『橋、端、箸』|洒落怖名作まとめ【長編】

『橋、端、箸』|洒落怖名作まとめ【怖い話・都市伝説 - 長編】 長編

 

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橋、端、箸

 

私は現在ミッション系の大学に通っています。
小さなころ、大分県の別府に旅行に行った際、温泉で髪の長い知らない女性の方と手を繋いだ瞬間、私はその場に倒れました。
そのあと目を覚ましたのは病院のベッドの上で、母は泣きながら、私が一時心肺停止にまで陥ったこと、医師に原因は不明と言われたことを教えてくれました。
母に温泉で出会った女性のことを話すと、母は、「そんな人はいなかった。あなたは突然倒れたのよ」と言いました。

母は私を寺へと連れて行き、お坊さんに相談をしました。
そのお坊さんは、君は霊とシンクロしやすいから絶対に心霊スポットに行ったりしてはいけないし、
こっくりさん等の遊びもしては駄目だ、と言って、最後に私のその才能をすごく褒めてくださりました。

 

当時、私は幼稚園児だったのですが、恐らく、その別府での出来事がトリガーになったのだと思います。
私は、霊が見える様になったのです。
詳しい話はここでは省略しておきますが、恐い経験や悲しい経験は小学校三年生くらいのときまで起こりました。

そのくらいの時を境にパッタリと幽霊を見なくなった私は母に連れられ、幼稚園児の時に訪れた寺のお坊さんにまた会いに行きました。
彼は私のことを覚えていてくれてましたが、私がまったく幽霊を感じなくなった、
と言うと「それは君の心があの時と比べて汚れちゃったからだよ」と笑いながら教えてくれました。
それから数年間私は幽霊を見ることが出来ずに、「霊が見えるなんて言う人は統合失調症」とまで言い放ったりしていました。
しかし、お坊さんに言われた「心霊スポットには言ってはいけないし、こっくりさんもしては駄目」という教えは何故か守り続けていたのです。
しかし、それも去年まででした。

 

大学に入学した私は、勧誘されたサークルに入り、そこそこ楽しい日々を送っていました。
夏のある日、私はサークルのメンバーに、心霊スポットに行こう、と誘われました。
行き先を訊いてみると、とても有名なところでした。
正直、恐かったですが、人数が20人を超えていることもあって、私はその企画に参加することにしたのです。

 

当日、心霊スポット巡りが趣味で霊感があるという先輩が下見をしたのですが、「今日はやばい」と言ったまま黙り込んでしまいました。
全員がトンネルの近くに着くと、私たちはその先輩の後に続いて、長い坂を登り始めました。
先輩が「右に寄れ」とか「真ん中はみるなよ」と指示を出していました。
そうこうしているとトンネルの前まで着きました。
いつもはかっこいい先輩やお調子者の友達はトンネルの異様さに驚いていました。
しかし、私はやっぱり何も見えなかったのです。
正直、がっかりしました。

 

この場所に来ることによって、小さなころ褒められた才能が復活するかもしれないと考えていたからです。
私は、四角いブロックを積み重ねて封鎖されたトンネルの入り口の前に立ち、ブロックを登って行きました。
上の方のわずかな隙間から中に入ろうと試みたのです。
先輩たちが、止めましたが、私は中に入る直前彼らの方を振り向かずに「幽霊なんていませんよ、見えるなんて言う人は統合失調症です」といつもの様に言いました。
トンネルの中はひんやりとしていて、ブロックは苔で滑りやすくなっていました。
私は奥まで行ってみよう、と考えて、少し怖くなりました。
女の人の声が聞こえた気がしたからです。

しかし、耳をすませればなんてことはありません。
ただの水が滴っている音です。
「こんな勘違いから噂はうまれるんだろうな」と思いながら、トンネルの中ほどまで行ったところで私は引き返すことにしました。
これ以上進んでも何かあるとは思えなくなってしまったのです。
結局私は無事にトンネルを脱出し、帰路に着きました。

 

