手話 – 妻と初めてした会話 – 心が温まる話
その日に限って妙に混んでた昼飯時の大学の学食で、テーブルの相席を頼んだ。
メニューの載ったトレイ持ってテーブル指差し
俺「すいません、ココ空いてますか?」
嫁(無言で頷く)
嫁さん、友達と二人連れなのに妙に静かだったから、キレイなのに何か無口な女の子だなとか思ってたら、食事が終わって始まったおしゃべりは、手話だった。
会ったのはそれが初めてで、俺にとってはたぶん最初で最後の一目惚れ…なんだけど、これは会話とは言えないかな
プロポーズは携帯のメールを使った。
必死に、かつびっくりさせてやろうとこっそり勉強した甲斐があって、その頃にはもう普通に手話で意思疎通できるようになってたんだけど、プロポーズはなんかこう、くすぐったいというか恥かしいというか、とにかく直接言いづらくて、メールの文章に凝った言葉や甘い言葉をたくさん並べた。
なんか、付き合い始めたばかりの頃を思い出してニヤニヤしたりしてね。
まあメールでもかなり恥かしいけど、それでもなんとか伝えられそうだと思えたんで、ボタンひとつで送信できるように準備した携帯をポケットに突っ込んで、二人で焼きいも食べながら歩いてる時に不意打ち的に送った。
嫁さん大喜びで、それは良かったんだけど、唯一の誤算は、嫁さんにその恥かしいメールをしっかり残されちゃったこと
思えば付き合い始めの頃、俺との筆談に使った手帳のページや喫茶店のコースター、大事にとっておく様な女の子だったんだっけって、思い出しても後の祭りでございますよ
□ □ □
待ち合わせた彼女を待ってて見かけたのは、大学生風のカップルだった
男が女の子の正面に立って、何かしきりに手を動かしてた。手話だ
彼はやっと手話を覚えたこと、覚えるのは結構大変だったこと
女の子を驚かせようとして、その日まで秘密にしてたことを伝え、女の子の方は彼が勉強してることを知らなかったこと、本当に驚いたこと、嬉しいと思っていることを伝えて、そのうちもどかしくなったのか彼の手を握って 2度3度、嬉しそうにその場でほんの少し飛び跳ねてみたりしてた
悪趣味な盗み聞きだとは解ってたけど、その時ようやく手話を使いこなせる 様になったばかりの俺には、それは例えば外国の街で突然耳に入ってきた日本語が気になる様に、申し訳ないけどどうしても気になる光景だった
たぶん、俺はにやけてたと思う。怪しい奴に見えたかもしれない。
でも、それは微笑ましくて、こっちまで心があったかくなる光景だった
服の裾が引っ張られる感覚に振り返ると、そこに俺の彼女が来ていた
何を見てたのかとか、顔が嬉しそうだとか、もっとはやく私に気づけとか、微妙に頬を膨らませて、もの凄い勢いで手話を繰り出す彼女に、俺は手話でごめんなさいと伝え、ちょっと昔を思い出してたことを伝えた
それでも彼女は少し首を傾げ、その”昔”を知りたそうな表情だったけど、 俺は笑ってごまかした
今目の前にいる女の子を驚かそうと、秘密で手話を勉強してた頃の事だ
……とは、恥ずかしくて言えなかった
□ □ □
あー…これはまだ結婚する前、カップル板に俺が書いたレスだな
美術館に手話通訳付きのイベント見にいった時、見かけたんだ
彼も彼女も可愛いカップルだった。
上手いこと言葉にできないけど、この二人見たのがきっかけで、
結婚する覚悟決めたんだよね。
しかし、いきなり目に入ると文章の恥かしさに冷や汗出るな。
しかも既婚女性板なんて、ちらっと覗いたことすらないというのに
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