っていた

「もしもし・・・」
と、電話越しで聞く佐藤の声は別人と喋ってるとしか思えないくらいトーンが違うというか、本人か?というのが第一印象だった
「えっと、先生に頼まれたんだけど・・・お前虐められてたりするのか?」
小学生の頭ってのはストレートに出来ている物だなと、思い返すと頭悪すぎな質問だったはずだ
返事はなかったが、虐めは本当なんだろうなと思った
「じゃあ,、お前虐めてる奴は誰?」
更にお馬鹿な質問だったと思う。でも当時の俺はそれが一番良いと思っていた
で、何も言わない佐藤にイライラしてきた俺はさっさと電話を切りたくなって
「先生が心配してるっぽいから電話ぐらい出ろよ。んじゃ切るわ」
「待って!」
じゃあな。という単語でしめるつもりだったが、一際デカイ声にビビった
「な、なに?」
妙な間があったと思うが、ボソボソとなんか傘のことがどうのこうのという話で
「あ、返さなくていいから。また盗られてももう一本置き傘してるから大丈夫」
みたいなことを言ったら、なんか泣き出して俺があたふたしていたと思う
んで、ありがとうみたいなことを言われ、電話を切った後もなんか妙な恥ずかしさで一杯になったが、結局誰が虐めてるのだとか、学校に来るのか来ないかも聞いてなかった

 

佐藤が来たのは席替えの日で、二週間近く休んでたんだが、周りの女子はガン無視だった
ただ、俺もヘタレであることには変わりなく、無視とかしてんじゃねーよ的なことを大声で叫ぶわけでもなく。
授業中もただ前の黒板を眺めてた。俺はその日の佐藤の顔をまともに見ていない
終わりの会で席替えのクジが入った缶カンを楽しそうに振る委員長を眺めつつ、佐藤と離ればなれということで、俺も安心だ
妙に気を使わなくて済むからと、当時の俺はそんなだった
で、回ってきた空き缶に入れられたブツを一つ取ると、後ろの席に回す。男子と女子は別の空き缶に入れられているからだ
開いたクジの番号を持って、黒板に書かれた番号と照らし合わせてワイワイと机を移動するんだが・・・
俺の隣はまた佐藤だった。この時は偶然でも気持ち悪い偶然だと思った。時期が悪いというか虐められてるというのが分かっている対称と一緒の席ってのはキツイ物がある
気を使うとか以前の問題で、この4ヶ月目の席は俺にとって夏休みまでのキツイ一ヶ月の始まりを告げてくれた
しかも壁際で、前は高橋で後ろは倉田だ・・・左側が壁で、前後右側虐めターゲットに囲まれたわけだ
もの凄く嫌そうな俺を友達は笑うわ。佐藤はお前の彼女だと嫁だとか夫婦とか言われるわで散々だった

 

でも、本当に嫌だった。俺も虐められそうになるんじゃないかと不安だった。目の前で蹴り倒される高橋にも見慣れる頃に、隣は何時も空席だった
後ろは後ろで物が飛んできたり、俺に当たるとなんだか俺が対称なんじゃないかと思ったりもしたが、振り返って軽く投げ返すと思いっきり倉田に当てていた
それを見ると俺も一安心という感じで、ああ悪いなぁとは思いつつも助けはしなかった
それから二週間目だったかで夏休みが近いなぁなんて思ってた。そして終わりの会が終了し先生が近づいてくると、メモみたいな手紙というかそんなのを渡された
「これ、帰ったら読みなさい」
と、結構丁寧に折られた便箋かルーズリーフだったかそんなのを渡されて、スタスタと教室を出て行った
俺はというと何が書いてあるのかなんとなーくわかったので、友達に聞かれる前にランドセルに仕舞い込んだ。
当然何て書いてあったんだ?みたいなことを聞かれて、親になんか渡してくれってさ。なんてことを言いつつ、さっさと帰った
家に着くとさっそくというか読みたくないけど読むしかないなぁと貰った便箋モドキを広げると、予想通りの内容が書かれていた

「終業式は来るのか?」
「いかない」
あっそ・・・としか思わない
「じゃあ夏休み終わったら学校来いよ。それでもいいって先生言ってたぞ?」
でも返事はなかった。なんで電話せにゃならんのだという感情が強かったが、架けてないことがバレるとシバかれるしなぁと思っていた
先生はというと、週に一度は佐藤の家に行っているらしかったんだが、親の方がなんか怒っているらしく、佐藤にはずっと会ってないと書いてあった
また、それをクラスの終わりの会でどうのこうの言えば、佐藤が更に虐められると考えていたらしく、今思うと先生の判断は正しかったんじゃないかなと思う
んで、女子が中心になっている事は明らかで、せめて友達はちゃんといるんだってことを伝えたいらしく、その対称が俺だったと
正直ウザかったし、女友達とかありえないとかガキの頃は本気で思ってた
で、受け取った便箋モドキには、俺に友達になってあげて下さいってのが長々と悠長な言い回しで書いてあった

 

しかも条件付きで。毎日電話しろとか。し終わったら先生に電話しろとかで、友達役を無理矢理やらされることになったわけだ
ただ、俺も断れない事情もあった。第三回スカートめくり主犯格としてシバかれた後だったからだ。もちろん俺は主犯じゃないんだが、何故か俺でシバかれた
親に言いつけられても屁とも思わないが、親呼び出して各被害者宅に一緒に謝りに行くのとどっちがいいかと言われると、電話で済む方を選んだだけだった
ちなみにパンツマンは結構有名で、他のクラスではパンツ戦隊とか言われてたらしい。6人いるんだけどそれは関係ないようだった
で、第三回を機に、やっと俺達も学習したというかソレ以来スカートをめくるということはなかったのだが、次に流行ったのがパイタッチだったのだが、そこは割愛したいと思う
「んじゃ明日も電話するわ。家にずっと居るんだろ?」
返事はウンとかウウンのどちらかで、一方的に会話するってのが辛いものなんだなと思いつつ、電話を切る時には「また明日」と言い合って切るのが日課になりつつあった
で、先生の方へは毎回電話するものの、出たりでなかったり留守電だったりと、佐藤だけに構ってるわけじゃないんだなと、後から知ることになる
高橋と倉田の件だ。クラス内虐めというだけでなく、他のクラスの連中からも登校中だの下校中だのでも被害を受けているようだった

 

その件に関しても俺に聞いてくるようになり、いいかげんにしてくれみたいなことを言った後、電話の向こうで泣いていたのを今は申し訳なく思う
俺も虐められたくないから虐めてるんだと。素直に言った。参加しなければそうなるんだと必死こいて言ったが、言い訳に過ぎないんだろうな
でも先生はそのことはちゃんと理解してくれていたようで、せめて佐藤だけでも構ってやって欲しいと頼まれることになった
もちろん高橋や倉田のことも考えてやって欲しいとは言われたが、俺にとっては友達じゃないからその二人にとっての友達に言ってくれ。みたいなことでソッチは終わった
しかし、女子の相手ってなにすればいいんだろうか?幼なじみは男連中しかおらず、年下のヤツならいるがたまたま近くにいたからままごとに付き合った程度で仲がいい訳じゃない
で、結局なにも解決しないまま夏休みになる
親と旅行の時は電話なんかしなくなって、帰ってきてからもしばらくは忘れていた
あいつから初めて掛かってきたのは糞熱い午前中、兄貴と俺が居間でアニメ特集とかそんなのをやっているのを見てる時だった
母親に電話だと言われて、誰?と聞いて女の子。と言われた後思い出す。気まずかった

「あ、もしもし?」
「もしもし?水谷?どうして電話してくれないの?」
半泣きというかなんだかそんな声で・・・気味が悪かった
「いや、忘れてたっつーか旅行行った後だったし・・・」
という言い訳を一生懸命してたが、何で言い訳してんだろうと思い。言わなくて良いことを言った
「お前に毎日電話しろって先生から言われたからしてただけで、電話終わったら先生にもしないといけないからダルかったんだよ」
そう言った後、佐藤は更に泣き出してそのまま電話を切られた
この時はあーうっとーしい!と思ったが、罪悪感はあるもので、この感覚から解放されたいと思って、すぐに架け直した
半分出ないんじゃないかなぁと思っていたが、電話は取り上げてくれたようだった。親かな?とか思ったが、もしもし?と言って帰ってきた音は泣き声だけだった
「え、えっとだな。急に切るなよ!心配するだろうが」
なんて言う感じの言葉をもっとドモりまくって焦りながらしたと思う
で、相変わらずの会話のなさで、俺の方の会話は段々辛くなってくる。旅行の話が終わった時点で十分も持たずに終わった
「えーっと、佐藤は旅行とか連れてって貰わないのか?」
「私は行かない」
はい、終了。俺はもう話すコトなど無く、何か無いかと電話の側でぐでーっと寝転んでいた。

で、思いついた
「お前の話はないのか?俺ばっかり喋ってて面白くも何ともないだろ?」
っつーか俺が面白くない
「私・・・私・・・ない・・・」
全ては終わった。小学生の会話で、しかも当時の俺の思考回路で上手いこと言えるワケもなく、また明日なってことで電話を切った
その後先生に電話をしてみたが、留守電だったので佐藤に電話した~終わり。と、だけ入れてその日は終わった