私はこの一件で妙な自身を持つ様になっていました。
「小さなころ、幽霊が見えたのはきっと妄想なんだ。そして、その一つ一つに辻褄があっていたのは、
周りの大人(幼稚園に1人凄く霊感があるという先生がいました)の優しさなんだ。妄想と受け入れることが出来た私は、
未だに自分に霊感があると信じている人達とは違うんだ」
といった感じにです。
そんな感じで月日は流れ、たしか10月の終わりか、11月の始め辺りのことだったと思います。

 

私は、また心霊スポットに誘われたのです。
その場所というのが、心霊スポットファンの人達が言うには、私が入ったトンネルよりもヤバいところらしいのです。
多分、全国的に知名度でもそのトンネルの方が上でしょうし、私も初めて聞く名前の心霊スポットでした。
私はすぐに参加の表明をして、その日のためにネットで色々と調べたりしていました。
サークルのメンバーでドライブをした後、その心霊スポットに行く、という流れでした。
例の霊感のある先輩とはそのときかなり仲良くなっていて、そのヤバいところについて色々と話を聞きました。
彼は何度もそこへ行ったことがある様でしたし、他にも行ったことのあるメンバーが場所を確認するために私たちを駐車場に残し、歩いていってしまいました。

 

そのときは確か午前一時ごろだったと思います。
私は、ちょうど丑三つ時にそこを訪れることができるのではないか、とワクワクしていたのですが、不思議なことに、先輩達は戻ってきません。
駐車場に残った組の先輩が電話をかけてみると、「見つからない」らしいのです。
結局ズルズルと時間だけが過ぎて行き、彼らから、見つかった、という連絡が入ったのは、午前三時ごろでした。

 

電話の誘導に従い、私たちは車を走らせました。

目的地に近づくにつれ、私は、「ああ、確かにこりゃやばい」と感じていました

絵に描いた様な同和地区だったからです。

私たちの車が走る道路の横を幅が狭い川が流れていて、川の向こう側にトタン板の家が並んでいました。
その家並みが途切れた所に石の橋がかけられていて、その上に先輩達が立っていました。
私たちは橋を渡り、大きめの空き地に車を停めました。
先輩が「ごめん、なんか場所が思い出せなくてさw」と笑って、山の中へと続く坂を指差しました。
「じゃあ、あの坂を登ろうか」
私は、おいおい、と思いながら先輩に続きます。
正直かなり眠かったですが、着くまでに夜明けが来ることを何よりも心配していました。
五人は横に並んで通れるぐらいの道が突然途絶え、一人が通れるぐらいの道が姿を現しました。
先輩が「あの道だけどさ、最初に行きたい人達は?」といいました。
正直かなり不気味でしたので、皆手を上げません。
しかし、私は日が昇ってから心霊スポットに行くなんてことは、絶対に嫌だったので、1番に手を上げました。

すると、私の隣にいた美人でギャルな先輩も手を上げます。
彼女も霊感があるらしく、日頃は「霊感があるのに、心霊スポットに行くなんて信じられない」と言って、
心霊スポットに行く人を批判していたのですが、何故か今回は 参加してみる気になったそうです。
すると、その先輩のことが好きな他の先輩も手を上げ、それに続き、疲れたから早く終わらせたいと言いながらまた二人の女の先輩が手を上げました。
男が少ない、という理由で、もう一人、男前の先輩が手を上げて、私たちは出発しました。
私は1番年下ですので、1番後ろに付きます。
少し進むと、後ろから、前述した心霊スポット巡りが趣味の先輩が追いかけてきました。
私が、どうしたんですか?と訊くと、彼は、何となく嫌な気がして、と返しました。

 

それからは誰も喋りません。
雰囲気だけだったら夏に行ったトンネルの数倍怖かったです。
腐った枯葉を踏む度に嫌な感じの感触がしました。
時々、お地蔵様が並んでいて、わたしはなんとなく、そのお地蔵様と顔を合わせない様に心がけていました。
しばらく進むと、先頭を歩いていた男前の先輩が、声をあげました。

