『若年性アルツハイマー』など短編5話【28】 – 感動する話・泣ける話まとめ

『若年性アルツハイマー』など短編5話【28】 - 感動する話・泣ける話まとめ 感動

 

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感動する話・泣ける話まとめ 短編5話【28】

 

 

まだ親孝行してないんですよ

本当は書くべきじゃないのかも知れんが、久々に堪らない思いになった。
一応、医者の端くれとして働いている。
こういう生業だから、人の死に接するのは少なくない。
ちょっと前、診察に訪れた若者に余命宣告をしたばっかりだ。

俺:誠に申し上げにくいのですが・・・。
男:はい。
俺:・・・肺癌です。しかもだいぶ進んでいます。はっきり言います。1年もつかどうかです。
男:・・・ガ、
俺:?
男:ガーン・・・・・・ なんちって・・・。
俺:・・・け、結構余裕ですね・・・。
男:ええ、まあ・・・。
聞けば酒も煙草もやらないというのに、なんとも不憫な巡りあわせであった。
ただ、衝撃的な事実を告げられても、この歳でこれほど冷静なのにも驚いた。
男:ああー、参ったな。
俺:・・・
男:あの、入院とか治療の開始とか、すぐ始めないといけませんかね?
俺:ええ、それはもう。すぐにでも取り掛からないと。
男:うーん。一ヶ月待って頂けないですか?
俺:何かあるのですか?

男:母親が、来月楽しみにしていた旅行があるんです。
俺がこんなんだって知ったら、とても安心して行けないでしょうし。
俺:そうですか。ですが猶予もそうないのが現状です。
男:ですよねえ。参ったなあ。そういや、再来月は父親の誕生日なんですよ。
俺:・・・
男:参ったな、ほんと、参った・・・。時間全然足りないですよ。まだ、親孝行してないんですよ。

段々と声が震えてくる。

男:両親に、いつか生でオーロラ見せてやるって約束したんですよ。
このまんまじゃ、孝行どころか最悪の親不孝者じゃないですか・・・。

他にも、兄弟にああしてやりたかった、友人にこうしてやりたかった、職場で迷惑かける、など、自分の身の上よりも、あくまで周囲への迷惑が申し訳ないと悔やんでいた。
最後の方は泣き崩れてしまった。

こんな状況ですら、他人の事ばかり考えられるような若者が、どうして死を目前とせねばならないのだろうか。
どれだけ体験したって、決して慣れるもんじゃない。
そして、こんな若者一人救えない俺の不甲斐無さに、一緒に泣いてしまった。

 

 

事故に遭遇

数年前、家族旅行の帰り道、大きな事故に遭遇しました。
その事故のせいで私は2本の松葉杖なしには歩けなくなってしまったのです。
私よりましだったものの、父も松葉杖が必要な身体になってしまいました。
思春期には劣等感に悩まされ、死にたいと思ったこともありました。
そんな時、いつも父が慰めてくれました。
父も同じ痛みを知っているから、私の気持ちをちゃんとわかってくれていたのです。
父の愛に励まされ無事大学にも合格し入学式の日、父は私のことを誇りに思うといって涙ぐみました。
そして、入学式を終えて会場からでてきたとき、目の前で、信じられないことが起きたのです・・・

小さな子がひとりで車道へ飛び出しました。
すると、父は松葉杖を投げ捨てて、全力でその子のもとへ駆け出したのです。
私は自分の目を疑いました・・・
父がその子を抱き抱えてもどってくるではありませんか・・・
「お父さん!」
私は驚きのあまり大きな声を出しましたが、父は何ごともなかったかのように、松葉杖をついてさっさと歩いていきます。
「お母さんお母さんも見たでしょう?お父さんが走ったのを!」

母は淡々と答えました。
「驚かないで、聞いてちょうだい。
いつかはあなたにもわかってしまうと思っていたわ。
お父さんはね、本当は松葉杖がいらないの、あのとき、お父さんは腕に怪我しただけだったの。
それでも4年間、松葉杖を使ってきたのよ。
同じ痛みを背負わなければ、あなたを慰めてあげらないといってね」
知らず知らずのうちに涙が溢れてきました。

「泣かないで。
お父さんはね、あなたを慰めてあげられる自分を誇りに思っていたのよ。
さっきは、あの子が車にひかれそうになって、あなたと同じ目に遭うんじゃないかと・・・」
前を歩く父の後ろ姿を見ていると涙がこぼれ落ちてきました。
つらいときは、いつもお父さんのふところで泣きました。
いつも声をあげて泣いていたのは私だったけれど、父は胸の中でもっとたくさんの涙を流していたのかもしれません。

お父さん、お母さん、ありがとう・・・

 

