泣ける話 短編 全5話
バレバレなんですよ
今日わざわざ母が県をまたいで私のところに愚痴りに来た。
なんでも父と一緒に健康ランドに行ったら珍しく父がへべれけになり
(お酒つぎまくったのは母らしいが)、
隣の見知らぬ親父さんに絡んだらしい。
曰く、
「うちの妻は凄いやさしいんですよ」やら、
「今は湯上りだから特に色っぽくてかわいいんです」やら、
「僕は妻のためならあと30年働けって言われてもかまわないって
いつも思ってるんです。大好きなんですよ」やら・・・
母は赤面しながら、ただただうつむいてたらしいが、
幸いその隣の親父さんもへべれけに酔っ払ってたので
特に変な空気にはならなかったらしい。
母「もうあの健康ランド恥ずかしくて行けないわ(`Д´#)」
私「そだね」
母「お父さんいい人なんだけどお酒飲み過ぎると変な性格になるから嫌(`へ´) 」
私「はいはい」
もうね、愚痴とかいいながらノロケ話にしか聞こえないんですよ。
しかも、せっかくだから泊まってく?って聞いたら
来る途中で買ってきた松坂牛(2人前)と地酒を指差して
「お夕飯までに帰らなきゃ・・・」とか。
めちゃくちゃルンルンじゃないですか。
内心がバレバレなんですよ。
あのね、
こちとら直接お父さんの愚痴を話したいって電話もらったとき
「じゅ、熟年離婚か!?」って本気で心配して夜眠れなかったんですから。
・・・まぁ幸せそうで何よりだよ、お父さんお母さん。
私達の家もあなた達みたいな家庭作れるようにがんばるよ。
あの夏
大昔は「8月上旬は30度を超える」のが夏だったのだ 朝晩は涼しかった
8月の下旬にはもう夕方の風が寂しくて秋の気配だった
ドロドロになって遊びから帰ってくるとまず玄関入ったとこで台所のお母さんから叫ばれる
ハイハイしてお風呂場行きなさーい!
全部脱いでお風呂入ってる間に着替え(薄い綿の簡単ワンピとパンツ、以上)出してもらう
出るとテレビをお父さんが見てる。枝豆と汗かいた瓶ビールと首振ってる扇風機
食後にチューチューアイスを兄弟で半分こ
8時だョ!全員集合派だった
蚊帳を8畳間にお父さんが吊って、マンガ本を抱えて入る
さっと入らないと蚊が入るので忍者のように
読み終わっちゃって次のを取ってきたいけどもう眠い
電気消すと網戸の外がほんのり明るい夏の夜で、蚊取り線香の先っちょが赤く光ってる
のそっとお父さんが入ってきて兄弟の向こう側に寝る 手を振ると振り返す
だいぶ経って扇風機が止められてお母さんが自分の隣に入ってくる
うちわを持ってて扇いでくれる
お母さんの方が寝つきがよくてうちわがコトと落ちる
お父さんが起き上がってうちわを取って、扇いでくれる
それが止まるのを起きて見られたことは一度もなかった
お父さんお母さんがいた頃の夏
兄弟とこの手の思い出話をしたことはまだない 泣いちゃうから
じいちゃんとばあちゃんになったら冷たい麦茶飲みながら話してみたい 夏は楽しかったね
弟の物語
私の家族は父、母、私、弟の四人家族。
弟がまだ六歳の時の話。
弟と私は十二才離れてる。凄く可愛い弟。
だけど遊びさかりだったし家に居れば父と母の取っ組み合いに巻き込まれる。
だからほとんど家には帰らない日々だった。
弟は毎日恐く淋しかっただろう。
ある日家に帰ったら、お酒ばかり飲んで人の顔を見れば殴る父が座って一冊のノートを見ながら泣いていた。
私もノートを覗き込んだんだ。
そしたらね父が急に「ごめんな」って言うの。
よく見たら弟がまだ汚い字で物語を書いてた。
僕には楽しいパパ、優しいママ、いつも笑顔のお姉ちゃんがいる。
いつも皆でおいしいご飯を笑いながら食べる。
毎週日曜日は家族でお出かけをする。
僕は皆にいつもいい子されて幸せいっぱい。
毎日笑顔がいっぱい。
そんなような事が沢山書かれてた。
普通なら当たり前なのに私の家では出来ていなかった事が想像で沢山かかれてた。
紛れもなく弟の夢が描かれてた。
父と泣いて読んだ。
母がパートから帰ってきて母も読み泣いた。
その日の夜は揃って鍋をした。弟は初めての体験。
凄い笑ってた。
父も母も私も照れながら
笑った。
それから
少しづつ弟の物語は現実になった。
