『俺の好きなモンブラン』など短編5話【53】 – 感動する話・泣ける話まとめ

『俺の好きなモンブラン』など短編5話【53】 - 感動する話・泣ける話まとめ 感動

 

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感動する話・泣ける話まとめ 短編5話【53】

 

 

妻を裏切り続けていた

不倫していた。
4年間も妻を裏切り続けていた。
ネットで出会った彼女。
最初は軽い気持ちで逢い、次第にお互いの身体に溺れていった。
幸い、ずる賢く立ち回ったこともあり、
妻には全くばれなかった。
彼女と関係を持った夜、遅く帰っても、
ただにっこりと迎えてくれる女だった。

しかし、そんな関係がずっと続くわけはなく。
最近、彼女から別れを告げられた。
新しく好きな人が出来たとのこと。
まあ、よくある話し。

独身の彼女にそう言われれば、責めることも出来ない立場であって。
ただ「よかったな」と強がりを言い残して別れた。
4年も付き合っていた女と別れるというのは、
想像以上に辛いものだった。
心の中にポッカリと開いた穴は、
容易に埋められるものではなかった。

その寂しさを紛らわすため、
これまで全くかまってやれなかった妻に、
白々しく優しくしたり、
遅くまで思い出話をしたりなんかして。
妻も、結婚後久しく見せなかった笑顔で、
俺の話しに付き合ってくれた。

機械音痴な妻に、携帯メールを教え込んだ。
彼女からパッタリと来なくなったメールの寂しさを紛らわすため。

我ながら、その動機の不純さにあきれながらも、
あまり期待もせず妻からのメールを待った。
ある日のお昼前、携帯にメールの着信音が響いた。

妻からの初メールだった。
何げに開いてみた。
涙が出た。止め処もなく涙が出た。

「初めてメエルします 線が引けない もつとちやんと、習ておけばよかた でも今はすごく幸せて感じかな」

こんな不器用なメール、見たことねぇよ。
俺は今まで、何やってたんだろう。

自分の不甲斐なさや汚さ、妻に対する愛おしさがごちゃ混ぜになって、
とにかく涙が出た。
こいつを一生大切にしてやろうと思った。

 

 

毎日泣いていた娘

7ヶ月前に妻が他界して初めての、
娘の4歳の誕生日。

今日は休みを取って
朝から娘と二人妻の墓参りに出かけてきた。
妻の死後しばらくはあんなに

「ままにあいたい」
「ままかえってこないの」

と毎日泣いていた娘が、
先週あたりからぱったりと泣かなくなった。

さっき墓前で
「4歳になったからね、もうおねえさんだから泣かないよ、ばあばと約束したんだ」

と私に打ち明けてくれた。
そして、
小高い丘の上にある墓地から空に向かって

「ままーっ!いつでも帰ってきてねぇ!!」
と叫んだ。

けなげな姿が涙でゆがんだ。

いま、隣で昼寝している娘の寝顔を見ながらパソコンにむかっている。
もともとここをのぞいていたのは妻のほうで、入院中によくみていたようだ。

「私も何か書き込もうかな」
そう笑っていた数日後に亡くなった。

それから、半年以上が過ぎ、今日ふとここを思い出したのだ。

妻よ、きみと俺の愛する娘は今日4歳になったよ。
日々とても愛らしい子どもに成長している。
だから心配しないで見守っていて欲しい。

 

ボロボロの写真

俺が小さい頃に撮った家族写真が一枚ある。
見た目普通の写真なんだけど、実はその時父が難病(失念)を宣告されていて
それほど持たないだろうと言われ、入院前に今生最後の写真はせめて家族と・・・と撮った写真らしかった。
俺と妹はまだそれを理解できずに無邪気に笑って写っているんだが、
母と祖父、祖母は心なしか固いというか思い詰めた表情で写っている。
当の父はというと、どっしりと腹をくくったと言う感じで、とても穏やかな表情だった。

母がその写真を病床の父に持って行ったんだが、その写真を見せられた父は特に興味も示さない様子で
「その辺に置いといてくれ、気が向いたら見るから」と
ぶっきらぼうだったらしい。
母も、それが父にとって最後の写真と言う事で、見たがらないものをあまり無理強いするのもよくないと思って、そのままベッドのそばに適当にしまっておいた。

しばらくして父が逝き、病院から荷物を引き揚げる時に改めて見つけたその写真は、
まるで大昔からあったようなボロボロさで、家族が写っている部分には父の指紋がびっしり付いていた。

普段もとても物静かで、宣告された時も見た目普段と変わらずに平常だった父だが、
人目のない時、病床でこの写真をどういう気持ちで見ていたんだろうか。

今、お盆になると、その写真を見ながら父の思い出話に華が咲く。
祖父、祖母、母、妹、俺・・・。
その写真の裏側には、もう文字もあまり書けない状態で一生懸命書いたのだろう、
崩れた文字ながら、

「本当にありがとう」

とサインペンで書いてあった。

 

 

妻子を失った

妻と、そして産まれたばかりの子供を失った。
もともと虚弱体質だった妻は、子供が産める身体ではなかったのだと思う。
私はそれを理解してそれでも結婚したつもりだった。

ある日、妻が妊娠を告げた。
私は妻の身体を守りたかった。
しかし妻は、これが最初で最後の機会だから私の子供を産ませて欲しいといった。
素直に、嬉しかった。

大変な妊娠期間だった。
それでもいろんな人の助けを借りて分娩までこぎつけた。
もちろん付き添った。
しかし、途中で急に医師から退室するように言われた。
その後医師から聞かされたのは、子供の命を救えなかったこと。
そして、妻と最後の会話を交わして欲しいということだった。

確かに、覚悟していた結果だったのかも知れない。
なんとか泣かずに妻の横に立てた。

「やっぱり私は母親にはなれないみたい。でも、マキのこと、私の生まれ変わりだと思って、大切にして欲しい。
勝手に名前決めてごめんね。あなたの文字を一文字もらいました」

私は、どうしても妻に、マキがこの世に産まれてこれなかったことを告げられなかった。
勘のいい妻だった。
いつも私の嘘を見破っていた。

「わかった。俺がお前の分もマキを幸せにしたる」

私が言えたのはたったこれだけだった。

妻は、にこっと微笑んだ。
そして、今までありがとう、マキをお願い、そんなことを言って眠った。
妻は、私の嘘にきっと気づいたのだろうな、と思う。
最期くらい気づかなければいいのにと、幸せなまま、逝ってくれたらよかったのにと。

マキ…妻はいったいどんな漢字を当てるつもりだったのだろう。
聞きたかった。

 

 

俺の好きなモンブラン

なんで俺がわがままいって
週3くらいしか働かせなかったのに
一度も生活費欲しいって言わなかったんだよ!

たまに金渡しても
俺の好きなモンブラン冷蔵庫に入ってんじゃねーよ!

すげえ美人なのに
なんで毎日俺の帰り晩飯作って待ってんだよ!

癌になったの言えよ!
お前はなんで隠してたんだよ!

なに50枚の手紙書いてんだよ!

毎年一枚ずつ読んでってなんだよ!
なんでそんなに俺がいいんだよ!
おまえは強くて美人で
俺にはもったいねえよ!!

戻ってこいよお願いだから

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