『逆吸血鬼と合わせ鏡』【逆吸血鬼シリーズ – 3】|洒落怖名作まとめ

『逆吸血鬼と合わせ鏡』【逆吸血鬼シリーズ - 3】|洒落怖名作まとめ【ホラーテラーシリーズ】 シリーズ物

 

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逆吸血鬼シリーズ 【3】

 

 

逆吸血鬼と下水処理場跡

 

逆吸血鬼というあだ名は、俺が夜の暗闇やひどいときは昼間の暗い影にすら怖がって近づこうとしないところから由来しているが、その反応が面白いのか滑稽なのか知らないが、よく友達やクラスメイトに引っ張られ森とか廃墟とかに行かされたことがよくある。

俺としてはこのあだ名は少しでも早く返上したかったから、怖くても誘われれば断れなかった。
仮にもし断ろうもものなら、「逆吸血鬼(笑)」とかいわれるのは必死。
もっと酷くなれば、付き合いの悪いやつ、として虐めの対象にされる可能性もある。
子供の世界も面倒なのである。
もっとも行った先で、いつも死にそうな顔をしているから「横井は光が完全になくなると灰になる」説の信憑性がさらに高まり、逆吸血鬼としての地位は磐石のものになっていたなんて当時は思いもよらなかった。

 

誰でも子供のころからあだ名というのはあったと思う。それも一つではなく複数。
逆吸血鬼はそんな複数のあだ名の中の一つで、俺からすれば他人には絶対にばれたくないあだ名の一つだが、こういう話をするときはこのあだ名は欠かせない。
前述した通り、心霊スポットとかにいく時によく使われるあだ名であることもそうだが、この異常な恐怖心が時に救ってくれたこともあるからだ。

「おい、逆吸血鬼」
放課後、家に帰ろうとして呼び止められた。普段は俺のことを横井と呼ぶやつである。
「何?」
だからこのあだ名で呼ばれるときは、碌なことがないと知っているが、此処で逃げるわけにも行かないから返事をした。
「山下りたところにある下水処理場を探検しようぜ!」
やっぱり、としか言いようがない。
下水処理場とは家のすぐそばにある5年位前から活動を停止していた廃墟のことである。
当時は機能をほかの施設に移し、公園にする計画があったそうだが予算の関係で当時そのままの状態で未だに放置されている。

「もちろん行くよな?」
もちろん行くに決まっている。

そのときメンバーは俺を含めて4人。
家にランドセルを置いた後、下水処理場の入り口で待ち合わせることになった。

 

まず下水処理場に一番近い所に家がある俺と、通学路途中の家がある友人の正人が先に着いた。
次についたのがクラスのガキ大将的存在とその腰巾着だが、プライバシーの問題があるので、ジャイアンとスネ夫ということにしておく。

ジャイアンが入り口に到着し、ようやく探検を開始する。
とはいえ、人通りの多い入り口から入るわけではない。
まず、グルリと下水処理場の裏に回りそこにある入り口から中に入るのが近辺の子供たちの公然の秘密だった。

当時は格好の遊び場であった此処は、たまに違うグループが先に入っていることもあったが今日は俺たちが一番乗りだった。
かつての社員寮跡は建物がつぶされて広い草原となっており、近所に公園がなかったので、みんなはそこでボール投げをしてよく遊んでいるのだ。
本当は不法侵入もいいところなのだが、予算の関係で公園にできなかった負い目があるのか、たまに来る職員みたいな人に見つかっても建物には近づくなといわれるだけで、草原でのボール遊びは認めていた節がある。

だが、今回は違う。
その近づいてはいけない建物に近づこうというのだから。
当然、俺は法律的、経済的に反対した。

「びびってんのか?逆吸血鬼(笑)」
「びびってねえよ!危険だし、見つかったらお前だけじゃなく皆怒られるだろが。ボール遊び禁止になってもいいのか?」
「今日は職員こねーよ。知ってるだろ?」

