電話が鳴ったのは夜も遅くでした。
10時を過ぎても、まだだらだらと起きていて、母に「早く寝なさい!」としかられていると。
「ジリリリーーン!」
けたたましく、昔ながらの黒電話が鳴り響きました。
「誰や、こんな夜更けに・・・」
爺ちゃんがぶつぶつ言いながら電話に出ました。
電話の相手はどおやらKの父ちゃんのようでした。
はたから見てても、晩酌で赤く染まった爺ちゃんの顔がサアっと青ざめていくのがわかりました。
電話を切ったあと、爺ちゃんがえらい勢いで寝転がっている僕のところに飛んできました。
僕を無理やりひき起こすと、
「A(僕の名)!!おま、今日、どこぞいきおった!!
裏、行きおったんか!?山、登りよったんか?!」
爺ちゃんの剣幕にびっくりしながらも、僕は今日あったことを話しました。
騒ぎを聞きつけて台所や風呂から飛んできた、
母とばあちゃんも話しを聞くと真っ青になっていました。
婆「あああ、まさか」
爺「・・・・かもしれん」
母「迷信じゃなかったの・・・?」
僕は何がなんだかわからず、ただ呆然としていました。
父も、よくわけのわからない様子でしたが、
爺、婆ちゃん、母の様子に聞くに聞けないようでした。
とりあえず、僕と爺ちゃん、婆ちゃんで、隣のKの家に行くことになりました。
爺ちゃんは、出かける前にどこかに電話していました。
何かあってはと、父も行こうとしましたが、母と一緒に留守番となりました。
Kの家に入ると、今までかいだことのない嫌なにおいがしました。
埃っぽいような、すっぱいような。
今思うと、あれが死臭というやつなんでしょうか?
「おい!K!!しっかりしろ!」
奥の今からは、Kの父の怒鳴り声が聞こえていました。
爺ちゃんは、断りもせずにずかずかとKの家に入っていきました。
婆ちゃんと僕も続きました。
居間に入ると、さらにあの匂いが強くなりました。
そこにKが横たわっていました。
そしてその脇で、Kの父ちゃん、母ちゃん、婆ちゃんが
(Kの家は爺ちゃんがすでに亡くなって、婆ちゃんだけです)
必死に何かをしていました。
Kは意識があるのかないのか、
目は開けていましたが、焦点が定まらず、
口は半開きで、泡で白っぽいよだれをだらだらと垂らしていました。
よくよく見ると、みんなはKの右腕から何かを外そうとしているようでした。
それはまぎれもなく、あの腕輪でした。
が、さっき見たときとは様子が違っていました。
綺麗な紐はほどけて、よく見ると、ほどけた1本1本が、Kの腕に刺さっているようでした。
Kの手は腕輪から先が黒くなっていました。
その黒いのは、見ていると動いているようで、まるで腕輪から刺さった糸が、
Kの手の中で動いているようでした。
「かんひもじゃ!」
爺ちゃんは大きな声で叫ぶと、何を思ったかKの家の台所に走っていきました。
僕は、Kの手から目が離せません。
まるで、皮膚の下で無数の虫が
這いまわっているようでした。
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