切ない話 Vol.12
親切が嬉しい
阪神大震災のとき、確かニュースで見た話
辛うじて倒壊をまぬがれた八百屋か商店で、
仕入れも大変だったであろう品物を、通常よりかなり安い値をつけて売っていた。
「こういう時こそ助けあわんと」と店主さんはお話されていた。
ほんとに人の親切が嬉しい
母親のことを恥じない子に
俺の娘は今年4歳になるが、嫁は娘を生んですぐに家を飛び出したので、子供には母親の記憶はない。
今まで母親のことはあまり話題にせず避けてきたんだが、
こないだちょっと考えさせられる出来事があった。
仕事の移動中に乗った電車の中でのこと。
俺の隣には、幼稚園くらいの女の子が、母親らしい若い女性と一緒に乗っていた。
途中、駅で片腕のない女性が乗ってきて、俺達の向かい側に座った。
女の子が「お母さん、なんであの人は手ないん?」と、みんなに聞こえる声で
言ったので、俺は一瞬ドキっとして、女性と親子から思わず目をそらした。が、母親らしき女性は慌てることなく、女の子に向かって言った。
母親「いろんな人がいるの。みんなが同じじゃないの。 ○○ちゃんにはおじいちゃんとおばあちゃんがいないでしょう?」
女の子「うん、みんなはおるけど私はおじいちゃんとかおらへんねんなー」
母親「うん、いろんな人がおるけど、おじいちゃんやおばあちゃんがいないのは、 ○○ちゃんのせいじゃないでしょ?」
女の子「うん、違う。あ、△△ちゃんとこはお父さんおらへんねんで」
母親「そうね、でも、それは△△ちゃんのせいじゃないよね」
女の子「うん、違う!」
母親「だからね、みんなおんなじじゃないの。 みんなそれぞれ、持ってるものと、持ってないものがあるんよ。
でもね、持ってないからって、その人は何も悪くないし、他の人と何も違わないんよ」
腕のない女性を含めて、車内に乗り合わせていた人たちはみんな暖かい目でその親子を見守っていた。
思わず目をそらしてしまった自分が恥ずかしくなった。
自分の娘にも、母親のことを恥じない子に育って欲しいと思った。
この電車の親子は、俺に子育ての大事なことを教えてくれた気がする。
プレゼントに応募
ちっちゃい妹がドラマのCDプレゼントに応募した
ちっとも届かないから落選確実。しかし健気に待ち続けて今夜とうとう
「CDどうしたかな…」と悲しそうにしてる。見かねて「買ってやる」と言ったら
届くのを待つと言って提案を拒否。仕方ないので密林で
「オメデトウ!」のメッセージ付きで注文した。数日で届くだろう
アマゾンでの注文なんかしょっちゅうなのに、なんか今回は特別ドキドキする
喜んで貰えたら嬉しい
泣きながら食べた
カーチャンが何食べたいって言うから
俺はクリームシチューが食いたいって言った
カーチャンは辛そうな体でクリームシチュー作ってくれた
凄く美味しかった
昔、味にケチつけてカーチャンの手料理を食べなかったり
皿ごと、ひっくり返したりしたことを謝った
カーチャンはいいんだよって笑ってた
多めに作ったから、ちゃんと自分で暖めて食べるんだよってカーチャンが言った
1日だけの外泊が終わって、病院にカーチャンを連れて帰った
翌朝、カーチャンが死んだ
癌で余命1ヶ月だったのに、心臓発作で、あっけなく逝った
家に帰って、クリームシチューを用意した
約束破って暖めないで食べた
それでも、美味しかった
カーチャン今までゴメンよって謝りながら食べた
カーチャンの最後のクリームシチューを泣きながら食べた
カーチャン、今まで本当にありがとう
空になったクリームシチューの皿に合掌した
小さな可愛い手
うちの娘3才は難聴。ほとんど聞こえない。
その事実を知らされたときは嫁と泣いた。何度も泣いた。
難聴と知らされた日から娘が今までとは違う生き物に見えた。
嫁は自分を責めて、俺も自分を責めて、まわりの健康な赤ん坊を産むことができた友人を妬んだ。
ドン底だった。
バカみたいにプライドが高かった俺はまわりの奴等に娘が難聴って知られるのが嫌だった。
何もかもが嫌になった。
嫁と娘と三人で死のうと毎晩考えていた。
ある晩、嫁が俺に向かってやたらと手を動かしてみせた。
頭おかしくなったんかと思ってたら、喋りながらゆっくり手を動かし始めた。
「大好き、愛してる、だから一緒にがんばろう」
手話だった。
そのときの嫁の手、この世のものじゃないかと思うくらい綺麗だった。
それで目が覚めた。何日もまともに娘の顔を見てないことにもやっと気付いた。
娘は眠ってたが、俺が声をかけるとニタッと笑った。
あれから三年。
娘の小さな可愛い手は上手に動いてる。喋ってる。
コメント