知っている。目の前に家があるのだから。
ジャイアンもそれをよくわかっている。正人はこちらが不利だと味方しない。スネ夫は言うまでもなく。
結局3対1で押しきられることになった。

ちょっと入るだけ、危なそうならすぐ引き返すこと。
この二つを条件に俺は承諾した。
ジャイアンがまず先頭で建物の中に入る。
次に正人、その後ろに俺、そして俺を逃がさないためにスネ夫が最後に建物に入った。
下水処理場の建物の中は、保存状態がよく、物がない以外は稼動中とまったく変わらないようだった。

ただ、長年の放置のせいでガラスなどが一部割れており、そこから木の葉が入り込んでいたりするところが廃墟らしい。
「おい知ってるか?」

 

研究室みたいな一角で、ジャイアンは立ち止まる。
廃墟なので電灯はついておらず、あるのは部屋のドアの小さい窓から入る明かりだけという中で、わざわざ止まったのに悪意を感じた。

既にこの時点で顔は真っ青になっており、正人やジャイアン達の手前、プライドだけで平静を保っていられるような状態である。

「ここが何故閉鎖されたのかという理由を」
「知るわけねーだろ!」
恐怖を紛らわすためにわざと大声で答えた。

だけどそれは他人から見たら強がりなのは明らかなようで、ジャイアンはその様子に満足げだった。
「ここでは昔、」

「人死があったらしいね」

わざとらしく言葉をつなげたいたのはスネ夫だった。
人死・・・・・・そんなわけない。

ここの閉鎖理由は機能を別の場所を移転したからだ。それ以上でもそれ以下でもないだろうと。
「じゃあ、何故機能を移転しなければならなかった?別にこのままでもよかったじゃないのか?」
「移さざるを得なくなる理由があったんだよ。そうとしか考えられない」
「それが人死だって?」

 

スネ夫は語り始めた。
ここでは昔ある職員が水質調査のために、水槽の水を取ろうとして誤って足を滑らせたらしい。
しかもそこは水を攪拌するために機械が作動していた。
気づいた職員が慌てて機械を緊急停止させたが、手遅れだった。

職員は機械に巻き込まれバラバラになった。
後に遺体の殆どは回収されたのだが、何故か右腕が見つからない。
右腕は汚泥と区別できないくらいバラバラに分解された。

そう結論付けられた。
そしてその日以来、機械の故障が頻繁に発生するようになる。
職員たちの間に死んだ職員のことがささやかれるようになり、ついに下水処理場の閉鎖を決定的にした事件が起こる。
それはいつものように機械が故障した日のこと、その機械を管理していた職員が原因を探るために水槽に近づいた。

 

その時、水槽から伸びた右腕が突如職員の手をつかみ水槽に引きずり込んだ。

そして故障していたはずの機械が突然動き出し、その職員はバラバラにされた。
二人もの人死を出したことで、警察のメスが入る。
その結果、市会議員と企業との癒着が発覚し、そのせいでこの事故は有耶無耶になったのだ。
その機械は今でも放置されているのだという。

「その機械は実はこの建物の地下にあるという話だ」
スネ夫の話は実に巧みだった。
自分にもその話の才能が10分の1でもあればいいと思う。
その話は、与太話だと分かっているはずなのにこの下水処理場の雰囲気もあいまって、鬼気迫る臨場感があった。

正人も、これが嘘であるというのは分かっているはずなのに思わずつばを飲み込んだ。
ジャイアンですら、俺を怖がらせるための話のはずなのにビビっていた。
「とと、言うわけだ。こ、これからそこに行くつもりだが、ももちろんついてくるよな?正人も逆吸血鬼も」
ジャイアンが俺を逆吸血鬼と呼ぶときは暗に逃げるなよといっているに等しい。

その話だけでもう今すぐ死にたくなっていた自分はうなずくことはできない。
無言を肯定と受け取ったのか、ジャイアンは恐る恐る歩いてゆく。
正人がそれに続き、スネ夫に背中を押され俺もようやく歩き出す。

