『リアル』|名作 – 洒落怖長編【本当にあった怖い話】

『リアル』|世にも奇妙な都市伝説【長編・オカルト・怖い話】 都市伝説

本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。
本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。
ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど、皆さんと同じような生活をした。
多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。

その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、
家族親族まで祟りで没落してしまって、身寄りが無くなってしまったけど、
家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人が、こんなにいるなんて知らなかったから…。

厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、あるいはS先生の話があったからなのか、
恐怖は大分薄れた。(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃、S先生がいらっしゃった。
「あらあら、随分良くなったみたいね」
「えぇ、S先生のおかげですね」
「あれから見えたりした?」
「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
「そんな事ないわよ?」
顔がひきつった。
「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね。
でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
その人達を少しでも多く助けてあげるのが、私達の仕事なのよ」
多分だけど、S先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。
「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」

俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
それに、一日はあっという間なんだけど…何て言うか、時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
(何か矛盾してるけどね)
そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
その間S先生は、こっちには顔を出さなかった。(二ヶ月前に来たきり)
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
でも、哀しいかな、
流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離されると、物足りない気持ちが強くなってた。

実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来て、やっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言い、S先生と帰ろうとしたんだ。
でも気付くと、横にいたはずのS先生がいない。
あれ?と思って振り向いたら、少し後にいたんだ。
歩くの速すぎたかな?って思って戻ったら、
優しい顔で「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。
実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。
「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。
本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」
照れながら答えたら、
「そうじゃなくて、帰っちゃ駄目みたいなのよ」
「え?」
「だってまだ残ってるから」
また顔がひきつった。

結局、本山を降りる事が出来たのは、それから二ヶ月後だった。実に五ヶ月も居座ってしまった。
多分、こんなに長く、家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事は、この先ないだろう。
S先生から、「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい」と言われた。
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか、本当のところは分からないからだそうだ。

長かった本山の生活も終って、やっと日常に戻って来た。
借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、実家には俺の荷物が運び込まれてた。
アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと、部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
怖すぎたらしく、その日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
翌日、仕方無いんで、意を決してまた部屋を開けたら、臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
母には申し訳ないが、俺が見なくて良かった。

実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると、(そーいや、それまでは気にならなかったな)
物凄い件数の着信とメールがあった。中でも一番多かったのが○○。
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、
謝罪とか、こうすればいいとか、こんな人が見つかったとか、まめに連絡が入ってた。
母から○○が家まで来た事も聞いた。

戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。
電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。
…コンパしてやがった。
とりあえず電話をきり、『殺すぞ』とメールを送っておいた。所詮世の中他人は他人だ。

翌日、○○から『謝りたいから時間くれないか?』とメールが来た。
電話じゃなかったのは、気まずかったからだろう。

夜になると、家まで○○が来た。
わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。
(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが、一番の理由である事は言うまでもない)
玄関を開け○○を見るなり、二発ぶん殴ってやった。
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。
言葉で許されるよりも、殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。

○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。

○○からは、あの晩のそれからを聞いた。
あの晩、逃げたした時には、林は明らかにおかしくなっていた。
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
「反抗したりもたついたりしたら、何されっか分かんなかったんだよ」
○○の言葉が状況を物語っていた。
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。
「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、
『俺は違う』とか『そんな事しません』とか言い出して怖いんだもんよ」
アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて、頭の中の映像を消すのに苦労した。
俺の家に戻って来なかったのは、単純に怖すぎたからだって。
「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。俺が○○でも勘弁だしね。
その後、林がどうなったかは誰も知らない。
さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、
唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。
○○曰く、「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
でも、こんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、
多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。
だから、『何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか』としか言えなかった。

その後、俺はS先生の言い付けを守って、毎月一度S先生を訪ねた。
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。
○○も俺への謝罪からか、何も無くても家まで来ることが増えたし、
S先生のところに行く前と帰ってきた時には、必ず連絡が来た。

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