「水谷君」
「はい。なんです・・・か?」
家に来たのは変な感じのおっさんで、スーツ着てたと思う。佐藤の親父さんだった
俺の親も居て、応接間でなんだか初めて妙な席に着いたなと思わされた
「めぐみを虐めてる子を知らないかな?」
佐藤の名前は「愛」と書いてめぐみと読むらしく、初めて名前を知ることとなった
「いや、わからないですし、俺より佐藤さんの女友達の方が知ってるんじゃないですか?」
みたいなことを言った
その親は友達だった子にも聞きに行ったと言い、低学年の時のクラスの女子にも聞きに回ったそうで、ある意味これが原因じゃないかなとも当時の俺でも思った
溺愛しているその素振りは、俺から見ても普通に正しいことなんだとは思った。異常性は見られない。ただ普通になんとかしてあげたいという感じで必死だったんだろう
で、うちの親もそういう話なら協力して上げたいとか余計なことをするタイプで、巻き込まれる俺が勘弁して貰いたかった

そして出た結論が、俺が遊びに行って上げるということだった・・・女子と何して遊べと?
とりあえず思いついたのが携帯ゲーム機で、俺と兄貴と一台づつあったわけで、兄貴の方は既に携帯ゲームはどうでもいいらしく、遊びに持っていっても良いと了解を親ととる
持っていくものは他にお菓子とかだったが、用意したのは佐藤の親だった。夏休みって言っても男友達と遊ぶ機会はあんまりなく、だらだらするのが俺の過ごし方でもあったためか
そんなに抵抗なく行こうと思った。お菓子と小遣いがセットなら断る方がおかしい
そう、佐藤の親からも五千円くれた。俺の親には内緒でだ。これも懐柔だったんだろうなぁ・・・
で、一応やるきはないが「夏休みの友」という、今もあるかどうかは知らないが、夏休みの宿題の問題集も持っていった
佐藤の家は割と大きく、俺の家より綺麗で庭にも芝生みたいなのがあって、普通にいい家と言えばおかしいんだが、そんな記憶だ
もちろん道なんて知らなくて、佐藤の親父さんと一緒に行ったわけだが、歩きながら気を使ってくれる親父さんは優しい人に思えた。実際優しかったし今でもたまに電話が来る
初めて女子の家に踏み入れるというイベントではあったが、相手が佐藤なら特になんともない。むしろ悲しかったかもしれない。その時は
二階の佐藤の部屋前まで連れてこられると、親父さんが俺が来たと、扉越しに言うと、中でバタバタという音が聞こえた。
部屋の前で随分待たされたような気もするが、親父さんは佐藤が部屋から出てくる前に一階へ戻っていった
「まだか-?」とか、「もうちょっと!」とか、変な単語だけでやり取りが終わると、そろーっと扉が開いた
いつものツインテールじゃなく、フワッとしたロングヘアーというか・・・そんなのが居た

髪の毛が降りるとこうなるのか・・・と妙に見蕩れていたと思う
実際ちょい太めだったはずなのに、良い感じに痩せて、まあ・・・可愛かった
クラスの中で三、四番手という微妙な位置だったと付け加えなければならないが、俺も人のこと言えないしなぁってのがあった
初めて女の子の部屋に入った俺は、ぬいぐるみとか置いてあるだけで不思議な空間だった。テレビもベッドもあるし俺と兄貴なんか同じ部屋だし・・・
そんな部屋の話から始まって、携帯ゲームを初めてやる佐藤を後目に、俺は少女漫画という未知の読み物に一生懸命だった
読んでた漫画はリボン系と花とゆめ系のもので、コレも詳しくは書かない。ただ、糞笑えたのは間違いなかった。あの作者は頭がおかしいと思う。何がバスケットだ
午前中はそんなことをして、お昼に一階に下りると親父さんと母親と、佐藤と俺の四人で飯を食った。何を食べたのか覚えてない
ただ、覚えてるのは、ああ、三人家族なんだな。ということだった

気まずい飯であることには変わりなく、おかわりもしにくいこの状況を部屋に戻った後、佐藤と笑いながら話し、お菓子で追加することにした
宿題も一緒にやることになり、俺は写させて貰うからやっといてというと、久しぶりに軽く頭を叩かれた。「夏休みの友」を丸めたもので
そんな感じがいつものBグループにいるはずの佐藤で、電話越しの佐藤は別人だった。返事するかすすり泣くかのどっちかだったからだ
で、やらなくてもいいのに真面目に宿題を進めると、そろそろ帰る時間になった。流石にあの距離を歩くのは大変だろうと、親父さんが車を出してくれるということになった
夕方近くもなると気になるテレビもあって、さっさと帰りたいなぁとも思いつつ、佐藤と初めて遊んだというのもあってか変な気分だった
遊んだというより宿題やったという感じだが
んで、帰る前に佐藤が何か言いたそうだったが、電話で言うと言われて車に乗った
親父さんには何回もありがとうと言われ、それがなんのありがとうなのか知る事もなく、ただ、居心地の悪い助手席から見慣れた景色をぼーっと眺めた

佐藤からの電話の内容は予想通りというかそんな感じで、また来て欲しいという物だった
俺からすれば一回でいいんじゃないかなぁとか、クラスの男子にバレたらどうなるのか?とか、そんなレベルだったのだが
数時間後に掛かってきた電話は深く考えさせられる物だった
掛かってきたのは佐藤の母親の方で、久しぶりに家族揃って食事が出来たという物だった
部屋から全く出ようとしない佐藤は俺が帰った後は何時ものように出てこなくなったということで・・・
じゃあ電話はどうやって?と、思ったが、あいつの部屋にも電話はあって、俺の当時の家では電話が各部屋にあるなんてことは知らない家庭だった
で、親父さんからの何度もありがとうと言われた意味を知る。あいつは全く喋らないのだそうで、電話も聞いてるみたいな感じのことを言っていた

つまり、俺と佐藤の会話は佐藤の親も聞いているらしかった
気持ち悪い事するなぁと思った俺は、このことを聞いてから電話の内容ってのは気を使うことになる。俺と佐藤の他に別の息遣いがたまに混じることに気が付いたからだ
今の電話ならそういう機能はないと思うんだが、当時の電話は他の部屋で喋っていても、別の受話器を取ると話してる内容が聞こえるものだった
それは佐藤の家にあった電話に限られるんだろうけど
んで、次の日も佐藤の家に行くことになったのだが、半分は宿題と例の漫画だった。わりと面白かったし、続きも気になるし。なんて感じで軽い気持ちだったと思う
チャリを漕ぎながら、ひょっとしたらまた小遣いが貰えるかもしれないという考えも無かったワケじゃない。実際貰えたけど
昼飯は食い終わった後で、今日は夕飯を一緒にということだった。うちの親にも連絡を入れてくれるような、一見世間体のいい母親だったんじゃないだろうか
部屋に入るとクッキーとかコーヒーとか準備してあって、ポットまで置いてあった
昨日とはちょっと違う感じの服で、また印象が違うもんだなと思った。俺は服とか考えたことはなく、いつものジーパンに適当なTシャツだけで
なんだかガキなのにガキだなと最認識させられた気分だった

お菓子を喰いながら、持ってる漫画の話とかして、ガキのクセにいい夏休みを送ったもんだと今でも思う
今日はここまで~な感じで宿題を終えて、夕飯は外食だと言われてビビった。
普通の乗用車の後ろの席に、佐藤と並んで座るのだが、これほど他人の家族というものを間近で見た事は無い。
そして異常だ。会話がない。ないものなのか?これから一緒に食べに行く雰囲気が無い。無性に気まずい俺は、佐藤と一緒に携帯ゲームの対戦をしたかった
残念ながら今日はなかった。兄貴に速攻で返したのは間違いだったなと思いつつ、コレって俺がいるから喋らないんだろうなぁ・・・とも考えていた
ついた先は外食でもなんでもなく、隣町というかそれぐらい遠い距離にある神社のお祭りだった
で、親父さんが、今日は遊びながら食べ歩こうなんて言って、俺も少し喜んでいたかもしれない

うちの親はこういうのには連れてきてはくれるものの、屋台はダメ!という奇特な方々だったのだ。今でも怨んでる
そうなると佐藤の親父は俺の中で神格化し、初めてやる射的で対決したり、佐藤も一緒にワイワイできて、車の中の雰囲気は何処行ったんだ?なんて感じになった
屋台で食べるものは定番の物から歩き持って食べたりとか、佐藤も随分喜んでいる様で、俺はそれ以上に遊ばせて貰ったと思う
何しろ小遣いが減らないからだ。遠慮しろよっていう考えもあったが、あれをやろう、これをやろうというのは佐藤の親父さんだった。断れなかったが、それ以上にやりたかった
下らないプラモデルなんかもいくつか貰ったし、女物が当たれば佐藤にあげた。たぶん小学校時代で一番輝いていた時間かもしれない。
帰りの車はあれがどうとか、これがどうとか言う話で、かなり明るい雰囲気だった
佐藤も髪飾りみたいな丸っこいプラ製の髪結をいくつも腕に巻いてブラブラさせて笑っていたし、俺も抵抗なく手を繋いで歩き回ってたことを思いだし、一人で恥ずかしがってた
家まで送ってもらった後、佐藤も一緒に降りてきて、たわいのない話をして別れた。車に再び乗り込む佐藤の顔はお祭りの時と変わりない物だった

 

