バスの中でばったり会った彼女
高校の時、中学の同級生とバスの中でばったり会った。
その子は当時で三桁近い体格の子で正直かわいいとは…はっきり言ってブスだった。
女子達からも陰で馬鹿にされていたりしていた。
でも凄く優しい子で、そんな風に馬鹿にされたり意地悪されても前向きでさ、文化祭とかイベントでも嫌な仕事を進んでやるような子。
バスを降りると、その子が、モジモジしながら、
「あのね、ごめん。迷惑ってわかるけど。私、〇〇がずっと好きだった。
あ、いやいや、答えなくていいんだ。ただ気持ちを伝えることができただけで満足なんだ」
といきなりの告白。
正直引いた。
引いてたんだけど俺、この子が人として嫌いにはなれなかった。
それで俺、「ありがとう」って「よかったら、また連絡してくれよ」って、その場の思いつきで携帯の番号渡した。
彼女から時々電話くれたりメールで話したりした。 たわいもない話だった。
中学の同級生がどうなったとか、高校生活の様子とか、テレビの話とか。
告白のことや付き合って欲しいということは彼女からは一切出なかった。
俺も意識的にそういう話は避けていた。
不思議なことにそうやって連絡はしてるけど、バスでまた会うことはなかった。
高校卒業しても大学卒業しても社会人になっても、1か月に一回あるかないかに減ったものの連絡は続いていた。
何が楽しかったわけでもない。 ただ彼女は話上手で聞上手だった。
そうしてある日。 彼女からよかったらひさびさに会わないって話がきた。
まったく突然だった。 いいよって答えてしまった。
答えてから後悔したが、後で体調不良とか理由つけて断ろうと思った。
当日になって待ち合わせの場所に向かった。
断ろうと思ってたのに断る勇気がなかった。
いや、それは建前で本当はもうこのさい誰でもいいからセクロスしたいっていう俺の腐った気持ちが勝っただけのことだった。
「〇〇だよね?」 待ち合わせ場所で声をかけてきたとき、俺は絶対怪しい勧誘だと思った。
まさか彼女とは。
嘘だろと思った。
三桁のデブスなんかどこにもいなかった。
リア充が連れているようなモデルみたいな女の子が俺に話かけることなんてあるわけがない。
「びっくりした?頑張ってダイエットしたんだよ。女っぽくなったでしょ。〇〇は少し変わったけど昔のまんまだね」
ダイエットとかいうレベルじゃねぇ。 それぐらい彼女には声と話し方だけしか残っていなかった。
いや、よく見ると昔の彼女の面影というか雰囲気は確かにあった。
それに比べ、彼女が一瞬言い淀むぐらい俺は頬は荒れていて、栄養過多から髪はパサパサ、メガネのフレームも直してなかったので、左右傾いてた。
モゴモゴと話ていたのは、前歯が何本か落ちていたのを隠すため。
はっきりいうと俺はキモい男の代表だった。
俺の中で何が崩れていった。 世界がひっくり返った久々の再会だった。
それでも彼女は、連絡していた時と何ひとつ変わらず、俺に接してくれた。
俺は色々なことがただもう申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
セクロスしてぇなんて気持ちなんかもうどこにもなかった。
早く帰ろう帰りたい。 彼女に申し訳ない。 俺もこれ以上惨めになりたくない。
帰り際
「〇〇、今日会ってくれてありがとう」
「いや俺の方こそありがとう…それと…あのさ…」
「何?」
俺の目が泳いだ先にラブホの看板が見えてた。
「なんでもない」
「まだ居る?どっか飲みに行く?」
「いやいやいや…帰る」
これ以上居て期待してしまう自分がやだったし、最後ぐらいは綺麗に終わりたかった。
「そうだね、今日は帰ろう…でもまた連絡してもいいかな?じゃ今度は飲みに行こうよ」
ほう?
