山にまつわる怖い話【8】全5話
山女の主
東北は福島の銀山坑に山沢釣りに行った時の事。
銀山坑は毎年解禁の時期に来ている釣り場で、早朝に着いて沢辺で山女(ヤマメ)釣りに勤しんだ。
ややあってそれなりに釣れ、一息いれて握り飯を食べていた時の事。
沢の上流より三味線と小太鼓の賑やかな囃が聞こえてきた。
なんだべな?と思っていると、川面に真っ赤な敷物を敷いて、その上にしゃなりと座った女子が流れて来た。
呆気に取られて見入っていると、囃は女子の回りから聞こえていた。
敷物の赤が鮮烈で、今でも鮮明に思い出せる。
そのうち女子がよく見えて来た。
真っ白な白粉に真っ赤な口紅で、こちらをにんまと見つめている。
あっこれはいけん、と思い立ち帰り支度をして早々に引き上げた。
帰り定宿の女将に話したところ、それはきっと山女の主に諌められたのだろうとの話。
姿の無い足音
奥多摩の自然観察保護員(?)の写真家が、日原川の奥に釣りに行った時の話。
深夜に着いて、林道の奥に四駆車を停めて朝を待つことにした。
早朝から釣りを始めるつもりだったが、何故かいつものように寝着けない。
暫く眠気を催した深夜、車の近くを誰かが歩いている音がした。
〝ザク、ザク、ザク…〟
昵っと聞耳を立てていたが、不審な足音は車の周りをずっと歩き回り続けているようだった。
写真家は奥多摩に生息する動植物の写真を撮っていたので、ある程度生き物に触れる機会は多い。
「鹿かも知れない。しかし、道に迷った登山者だったら…」
妙な寒気も感じ、写真家は寝るどころではない。
それから長い間、足音は車の周囲に積もった秋の落ち葉を踏み鳴らしていたが、急に足音が止んだ。
「あれ…?」
益々訝しく思った写真家は、暫く迷った末、とうとう車外に出て確認する事にした。
ドアを開けると山の冷気が鼻孔を突く。
車の周りは漆黒の闇。
「何だ誰も居ないじゃないか…」
念のため足元を確認したが、野生動物の足跡らしき物はない。
おかしいな、確かに誰か歩いていたのに…。
日原の奥では、今も姿の無い足音を聞く釣り人がいるらしい。
天狗の腰掛け
似たような話を思い出したので書いてみる。
うちの爺さんがその爺さんに聞いたって話。俺から数えると4代前の爺さんかな。
その頃の我が家は材木屋やってて、その山であったって話。
爺さんたちがいつもどおり山で木を切って、その翌日。
切ったハズの一本が、生えていた場所にまた戻っていた。
廻りには真新しい木っ端があったし、木の枝も倒したときのまま、片側が潰れてたから間違いない。
不思議なこともあるもんだともう一回切り倒してみたら翌日また元のところに戻ってる。
しょうがないから目印つけて以後放置したらしい。
山は代々うちの物だったらしいけど、いわれとかは何にもなかったそうだ。
ちなみに山自体は3代前の俺の曾爺さんが放蕩が過ぎて借金のかたに持ってかれたと聞いている。
死体と二人
首吊りで思い出したが、俺が青年団にいたころ近くの山で若い女が縄を持って登って行ったと警察に連絡があったそうだ。
それで、地元の消防、警察、青年団やらが山に捜しに行くことになった。
夕方になりかけていたので、二人一組となって2時間で見つけられない場合は翌日に持ち越しという予定だった。
俺と連れは登山道から登っていった。まさか見つけるはずはないと思っていたので、バカ話をしながら気楽に登山を楽しんでいた。
途中、大きな岩があり其処から獣道にはいっていった。1時間くらい歩いていたかな?