「もしかして、これ?ちょっと降りてみる」

私が他の先輩達の肩越しに先をみると、洞穴の様な洞窟がそこにあり、石造りの階段が下に続いていました。
皆、続々と中に入って行きます。
私もそれに続こうとしたとき、左手の茂みから女の人の叫び声が聴こえました。

 

流石に少し驚きましたが、その声が友人のSに似ていたこともあり、後ろにいた先輩に「今のSの声でしたよね?何かあったんですかね?」と声をかけました。
先輩は、さあ、声は聴こえたけど、と呟いて首を傾げます。
私は残った仲間達を心配しながら、階段を降りて行きます。
中程まで降りて、後ろを見ると、先輩が降りてきません。
私が「先輩は行かないんですか?」と言うと彼は、お前が降りたら行くよ、多分そっちの方が良い、と返して、私の右斜め前方を顎で指しました。
わたしも反射的にその方向を睨んでみますが、何もありません。
内心、やれやれ、と思いながら、私は階段を降り切りました。
内部は中々に広く、お地蔵様が左右に沢山、置いてありました。

 

私は、そのお地蔵様の首にかけられている赤い布を見て、「ここに来るまでにあった地蔵にはかけられてなかったなあ、
あれをかけられているお地蔵様と掛けられていないお地蔵様は何が違うんだろう」といったことを考えていました。

 

すると、階段の上にいた先輩がいつのまにか降りて来ていて、「あれ、○○(男前の先輩)は?」と声をあげました。
周りを見渡すと、確かにいません、少しゾクリとした瞬間、人1人が横になってギリギリ通れるぐらいの狭さの隙間から男前の先輩が出てきました。
「駄目だ、奥は行き止まりだったよ。これだけなの?ここ」
と、心霊スポット巡り先輩に訊きました。
彼は、うん、と言って、そろそろ帰るか、と提案しました。
私は幽霊をみることは出来ませんでしたが、雰囲気はかなり楽しめたのでそこそこ満足していました。

洞穴をでたときに、私が、Sの叫び声が聴こえた気がして、心配ですから少し急ぎませんか、と言うと、皆少し早足で来た道を戻り始めました。
しかし、残っていた皆の元に辿り着いたとき、私の予想と反して、皆はワイワイと談笑をしていました。

そして、心霊スポット巡り先輩に「どう?w出た?w」なんて訊いていました。
私が一緒に行った先輩達に私の聞き間違えだったみたいです、と謝っていると、残っていた組がゾロゾロと一列になって、洞穴への道を進み始めました。
私たちは七人で行ったのに対し、彼らは二十人程
余りに不公平ではないか、と私が笑いながら言うと、やはり、皆七人だけでその場に留まるのが怖かったようで、いつのまにか、円を作っていました。
私の右隣に心霊スポット巡り先輩、その隣にギャルの先輩のことが好きな先輩、その隣にギャルの先輩、その隣に2人組の先輩、その隣に、男前の先輩、そして、その右隣に私、といった形の円でした。

皆で、怖かった、だのなんだの話していると、急に右隣の心霊スポット巡り先輩が黙り込んで、2人組の先輩を指で指しました。

一斉に皆が静まりかえります。

すると、心霊スポット巡り先輩は、2人組に対して、指でギャル先輩の方に寄る様にジェスチャーをしました。

言い忘れていましたが、心霊スポット巡り先輩とギャル先輩はお互いに霊が見えることを認め合っています。

2人組の内、ギャル先輩の方に近かったエロエロな先輩はすっと、ギャル先輩に寄ったのですが、
もう一人のロリ先輩は何故か、体育座りで、つま先だけでジャンプする様にピョン、ピョン、と心霊スポット巡り先輩の方に寄って来ました。

心霊スポット巡り先輩は「なんで俺の方に来るんだw」と笑いましたが、男前先輩が、いるの?と言うと、

「二人の後ろに赤いおっさんがいた。ギャルの方に行っていれば多分大丈夫だったのに、こいつが俺の方に来るから。とりあえず皆、下向け」と返しました。

皆が下を向きましたが、私は何だか嫌な気がして、ロリ先輩の顔をチラリと見てしまいました。
すると、彼女は歯をカチカチ言わせながら震えています。
最初は怯えているのかと思いましたが、彼女の顔面が蒼白で目が虚ろなのを確認して、私はつい、
心霊スポット巡り先輩に「先輩、ロリさんが、何か大変ですって!」と声を出してしまいました。
その言葉で、初めて先輩もロリ先輩の異変に気づいたらしく、小声で、ロリ先輩に話しかけました。

