出会った少女
8年ほどまえの夏、
私は運動不足解消の為、
休日の早朝に散歩するようにしていました。
いつもはコンビニで快楽天か失楽天を買って帰るのですが、
その日は気分を変えて神社に行くことにしました。
自宅前の自販機でつぶみを買い、
急勾配の坂を20分くらい歩くと神社に到着。
ガタガタで歩き難い石段を登ると、
御神木に寄りかかってボーッとしている少女が1人。
(浴衣?明日祭りやったけか)
オニューの浴衣で親と散歩かと思い、
周囲を見回しますが、
それらしい人はいません。
(迷子じゃないよな?誰か待ってんのか)
時刻は朝6時過ぎ、神社に少女が1人。
なんとなく放っておくこともできず、
一応声をかけました。
「お嬢ちゃん、ひとり?」
少女はビクリと体を震わせ、
怯えた様子で私をみました。
警戒させてしまったようです。
「こ、怖がらんでもええで。
お兄ちゃんは○○っていうお店のもんやけど。
知ってるかな?
坂下ったとこにある」
「知ってる。お酒屋さん」
どうやら家族が経営する店を知っていたようで、
少し安堵した様子でした。
「お嬢ちゃん、お父さんとかお母さんは?」
と尋ねるも、
少女はふるふると首を横にふるだけ。
名前を聞いてもやはり答えてくれません。
困った私はため息をつきつつ、
手元で遊ばせていた缶ジュースを開け、
一口飲みました。
「ほしいの?」
少女の物欲しそうな視線に気付き、
缶を渡しました。
気に入ったのか、
少女はんぐんぐと勢い良くジュースを飲み、
五分程で飲みきってしまいました。
「じゃあ、お兄ちゃん帰るわ。
お家まで送ったんで」
「やや。おっちゃんと遊ぶ」
おっちゃんて私か。
「でもお兄ちゃん帰らな。お腹すいたし」
「やや。遊ぶ」
少女の誘いをやんわり断りつつ、
帰ろうとすると、
とことこと私のあとをついてきます。
「わかったわかった。
しゃーない。ちょっとだけな」
それから、
30分くらい鬼ごっこや
縄跳び(少女が神社のうらから持ってきた)で遊びました。
自分で言うのもアレですが、
ひどい光景です。
「ほな、そろそろ帰ろか。さ、行こ」
「やや。もっともっと」
少女は私の手を払い、
シャツの裾をひいて駄々をこねます。
「お家帰りたないんか?」
少女は首を横に振り、
再び黙ってしまいました。
困った私はため息をつき、
腹を決めて、
「お兄ちゃん帰るけど、
うちでお嬢ちゃんの家調べてみるから、
一旦うちくる?」
もしかしたら複雑な事情のある家かもしれないので、
地域の役員をしている父に相談しようと思い、
一旦、家に連れて帰ることにしました。
少女の小さな手を優しく握りしめ、
帰途につきます。
「明日のお祭り楽しみやな」
などと話していると、
きゅっと少女が手を握り返しました。
そんなこんな話しているうちに自宅に到着。
「ただいま」
「おお、おかえり」
珍しく早く起きていた兄に出迎えられ、
「兄ちゃんでもいいか。この!?」
と言いかけて振り返ると、
先ほどまで手を握っていたはずの少女がいません。
私が兄に事情を説明すると、
「迷い牛。それは八九寺真宵だよ」
と、兄は忍野メメのセリフで返してきました。
私が真面目に聞け、と憤慨すると、
「元気いいね。何かいいことあったのかい」
と、狙いすましたかのようにケラケラわらいました。
私は投げやり気味に、
「そうだよ、いきあったんだよ」
といいかえし、
汗を流すため為、風呂ばにいくと、
半パンのポケットに何か入っていることに気付きました。
それは赤い実のついた植物でした。
私が出会った少女がなにかはわかりません。
すくなくとも、悪いものではないようです。
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