どうせその場限りのお世辞だろうと思ってた。
彼女からの連絡は相変わらず同じようなペースできた。
正直言うとめちゃくちゃ嬉しかった。 もう2度連絡来ないと思ってたから。
あんな俺を見ても何も変わらない彼女に感謝した。
でも凄く惨めな気分にもなってた。
高校の時は引いていたのに、今の彼女を見てあの時…って後悔している自分がたまらなく嫌だった。 電話がおわると、おもむろに彼女の顔を思い浮かべて股間を弄る自分が本当にキモいと思った。
同時にいったい彼女はなぜこんな俺を見ても平気でいられるんだろう。 なんでまだ連絡をくれるんだろう。 もしかして、ネズミ講か宗教の勧誘でも狙ってんじゃないか?
疑心暗鬼がどんどん深くなってある時、彼女に食ってかかって自分の気持ちが爆発した。
彼女は黙って俺の怒号と罵声を受け止めてくれてた。
おもむろに 「〇〇さ、昔私がコクったとき、ケータイの番号くれたよね。私、本当に嬉しかった。私だってみんなからどういう風に言われてたかぐらい知ってたし、拒絶されると思ったし、まじで嫌われるかもしれないと思ってたから、〇〇のあったかさに家に帰って泣いたんだ」
違うよ、ただ八方美人なだけだ
「電話かけるまで凄く悩んだ。もしただの冗談で教えてくれたとしたら、かけたら嫌われるかもしれない、デブスが調子にのるなって言われるかもしれない、天国から地獄に落ちたら立ち直る自信ないって。〇〇が電話に出てくれて普通に話してくれたとき、私幸せすぎて死にそうだった」
そんなことぐらいでばっかじゃねーの…
「電話切るときも、またな、って言ってくれたよね。またかけてもいいの?信じちゃうよ、私って二回目も三回目も、またなって言ってくれたよね」
は?そりゃ電話切るときはそれぐらいしかないだろ…
「何度も告白の返事聞こうかと思った。でもそれでメールや電話がなくなるのが怖くて聞けなかった。 もしかしたら…って気持ちもあったけどやっぱりデブスがこれ以上の高望みしちゃいけないって。 ぶっちゃけると、〇〇と話せて幸せな反面苦しかった。欲が出るからね人間。 気を紛らわすために出会い系にも手を出したこともあったよ。ネットはみんな女には優しい。 でもデブスとわかったとたんみんな掌返すし、おっさんはやれればデブスでもいっかみたいな。 私、最低な自分になってたって気づいて…だから…変わろうと思った。 〇〇の優しさを裏切っちゃだめだ。都合いいかもしれないけど、〇〇に釣り合うように綺麗になろうって」
……俺の方が最低だって。
「ガチで腹決めて頑張ったよ。運動して食事制限もして90キロ超えてた体重を半分にしたよ。美容院でメイクも教えてもらって必死に練習したし、洋服とかも雑誌や色んな人を見て研究したんだよ?」
したんだよ?ったって写メなんか送ってこなかったし、電話やメールじゃ俺にわかるわけないだろ…
「苦しかった、馬鹿にされたときもあったし、うまく体重減らないときもあったし、メイクもなかなか思うようにならなかったし、何度も心折れた。でも〇〇と電話するとまた頑張るぞって」
俺だってお前が話聞いてくれてどんだけ救われたか… IT会社にはいって、人間関係と激務にすぐに押しつぶされ…毎日が地獄だったけど…
「〇〇が居てくれたから、周りもみちがえたね、って言ってくれるぐらい変われたんだと思う。やっぱ外見なんだなって。いじめてた人たちがみんな優しくなるの。露骨過ぎてびっくりだよ」
うん…びっくりした…別人みたいっていうか別人だった。 手が届かないぐらいの。
「でも〇〇はそんなことなかったよね、いつも通り。昔っからのままで、私感動してたんだよ?やっぱり〇〇はちゃんと本当の私を見ててくれてたんだって」
違う違う!違うんだ…
「高校ん時のクラスの男子たちとか気持ち悪いぐらいに掌返しだよ。あんだけ私をいじめていたのにさ、でも〇〇以外に優しくされることに慣れてないから最初は素直に嬉しくて…」
何も泣くことはないだろ…
「カラオケ誘われて舞い上がっちゃって…ばっかみたいにホイホイついて行っちゃって…あいつら最初からきっとそれが目当てだったんだよね…」
…おいやめろ…
「嫌だって抵抗したんだよ?…手足だって必死にばたつかせたのに…でも3人がかりでかなうわけないよ…ブサイクのくせに生意気だって…ごめん初めては〇〇だと夢見てたんだけどさ。バチが当たったんだよね」
やめろやめろやめろ!