「もしかして、見えた?」

ロリ先輩は、頷いて、赤いおじさんがいた、と呟きました。
そして、ここにはもう居たくない。すぐにでも帰りたい、と続けました。
ロリ先輩はいつも元気でさばさばした人だったので、そんな姿を見た私は、「あれ?これ結構ヤバいかも」と考えていました。
ギャル先輩のことが好きな先輩が坂を降りることを提案し、心霊スポット巡り先輩が、仕方ない、といった感じで立ち上がりました。
足取りのおぼつかないロリ先輩を支えながら、坂を降りていく私たち。
いつ、例の赤いおじさんが姿を現すかわからないので、私はずっと緊張していました。

 

そして、坂の大きなカーブを曲がり、トタン板の家が見え、全員が安堵のため息を吐いたとき、トタン板家の方から犬が尋常ではないほど激しく吠えはじめたのです。

 

一瞬ドキリとしましたが、時間は既に四時を回ってましたので、新聞配達のお兄さんに吠える馬鹿犬もいたもんだ、と自分を納得させつつ足を進めます。

 

十メートル程進んだでしょうか、皆は完全に安心して、ギャル先輩のことが好きな先輩なんて冗談を言ったりしていました。
すると、突然、唸り声が聴こえたのです。
私は咄嗟に「ヤバい!野犬だ!狂犬病かもしれない!」と頭に浮かんで、サッと腰を低くして、左手で皆に止まる様に指示を出し、ゆっくりと前に進みました。

 

まだ辺りは暗かったので、近づいて来る犬を探そうとしたのです。
しかし、両目とも視力2の私の目を持ってしても犬は見つかりません。

まだ唸り声は聴こえてきます。

そのとき、私は背筋が凍る様なことに気がつきました。

十メートル程前から吠えている犬はそのときも吠え続けていたのです。
そして、その吠え声に重なる様に唸り声は聴こえてきます。
明らかに犬の吠え声の方が遠い、そして唸り声はかなり近い

 

これは犬の声じゃない。
この声は・・・人間?

そう気がついたとき、私は逃げるために後ろを向きました。
脳をフル回転させ、唸り声の方にダッシュで逃げるか、それともまた、赤いおっさんの方に逃げるか・・・
考えるまでもありませんでした

というのも、後ろを向いたとき既に心霊スポット巡り先輩以外の先輩達は坂を駆け上がっていて、心霊スポット巡り先輩が、「速く逃げるぞ!」と叫んだからです。
心霊スポット巡り先輩と坂を駆け上がると、ちょうど下山してきていた後発隊のメンバーの前で泣きながら腰を抜かしているギャル先輩やエロ先輩がいました。
私は普段煙草を吸わないのですが、心霊スポット巡り先輩から青いピースという煙草を奪い取り、火を付けました。

当然の様にむせましたが、少し安心した気がしました。
その後、20人以上で駆け上がった坂を引き返し、(後発隊の皆はまるで信じてくれませんでしたが)なぜか、あの犬もまったく吠えていませんでした。

 

ギャル先輩に話しかけると、彼女は足を掴まれたみたい、と弱く笑って、私にヒールを履いた足を見せてくれました。
彼女のアキレス腱の辺りには赤く、手の形で痣が出来ていました。
私は、心霊スポット巡り先輩に統合失調症なんて言ってごめんなさい、と謝りました。
「あんな声、初めて聴きましたよ。地獄からの声っていうか、なんていうか。霊って本当にいるのかもしれませんね」
と私がいうと、彼は笑いながら、「怒ってたね、あいつ」
と返しました。
空き地に戻り、車に乗り込みましたが、私の車に乗っていた私以外の人達は皆、後発隊のメンバーで、私の話をまるで信じませんでした。
不貞腐れて、助手席からトタン板の家並みを見ていると、車の左斜め前にあった家と家の間の隙間からお洒落をした髪の長い女性がすごい勢いで飛び出て来たのです。
そして、彼女はずっと、立ったまま、私たちを見送り、私と運転席に座っていた人は同時に「凄く気持ち悪いな」という感想を洩らしました。