三日目は佐藤の母親と佐藤と俺の三人で、親父さんは仕事に出ていた
ただ、母親も二階に上がってくることはなく、何度か焼いたクッキーやホットケーキとか、食い終わった皿なんかを取りに来ていた程度だったかな
宿題を真面目にやる風景は小学生だった俺にはこの夏休みだけで、他は適当にやって怒られもした。ただ、六年生の夏では同じ先生だがシバかれはしなかった
ある程度片付けると、佐藤は今日はここまでだね。なんて区切りをつけてインスタントコーヒーを入れてくれた
缶コーヒーぐらいの甘さで丁度良かった記憶がある。今でこそ何のためらいもなく自販機の缶コーヒーを買うが、当時の俺は缶コーヒー買うなんて馬鹿だ
小さい缶で量が少ないのにもったいない!そういうガキだった
んで、俺としては、誰に虐められているのかが知りたくなったわけで、なんとか聞けないものかと思ったが、上手い言い方が見つからず。出てきた言葉は単純な物だった
「夏休みが終わったら学校は来るんだろ?」
「うん・・・行くと思う」

実際はもっとややこしい感じだったとは思うが、そんなに印象に残っていない
ただ、来るならイイコトじゃないかと思って、なら良かった。と、素直に思っていた
んで、俺も毎日佐藤の家にお邪魔するのはあれだから・・・みたいなことを言うと俯いて喋らなくなった
本音はクラスの連中に見つかりたくないからということと、兄貴にからかわれるのが嫌だったことだ
俺の周りは本当にガキだったし、俺自身もガキだった。本当に短絡的な思考で女子と居ればもうからかわざるを得ないというような環境だった

男子連中がな。女子に見つかっても特に問題はないと思ってた。
んで、喋らなくなったと思ったら泣きそうな感じになるので・・・やばい。何がヤバイのか分からないがとにかくヤバイ。そう思った。母親が居るわけだから聞かれると不味いわけで
しょうがないので
「ほら、俺の友達とかに見つかったら俺が・・・ほら、あれで・・・お前もアレだろ?」
訳の分からない事を伝えようとすると、訳が分からない言葉で出てくるもので、コレより酷かったはずだ
でも、そういうのは佐藤も理解してくれているようで、本当はそういう風に言ってくれた方が良かったと後から言われた
お邪魔だからとか、先生に言われたからとか言われると悲しくなるとか言われ、ああ、そうだよなぁ・・・と、言われてから気が付いた
たぶん此処でちょっと考えるようになったんだと思う。言葉をちゃんと選ぶようになったのは佐藤のおかげかもしれないし、佐藤のせいとも言える
そして俺は正直に説明して、佐藤が嫌いじゃないということと、ちゃんと友達だと思ってるということを伝えたが、佐藤の方から言われたのは別次元の言葉で、また現実だった
「友達は嫌」
「じゃ、じゃあ親友と言うことで」
本気でコレは覚えている。そして
「それも嫌」
「じゃあ義理の兄弟と言うことで」
「本気で言ってる?」
「いや、突っ込み待ちで・・・」
と、妙な間があったがあ、ああ、これは伝説のアレかと思ったし、雰囲気でこいつの言いたいことは分かってた。だから変なこと言ったんだが、結局は
「好き・・・だから、友達は嫌」
と、言われ・・・ああ、なんて言えばいいのか本当に顔真っ赤っかの馬鹿なお子様がそこで正座していて・・・てか、俺だ
「じゃ、じゃあソ、ソレで・・・」
何がソレだボケ。と今なら突っ込めるが、まったくアホな返事だったと思うし、もっとドモって居たのは間違いなく、人生初の告白を受けて。しかも、まあまあ可愛いと来たもんだ
まあまあってのは余計なんだけど、化粧してない状態でまあまあってのは凄い事だったなとは思う
で、俺の返事で吹き出して、佐藤は泣き笑いな感じで、俺はもう下向いて一人でえーっと・・・えーっと・・・みたいな初々しい物だった
んで結局「俺も好きだ」みたいなことを言ったのか言わされたのかどうかは微妙なところだが、言ったのは間違いなく、また佐藤も再び言い返してくれた
で、結局残りの夏休みの間、毎日佐藤の家に行くことになった

 

小学生って言っても、性の知識はある物で、早いのか遅いのかと言われれば、間違いなく早い部類だろう
初めて同士でキスをしたのも覚えてるし、一緒に引っ付いたりとか抱き合ったりとかテレビで見るカップルの気持ちも分かるような気がした
正直、佐藤の家の中だけの出来事だったが楽しかったし、嬉しかったし、コンドームを知らずに・・・いや、知ってたけど付けずに初めても経験した
ただ、血が出たのと痛がってたのは間違いなかったが、お互いもっと勉強しようね的なもので、弄り方とかイロイロ・・・って、ここは書かなくていいや
夏休みも終わりを告げる頃、俺と佐藤は付き合ってるというのは学校にも誰にも秘密にしようということになった
ただ、あいつから言われたことは
「私と付き合ってるってなったら、きっと水谷も虐められる。そんなのは絶対に嫌。助けて欲しいとかそうじゃない。関わっちゃダメなの」
そう何度も言われたのが印象に残ってる

俺も佐藤にだけは嘘というか見栄とかはりたいとかはなく正直に話したし、いつの間にかちゃんと話せる様になった。自分は弱い人間なんだってっことを。しかも卑怯だなと
先生の方には俺はちゃんと友達として仲良くしてます的なことを言っていたが、ちょっとは言いたいなぁなんて思ったのも本当のことだった
ただ、エッチしてるとかバレるともう大問題にでもなりそうな感じで・・・おっぱいには勝てなかったんだよ

しかしながら佐藤だけに辛い思いってのはさせたくないし、どうにかならないものかとも考える。でも関わっちゃいけないってのは何となく思う
女子Aグループというのは本当に力があるというか、クラスもそうだが学年も締めてるような連中で、男子でも平気で攻撃するタイプだった
そう。倉田がその犠牲者第1号と言っても良い。高橋はアトピーということもあったが、女子連中からは可愛そうにと思われる感じで、見た目は悪くなかったと思う
全身アトピーみたいなヤツが他のクラスにいたが、ソイツよりは軽いというかそんな感じだったからだ。男子連中はそのアトピーのついでに見た目も気に入らなかったという話
ソレとは逆に倉田の方だ。コイツは俺が見ても気持ち悪いというか、目がギョロっとでかくて出っ歯気味で友達は他のクラスにしか居ないという感じだったのだが
Aグループの女子の一人は、そんな倉田の隣りに座ることとなった9月中旬。そのキモイ奴はリンチにあった。理由は分からないし聞きたいとも思わない
ただ、両足骨折と他の方も打撲やなんやかんやと酷い物だったらしい。やった連中は誰が中心なのかも分からないが、倉田はリンチを受けた後、そのまま道路で車にはねられた
そんな話は噂として学校中に知れ渡ることとなり、また倉田本人はというと事故の後入院。そして帰ってきたのは中学に入る頃だ。

 

つまり、彼の小学校人生はこのリンチで終幕となった
んで、俺達男子連中はというと、そんな女子共に関わりたくないというのが一番にあった。理由は簡単だ。バックに六年生と中学生女子グループが居るからだ
全部繋がってるわけで、先生達も悩んでいることの一つだった。これだけの事件にも拘わらずに、警察沙汰にならないのが不思議で、
女子グループにお偉いさんかなんか居るんじゃないかってのが俺達の中では噂になっていた。
反対に男子グループで一番力を持っていたのは1組の連中なのだが、俺達2組の事には関わりたく無さそうなことを言っていた
高校生とかも絡んでるとかそんな話を聞いたら誰も突っかかれないって。そんな感じの話だったかな
で、実際の真相は倉田がリンチされそうになって逃げたところ、運悪く跳ねられた・・・ということなのだが、たぶん散々殴られたり蹴られたりした後だろう
それを知ったのは中学になってからだったが、その話はまだ先になる

 

夏休みが明けて始業式に佐藤は来た。俺は毎日見てたようなもんだったから違和感はなかったが、他のクラスメイトからすると随分印象が変わってたようだった
そして、暗い。ずっと俯いていた。俺の方をみても嬉しそうといった顔はなく、家で居る佐藤とは異質の雰囲気だった
普通付き合ってるとなると会うだけでもこう・・・嬉しさというか楽しさというものが湧いてくるもんだと思っていたが、全く思わない上に俺の方が近づけなかった
校長の長い話が終わり、教室に戻って席に着くと席替えだった
これで佐藤ともお別れだなぁと思いつつも、この最悪な三角形に囲まれた先月の居心地の悪さとおさらばできるのは嬉しかった
ただ、佐藤の暗さってのは心配を通り越して不気味だったのがアレなんだが・・・
何時ものように缶が回ってくると端の俺は残り三つのウチどれが良いとか考えるわけでもなく、適当の取ると直ぐさま後ろに回した
黒板に書かれている数字を見て、ああ、今度は真ん中の一番後ろか!と、ちょっと嬉しかった

 

机の移動が始まると、ワイワイ言い合ってる中、俺は運ぼうとした先に居る佐藤にビビった
また隣が佐藤だった
此処まで来るとなんだか変な話で、周りの連中も呪いじゃないかとか変なことを言い出して
じゃあもう一回席替えするか?とかいう騒ぎにまでなりかけたが、先生としてはそれは嬉しいことのようで、後から今月もお願い。みたいなことを言われた
俺の方もなんだか他の女子にも同情されたり、男子にもからかわれたりと・・・まあいいけど・・・と多少恥ずかしかったが我慢できた
席に着いた時の佐藤は下を向いていたが、なんとなくまた一緒で良かったな。なんて言ってみたら気持ち悪さではなくて、間違いなく可愛い笑顔でチラッと俺を見てくれたからだ
ただ、その時だけだったが
帰り際にはいつものメンバーと久しぶりに集まって遊ぼうなんて話になったが、佐藤をどうしようかなと思っていた

