感動する話・泣ける話まとめ 短編5話【67】
迷惑をかけないように
三人兄弟の末っ子だったオレ。
オレが小学生だった時に兄貴が高3だった。
車好きの兄貴は自動車会社に就職したくて大学に行きたかったみたいけど、
頭は決してよく無かったので私立の大学にしかいける大学がなった。
兄貴は親父に大学に行きたいと言ったが、親父は
『家には金が無い。残りの兄弟もいるし、我慢してくれ。すまん。』と言った。
影でその話を聞いていた俺は、それまで自分の家が貧乏だと思ってはなかったので驚いた。
話を承知した兄貴は、肩を揺らして泣いていた。
親父も自分が不甲斐無いのか泣いていた。
その後、兄貴は高卒で就職した。
数年後、同様に二番目の兄貴も高卒で就職した。
そして、俺が高3になった時、俺も大学に行きたいと思っていた。
自分でもいうのはなんだが、学校での成績はかなりいいほうだった。
しかし、親兄弟には迷惑はかけれないと進学は諦めていた。
迷惑をかけないように、
『オレも高校卒業したら就職するから。』って家族にいつも言っていた。
そんな時、2人の兄貴が
『お前は安心して好きな道を歩め。大学に行きたいなら、はっきり言え。
オレがどうにかしてやる。お前は頭もいいし、オレの出来なかった夢を叶えてくれ。』
と言ってくれた。
嬉しかった。
大声で泣いた。
数年後、オレは無事に大学を卒業、兄貴の夢でありオレの夢であった
自動車会社に就職することができた。
兄貴は喜んでくれてはいたが、さぞ悔しかっただろうと思う。
申し訳ないことをしたと思っている。
面と向かって言うのは照れるので、ここで言わせてもらいたい。
兄貴、ありがとう。いつか、最高の車を造るからな。
彼女の温もり
わたしがひとりで大泣きしていたときのこと。
普段はひとりきままに過ごしてるウチの猫が傍に寄って来て泣きじゃくるあたしをじっと眺めてた。
それにあたしがふと気がつくと彼女はゆっくりとあたしに近づき手の甲に落ちた涙を舐め出した。
いつもは抱っこしても嫌がってすりぬけていくくせに。
あたしは嬉しくてまた泣き出した。
そのあと彼女はまたどこかへ行った。
それでも嬉しかった。
今はもう天国に行っちゃったけど、彼女が付けてた鈴はここにあって、彼女の温もりもこの手にある。
変な形になったオムツ
私の祖父は無口で頑固で本当にこわくて親戚中が一目置いている人でした。
家に行ってもいつもお酒を飲んでいてその横で祖母がせわしなく動いていた記憶があります。
私が結婚する事になり、ドキドキしながら主人を連れて行くとずっと黙ったまま
やっと口を開くと「ビールは何を飲むんや?」でした。
その日はなんとか無事に終わり、式の当日終始酒をつぎにまわってた。
その後、子供が生まれ少し育児ノイローゼ気味になった私を見てなぜか毎日
孫の世話をしに来るようになった。
当然子供の面倒など見たことないので、する事がめちゃくちゃで
イライラしていた私は嫌味ばかり言ってしまった。
2ヵ月後、あまり調子がよくないと言っていた矢先他界した。
なんでもっと優しくしてあげなかったんだろう?
紙オムツの仕方を聞かれて、それぐらいわかるでしょって
なんで冷たく言っちゃったんだろう?
あの日、自分でどうにかしようと思って変な形になったオムツが残されてた・・・
その後、毎日つけていた日記が見つかり、式の当日
「あのバカ娘がとうとう嫁に行った。最後の挨拶では涙が出た。
幸せになれ。」って書いてた。
おまけに家には主人があの日答えた「アサヒビール」が
押入れいっぱい詰められていた。
すぐに起きると思ってた
ばあちゃん……
俺がうまいって言ったら、ずーっとそればっか作ってくれたな……
子供の俺には嬉しかったよ
ばあちゃん死に目に会えなくてコ゛メンネ
子供だった俺は深夜1時過ぎまで起きてられなかったんだ
それに「倒れた」って聞いても、すぐに起きるもんだと思ってんだよ
最後に俺の名前呼んでくれたそうだね、その時のばあちゃんの気持ち考えると切なくなる
ばあちゃんが亡くなってから10数年、二十歳を過ぎた頃になって
父さんからばあちゃんの話を聞いた時ショックだった
ばあちゃんはじいちゃんの後妻で、父さんとは血が繋がってない
つまり俺とばあちゃんは、言ってしまえば赤の他人
それを聞いたとき「最後に俺の名前を呼んでくれたこと」を思い出し
ばあちゃんが死んだ時より泣いた
血の繋がりとか戸籍上とか関係無く、ばあちゃんは俺のばあちゃんだった
たった一回しか会わなかった弟
「○○おにいさん、こんにちは。
僕のお母さんが、今度○○おにいさんのお父さんと結婚するので、
僕と○○おにいさんはきょうだいになることになりました。
僕はお父さんができることと同じくらい、自分におにいさんができるのが
とてもうれしいです。」
俺のおふくろは、俺が18のときに親父が迎えた後妻だが、
メス犬だった前のおふくろではなく、本当のお袋だと思ってる。
結婚が決まってから、初めて俺はおふくろと新しい弟に会った。
半ズボンにブレザー、緊張した9歳の坊主から俺はこの手紙をもらった。
俺も一人っ子で、本当は嬉しかったのに照れくさかったから、
かなり無愛想にその手紙を受け取った。
だけど新しい弟に会ったのはそれが最初で最後になった。
弟はそれからすぐ事故で死んだ。
俺は何でもしてやるつもりだった。
中学に入って生意気になってきたらエロ本をくれてやるつもりだった。
学校でいじめられたら、仲間連れてお礼参りしてやるつもりだった。
タバコをおぼえ始めたらぶん殴って兄貴風吹かして叱り付けるつもりだった。
単車だって、俺のお古をくれてやって兄弟で走りに行くつもりだった。
「おにいちゃん」から「兄貴」に変わる年頃になったら、
そして彼女ができたら、からかってやるつもりだった。
弟の部屋にのこのこ現れて、バカやって二人の邪魔をする。
「ふざけんなよ兄貴ぃ!」なんて言われたらとっくみ合いの喧嘩をして、
おふくろが止めに入って、二人してどやされる、そんな光景を夢に見てた。
葬式では、おふくろよりも俺の方が激しく泣いた。
友達が心配するくらいに狼狽して、一人で立っていられないくらいに。
タイムマシンがあったら、ほんの一週間前の自分にあって
胸ぐら掴んでやりたいくらいに後悔した。
もっと優しくしてやればよかった。
どんな想いで手紙を書いて、どんなにか緊張して俺に手紙を渡したんだろうに。
俺は弟の代わりにおふくろを大事にしている。
この人こそが俺のおふくろだと思ってる。
「俺のおふくろを粗末にすんじゃねえぞ兄貴」
「わかってらぁ!るっせえよヴォケ!!」
弟とのそんなやりとりを、今でも空想しながらおふくろに接してる。
生きていたら、俺の弟は今年の春、大学に入学していたはずだ。
たった一回しか会わなかったが俺には弟がいた。
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