時間は五時ごろだったはずです。
その後、私達は無事大学に帰り着き、解散、となったのですが当時一人暮らしをしていた私とギャル先輩のことが好きな先輩の家が近いこともあって
先輩から怖いから今日は一緒にいてくれ、と頼まれました。
私は、泊まることは出来ませんが、夜までなら良いですよ、とその頼みに応じました。
夜の10時頃まで、先輩とウイイレをしたり、L4Dをしたりして遊びました。

先輩の家を出て、馬鹿な私は家の近くのレンタルビデオショップに行き、DVDを二本借りました。
その帰り道、後ろから男の人が着いて来ていることに気がついたのです。
その男性の鼻息が妙に荒い気がして、怖くなった私は、ギャル先輩のことが好きな先輩に電話をかけました。

「お疲れ様です」

「どうした?」

「いえ、家に着くまで怖いので電話に付き合ってくださいな」

「いいよ」

と言った感じで会話を続け、家の前まで来た私はお礼を言って、電話を切りました。
私の部屋は三階でしたので、階段を使って上がり、部屋の鍵を開けて、お腹が空いていたので、冷蔵庫から適当な物を出し、フライパンを加熱し始めました。

すると、また先輩から電話です。

「どうしました?もしかして怖いんですか?w」
「いや、そのさあ、さっきから気になってたんだけど、お前、今、一人だよな?」
「ええ、先輩の家を出てからDVDを借りに行っただけなので完全に一人でしたよ?」
「やっぱり?これ嘘や冗談じゃないんだけどな?お前の声に重なって女の声が聞こえるんだよ、ボソボソボソボソさあ」
フライパンの上のバターの音以外何も聞こえなくなりました。

「いやいや、またまたご冗談をw」
無理して強がる私に、先輩は重く伝えます。
「いや、本当なんだって。今だって聴こえてるし、お前、今家だよな?」
「ええ、家です」
この時は完全に声が震えていました。
結局、すぐに家を出ることにして、近くのコンビニで先輩と待ち合わせることにしました。
先輩がコンビニの駐車場に来て、私は思い切り頭をさげます。
先輩は、俺の聞き間違えかもしれないから、他の奴にも確認とってみろよ、と言ってくれたので、クラスの友人に電話をかけました。
「もしもし、今大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。あれ?なに?宴会でもやってんの?」
「え?どうして?」
「いや、だって後ろで声が」
そこまで聞いたところで、私は電話を切りました。
そして自販機に寄りかかり、冷静になってみると、部屋の電気と火を止めてないことに気がつきました。

ですので、先輩に頼み込み、部屋に着いて来てもらうことになりました。
私は恐る恐る、部屋のドアを開けて、電気を切り、火を止めました。
そして、即座に部屋を出て、さてどうするか、と思った時に、先輩が、心霊スポット巡り先輩に電話してみろよ、と提案したのです。
それは名案でした。
私は即座に電話をかけると、先輩はすぐに出てくれました。
「もしもし、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
「あの、突然ですけど、私の後ろで声、聴こえますか?」
私は黙り込みます。私の周りで喋っている人はいませんし、車も通っていません。
あえて女の声、とは言わない様にしておきました。

 

「おい、**(私)」
「はい」
「女の声が聞こえた。ボソボソ言ってる」
私は大きくため息を吐きました。
「先輩、ありがとうございます。それじゃあ」
「うん、気をつけろよ」
そういって電話を切った私は部屋の前の通路で先輩と話し合い、ギャル先輩の家に泊まることにしました。
そう決まった時に私の携帯がなりました。
心霊スポット巡り先輩です。
私が電話に出ると、先輩は震えた声で「お前な、さっき、それじゃあって言った後、何か喋ったか?」といってきます。
私も先輩も喋っていないので、いいえ、と返事をすると、電話口で先輩はこう言いました。
「電話切ろうとしたら、男の声で『もしもし』って聞こえたんだけど」
もう私はパニックです。