今では笑顔沢山の家族になりました。
弟の物語はあれ以来書かれなくなった。
ブーケトス
最後にお父さん、恥ずかしそうに
「結婚式ってどんな服を着ればいいんだ?もう何年も服を買ってないからわからないんだ」って。
夜、娘さんに電話してその日のことを話したら娘も新郎も号泣。私も号泣w
数日後、娘と私とお父さんとで服を見に行ったよ。
で、結婚式は無事に開かれて大成功!かと思ったんだけど、
ブーケトスで娘がブーケを投げない。
??? なにこっち向いてきょろきょろしてるの?と思ってたら娘、すたすたと歩いてきて
私に手渡しでブーケをくれたの。まわりの人たちは拍手。
どうやらお2人とお父さんは結婚式に至るまでのことや私のことを参列者に話してたみたい。
もう・・・本当にあれは嬉しかった。涙が止まらなかった。
今でもあの時の体の震えと彼女の笑顔が忘れられない。
正直、出過ぎた真似なんじゃないか?とか自分のやってることは正しいのか?とか
考えてしまうこともあったんだけど、
たくさんの人が「いい結婚式だった」と言ってくれたから良いや。もうそれだけでいい。
今年、2人から「赤ちゃん生まれました」の年賀状が届いたよ。
赤ちゃんを抱いたデレデレのお父様の写真付きで。
家族
私には父と母と中学一年生の弟がいて、私が高二の頃まではごく普通で平凡な生活を送っていた。
多分、私が高三になった頃から両親がお互い何も話さなくなっていた。
気付いたときには、家族みんなで笑って食事することも、家族みんなで寝ることも、みんなで旅行に行くこともなくなってた。
一番大好きだった場所が、いつの間にか嫌いになって、家にいるだけで息がつまるようになり、自分でも知らないうちに親にも気を使うようになっていた。
そんな毎日が続いて、今までありえなかったことが「当たり前」になってしまい、そんな家族が嫌で私は家を出て彼氏の家に泊まったり、友達とオールしたり。
しばらく家には帰らなかった。
そんなある日、いつもなら何も言わない母から「帰っておいで」のメール。
とりあえず理由を聞いた。
返ってきたメールを見た瞬間…真っ先に目に入ったのは「離婚」という二文字。
今まで考えたことなんかなかった親の離婚。
いつか家族が元に戻る日が来るのを、勝手に信じていた自分が情けなくて…。
悔しくて、悲しくて、ひたすら涙があふれた。
やっと落ち着いてから家に帰ると、私以外の家族がリビングのテーブルを囲んで無言のまま座っていた。
それは、つい半年前の当たり前だった光景。
ただ何かが違うだけなのに…。
私は何も言えずに、ただ立っているのが精一杯だった。
しばらくすると母が口を開き、私がいつも座っている椅子を指差して優しい声で「しほ」と言った。
私は、震える声で「…はい」と返事をし、椅子に座った。
何秒か沈黙が続き、自分の心臓の鼓動と時計の秒針だけが、静かに聞こえていた。
緊張感の中、ようやく父が口を開き
「…ごめんな」
と呟いた。
そのあと母が言った言葉は
「二人とも、お父さんとお母さん、どっちにつく?」
もうだめなんだ…
(どっちかなんて選べない。私にとってお父さんとお母さんは二人で一つなんだよ…?選びたくないよ…)
必死で涙をこらえて
心の中で泣いていた…
そして見つけた私の方程式は
『2-1=0』
2から1を引いちゃうと…もう何にもなくなっちゃうんです。
だから私はどちらも選びませんでした。
と言うより、選びたくなかったんです。
毎日、一生懸命働いてくれたお父さん。
私を産んでくれて、18年間育ててくれたお母さん。
自分には、そんな二人を選ぶ資格なんかないと思いました。
結局、戸籍上は母の方になったけれど、私は彼氏と同棲することにしました。
今では月に2、3回程度ですが、父とご飯を食べに行ったり、母と買い物に行ったりしています。
でもやっぱり寂しくて、彼氏や友達の前だけは我慢しきれずに泣いてしまうこともあるけど、両親が幸せなら私はそれで充分だと思いました。
家族は、離れ離れになっても絶対に途切れることのない大きなものなんだなぁと改めて実感することができました。
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