若年性アルツハイマー

今日、旦那の両親から離婚届を渡されました。
「貴女には幸せになって欲しいから。」って。
私の旦那さん、若年性アルツハイマーという病気で、施設に入ってるんです。
勿論、私は離婚する気はないので、丁重にお断りしました。
私の幸せは、旦那の隣で生きていく事。
離婚なんて有り得ない。
記憶がなくなってしまい、ただでさえ孤独な旦那を、離婚してさらに独りにしちゃうなんて、私には出来ない。
もう、旦那の記憶には私も、私との思い出もない。
でも、思い出話をしてあげると、何も言わずに、凄い穏やかな顔で微笑んで聞いてくれる。
話し終わると
「素晴らしいお話をありがとう。」
って言ってくる。
その素晴らしい思い出を作ってくれたのは紛れもなく、あなたなんですよ。
次は私の番です。
あなたの記憶は日々消えていき、残りませんが、1日1日あなたと過ごす時間を、あなたに素晴らしいと思ってもえるようにするから。
記憶がなくても、あなたはあなた。
ずっと愛してますよ。

 

 

私を大学に通わせてくれた母へ

あなたは私を産むまでずっと父の暴力に苦しんでいましたね
私が産まれて時、あなたは泣きながら喜んだんですね
私が一歳の誕生日に、借金を抱えたまま父が自殺しましたね
借金を返すために昼はパート夜は居酒屋で仕事の毎日でしたね
保育園では遠足のおやつは雑穀のおはぎでしたね
小学校の給食費を払えない月もありましたね
修学旅行のおみやげはご当地キーホルダーだけでしたね
中学の制服は親戚のおさがりでしたね
高校のお弁当はいつもご飯に梅干しと海苔でしたね
無理を承知で大学行きたいと頼んだ時、あなたは反論しませんでしたね
ごみ処理場から捨てる予定の参考書をもらいに行きましたね
お金がかかるから私立は受けられず、国立専願受験でしたね
センター試験の前日には初めて特上寿司を食べさせてくれましたね
センター試験に失敗したけど、あなたは最後まで諦めないよう励ましてくれましたね
前期に落ちて、一度私は自殺しかけましたね
あなたは怒ることもなく、ずっと私に謝り続けていましたね
私もあなたにずっと謝り続けましたね
そして私は気持ちを切り替えて後 私はその後も頑張って勉強して、なんとか後期に合格することが出来ましたね
あなたはずっと「おめでとう、おめでとう」と泣き続けてくれましたね
でもあなたは入学の準備の時に急に倒れて病院に運ばれましたね
医者が、癌が全身に転移していてこれから一週間が峠だと告げましたね
私がただただ泣き続けている時にあなたは

「この体の傷や癌の一つ一つが
あなたを育てあげた立派な勲章なのよ」
と微笑みながら言いましたね
あなたは最後まで泣くことも苦しむこともなく、静かにこの世を去りましたね
今私は医者になるために毎日一生懸命に勉強していますよ
あなたの命を奪った癌に苦しむ人々を治療して助けたいから
私が育った環境は決して恵まれてはいなかったけれど
あなたに生まれ、育てられて本当によかったよ

ありがとう、お母さん

 

 

父親としての不甲斐ない

もう10年も前の話妻が他界して1年がたった頃、当時8歳の娘と3歳の息子がいた。
妻がいなくなったことをまだ理解できないでいる息子に対して、私はどう接してやればいいのか、父親としての不甲斐なさに悩まされていた。
実際私も、妻の面影を追う毎日であった。
寂しさが家中を包み込んでいるようだった。
そんな時、私は仕事の都合で家を空けることになり、実家の母にしばらくきてもらうことになった。
出張中、何度も自宅へ電話をかけ、子供たちの声を聞いた。
2人を安心させるつもりだったが、心安らぐのは私のほうだった気がする。

そんな矢先、息子の通っている幼稚園の運動会があった。
“ママとおどろう”だったか、そんなタイトルのプログラムがあり、園児と母親が手をつなぎ、輪になってお遊戯をするような内容だった。
こんなときにそんなプログラムを組むなんて・・・
「まぁ、行くよ♪」、娘だった。
息子も笑顔で娘の手をとり、二人は楽しそうに走っていった。
一瞬、私は訳が分からずに呆然としていた。

隣に座っていた母がこう言った。
あなたがこの間、九州へ行っていた時に、正樹はいつものように泣いて、お姉ちゃんを困らせていたのね。
そうしたら、お姉ちゃんは正樹に、
「ママはもういなくなっちゃったけど、お姉ちゃんがいるでしょ?」
「本当はパパだってとってもさみしいの」
「だけどパパは泣いたりしないでしょ?」
「それはね、パパが男の子だからなんだよ。まぁも男の子だよね。」
「だから、だいじょうぶだよね?」
「お姉ちゃんが、パパとまぁのママになるから。」
そう言っていたのよ。

何ということだ。
娘が私の変わりにこの家を守ろうとしている。
場所もわきまえず、流れてくる涙を止めることが出来なかった。

10年たった今、無性にあの頃のことを思い出し、また涙が出てくる。
来年から上京する娘、おとうさんは君に何かしてあげられたかい?
君に今、どうしても伝えたいことがある。
支えてくれてありがとう。
君は最高のママだったよ。私にとっても、正樹にとっても。
ありがとう。

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