 

やがてその地下に続くという階段があるドアの前にたどり着く。
どうやらジャイアンとスネ夫はあらかじめ建物の中を歩き、その目星をつけていたらしい。
すでにそこは窓からの光も差さない場所で、ジャイアンが持って来ていたライト以外には光が存在しなかった。

俺はというともうライトの光を見ること、もうそれだけに意識を集中している状態。
それ以外はどうでもよかった。

だから、ライトの先に「非常階段」と書かれていたのをはっきりと覚えている。
「おい、逆吸血鬼。お前があけろ」
いきなりの指名。
無我の境地に達していた俺にその言葉はすんなり入り、まるで幽鬼のようにフラフラとドアの前に立ち、ノブを回した。
だが、その地下に続くはずの階段は水の底に沈んでおり、どう見てもいけそうな感じではなかった。

「うわああああああああああ!!!」

 

いきなりジャイアンが叫んだ。

驚いて振り向いた先で、ジャイアンの右手にあったライトが床に落ちてゆく。
もし、もし床に落ちた衝撃でライトが消えたら?
真の暗闇、自分が最も恐れるもの。
その発想は俺に不思議な力を与えた。

時間がゆっくりになった。
俺はすかさず飛び出し、ヘッドスライディングの要領でライトを手に取り、起き上がった。
光になるものを持っていれば心はだいぶ落ち着く。
「どうしたんだよジャイアン?」
そういったのは正人である。

ジャイアンもスネ夫もまるで幽霊を見たかのように、ドアの向こうを見つめていた。
だが、光に照らされた先には水面が移るだけでほかには何もない。
「違う、違うんだよ。そんなつもりはなかったんだ」
ジャイアンは訳の分からないことをつぶやいている。
スネ夫も壁に張り付いて息を荒くしていた。
ここに居ても仕方ないし、何時までも居たくなかったので、外に出る。

 

建物の入り口でジャイアンとスネ夫はようやく落ち着いたらしく、ポツポツと語りだした。
「実は昨日あそこに行ってたんだ。その時はあんなふうにはなってなかった」
「階段が暗闇の向こうに続いていて、その先は行き止まりだったんだ」
だから、一つのいたずらをひらめいたそうだ。
そこに俺を閉じ込めたらどんな反応をするのか。
そこはライトがなければ、何もない暗闇。
そんなところに逆吸血鬼を閉じ込めたら・・・・・喚くだろうか、叫ぶだろうか、きっとドアを激しく叩くだろう。


そんな反応を楽しむのが今回の探検の本当の目的だった。
「はじめは横井がドアを開けた瞬間に背中を押して閉じ込めるつもりだったんだ」
つまりこいつらはあの時、俺の背中を押そうとしてたのだ。
そのために、俺にドアを開けさせた。

そしてその直前に気づいたのだ、地下が水で満たされていることに。
暗闇で、水が満たされた地下に服を着ている小学生が背中を押されて飛び込んでいたら・・・・・・結果は火を見るより明らか。
「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。ごめんよお」

 

「済んだことだし。実際にしたわけじゃないんだから、いいよ」
俺は何故か不思議と怒る気にはなれなかった。
それは予想外の事態に二人がかわいそうなくらいに怯えていたからだろうか。
特にスネ夫の怯えようといったら、普通ではない。
たしかに悪戯のつもりが危うく殺人犯になりかけていたのだから、当然といえば当然なのだろうが。

 

ジャイアンと一緒に座っていたスネ夫は建物の中に居た時の俺以上に顔を真っ青にして座っていた。
「スネ夫どうしたんだよ?」
その様子があまりに気になったので俺は声をかけた。
「僕が話したことは嘘だったはずなんだ」
スネ夫はポツポツと語りだす。
何かが変だ、直感でそう思った。
「全部僕が思いついた作り話で、自信はかなりあった」
「そうだな、俺は最初からちゃんと分かってたよ」
俺はうなずく。
「嘘のはずなのに・・・・・・でも見たんだよ」

