ほっこりする話 短編5話【6】
先生が手をつないで歩いてくれた
私が生まれてすぐ両親は離婚し、母の実家で祖父母、母と暮らしていた。
母は私を育てるため、毎日毎日遅くまで残業していて、朝しか顔を合わせない日もたくさんあった。
休日は母は疲れて遅くまで寝ていて、どこかへ連れて行ってもらった記憶もほとんどなかった。
父兄同伴の遠足や運動会も、友達みんながお母さんと嬉しそうに手をつないでいるのを見てやりきれない気持ちになった。
私は手のかからない子供だったと思う。
自分の感情を抑えて「会社休んで参観日に来て。」なんて無茶を言ったことなんかなかった。
一人遊びも上手だった。
すべてに遠慮して幼い頃から敬語を使う子供だった。
小学校3年くらいのことだった。
遠足に行った後、作文を書くように言われた。
「五感」をテーマに書けと言われたんだと思う。
先生は、視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚を説明してくれた。
私はその中で触覚というものをテーマに選んだ。
遠足で山道を歩き学校までの道、皆2列になって手をつないで歩くわけだが、私は列の一番後ろを歩いていた。
生徒の数が奇数だったため、私は一人で歩いていたのだがその時、
先生が来て、私と手をつないで歩いてくれた。
いつも先生が手をつなぐのは、もっと手のかかる子ばかりで私はいつも羨ましいと思っていたのだと思う。
なんだかすごくドキドキして嬉しくて、涙で前がよく見えないまま学校に着いた。
作文には遠足の帰り道の先生の手が暖かかった、と書いたと思う。
私の作文を読みながら先生が
「手くらい、いつでもつないであげるのに。」
と震える声で言って、私の手をもう一度つないでくれた。
友達たちは、私の作文に何が書いてあったか気になるみたいで私に聞いてきたが、振り切ってトイレに走って行ってまた泣いてしまった。
続けさせて良かった
すごくいい卒団式だった。
うちの息子は小2から世話になってたけど下手っぴで、6年生が10人いるから出場は代打要員。
強いチームなので、誰かが怪我や病気でも試合にはうまい5年生2人が出るばかり。
ちっとも試合にでれなくて正直辞めさせようかと悩んだけど、続けさせて良かった。
式で作文を読んだ時に、
『夏の大会で監督が1度だけセカンドで使ってくれて嬉しかった。だからどうしてもヒットを打って監督の期待に応えたかった。』
と息子が言うと、
監督ぼろ泣きで
『代打ばっかりで悪かったな。それでも腐らずに頑張ったお前は偉い。中学行ってもその根性があったら絶対大丈夫。レギュラーになれよ、今度は負けるな。』
って言ってくれた。
何故かチーム1の活躍選手が貰えるMVPの盾ももらった。
他の6年生が、うちの息子にあげて欲しいと言ってくれたそうだ。
息子よ、かあちゃん泣きすぎて酷い顔だったろーな。
でも今晩くらい泣かせてくれ。
実はいいチームだったじゃん。
野球団よありがとう。
虹の橋
この地上にいる誰かと愛しあっていた動物たちは、
死ぬと『虹の橋』へ行くのです。
そこには草地や丘があり、彼らはみんなで走り回って遊ぶのです。
たっぷりの食べ物と水、そして日の光に恵まれ、
彼らは暖かく快適に過ごしているのです。
病気だった子も年老いていた子も、みんな元気を取り戻し、
傷ついていたり不自由なからだになっていた子も、
元のからだを取り戻すのです。まるで過ぎた日の夢のように。
みんな幸せで満ち足りているけれど、ひとつだけ不満があるのです。
それは自分にとっての特別な誰かさん、残してきてしまった誰かさんが
ここにいない寂しさを感じているのです。
動物たちは、みんな一緒に走り回って遊んでいます。
でも、ある日その中の1匹が突然立ち止まり、遠くを見つめます。
その瞳はきらきら輝き、からだは喜びに小刻みに震えはじめます。
突然その子はみんなから離れ、緑の草の上を走りはじめます。
速く、それは速く、飛ぶように。あなたを見つけたのです。
あなたとあなたの友は、再会の喜びに固く抱きあいます。
そしてもう二度と離れたりはしないのです。
幸福のキスがあなたの顔に降りそそぎ、
あなたの両手は愛する動物を優しく愛撫します。
そしてあなたは、信頼にあふれる友の瞳をもう一度のぞき込むのです。
あなたの人生から長い間失われていたけれど、
その心からは一日たりとも消えたことのなかったその瞳を。
それからあなたたちは、一緒に「虹の橋」を渡っていくのです。
毎週金曜日に必ず休む女性社員
その女性部下は自分にも他人にも厳しく毎日朝早くから夜遅くまで働きます。
笑顔もなく寡黙に働く彼女に近づく同僚はいません。
しかも理由を知らせずに毎週金曜日は出社しないと契約していることに憶測が飛びます。
上司ですら明確な理由は分からないまま、若い男と関係しているかのような噂が流れます。
上司も彼女が若い男にお金を渡しているところを目撃してしまいます。
ある日仕事を放棄するはずの無い彼女が1週間も仕事に来なくなってしまいます。
同僚たちは若い男と何かあったのだろうと実しやかにささやきます。
彼女の家に行った上司は真実を知ります。
突き放す上司の優しさ
彼女は上司に社員証を手渡し、退職しようとします。
仕事に厳しく仲間もいなかった彼女ですが、会社には献身的に尽くしとても有能な人材だったはずです。
しかし上司は彼女を冷たく突き放し、1通の手紙を渡します。
彼女は引継もなく退職していくのでした。
自宅に戻った彼女は持ち帰った私物を整理しています。
ふと上司からもらった手紙を見つけ封を切ります。
それでは感動の動画をご覧ください!