会う約束はしてないし、夏休みでもないし電話だけでもいいかな?と思ってた
久々に外でドッジモドキなんかして帰ったのは夕方前で、半日近く男友達と遊んだ
で、佐藤に電話すると学校とは全く違う明るい口調で軽い感じで怒られた
「彼女をほったらかしにするとはどういうことですか?」
「はい、すみませんでした。以後気をつけます」
「よろしい」
とか、変な敬語でやり取りしてたと思う。晩飯を済ますと俺が向かったのは佐藤の家で、ちょっとだけということで来たわけだが、結局家の中に上がらされた
親父さんが帰って来て、佐藤家の夕飯が始まるころ、俺はコーヒーだけということで同席する事になった。
ただ、俺の家より豪華だなと言うと笑ったり、学校でまた席が一緒になったとか話すと親父さんは嬉しそうだった
佐藤の方も一緒で良かったと、学校とは全く違う明るさで、ああ、やっぱAグループはキツイんだなぁと軽く考えていた
食事も終わり、俺は佐藤の部屋でちょっと寛ぐ感じで、遅くならないようにとは言われたが歯を磨いて部屋から戻ってきた途端キスしてくる佐藤と一緒にいたいってのはあるもので
エッチは流石にしなかったものの、それなりにいちゃついてたかもしれない
んで、今日はなんか別人みたいだったなぁみたいなことを言うと、別人にならないと耐えられないからと。変なことを言われたと思う
その時は無視ぐらいで・・・なんて思ってたが、経験してみないとコレはわからないんじゃないだろうか?事実、俺もされることになるがそれも先の話だ

 

そして、始業式が明けて、初の授業が始まるのだが、隣の席に佐藤の姿はなかった
これはどうなってんだろうなぁ・・・とか思いながら授業を受けることになるが、先生の方も何も言ってこないし、今日は風邪でお休みですとか、そんなのもない
当たり前の状況というか変な気分だった。友達もあいつまた休み始めたなぁとか。逆に良かったなぁとか言ってくるのも居て、内心複雑だったが、うまく躱すのに必死だった
で、昨日のこともあってか、男連中とは約束をせずに、佐藤の家に電話する
「お前何で来ないんだよ」
「うん・・・」
「いや、うんじゃなくてだな・・・」
「ウチには来る?来てくれる?」
「ああ、うん、今から行くから」
というと、口調は変わって明るくなる
この時は好きだったし、一緒にいたいというのも間違いなかったし・・・いや、今でも好きなんだろう
家に着くと母親が迎え入れてくれて、そのまま勝手に上がるようになっていた
後から一緒に降りてらっしゃいということで、終始笑顔だった
んで、ベッドの上に座ると一緒に座り思いっきり引っ付いてくる佐藤は嬉しそうで、俺も嬉しくて。小学生とは思えない付き合い方だったと思う
下の名前で呼び合うというのは未だに恥ずかしく、がんばろうねっ。なんて言われて、どう頑張れば良いんだと・・・
でも、一度言い始めるとすんなり受け入れられる物で、違和感は一日二日もすれば無くなった

俺は元々名字の呼び捨てだったし、めぐみって名前も抵抗なく言えた
ドキュンネームじゃないってのはありがたいよな
「あ、あつや?」
「な、なに?」
もうソレだけでパニック状態というアホな子だった
名前で呼び合うだけで新鮮で、また異常にテンション上がっていた気もする
そろそろ夕飯だなぁってことで帰ろうかな?なんて思ってたら部屋の電話が鳴る。内線で愛が取ると
「ご飯食べて帰るでしょ?」
強制らしい。が、一応悪いからなぁなんていうと、ちょっとまってね。といって、母親に何か言ってた

 

しばらくするとまた内線が架かってきて
「孝也のお母さんに電話したから大丈夫!」
と、まあ嬉しそうに言ってきた
俺はというと、こっちの夕飯のが豪華だし!なんて思ったりで
「ごはんできるまで・・・何する?」
と、ワザとくっついてくるのにも、喜ぶ馬鹿だった
そんな関係を知ってか知らずか相変わらず優しくしてくれるおばさんと一緒に飯を食うのは不思議なもんで、慣れすぎたのもアレかな・・・
帰った後で親父さんから電話があり、またありがとう的なことを言われ、電話を切られる
俺が居ない佐藤家というのはなにかが違うんじゃないかなと疑問に思い始める頃、隣の空席にも慣れた九月中旬に事件が起こった
5年2組の虐められ筆頭候補の倉田が事故で入院したということだった

終わりの会が始まろうとしたが、教壇に立っているのは校長と教頭だった
なぜか全員机に突っ伏すように促され、そのまま話を聞かされた
話してる内容は覚えてはいないが、倉田の事件に関わった人は見えないように手を挙げなさいとかなんとかで・・・
そんなもん誰も上げるわけ無いだろうと思いつつ聞き流していた
んで、全員に作文用紙みたいなのを配られて、知ってるコト、また最近どんなことがあったのか書いて持ってこいと言うようなことだった
担任の先生はというと、終始下を向いたままで、何とも疲れ切った顔をしてたのを覚えている
校長と教頭と共に先生も出て行くと、俺達は作文用紙を紙飛行機にしてイロイロ話した
やったのはあいつ等かその上の人等じゃないか?とか、当然のような憶測が飛び交うが、所詮頭の悪い俺達のグループだ
結局飛ばし合いして帰っただけで終わった

 

実際には女子連中が呼び出されてなんか一悶着あったらしいが、俺自身が関わっていないということで心底一安心してた
そんな事件があったということを俺は愛にも話した。学校であったこととかが唯一の話題で、またあいつにとっても楽しみだったらしい
「うん。だから関わっちゃダメなんだよ。孝也がそういう目にあったらたぶん私・・・」
とか、なんとか言ってくれて、大丈夫大丈夫。なんて軽く返事していた
女子から虐められても男子から虐められなければなんて事は無い。それが俺にとっての認識だった
で、そんな話をどこからか聞きつけていた愛の親は、俺にもイロイロと聞いてきたりと大変だったが、俺が全く関わってないということに安心しているようだった
ただ、誰が主犯なのかということと、5年2組に存在する女子全員が目の敵にされているんじゃないだろうかと思わせるほど怒っていた。
目の前で本気で怒る大人というものを見るとビビるもので・・・うちの親父も怒ったらこんなだったかな?とか思い返すが、いつも帰ってくるのは十二時前後だったので会話がない
まあ、ウチの親父はどうでもいい。
「本気で心配してくれてるんだなぁ・・・お前の親父」
なんていうと、黙り込む愛だった
実際言われるまでは親父さんは良い人と思っていたのだが、愛からするとそうではなく、
「あの人のせいで友達が居なくなった」
と、俺に抱きついて泣き出した

えーっと・・・あ、そう言えば・・・と、親父さんが家に来た時に女子全員の家に行ったとかなんとかって話を聞いたのを思い出した
ただ、愛が言うには家に行ったというより怒鳴り込みに行ったということだ。しかも全部の家にだ
度胸があると言えばそうなんだが、異常といえば異常だ・・・実際に見たわけじゃないから不思議だった
俺には優しいおっさんというかそんなんで、暴力的な人には見えず、ちゃんとした会社に就職もしてるとかうちの親も言ってたしヤクザ系じゃないってのは随分前に知っていたことだ
ただ、娘のことになると周りが見えなくなるんじゃないかな?と、少ししてから自分の親から聞いた
何でそんな事知ってんだろ?なんて思ってたが、うちの親と愛の母親はわりと連絡を取り合ってたらしい
ただし、小遣いの件は黙っててくれたようだった

季節は変わり初めの十月初旬。全く学校に来ない愛との相席は終わりを告げて、今度はまたやっかいなAグループ番長クラスの女が隣になった
正直苦手なこの女は、顔で言えば二番手だが性格が異常に怖いっつーか恐らくは倉田を入院に追いやった人物・・・というのが俺の印象にあった
愛の席はというと、教室の一番後ろの窓際で、倉田の席と並んで隅に追いやられていた
隣に悠々と座る女は、先月倉田の隣りだったわけで・・・
「水谷よろしくー」
「おう。村上も前と後ろが仲良い奴でよかったなぁ」
「やっと普通にくじ運回ってきた感じ~」
とか、気楽な感じだった。なんだ。意外と普通だったんだな・・・
低学年時代ではクラスも一緒になった事は一度もなく、それは愛も同じことだった
仲が良い女子といえば別のクラスに行ってしまい、少々寂しさもあったもんだが、高学年からの大人への交友関係ってのはこの時代から成り立つ物じゃないだろうか?
クラスが別れると本当に疎遠になるし、幼なじみであるはずの男子二名とも全く遊ばないようになる

俺も前後ろに座るクラスメイトはパンツ戦隊隊員4号5号で俺が3号だ・・・何で番号なんだと言いたいが、勝手に番号化されていたのでそのまま流用する
4号と5号、そして6号は仲が良く、俺もコッチと良く連んでいた。1号2号は悪ふざけ筆頭でクラスのボス的存在。いや実際にボスだったのは女子の村上ともう一人なんだが
そこは突っ込まずに居よう
んで村上という女はとにかくその他クラスの女子には酷かった
パシリは当然カツアゲみたいなことも平気でするし、忘れ物があればそいつ等から拝借する
隣で見てるとこんなヤツがモテるなんてアレだよなぁとか思ってた。口には出さないが嫌な女だった
でも顔がいいってのは本当に得なもんで、周りの女子もチヤホヤとする。怖いからなんだろうけど
俺はというと、そんな村上にも別に普通にしているつもりだった。そしてなるべく関わりたく無いとも思っていた
愛の家に行くと、そんな俺に同情してか、学校行けなくてごめんなさいだとか、暗い話になるのがなんか欝だった
別にお前のせいじゃないし・・・なんていうと気持ち悪いことを言いやがった
「何時も席替えは私の思い通りになるの」
確かこんな事だった。いや冗談だろ?と、半ば半笑いだった・・・でも、思い当たる節はあった

