ちょっと切ない話『あの言葉を忘れない』【短編】全5話 Vol. 9|切ない話・泣ける話まとめ

ちょっと切ない話『あの言葉を忘れない』【短編】全5話 Vol. 9|切ない話・泣ける話まとめ

スポンサーリンク

切ない話 Vol.9

 

部屋に小包が届いた

 

何年か前、一人暮らしをしてた時、部屋に小包が届いた。一緒に入っていた手紙に

『○○様 お元気ですか、○○が家を出て半年がたちました。家の中は火が消えたようです
じちゃんも、○○の事をしんぱいしています
早くりつぱな看ご婦さんになって帰って来て下さい。

ばちゃんも元気だから、しんぱいいりません。

○○が元気でりつぱになるやうにばちゃんは毎日仏だんにおがんでいます。

気をつけて、また今度かえって来て元気な顔を見せて下さい。

ばちゃん より』

手紙には、折り目が付いた1万円が同封されていた、農家の嫁の少ない年金で、生活も楽じゃ無いのに…

読みながら、届いた漬物をかじったら…

急に帰りたくなって、婆ちゃんに甘えたくなって、わんわん泣いた。

死ぬ気で勉強して働いて、看護婦になって地元に帰った。

今もその手紙と一万円は大切に残している。

 

 

大盛りラーメン

 

今日珍しく俺は母ちゃんを外食に誘った。
行き先は昔からよく行く馴染みのラーメン屋だった。
俺は味噌大盛り、母ちゃんは味噌並み盛りを頼んだ。
「昔からここ美味しいのよね」って、柄にもなく顔にシワよせて笑ってたんだ。

ラーメンが出来上がると、俺も母ちゃんも夢中で麺をすすってた。
あんまりにも母ちゃんがニコニコしながら食べてるもんだから、
俺もつられて笑っちまったよ。

しばらく経って、ラーメンを食い終わった俺はふと母ちゃんの方を見たんだ。
ラーメンの器に浮かぶチャーシューが一枚、二枚、三枚・・。そのチャーシューを捲ると麺がまだ沢山余ってた。
母ちゃんは俺の方を申し訳なさそうに見て、「ごめんね、母ちゃんもう年だから。ごめんね」と繰り返してた。
「んなもんしゃーねーべ」と言うと、俺は母ちゃんの残したラーメンをすすった。
そういやガキの頃、よく無理して大盛り頼んで、結局食べきれなくて母ちゃんに食ってもらってたっけ。
いつの間にか立場も逆転。あんなに若かった母ちゃんの顔も今じゃシワだらけで、背丈も頭一個分違う。
そのシワの数程今まで散々迷惑掛けたんだろうなって思うと、悔しさと不甲斐なさで涙が出てくる。
母ちゃん、こんな俺を今まで育ててくれてありがとう。

俺、立派な社会人になるわ。

 

 

あの言葉を忘れない

 

小学生のとき、少し知恵遅れのA君がいた。
足し算、引き算の計算や、会話のテンポが少し遅い。でも、絵が上手な子だった。
彼は、よく空の絵を描いた。抜けるような色遣いには、子供心に驚嘆した。

担任のN先生は算数の時間、解けないと分かっているのに答えをその子に聞く。
冷や汗をかきながら、指を使って、ええと・ええと・と答えを出そうとする姿を周りの子供は笑う。N先生は答えが出るまで、しつこく何度も言わせた。
私はN先生が大嫌いだった。

クラスもいつしか代わり、私たちが小学6年生になる前、N先生は違う学校へ転任することになったので、全校集会で先生のお別れ会をやることになった。生徒代表でお別れの言葉を言う人が必要になった。先生に一番世話をやかせたのだから、A君が言え、と言い出したお馬鹿さんがいた。お別れ会で一人立たされて、どもる姿を期待したのだ。
私は、A君の言葉を忘れない。

「ぼくを、普通の子と一緒に勉強させてくれて、ありがとうございました」
A君の感謝の言葉は10分以上にも及ぶ。水彩絵の具の色の使い方を教えてくれたこと。
放課後つきっきりでそろばんを勉強させてくれたこと。
その間、おしゃべりをする子供はいませんでした。N先生がぶるぶる震えながら、嗚咽をくいしばる声が、体育館に響いただけでした。

 

 

やっと分かりました

 

小さい頃は近所の駄目人間おじさんをバカにしてたっけ・・・。
よれよれの紺のビニールジャンパー、べた付いてそのままよりも少なく見える髪の毛。
猫背。生気のない瞳。ただその存在そのものを見下してたね。
将来自分は絶対に出世するんだって何の根拠もなく思ってたね。
小さい頃からの日々の積み重ねが大人になるまで続いてくなんて夢にも思わなかったよ。
中学生の頃通っていた塾の先生が言ってたな。
「俺はあんまり頭良くないから法政にしか行けなかったんだ、ははは。」
クラスのみんなで大笑いしてたっけ。あの内何人が法政以上の大学に行けたというのだろうね。

毎日会社に通って夜遅くまで働いてるお父さんがいかに大変で偉大かって、やっと分かりました。
転職を繰り返して人に馬鹿にされて初めて分かりました。
生きるって本当に大変。何をやっても後悔が待ってるもんね。特別じゃない。
自分は特別な人間でも何でもないんだって、20代後半になってやっと分かりました。

あの頃、白い眼で見てしまったおじさん、ごめんね。
あなたのぶんまで生きようと思います。
でも、時間が必要だったことだけは分かって欲しいんだ、おじさん。

 

 

価値がさがるから

 

テレビのロケをしていた江頭にサインを頼んだら
マジックがおかしかったらしくきれいに書けなくて、

そうこうしていたら江頭の出番が来て呼び戻されてロケに戻って行ったんだけど、
もらった人はそれでもすごく嬉しくて興奮していたらしい。

そして、ロケが終わった後、プロデューサーが来て一枚の色紙をくれて、
そこにはめちゃイケのレギュラー全員のサインが書かれていたそうだ。
江頭が頼んでみんなにもらったらしいのだが、

色紙には江頭のサインはなく、
その理由は「自分がすると価値がさがるから」らしい。
そんなことないのにね。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
切ない話
kaidanstをフォローする

コメント

error: Content is protected !!