「会社のためにこんなにも一生懸命働いてくれありがとう。私たちは感謝します。そして私は子供たちのため自分を犠牲にしているあなたに感謝したい。」
上司は彼女の家が孤児院だったことを知っていたのです。
彼女は母が亡くなり、孤児院を継ぐために会社を辞めることにしたのでした。
毎週金曜日に休んでいた理由も孤児院を手伝うためでした。
上司が彼女を引き止めなかったのは事情を知っていたためでした。
孤児院では笑顔いっぱいの彼女。
心おきなく子供たちと笑い合えている様子がとても素敵です。
タイでは経済格差がひどく劣悪な生活環境の中しわ寄せが子供たちに向かっています。
彼女が自分のキャリアを捨ててまで子供たちを守るその姿に頭が下がります。
彼女は同僚に誤解されていることは知っていたのでしょう。
上司はきちんと誤解を解いてくれ、更に同僚からも寄付が集まります。
張り詰めていた彼女の心も涙で溶けていくようです。
自分を犠牲にしてまで子供に尽くす女性と、部下を背中をそっと押す上司。
心が洗われる感動の動画でした。
サプライズ誕生日会
俺は入社以来日々ひたすら数値を追い続けてきた
毎日必死に働き、7年経った今では会社からも業績を認められるようになった
何度か昇格をして部下が何人かいる
重要な仕事も任されるようになっていた
今まで仕事第一で嫁には寂しい思いをさせてきていた
今年は結婚して5年目、お互いの誕生日には食事にでも行こうと約束した
俺の誕生日だけど、今まで支えてくれたお礼に嫁が行きたがっていた高級レストランに行くことにした
嫁が電話したら奇跡的に予約が取れたらしい
事前に会社にも伝えていたが、当日も朝早くから同僚や部下達に今日は早く上がると伝えていた
しかし夕方頃、外出中の部下から信じられない電話が入った
1番の取引先に対してあり得ないミスをしたらしい
すぐに取引先の部長さんと電話で話をしたが、普段温厚な方がもの凄い勢いで激怒していた
とにかく取引先の工場に行って責任者に謝罪をしてから本社に来てくれと言われた
急いで工場に向かい、落ち合った部下と共にとにかく謝罪した
取引先の部長さんと詳細を話していたからなのか、工場の責任者とはすぐに話が終わった
取引先の本社に向かう途中で嫁に連絡を入れた
「大変な状況みたいだから仕方ないよ。レストランの予約はキャンセルしておくね。」
嫁は俺の立場を分ってくれていたけどやはり残念そうだった
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、それどころではなかった
受付で第一会議室へと案内された
1番端にある、1番大きい会議室だ
取引先の主要社員が数名待機しているのだろう
ドアの前で一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた
さっき聞いた部長さんの激怒した声が思い出された
とにかく謝るのみだ
俺はノブに手をかけ、そっとドアを開けた
ドアを開けた瞬間、俺の目には想像とまるで違う光景が飛び込んできた
俺の頭の中は真っ白になった
完全にフリーズしている
パン!パン!パン!
「○○課長!お誕生日おめでとうございます!!!」
クラッカーを鳴らしたのは、会社にいるはずの俺の部下達だった
いつもお世話になっている、激怒していたはずの取引先の部長さんもゆっくりと俺に近づいてきた
「○○さん、誕生日おめでとう」
見慣れた温厚な普段通りの笑顔だった
俺は何が何だかわからない状態となった
一生懸命頭の中を整理しようとしても、混乱している
会議室であるはずの場所はパーティー会場のようになっていた
未だ俺1人呆然としていると、聞きなれた声がした
「あなた、お誕生日おめでとう」
ついさっき連絡を取った嫁がそこにいた
俺にとって人生初めてのサプライズ誕生日会だった
全てが計画されたものだったのだ
俺の部下が提案してお世話になっている取引先の部長さんと一緒に計画を立てたらしい
嫁にも電話をして協力してもらったのだと聞いた
高級レストランの予約電話も本当はしていなかった
全員、共犯だったのだ(笑)
怒られる緊張感と会社に多大な損害を出してしまうかも知れないという恐怖から解き放たれてホッとした俺は、みんなからの止まないおめでとうコールを受けて人前だというのに泣いてしまった
こんな大それた計画を立てて心配をさせた部下を怒る気持ちもあったけれど、みんなからの暖かいお祝いを受けて良い部下を持って幸せだと思った
取引先の広い会議室で数十人に祝ってもらった誕生日は、俺にとって一生忘れない思い出となった
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