ただ、他の席にまで目を配った覚えはないが、高橋と倉田の隣りに座らされていたのは全部Aグループの女子だったのを思い出す
で、村上は倉田と高橋を交互にという記憶が何となくあった
んで少し怖くなったものの、超能力かなんかか?とか思って半信半疑で聞いたところ、帰ってきたのは更に斜め上を行く物だった
「魔法なの。悪魔と契約した魔法なの」
この時点でコイツは頭がおかしくなったのかなと思った
「いや、そういうのキモイって・・・」
というと、凄い勢いでごめんなさい!とか、もう言わないから!とか言われて、その後はそんな話をしなくなった
ただ、こういう事言われると気持ち悪いなということも本気で思った。なにしろ実際思い返すと、席替えのパートナーって結構おかしな状態だった気がした
しかし、席替えの記録とかあるはずもなく、記憶を頼りに思い返すことぐらいで・・・愛の家からの帰りは本当に妙な寒気がした

十月は特に何事もなく、十一月は村上とおさらばし、平穏無事な二月目となった
愛は相変わらず来なかった
俺がこの5年2組の席替えをかなり正確に覚えているのは結構すごいことなんじゃないかと書いてる最中に思ってしまう
六年生の頃とか中学高校に至るまで、ほぼ全て吹っ飛んでる。記憶に残りすぎているという感じで、何しろ愛という存在が居たからだし、毎日話しに行ってたからだろう
今はもう更地で、十数年前とは随分景色も違い。学校は新しく建て替えられているし、あんまりいい街でもないなぁとか思ってしまう
それでも何処かの遠い場所ってのには行きたいとかも思わないし、このままダラダラ過ごしていくだけだろうと思ってる
話を戻そう。この村上の後の隣の席に座った相手がどうにも思い出せない。でもそんなに嫌いな奴でもなかったのは確かだ
ただ、卒業アルバムにそいつの姿はない。十一月の席替え直後に転校することになったからだ
前々から話は聞いていた物で、別に驚くほどのことでもなく、愛の言った気持ち悪い魔法だとかのせいじゃないのは明らかだと思ってた

お別れ会っぽいものをして元気でな~みたいな心にもないことを寄せ書きに書いた。そう愛に言うと怒られたが、まあ気持ちがこもってなかったのは確かだった
そいつが転校してから俺の横ってのはいつもの状態といっても過言ではなかった
「なんかお前の横って何時も誰も居ないよなぁ」
そうまともに言われると気味が悪かったが、実際俺もそう思ってた
でも愛じゃないから今回は偶然だし、愛からもそんな変な話は全く無かった。というか魔法がどうのってのはアレ以来なくなっていたからだ
先生の方は相変わらずな感じだが、一学期の初めの頃とは随分違った態度だった。正直、余り熱心ではない印象だった
ビンタもなくなったし、蹴りもなくなった。そして俺の電話にたまに出るのだが、元気が無さそうだった
責任とか取らされるのかなぁ?とかガキのクセに妙な心配もした。ただ、愛に関しては安心してるとか何とか言われて、それは喧嘩でもしない限り大丈夫だろうと俺も思ってた

十一月最終日に席替えは行われた。一つの席が無くなり、空席が教室の隅に二つあり、男子は一名余ることになる
つまり、一人だけパートナー無しということだ・・・ってか俺だった
男子連中からは羨ましがられると同時に、お前呪われてるんじゃね?なんて言われて焦ったり、女子からも気味悪がられだしたものの意外な人物が庇ってくれた
危険人物村上だ。じゃあ私も呪われてんのか!とか言って一気に沈静化した。ああ、実は良い奴?とか思ったし、後から災難だったなぁ水谷っ!とか軽く叩かれた
考えてみれば愛と他に一緒になったのって転校した奴と村上と・・・後一人誰だっけ?この時には二ヶ月目の席が誰だったのか思い出してたはずなんだが、今は忘れた
んでも、学校の中ではそこそこ付き合いのある男子も、外では全く遊ばなくなった。愛の家に行くのは日課で、日曜日も親とどっか行く以外はほぼ一緒だった
でも全く嫌じゃないわけで、またそれはそれで俺にとっては普通になりつつあった
十二月ってことで寒さも強烈で、チャリで行き来するのが正直辛かった
愛の部屋には炬燵があって、暖房っつーか温風器?蒸気も出るような電気式のが置いてあり・・・
「居心地良すぎる・・・泊まりたい・・・」
学校の宿題をやりつつそんなことばかりボヤいていた
俺の母親からもお菓子を手土産に持っていくように言われたりと、なんだか親公認のお付き合いのような物になりつつあった
兄貴の方は兄貴の方で彼女が出来たらしく、自慢されたりしたが、はいはいワロスワロスという感じであしらったら写真まで見せつけてきて心底嬉しそうだった
俺も写真ならかなりあるんだが・・・愛と写ってる写真はお祭りの時以外は全て部屋の中だった

改めて考えてみるとデートらしいデートという物は全く無く、連れて行ってやるべきなのかどうかわからず、まあ普通に聞いたら、外は嫌だという
完全引きこもり型になっていた。でも映画ぐらいは体験しとこうぜ?みたいなことも思ったんだが、近場でそんなところはなく、冬の糞寒い時期に今更感は否めなかった
しかしクリスマスってものがあって、愛の親父さんとおばさんもよかったらウチで過ごさないかと言われ、俺は全然オッケーだったので快く返事した
ついでに愛が喜びそうな物でも買ってやろうとも考えていた。少女漫画の影響力というのは強い物で、読んでいてよかったなと思ったりした
たぶん読んでなかったらそんな事は一切考えていなかっただろう
大体初めて女の子にプレゼントとか考えたわけで、ああ、丁度良い相談相手が居たなと、兄貴に聞いた
兄貴の方はと言うと浮かれつつもネックレスを買うのだとかと調子よく自慢していた
あ、じゃあ俺もそうしようと言ったところで何処で買うんだ?って話になって
高校生だった兄貴と一緒に近所のデパートに向かった
デパートが目的じゃなくて、当時は結構居たパチ物外人露天商で買うことにした。安いから
シルバーアクセサリーだと言い張る外人とのやりとりは笑えるもので、兄貴は兄貴で値切るのを面白がって喋りまくっていた

俺はこう言う物はサッパリだったが、選ぶなら銀色でかわいい系のがいいはずだと言い切る兄貴を信じた・・・何時もパシらされていたがたぶん騙されたことはないと思っていたから
選んだのは細いチェーンタイプで黒い革紐のチョーカータイプのも選んだ。二つ買えばどっちか気に入った方付けるだろうという考えだった
ぶら下がってるアクセは取り外しも効くようで、三つぐらい選んで好きなの付けてくれ~みたいなのにした
形はハートに星形に十字架だったかそんなだと思う。値段は確か五千円くらいで、兄貴も同じ値段だったと思う。ついでに財布まで買ってたけど
近くの100均に入れ物というか梱包みたいなのを選んで家で工作状態だった
100均でもアクセサリーっぽいのはぶら下がっていたが、パチモン露天商の方がよっぽど本物らしく見えたし、結構いいんじゃないかとも思ってた
で、二学期終業式にも愛は学校に来なかった

学校ではクリスマス会なるものがあり、終業式前にみんなでプレゼント交換というものがあった。手作りでなんか作って持ってこいとかで、俺は100均で余った梱包を利用し
中身も100均で適当にアクセサリー類の入った物を入れるだけという粗末な物で終わらせた
男子は女子の物を受け取る。んで女子は男子の物を受け取るイベントで、あれは誰のものだとか、あいつはアレだとかコソコソ教え合ったりと・・・
楽しいんだか楽しくないんだか妙な気分だった。本命に本命を渡せればそれで良いし。なんて冷めた目で見てた
俺のプレゼントという物はショボイにも拘わらずCグループの子がくじで引き当て、適当に詰めたアクセサリーで喜んでいた記憶がある
確かそんなどうでも良い思い出だ。ただ、愛に来て欲しかったなぁなんて家に行ってから言ったが、両手を出されて「私には?」と聞かれ「無い」と答えると泣き真似をされた
後でちゃんとフォローを入れておいたのは言うまでもないが、この日はこの日でクリスマス会らしくと二人で何かやったような気がする
イブ当日にはなんだか妙に着飾った愛が居て、糞寒い道のりから暖かい炬燵に潜り込んでとりあえず休んだ
んで、何時ものようにベタベタ引っ付くと愛の母親から電話で呼ばれるまでの間、まあイロイロとしてた
んでもって今日は泊まっていく事にもなっていて、まず喜んだのが俺だった。帰りが糞寒い!でも帰らなくていい!それが一番だった
ついでに親父さんは俺と風呂に入りたがったが、お断りした。普通入りませんというと、お父さんと入ったことは?と聞かれ、ないと答えた
ってか入りたがらないだろ
で、愛と入りたいかと聞かれ。それも嫌だと答えるとつまらなそうにしていたが、流石に言えないもんだった
風呂から上がってクリスマスの食事というのは変な感じだったが、サッパリスッキリで意外といいもんだと思った