日も段々と傾いてきて、そろそろ2時間か~って思ってた時に目の前の木にサンドバックが吊るしてあった・・・
いや、サンドバックじゃなかった。
人が首をつっていた。俺たちは腰が抜けそうになった。しかし、二人と言う心強さもあって近くにいった。
首吊り死体は俺たちに後ろを向いていて、性別がよくわからなかった。
俺たちは連絡のあった女かどうか確かめる為に死体の前に行った。
俺は葬式以外に死体っていうモノを始めてみたが、首吊り死体っていうのは、とにかく醜い顔だった。
とにかく、連絡取らなきゃいかんと思って俺たちはトランシーバーに話かけたが、電波が悪くガーガーと音がするだけだった。
日も段々と暗くなるし、俺たちは泣きそうになってきた。そこで、一人が登山道まで出て誰かを捜しに行くことになった。
はっきりいって、ここに残っておくことだけは勘弁してほしかったが、ジャンケンに負けた・・・
連れは俺を哀れそうに見ながらも来た道を引き返して行った。
俺は死体と二人?きりになった。
このシチュエーションすごいでしょw暗くなってきた山の中で死体と二人、
マジビビッタね~なるべく死体を見ないようにしてたんだが、時間がたつにつれ怖さが薄らいできた。
で、もう一度死体を見てやろうと振り向いたら、後ろを向いてた死体がこっちをみてた!
目が合った!俺はウワ~~て本気で悲鳴をあげたよ
だって、風もないのに死体が動いてたんだからね。俺はひたすら連れが帰って来ることを願った。
時間にしたら30分ぐらいだった、遠くからオーイって声があった、俺は見境なくオーイオーイオーイて言ったね。
もう後で笑われてもいいからとにかく誰かに来てほしいと思った。
そしたら、いきなりバサーーーー!って音がした。
俺はギャーって言ったよ。で、振り向いたら首つってた枝が折れてた。
死体はグニャっとなって俺に持たれかかってきた。だめだ・・・もう死ぬと思ったときに
ライトが照らされた、やっとみんなが駆けつけてきてくれたんだ。
俺は情けなかったが生きてるものに触りたかったので連れを抱きしめた。
すこし泣いてたかもしれない。んで、色々処理をした後山を降りた。
降りてから連れが言った。皆をつれて俺のとこに戻ってたときに
オーイオーイオーイって女の声がしたって・・・俺はお前がオーイって遠くから言ってくれたのでオーイオーイオーイて必死に返したんだが・・・
って言うと俺はオーイなんて言ってないって言われた。二人はそのまま固まってました。
以上です、10年くらい前の話です。その連れとはいまだにその話になりますが今じゃ俺の情けない顔が笑い話なってます。
あんまり怖くなかったですね。ごめんなさい。
佐渡島の山奥
親父殿に聞きました。
母ちゃんの実家は佐渡島の山奥にある。
この山奥っぷりというのが半端ではなく
麓の「お隣さん」まで原チャリを飛ばして20分かかるという
ほんと~に辺鄙な所にある。
これ、前置きね。
昔々、親父殿と母ちゃんが結婚する前の話。
母ちゃんの両親にご挨拶するために、親父殿の運転で
その辺鄙な山道を車で登っているとき、異変が起こった。
助手席で寝ていた母ちゃんが、突然に
「だめよ!後で!!」
と大声で叫んだそうな。
その声にビックリしたものの、寝言だろうと思って
そのまま運転を続け、無事に母ちゃんの実家まで辿り着けたそうな。
車から降りると、母ちゃんは土産物を積んだトランクを開け
「あぁ~、やっぱりやられたぁ。夢じゃなかったのねぇ。」
と残念そうに言ったという。
何事かと親父殿もトランクを覗き込んだのだが、そこには
土産物として持ってきた菓子類が食い荒らされ、残骸が散らばっていたという。
「寝てたらねぇ、後部座席に小さな子供達が座ってお菓子を食べてる光景が見えたのよ。
これは山のタヌキだと思って怒鳴ったんだけど・・・遅かったわぁ。」
と、さして怖がる風でもなく語る母の姿に、なんだか人外魔境に
迷い込んだ気分になったと親父殿は語るのであった。
ちなみに親父殿は、その時になんとなく
「なんでキツネだと思わなかったんだ?」
と尋ねたそうな。
そしたら母ちゃんは
「佐渡島にキツネはおらんのよ。昔、領主に悪さして追い出されたんだって。」
と、これまた事も無げに語ったそうな。
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