水の中に人がいるのを

 

「水が張ってあるという時点でおかしいとは思ってた・・・・・・」
スネ夫は顔を上げた。
建物の奥をじっと見つめていた。

「またまたそんな与太話かよ。今度は信じないからな」
内心ヤヴァいくらいビビリながらも、自分は平静を装った
恒例のスネ夫トークなんだと思った。
スネ夫は本当に話し方がうまい。
何もこんなときにそんな話をしなくてもいいじゃないか。
それも計算づくなのだろう。

だから最高に怖かった。
本当に100分の1でもあればいいなと思うよその才能。
「横井、実は俺も見た」

 

俺は油を差し忘れた機械のように後ろを振り返る。
正人がスネ夫と同じくらい真っ青な顔をしていた。
「自分もはじめは勘違いかと思ってた。勘違いかと思ってたんだけど、スネ夫も見たのならあれは勘違いじゃなかったんだ・・・・・だって」

 

水が右手を形づくって水面から出てきてたんだよ

「・・・・・・」
それは初耳だった。
少なくとも、

え?でも俺はそんなの見てないぞ・・・・・・
何だよ?皆で俺をびびらせやがって!
もう騙されないぞ、そんなのあるわけねえよ。
ここはただの下水処理場なんだからな。
いい加減にしないと怒るぞ。
絶対確かめになんか行くもんか!!

 

俺はそう思ってた。
「え?でも俺は・・・・」
そう口に出そうとして

ゴボン

という音、たとえるなら水の底から巨大な気泡が上がって表面で弾けたかのようなそんな音が聞こえた。
建物の廊下の先、例の地下室への入り口から。
「・・・・・・」
聞き違いようがない。
全員が一斉に振り向いたのだから。
俺たちは顔を見合わせて、その後全速力で下水処理場から脱出した。

 

嘘から出た真、瓢箪から駒、そういう印象があった出来事。
本当にそんな噂なんて存在してなかったはずなのに、本当になったせいであっという間に広がった。
それ以来、しばらくの間小学生の間ではその地下室の場所を突き止めることが流行になった。
ところが、自分たち以外であの部屋を見つけた人は未だに居ない。
代わりに新しい噂が次々と生まれた。
曰く、下水処理場にいた番犬の霊が生前と変わらないま

ま下水処理場を守っているとか、右腕が本体を求めて夜な夜な徘徊しているとか。
実際にそれらを確認したわけではないが、俺たちの間ではそれらが下水処理場で本当のことになっているように思えてならなかった。
だから俺たちは噂が収まるまで決して下水処理場には近づかなかった。
俺たちだけが下水処理場では嘘が真実になると知っているために。

 

俺たちが中学生のとき、その下水処理場は取り壊されることになる。
原因は火事だった。
誰かが下水処理場に侵入し、タバコを消し忘れたのだ。
ボヤ騒ぎから数日後、解体業者がやってきて3ヶ月もたたないうちにそこは更地になった。
高校生になったときには巨大なホームセンターになっていた。
昔の面影はもうどこにもなく、店の中で客が冗談半分に話したことが、本当のことになるはずもない。

 

そういえばある日久しぶりに会った友人からこんな話を聞いた。
あの下水処理場の火事の犯人は未だに捕まっておらず、そして今日が時効だというのだ。
このときになってようやく、俺は下水処理場との因縁を断ち切れた。
放火の犯人の時効なんてどうでもいい話だが、あの下水処理場との関係を断ち切ってくれた点については感謝したほうがいいのかな?と、そう思った。

今その犯人はどうしているのだろう?
俺はホームセンターの駐車場にあるマンホールの前に立っていた。
そこは昔、例の地下室への入り口があった場所
「お前は知っているのか?」

ゴボン

 

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