女だけならまだしも男までいるなんて。
「どうしたら良いんですか!?」
「わからん!俺はそんなときドデカイペットボトルの水を飲みながら筋トレをする!とにかく、ビビってると思われるな。そうだ、お前、DIOのマネしろ」
「は?」
「いや、DIOだよDIO。ジョジョのさ」
私はマンションの通路で本気のDIOの真似をしました。
勿論大声で。
「これで良いでしょうか?」
「多分良いんじゃない?面白かったし、俺も今から水抱えて寝るから。気をつけろよ」
先輩の無責任さに苛々しながら、ギャル先輩の家に向かう途中、先輩の携帯でギャル先輩にも連絡を入れ、彼女も声が聞こえると私に言いました。
その声事件はそれから数日間も続くのですが、何時の間にかその声も聞こえなくなりました。

 

そして、その声事件と同じ頃、私の叔母が30代の若さで亡くなりました。
彼女の死因は不審なことが多く、葬式に検察官が来るほどでした。
叔母はガリガリに痩せ細っていて、彼女が亡くなってしまったのは私に責任があるのではないか、と自責の念を感じました。

結局今年になり、私はその部屋を引き払い、実家から通うことにしました。
通学までに二時間ほどかかりますが不気味なのよりましです。
そして、四日前のことです。

 

私の祖母の従兄弟が亡くなりました。
その通夜に出席したのですが、そのときに、私より三つか四つ年下の女の子(祖母の従兄弟の孫)に叔母が降りてきたのです。
仕草も、笑い方も完全に叔母でした。
彼女はこう言いました。
「○○おじちゃんを迎えに来た人が迷ったから私が来たの、だけど私が迷ったらいけないから、友達にも一緒に来てもらったよ」
彼女は、親戚達に、彼女の形見のブレスレットは、右手ではなく、左手に付けておく様に、といったことや、ネックレスを付けておかなきゃ倒れてしまう、といったことを告げた後に、その女の子の兄(私より一つ下)の方を向いて、こう言いました。

「来月、京都に研修にいくんでしょう?私の友達がね、言っておくことがあるらしい。
一つ目は、黄色い帽子を被ったおじさんに会ったらスられるからポケットに物は入れるな、二つ目は、サンダルは履いていくな、三つ目は橋が揺れたらすぐに逃げる様に」
そう言われた男の子は完全にビビってしまっていました。

そして最後に私の方を向き、彼女はあやまりました。
「○○ちゃん。今、実家から通っていて大変でしょう。あの部屋を出なきゃいけないようなことになってしまってごめんね」
こう言って何度も謝って来ました。
周りでは泣きながらその女の子と抱き合っている親戚が何人かいました。
その後、23時頃に通夜から帰ってきた私は、シャワーを浴びながら考え事をしていました。
『あの部屋を出て行くようなことになって』というのはあの声の正体は叔母なのだろうか、
だとしたら悪戯半分に私を脅かしに来たら、思いのほか、私がビビりすぎてしまった、ということだろうか。


私は微笑んでしまった。
悪戯好きな叔母らしいではないか。
しかし、バスタオルで体を拭きながら、待てよ、と考える。
叔母が亡くなったのは私の部屋に声が聞こえ出したときより数日後だった。
そして叔母は原因不明で検察官が動いたほどの急死だったのだ。
だとしたら、叔母は私の部屋に着いて来た、あの唸り声の男と戦ってくれていたのではないか、
そして、それに敗れてしまい、あの様な結果になってしまったのではないか。
そう考えたとき、私の背筋は凍りついた。

□ □ □

叔母からの忠告で橋と書きましたが、本当に橋なのか、わかりません。
京都に住む皆さん。橋、端、箸などが揺れたら逃げて下さい。

今では幽霊というものを信じています。

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