【長編- 名作】スカッとする話
わくわくお楽しみ袋
ついこの間の出来事。
俺の勤め先は、地方にあるスーパー業務を主とする結構大きめの会社だった。
4月に入り、近くに競合店が出来るっていうんで、毎日何かしらのイベントを催して客数を減らさないようにしてたんだ。
そんなある日、大型連休を前にして家族連れをターゲットにした『わくわくお楽しみ袋』って企画をすることになった。
内容は子供向けのおもちゃとお菓子詰め合わせ、それにラップや洗剤等の日用品が入ったお楽しみ袋を、一家族に付き一袋で先着20組にプレゼントするといったもの。
その他にも色々セールやらイベントが用意されていて、実施日当日になって人手不足で販促課の俺と後輩まで駆り出された。
開店一時間前になり、後輩がお楽しみ袋の整理券の確認をしだした。
自動的に俺が外に並んでるお客様の誘導とその日のお買い得品が書かれたチラシ配りをすることになった。
チラシを持って外に出ると、開店一時間前にもかかわらず既に30人くらい並んでいた。
お楽しみ袋を貰えるであろう20組のお客様のほとんどは子供連れで、企画的には成功したのかな?なんて思いながらチラシを配ってた。
チラシを配り終え、お買い得品の説明も終わり、一番前に並んでいた父子家庭である親子と楽しく雑談していた時だった。
突然、濃い化粧をした太めのオバサンが俺の所にカツカツ歩いてきた。この時既に開店の10分前だった。
オバ「ちょっと良いかしら」
俺「はい?なんでしょう?」
最初からかなり高圧的な言い方をされてちょっとムッとした。
オバ「ここの社長さんにね、今日ここで色々プレゼントくれるって聞いたのだけど」
俺「はい、お楽しみ袋ですね。残念ながら、先着20名様までなのですよ」
そう言うとそのオバサン、ちょっと困ったような仕草をしつつ
オバ「そうらしいのよね?だから、とりあえずココ(先頭)に並ばせてね」
とか言い出した
な、何言ってんだコイツ…?とか思いながら、社長の知り合いっぽいので丁重に断ろうとしたんだ
俺「いえ、あの、並んでるお客様が…」
オバ「ダメなの?」
俺「はぁ・・・1時間も前からお待ち頂いているのでちょっと・・・」
そこまで言うとオバサンちょっと切れたのか、かなり強い口調になってきた
オバ「あのねぇ。私はね、お宅の社長さんにこういうのがあるって聞いてわざわざ来てやってんのよ?」
俺「はぁ・・・」
オバ「それをなに?並んでる人が居るからダメですって?何度も言うけど、わざわざ来てあげてるのよ?」
オバ「ちょっとくらい融通利かせてもいいんじゃないの!?」
正直、かなり頭に来たけど、社長のお客…しかも結構親しそうな人で、俺もかなり困り果てた。
後輩に救いを求めようと店内を自動ドア越しに見ると、後輩意味も無く後ろ向いて整理券を何回も数え直してやがる。
えーと…うーっと…と言葉に詰まっていると、一番前に並んでいた親子の6歳になる男の子がそのオバサンに話しかけた。
男の子「ねぇねぇ、あのね、よこはいりはダメなんだよ?」
ニコニコしながらそう話す男の子にオバサン大激怒。
うるさい!大人の話に首つっこまないで!子供は黙ってなさい!って大声で子供を罵倒し始めた。
これには男の子の父親も黙ってない。子供になんてこと言うんだ!とこれまた大声でオバサンに噛み付き始めた。
オバ「親ならちゃんとしつけしなさい!人の話に横槍入れるクソガキなんて立派な大人になれないわよ!」
父親「あなたのしてる事が子供から見てもおかしいから子供にさえ注意されたんでしょう!?ちょっと自己中心的過ぎませんかね!」
オバ「あなたには関係ないでしょう!?他人の関係ない事にいちいち首つっこんで迷惑なお節介やくような親を持ってこの子も可哀想ね!」
さっきの雑談で分かった事なのだが、この父親は奥さんが2年前に乳がんで亡くなって以来男手一つでこの男の子を育ててきた人で、「男手一つでも立派に育て上げて見せますよ」っと嬉しそうに俺に語っていた。
そんな人に向かっての先程の発言に、さすがに俺もプッツンした。
俺「お帰りください。」
親子とオバサンの間にズイっと入りオバサンの目を見てそう言った。
案の定、ヒートアップしてるオバサンは、もう何を言ってるのかわからない様な口調で俺を罵倒し始める。
俺「お帰りください。」
これでもかってくらい眉を寄せて、目を見開きつつ今度ははっきりと大きな声で言ってやった。
迫力で勝ったのか、オバサンは俺のネームプレートを凝視して携帯を取り出しつつ駐車場へと消えていった。
男の子は泣き出していて、父親のほうはまだ信じられないと言った表情で子供をなだめている。
そうこうしてるうちに、開店時間になり、その親子を初めとするお客様が次々と店の中に入っていった。
ここで拍手喝采でもしてくれたら少しは気も楽になるのだが、そんな事はあるはずもなく…俺はその日のうちに社長とマネージャーに呼び出しをくらった。
あのオバサンが、店に来たら俺に追い返されたと社長に電話したらしく、「一体どういうことだ!」とか「大事な社客になんてことしたんだ!」とか色々お叱りを受けた。
上司からも罵倒され、人事に始末書を提出しろと言われた。
自宅謹慎かな?と思っていたが甘かった。俺は業務態度に問題ありとして、即日解雇された。
友人や同僚には呆れられ、親には情けない!と罵られた。
でも俺は後悔はしてない。
今でも、店から出るときにお楽しみ袋を抱えて「お兄ちゃんありがとー!」ってニコニコしながら手を振ってくれた男の子の笑顔と、深々と頭を下げてくれた父親の姿を思い出すたびに、俺がしたことは間違ってなかったんだって思えるからだ。
今は無職でこれからまた職探しをしなくちゃいけないけど、不思議と清々しい気分だよ。
コメント