愛は俺が来るまでに入っていたのでそのまま母親と準備してたみたいだった。十二時近くに飯という不思議な経験をさせて貰った
んで何がお祝いなのか未だに考えさせられるクリスマスではあるものの、写真を撮ったりテレビ見て笑ったりと、家以外で味わうクリスマスにかなり戸惑った
飯も終わって俺は何処で寝かされるのだろうと思ったが、どうやら愛と一緒の部屋らしかった。いいのかそれ?と今なら思うが・・・
当時の親父さんも母親も全然気にしてなかったらしい。というか、そんな事してようとしてまいと一緒に居てやって欲しいみたいな感じだった
小学生ならまだアリなのかな?と思いつつも、愛は本当に嬉しそうで、ベッドの下に敷かれた布団の上であぐらを掻くと何か緊張するなぁみたいな話で
「今更言われると恥ずかしいんですけど~」
とかそんな感じだった。んで、兄貴のお下がりのハーフコートからプレゼントと言って渡すとかなり喜んでくれた
好きな子に初めて選んで初めてプレゼントするんだ的なこと言うと更に喜んでくれたもんで
愛の方はというと俺にGショックみたいな腕時計と革っぽい手袋をくれた
なんかお互いに恥ずかしさもあり嬉しさもあり、かなり喋って・・・やって寝た

明日は冬休みの宿題を持ってくるということで家に帰ったのは夕方飯時前だった
お帰りと言われつつ、親父からなんかもらったらしい母親は変に浮かれてた・・・そんなモン自慢すんなと思いつつ、二階の部屋に荷物を置く
兄貴がどうだった?とか五月蠅かったが、渡せたし喜んでたよなんて言って、殴られた
その後のことを聞きたかったらしかったが、からかわれるのが分かってたし、なんか豪華な飯で凄かった。それだけ。というと、お子様だなとかイロイロ言われ続けることになった
じゃあ兄貴はなにしたんだ?というと、キスして舌まで入れたと・・・そこで終わりらしかった
お互い頑張ろう的なそんな悲しい会話だったんじゃないだろうか?今だからそう思えるのかもしれないが
年末年始は何してたかというと今まで通りという感じで、愛には一月一日に電話で挨拶をしあってその日は寝た。明けて初詣は親と行く事になり、愛とは二日目に行った
二回も行くモンじゃないよなぁとか言いつつ、以前来たことのある割とでかい神社で参拝する
終わった後に写真撮ったり親父さんとまた出店合戦したりと、なんとなくこのまま来年も一緒に居て、このままずっと居るんじゃないかな?なんてことを思わせてくれた
そんな話を愛にすると、私もそう思うとかなんとかで・・・ガキなりの恋愛観でもあったのだが、明らかに高校生レベルを超えた会話だったと今は思う
で、何をお願いしたとかで帰りの車で話したりしたが、俺の家に着くまで愛は言わなかった
俺の方はお願いと言うより願望で、今年も愛と一緒に過ごせますようにとかなんとか言った
ただ、愛の方は、俺と結婚出来ますようにと偉い先の話だなぁとかで、俺も笑ってそっちのがよかったなと言うと車の前でキスされて逃げられた
親父さんもおばさんも見てたが、怒った感じはなく、恥ずかしさが上回る俺は車を見送らずにすぐさま家に入った
んで、結婚ねぇとかぼんやり思っていたが、正直嫌じゃなかった

冬休み中も先生から電話があったりして、何時も通りですなんて話してたが、流石に先生も俺と愛のことは知っているらしく
キス以上はダメとか結構言われてた。遅いっつーの・・・なんて思いつつも躱し方は随分上手くなっていたんじゃないだろうか?
誰にも言わずに長い事付き合えたのは、愛が学校に来なかったからでもあった
三学期が始まる始業式に愛は来た。でも以前感じた異質な方の愛で・・・席に着くと隅に追いやられていた机は自然と俺の横に付けられた
まあ先生の指示で、空いてるんだから俺の隣りってのは自然な流れでもあったはずだった
でも、横に座る愛は妙な感じで、何時も通りと言えば変なんだが俯いて暗い雰囲気を纏っていた
校長の話も終わり、再び教室に戻り恒例の席替えイベントで頭を抱えることになる
俺の隣は愛だった
流石にこの時は寒気もしたし気持ち悪かった上に、こいつが怖いと思った。存在も雰囲気もだ
しかし、ざわつくもののもう一回席替えということは無く、終わりの会が終わると愛はさっさと帰ろうとしていた
俺もとりあえず帰りたかったのだが、先生に呼ばれてそのまま教壇横の先生の事務机の前に移動した

その間に愛は帰ってしまったらしく、教室に姿はなかった
居残るクラスメイトの数人が俺の側に寄ってきて、何か気持ち悪くない?とか、あいつ変だよな?とかそんな会話が先生の前で繰り広げられた
俺もたぶん変な顔してたと思うし、気味が悪かった
とりあえずみんなちゃんとクジは引いたわけで、俺と愛は最後列で、のこった紙切れは1個だったのは間違いなく、俺達が選んだわけじゃないことも明らかだった
「水谷は気持ち悪くない?」
なんて女子連中から言われると言い返せなかったし、そのまま黙ってた。すると
「ああ、やっぱきもいよね。ごめんごめん」
とかイロイロ言われたと思うが、教室に人が居なくなるまでそんな事ばかり言われてボーッとしてたと思う
そりゃ先生の前でクラスの奴らが堂々と愛の悪口を言うもんだから俺だって気分は悪い。でもフォローしてくれる奴は誰一人としてない
俺も先生も含めて、本当に変な気持ちで垂れ流される「気持ち悪い」という単語を聞いてただけだった
愛が変なヤツということになりつつある状況でどうすればいいんだろう?そう先生に尋ねた後、先生は溜息を吐いた後喋り始めた
愛の家には毎週行っているということ。電話をしても母親がぶち切れていて相手にしてもらえない
父親が出るとこれも同様に恐ろしく、最近は電話も控えようと思い始めてること、とにかく先生の視点の話からは俺の知っている佐藤家の姿は何処にもなかった

その日はなんだか愛の家に行くのは躊躇した
先生の話を聞かなければ、まだ普通に付き合えたんだろうけど
精神的に幼かったのは間違いなかったし、当時の俺の周りでまともに相談出来そうな友達は居なかった
そんな悩みとか言い合って励まし合うとかは無かった
親が言う佐藤家は特に変なワケじゃない。電話も掛かってくるし、母親同士は割と楽しそうに喋ってるし・・・
で、とりあえず愛の家には行く事にした。かなりの違和感を持って
何時ものように母親の方が優しく迎え入れてくれると、本当に不思議で
二階に上がる前に聞いてみた
「おばさんってウチのクラスの先生のこと嫌いだったり?」
そんな事を軽く聞いた

「そんなことはないんだけど、お父さんが嫌いだから悪いけど追い返すしかないのよね」
なんてことを溜息混じりというかそんな感じで言われた
まあ、嫌われてるのは大体わかってたけど・・・この家から見る先生の姿ってのも何処か歪んでる気がしたし、先生から見る佐藤家も変だった
何処かが変で、何かが噛み合わないと、今なら表現出来るんだが、当時の俺はなんか気持ち悪い。そう思うことしかできなかった
愛の部屋へ行くと、やっぱり変で、学校に来る雰囲気と全く違う
何時も通り引っ付いてくるけど、普通にするのも苦労する
「なんか今日変だよ?」
ソックリそのまま台詞をお返ししたかった
「いや、お前の方が変だろ?その・・・家にいる時と全然違うぞ?」
もっと酷く、もっと柔らかく言ったかもしれないけど、手は繋いでたし離れようともしなかった
「学校行くとね、どうしていいかわからなくなって・・・」
そんな感じの返事だったと思う
「孝也は私に学校行って欲しい?」
この返事に俺は随分迷ったと思う。来て欲しいけど俺が来て欲しいのは普通の愛でアレじゃない
あんな状態で教室にいられたら気持ち悪いというか不気味だ。しかも付き合ってるとなるのがバレでもしたら終わりだろう
いや、付き合ってたというだけでもおかしな話になる。
で、なるべく愛を傷つけないような、そんな言葉を選んで学校には来ない方が良いんじゃないか?みたいなことを言った

教室で淡々と授業を進める先生も、休み時間で周りがどれだけ騒がしくとも、俺が机に突っ伏して過ごすだけの三学期が始まった
空いてる席はまた一ヶ月空きっぱなしなんだろうと考えつつ
昨日は愛にいろいろ酷いこと言ったんじゃないかとか考えたり、時間は無駄に潰せるなぁとか思ったり
休み時間も給食も誰一人として話しかけてこなくなるのに時間は掛からなかった
ああ、これが無視か。と思うと同時にゲーム話で盛り上がってたはずの連中も逃げるし
「向こういけよ」とか短い単語で終わらされるのは半泣きになりそうで、いや、家帰ってから泣いたと思う。
で、愛の家には行かなくなっていた。ただ、電話はしてたけど、本気で何喋ってたかも覚えていない
そういうのになれる頃、先生の方は知ってか知らずか電話が掛かってくる
ってか、この先生も元気だそうとかそういうことを言ってくるわけでもなく、学校でシカト喰らってる俺を心配するわけでもなく
何喋ってたのかは忘れたが、頭に残らないようなしょうもないことだったと思う。ただ電話が掛かって来ていたという事実だけが残ってる