「…〇〇と会うの本当ね怖かった。ぶっちゃけ精神ボロボロだったし、でもどこかで〇〇は違う〇〇だけは違うって思いたかった」
違うんだ…俺も同じだよ…
「でも私以上に〇〇がボロボロでびっくりした。仕事本当に大変って言ってたから。そんなボロボロなのに会いに来てくれたんだよね」
どんだけ勘違いおめでたいんだ…
「〇〇優しいから無理してたんだよね…ごめん。私自分のことばっかりだった。デブスに何度も連絡されたら迷惑だったよね… でもねでもね、本当〇〇が支えてくれたから私変われたんだよ、ありがとう〇〇。コクってから今でも〇〇が好きだよ。今度は私が支えるから、〇〇が居てくれたように私がいるからね?一緒にまた頑張ろうよ」
号泣していた。 電話越しで俺号泣していた。
俺変わるよ。 君みたいな真っ直ぐじゃないから落っこちるときもあるけど、まだ君が居てくれるなら俺変われるよ。
電話を切って親に頭を下げて10万を借りた。
まず髪をさっぱり切った。
それからスーツを買って、2年ぶりぐらいにハローワークへ行った。
配送の契約社員の求人を見つけて何とか採用してもらった。
配送なら人と関わるのが最小限だし、車の運転はずっと1人だし、社会復帰にちょうどいいと思ったからだ。
彼女から教えてもらった薬のおかげで、肌の荒れはだいぶよくなった。
それ以上に、仕事を始めて規則ただしい食生活や、睡眠を取るようになったことも大きかった。
最初はきつかったが徐々に慣れてくると、176の51キロのガリだった体つきも少し太ったり筋肉がついたりして、10キロぐらい体重が増えた。
髪にもツヤが戻ってきた。 ハゲないでなんとかすんだ。
3か月が過ぎて正社員になれた。 社保がついたので早速歯医者に通った。 治療は一年近くかかって半分がブリッジになったけど、歯が入って思い切り人と話せるようになって笑えるようになった。
会社の社員さんに恵まれたのもあるけど、自分でも性格が明るくなったと思えてきた。
彼女とはずっと同じペースで連絡を続けてた。
それでも俺から相談する方が多くなってた。
会いたいと思うときは何度もあった。
彼女から誘ってくる時もあったけど、会わなかった。
桜の花が満開だよって話題も3回ぐらいした。
今年の3月 本社勤務の辞令が出た。
ニートをやめてから4年目だ。 会社で送別会を開いてくれた。
前の会社は1年半しかいなかったけど、こんな時間の無駄でこんなあったかい会があったかどうか記憶にない。
そして先週の日曜。 彼女に会おうと連絡した。
桜はもう散り始めてたけど、俺が持って行ったバラのブーケは満開だった。
彼女はびっくりして泣いて、それから笑顔を満開にしてくれた。
10年以上経ってようやく彼女に告白の返事ができた。
ちょっと盛った箇所もありますが、これは東京都で起こったほぼ本当にあった話です。
読んでくれてありがとう。
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