二月の席替えが終わり、後側の席で隣はその他クラスの誰だったかな?
学校には行きたくないし、ああ、こんな気分だったから、あいつはああなったのかぁとか、よく考えてたと思う
ただ、暴力的な虐めってのは既に無くなっていたが・・・その他クラスの女にもシカトされるという・・・いや気持ち悪がられてたのかな?
ああ、このクラスのやつ全員死ねばいいのに。って素で思ってた時期だった
帰りに蹴りでも飛んでくればまだ笑えたのかもしれない
何もないってのがこんなに苦痛なのかと。そして不安定にさせてくれる最高の虐めだなと思った

いつ殴られてもおかしくないだとか、考えるようになる。精神的に不安定になるし被害妄想とか異常に湧いてくる
ただ、当時の俺はそんな難しいことを思っていたんじゃなくて、学校休みたいと親に言うしかなかった
親の方はというと真剣に考えはするものの男ならどうのこうのって言うタイプだったが、そのうち休んでも良いと言うようになった
先生とも電話してたらしく、この辺はあんまり覚えていない
そして、一度休み出すと学校へ行くということが本当に辛い物になっていく
一週間ほど休んで行った学校はもう別世界だった。学校の授業ってそんな大した物でもないはずなのにもうついて行けなくなってた
たった一日居続ける事が苦痛でしかなくなっていた
走って帰るとただ寝るだけで、テレビを見つめる生活になるのに慣れる頃、愛にも電話しなくなってた
架かってきても受け取らず、ただ寝転んでダラダラ過ごしてた。兄貴が部屋に来ると居づらくて応接間の方でボーッとする時間が増えた
愛からの電話が鬱陶しい物から徐々に怒りすら湧いてくるようになり
電話の線を抜いたりしていたのを覚えてる

□ □ □

俺が学校に行くようになったのは6年の新学期からだ
同じクラスメイトで同じ先生で、5年2組はそのまま6年2組になった
始業式から帰ってくると新しいとは言えないが、机にあいうえお順で座る
空いてる席は一つもなく。俺は相変わらずのシカトをされるんだろうなと思ってたが、そうでもなかった
ポンと肩を叩いて行く奴だとか、悪かったなぁとかボソっと言われて、それだけで。たったそれだけで泣いたと思う
同情されてるというのもわかってたけど、心から何か安堵感というか、他人の言葉を久しぶりに聞いた気がした
教室で泣くという気持ちが悪い行動。ボロボロ出てくる涙も声も全部が気持ち悪くて、恥ずかしくて、情けなくて・・・最低な一日だったと思う
ただ、このクラスの連中と仲良く喋るというのはもう俺にはなかったし、先生も授業以外は何も言わなくなった
笑顔のないクラスという感じで、他のクラスが羨ましく見えて、幼なじみ連中と帰る方が何倍も楽しかった
いや、無理矢理楽しく頑張ってたのかもしれない
春休みの葬式以来、俺は楽しい学校とかそんなのがどうでもよくなって、仲が良かったはずの友達とも疎遠になっていく事を望んだ

死因は自殺
詳しい状況は葬式前にいろいろ聞かされたし、親父さんが俺に泣きつくと同時に俺にも結構きついこと言ってきてたと思う
ただ、周りに大人も居て親父さんを必死に押さえ込んでたのを見てたと思う。泣き崩れる親父さんやおばさん。もう何の表情もない先生
クラスメイトは誰も病院へは来なかった
で、俺はシカトされ続けた一ヶ月に味わった以上の喪失感とどうしてこんなトコに連れてこられたんだろうという考えと
悲しいようなそうでもないような・・・いや、悲しいフリをしなくてはいけないんだ。と思ってたはずだ

大量に薬を飲んでいたこと。睡眠薬か頭痛薬だったか忘れたが、二箱以上飲んだ後、ビニールの縄跳びで首をくくっていたらしい
どういう現場だったのかは当時の俺はそこまで聞いてなかったはずで、ベッドの上にあった大量の俺との写真と大事そうにチョコレートを抱えて死んでいたそうだ
首にはビニール紐の跡が残ってたらしいが、俺の渡したネックレスもチョーカーもしていたそうだ。
ただ、その時も、葬式も、灰になる直前も、顔を見せて貰えなかったし、見る気もなかった。
親父さんの「どうして家に来てくれなかったんだ!」って叫ぶような罵倒というかそんなんでビビリ上がった後のことは、泣くとかそんなんじゃなくて
ただ座ってしゃがみ込んで目を閉じてた。涙はでなかった。もの凄く悲しいはずなのに

三月下旬に集まったのは5年生全員で
公園前にある葬式会場は黒かった。天気は雨じゃなかったことぐらいで、集まってる連中とも喋った記憶はない
ただ、あいつと俺が仲が良く、付き合っていたというのは知れ渡っていた後だった。
もう恥ずかしいとかじゃなくて、お前等も死ねば?と素で考えていた
淡々と進行する葬式はこれが初めてで、順番に回ってくる焼香もどうすればいいのか分からない
真似して拝む・・・拝んで良いのか?俺が
確かそんな感じで、愛のおばさんとウチの母親が俺を挟んで座ってて、終始無言だった
親父さんの方はなんだか忙しそうで、でも大人は人数が少ないなぁとも思ってた
集まった5年生の親が来ていたのはウチとほんの少しだった記憶だ
で、俺が渡したのはチョコレートとお菓子。ついでになんかイロイロ入れた鞄を一緒に燃やして貰ったという記憶で終わってる
後は抜け殻みたいな生活で、親ともまともに会話しなかった
ゲームして、寝て、起きての繰り返しが始まって
明けて四月の始業式まで何してたのか何がしたかったのかサッパリだ

席替えが終わると目の前は高橋で、横は誰だったか忘れた
確か前から二番目の席で端側で左は窓だった
六年生の教室は講堂の上にあって、他の校舎とは一風変わった感じで、横にある窓からは校庭が見渡せた
休み時間に全く外に出なくなった俺は、目の前の席に同じように座る高橋の背中を覚えてる
何となく自分と重ねてたかもしれない。ただ、こいつの場合は暴力も酷かった
でもそれは5年生の時の話で、6年で蹴られてたとかは無くなっていた
ぼーっとしてると高橋が振り向いて大丈夫か?とか声かけてきてくれて、またそれでボロボロ涙が出てきてビックリした
声はそれほど出なかったと思うが、6年の一学期は本当に暗いクラスだった
夏休みになっても楽しい事なんて何もなく、ウチの家も旅行とか行こうなんて誰も言わなくて、親父も仕事が忙しく、今年から家族旅行という行事はなくなった
クーラーの効いた部屋でゴロゴロして、新しくなった電話からかかってくるのは兄貴の友達とか彼女で
それでも電話の音が聞こえるとビクつく俺で・・・二学期が始まるまで外に出た記憶はあんまり無い

卒業式で普通の日で、普通に終わった
居るはずのない倉田と佐藤の名前も読み上げられた。気まずい空気がそこにはあって
それは卒業式の練習みたいな時にもあった
卒業アルバムを受け取って、みんながいろいろ書き合ってたりするが、俺はそのまま帰った
真っ白な最後のページに先生が一言書いていくということで並んでたりしたんだが、俺は並ばずに帰った
最後のページが真っ白な卒業アルバムに愛の姿は一枚もなく、また俺も集合写真以外は写っていない
これが小学校卒業式の思い出で、先生も俺と一緒に学校を卒業した。あの先生は今ではどうしてるのか全く知らないし、責任を取って辞めたのだと言うことくらいだった
中学にあがってまた知らない連中が一気に増えて、元6年2組の連中で一緒のクラスになれたのは十人くらいだったと思う
んで、高橋も居て、なんとなく一緒に居て、なんとなく飯喰ったり。楽しい話題ってのもあんまりなかったが、俺達に近づいてくる連中は居なかった
「虐められるんじゃないかと思ってた」
「もうないんじゃないかなぁ・・・お前のが身体でかいし」
そんなやりとり。クラスの中で虐められていたのは高橋より酷い全身アトピーの奴だった
「かわいそうだねぇ」
「助けなくていい。ただ、俺に回ってきたらお前も助けなくていいよ」
本当にそう言った。ただ、俺も身体の方は周りよか良い感じで、背も割と高かったと思う
そのおかげかどうかはわからないが、これ以降虐めを受けた覚えはない。いや、俺の場合は虐めとかじゃなくてただのシカトだったと思う
本当に酷い目には遭わされたことがないからだ

2年か3年だか忘れたが、久しぶりに遠出というかそんなんで、何か買いに行った帰りだ
見覚えのある道は真っ直ぐ行けばあの家で、葬式以来墓にも行ってない。というか墓の場所すら知らない
聞いたのは確かだし、行こうと思えば何時だっていける。ただどんな顔していけばいいのかわからなくて、そのままズルズルといった感じだ
もうすぐだなぁと思ったあと、何もない空き地が見え始める
無かった。部屋があったはずの空間を眺めて、なんとなくチャリを漕ぎだして・・・初めて缶コーヒーを買って戻ってきた
空き地のフェンスを上って、確か此処が玄関で・・・
二階に上がるとこの辺で・・・そしてここが部屋で・・・
見上げたけど何もなく、缶コーヒー二本の蓋を開けて一本はドバドバと地面に流した
中学生のクセに煙草吸いながら空き地でコーヒー飲んでたのを誰かが見ていたらしく、後日先生に呼び出されるが何とも思わなかった
何がしたかったのか良くわからなくて、あの時以降よく吸うようになってた
学校の勉強もアホらしいというかそんなんで、宿題も適当、勉強も適当。偏差値なんか40前後だったんじゃないだろうか?
通知表もオール2というダメっぷりで、1年から3年まで全て同じという偉業を達成する
親はなにも言わなかった

中学の林間学校も修学旅行も行ったけど、一緒に居たのは高橋ぐらいで、後は覚えていない
俺らってなんか楽しくないよなぁとかそんな事を言い合うくらいだった。
高校に入ると更につまらなく、ああ勉強してれば良かったなと、見た目がおかしい学生服にも見慣れる頃に電話が鳴る
「久しぶりだね・・・」
親父さんだった。なんかいろいろ話して会えないかなぁみたいな話になって
家まで車で来てくれた。見慣れた車ではなくて、ワンボックスカーみたいなのに変わってた
適当に話ながらでかい神社に来ると懐かしい感じがして変な気持ちになった
お祭りの時と年明けの初詣。この二回だけの思い出だけでずいぶん話したと思う
缶コーヒー飲みながら、悪いけど煙草も吸った
親父さんは怒るどころか一緒に吸ってて、早死にするぞ。とか何とか言われたが、ソレはそれでいいかなぁとか普通に言った
返事は無かった

高校時代に付き合ったのは二人ほどいたが、半年ずつで別れた
友達らしい友達も作らなかったし、電車で通学というのも苦痛で何してんだろうなぁとか思ってた
部活にも入らず、夢とかなくて、自殺できれば良いんだろうけど。と何時も考えていた
ただ、痛いのが怖くて、死ぬことも怖いのに、楽に死にたいなと思っていた事は確かだった。ついでに今もそうかもしれない
大学へ行くつもりもなく、卒業式も一人で帰った。楽しい思い出がない学生生活をやっと終えた気がした
働き出したのは喫茶店で、2年働いて調理師免許の試験を受けて通った。ぶっちゃけ一夜漬けで通ったようなもんで
勉強らしい勉強は調理師免許の試験を専属で扱ってる講習会でもらった教科書と問題集をざーっとやった程度で受かった
で、賞状のような免許証を受け取ったものの、店を持ちたいだとか思わずにその喫茶店を辞めた後しばらくパチンコで遊んでいた

成人式で電話が掛かってきたのは昼頃で、愛の親父さんだった
成人式ぐらい出たらどうだ?とか言われたが、一人で成人しても意味無いですよねぇみたいな感じで暗い感じだった
渡されたのは結構良い腕時計で、おめでとうなんて言われて向かったのは愛のお墓だった
花とか添えて、線香も上げて・・・親父さんが少し二人っきりで頼むとか何とか言われて・・・
缶コーヒー開けて煙草吸いながらダラダラと気持ちの悪い独り言を並べた気がする
親父さんは車でずっと寝ていたらしく、窓を叩くと驚いていたようだった
随分時間が経ってた。俺も何かずっとあそこにいても良いんじゃないだろうかとか・・・そんな風なことを思ってた
おばさんにも久しぶりにあって、住んでるマンションは愛の家から結構離れた場所で、此処ならお墓が近いのかな?というような場所だった
食事が並べられて、俺の横にも並べられて・・・四人分の皿がテーブルの上にあって、おばさんが泣き出して・・・心底不味い食事だった
親父さんも泣いていて、俺はどうだったかな?
椅子の上には成人式用の服なんだろう。綺麗に垂れ下がっていた

仕事を辞めてから結構経って、愛の親父さんにはなんかすまない気持ちしか湧いてこなくて、気持ち悪いという気持ちもなかったわけじゃない
けど、他の女と付き合っても、愛としか比べられなくなっていて、まともに女と付き合うのももう無理っぽいなと思ってた
そして今度は夜の仕事でバーの面接に行ったが、行った先はバーじゃなくてホストだった
でも、別にいいかなぁなんて軽い気持ちで働き出した
女相手の仕事と思っていたが、内情は結構厳しい物で、キャッチと呼ばれる客引きができなければヘルプで飲みまくりおもちゃとして遊ばれてネタにされるとかそんなとこだった
ナンパに近いけどこれが大変で、でも周りは結構楽しい雰囲気の人等で、オーナーの「ブサイク引っかけろブサイク!」と酷い台詞の応酬にはウケたものだ
でも、こういう仕事で絡んでくる女は気持ちが悪い奴が多く、また仕事仲間も気持ち悪い考えのが多かった
水商売の女友達もできたり、風俗の奴とも仲よくなってしまったりと、普通の子をそういう世界に引っ張り込んでどうのこうのって話も結構聞いた
俺の客はセクキャバの女の子が三人いて、なんとか毎月の保証金を上回っていた
こんな仕事しててもスナックすら行ったことがなかった俺は、そういう話でも面白いなと思っていた

 

ただ、他の先輩のヘルプに行った時に気持ちが悪いことを言われた
「君の後ろに双子の女の子が居るんだけど・・・心当たり無い?」
全く無い。双子ってなんだろうか?
そんな話をし始めると、店長も他のホストもその席に集まってきて、先輩のそのお客は霊感とかそんなのがあるのだとかで
前々から俺が気になっていたそうだ

話を全部聞いた後、俺はどうすればいいのかな・・・と、その人に聞いてみた
見えるけど、俺がどうこうできるものじゃないし、それほど周りに害をあたえようとかって類じゃないと思う
ただ、その子達はずっと側に居て、ずっと待ってる。誰かを不幸にしたいとかじゃなくて、ただ待ってるの。それだけしか言えない
そんな事言われてもなぁ・・・と、思いつつ、当時付き合ってた彼女とソコソコ仲よくなってたものの、結局別れることになった
原因は特に思い当たる節が無く、ホストも飛んで辞めたわけじゃなく、ちゃんと引退パーティーで綺麗に辞めれた後だったんだが

 

当時聞いた話の内容は気持ちが悪い物で、数ヶ月に一度は今でも夢に出る
双子の女の子というのは見た目はロングヘアーで全く同じ顔で、二人とも俺にべったりくっついているのだそうだ
見えたこともないし、感じたことも無かった。霊感とかいう物がゼロな俺が、この話を聞いてからは妙に落ち着かなくなってしまった
そして二人ともネックレスをしているということ、綺麗な服を着ているということ。片方は何時も俺の顔を見ていて、もう片方は周りを睨んでいるということだった
それが交互に変わるらしく、また奇妙だとも言っていた
話を面白可笑しくするのが此処のホストクラブの趣向で、言ってみればお笑い系になるんだけど、この時はもう怪談話化していて、俺の話をするその人は真剣その物だった
そして、執拗に俺の左手の薬指と自分の薬指を触ったり握ったり、頬ずりしたりとかしていると言われると、気分が悪くて堪らなくなった

 

いや、泣きそうになったのかな?トイレに行って吐いてしまった。毎日吐くまで飲んだし、飲まされてたし、それほど苦しいモンじゃなくなってたけど
戻ってくるとまた妙な話は続いて、君以外は敵視してる。だから守られてるといってもいいんだけど、ちょっと心配かもしれない
その双子の女の子の容姿は中学生ぐらいなんだけど・・・本当に知らない?と言われ
俺は知らない。と答えた
本当に霊感があるのなら、俺の嘘なんて分かるはずだと思ってた。それでも双子ってのは無いはずで・・・でも心当たりはないわけじゃなかった
知らないと答えた後のその人の顔は怪訝な顔をしていた
いや、絶対あるよ?何か約束してない?お願いとかしてない?
質問攻めに合うのは俺の方で、もう怖くて堪らなくなった

 

ずっと一緒に居たのかと思うと余計に怖いというのもあったし、何より他の女とも付き合ってたし、申し訳ないのもあったけどこういうことあるのか?
気が動転してたし酒も入ってたのもあったんだろうけど、とりあえずまたトイレに行って今度は顔を洗った。洗いまくったと思う。
洗いながら、愛ともう一人誰が居るんだ!?と鏡を見た時に双子が居た。
間違いなく両方見たことがある愛で、片方は明るい愛で、もう一人は暗い異質な愛だった
この絵が頭にハッキリ焼き付いて洗面器にゲロ吐いてしまった後、一人でガタガタ震えていたと思う
それ以来は何も見てないが、今でも鏡に映った姿がフッと浮かんでしまう
いや、もう既に怖くなくて、ただ「待っている」という言葉だけがずっと引っかかっている

 

未だに良くわからない二人の愛の事を考えるし、この先はもう楽しい人生とか全く無いんだなと思う
死んだらどうなるんだろうという気持ちがあるものの、やっぱり死ぬのは怖いよなぁなんて思いつつ、当然のようにズルズル生活している
ただ、俺の薬指には未だに何も填めたことはなく、フリーのままだ。
一人で暮らし始めて親とも疎遠で・・・何故か愛の両親とはたまに連絡を取り合うような感じで・・・

テレビなんか見てると幸せそうなカップルとか、夫婦だとかが映ってる。そういうのを見ると思いだして変な気持ちになって後ろや横が気になって仕方がない
せめて楽しく生きて行ければ良いんだけど・・・それも難しそうで、最近はなんだか別のことを夢見るようになった
いろいろ悪いような事してきた俺がそんな事を望むのはどうかとも思うけど、元々弱い人間だったと思うから、思うだけなら良いんじゃないかと、そんな感じだ
どうか、普通に死ねますようにって

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