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『聖夜』藍物語シリーズ【26】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ – 怖い話・不思議な話

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『聖夜』藍物語シリーズ【26】◆iF1EyBLnoU 全40話まとめ - 怖い話・不思議な話 シリーズ物
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藍物語シリーズ【26】

 

藍物語シリーズ【全40話一覧】

 

 

『聖夜』

 

『私、そんな事聞いてない。ただ食事して、カラオケするだけだって。』
『幾ら何でもそんな訳無いだろ~。金は2倍出す約束だし。良いだろ、な?』
『細かい事は良いから、行こうぜ。気分が良くなる○×も有るから。』
『嫌。止めて、っ!』
妙な胸騒ぎ。流れ込む思考と感情に、やはり反応してしまう。もう時間が無いのに...。
だがこれを無視したら、俺は何の為に術者をやっているのか判らなくなる。
やはり、放っては置けない。女の子の記憶、映像を逆に辿った。
連れて行かれたのは路地裏、ラブホテルの前。あれだ。
ビルの隙間に見えたのは男の背中が2つ。 深呼吸、下腹に力を込める。
『何だ。恵子、此処に居たのか?探したぞ~。』 男達が振り向く。
そう、出来るだけ人の良さそうな笑顔。 Sさんにはいつも演技派だと褒められてるんだから。
『あれ?この娘が何かご迷惑でも?申し訳有りませんが、もう10時過ぎますし、この娘は高校生。
出来れば続きは明日警察で。○×署には知り合いが居ますから、なるべく穏便に。』
名刺を差し出した右手を撥ねのけて、男達は俺の脇をすり抜けた。呪詛の声と舌打ちの音。
ケイタイを取り出し、馴染みの運転手に掛けてみる...繋がった。
キリスト教の信者ではないが、これが聖夜の奇跡か。遅刻は最小限で済みそうだ。
「今タクシーを呼んだから、乗って帰って。来るまで此処に居るし、料金は俺が持つ。」
背中を向けたまま、必要事項だけを喋る。
今すぐに、他人と話す気分じゃ無いだろう。制服の乱れを直す間も。

 

「私、あなたみたいな人って大っ嫌い。自信過剰で、いい人ぶって。」
ああ、やっぱり。最初の予感は正しかった。遅刻間違いなしで頑張ってるのに、この扱い。
「どうせ、人助けしてやったって自己満足してるんでしょ?気持ち良い?」
歪んでるなぁ。 やっぱり瑞紀さんは自分の気持ちに正直、ストレートで可愛かったんだね。
「あ~あ。『どうして私の名前知ってるの?』って聞かれると思ってたんだけどな。」
「あ...どうして?」 少女が纏っていた固い鎧が少し緩んだ。一体どんな事情が。
「俺、魔法使いなの。パーティーに行く途中だったのに、こんな事して。完全に遅刻だな。」
「御免なさい。私、さっきは少し。」
「良いよ。君の事情は聞かない、俺も名告らない。タクシーが来るまでの縁、だから。」
背後で気配が動く。次の瞬間、夜目にも可愛い顔が目の前に浮かんだ。
「私、○本恵子。助けてくれて、アリガト。」
色々事情が有りそうだが、聞けば深入りする事になる。もう、既に遅刻なのだ。
その時、妙なモノに気付いた。少女の右肩。ゴキブリのような、クモのような。
いや、それではゴキブリとクモに失礼だ。これは紛れもなく人間の、おぞましい生霊。
これが、この少女を歪ませている元凶。

 

全速で感覚を拡張し、目の前の生き霊にチャンネルを合わせる。流れ込む、思考。
『一度売らせて汚したら、あとは俺の女に。全部、●枝が死んだのが悪いんだ。』
込み上げる吐き気、もう十分。およそ聖夜にふさわしくない下衆。しかも、継父?
恐らく本体は自宅で酔い潰れ、下卑た夢に溺れているのだろう。
「嫌いなタイプの人間にお礼が言えるなんて偉いね。因みにどんなタイプがお好み?」
「あなたより少し、ううん、もっと年上の人。」
時間を稼ごうとしただけで、答えなんて期待してないのに。何で真っ直ぐに答えるかな。
でもまあ、この『間』は有効利用させて貰おう。深く息を吸い、下腹に力を入れる。
「あ、ちょっと待って。虫、かな?右肩、動かないで。」 少女は不安げな顔で身を竦ませた。
心の中で言葉を練る。練った言葉を血流に乗せて左手、薬指に送り込む。
親指で止めたままの薬指に、力を込めた。そのまま左手を少女の右肩へ。
少女が不安げに、横目で俺の左手を見詰めている。 しっかりと狙いを定めた。
もし生き霊を滅すれば本体の深刻なダメージは免れない。
本来コイツは問答無用、幾ら何でも自分の娘を。しかし、今夜は聖夜。
滅するのではなく、本体の悪意が本体のダメージとして帰るように。
親指の力を抜いた。
『散れ!』
ソレは派手に弾けた後、その輪郭を失い霧消した。微かな呻き声。

 

「あれ?見間違いかな、暗いから。確かに何かいたと思ったんだけどね。」
「でも、何だか肩が軽くなった。さっきまで首も痛かったのに。最近、ずっと。」
「ところで、俺より年上の方が好みって言ったよね?」
「それは、そうだけど。」
あの生き霊。これ以上詳しい事情を知る気はないが、置かれた環境の中でこの娘は
無意識に『父親』を、安心して身を任せ心休める場所を求めて続けて来たのだろう。それなら。
「確か45歳、奥さんに先立たれたオジサマとかどう?
君の話をしっかり聞いてくれる筈。渋い感じの、いい男なんだ。」
少女は俯いて唇を噛んだ。
「その人も、さっきの男達と同じ? やっぱり私、そんな風に見える?」
「違うよ。その人は警察の、署長さんだからね。家に帰りたくない君を保護してくれる。
だけど、その人は俺の大事な先輩、いきなり『あなたみたいな人大嫌い』は困るんだ。」
「分かった。その人に会わせて。全部話すから。このまま家に帰ったら、私。」
多分これぞ天の配剤、近付いてきた馴染みのタクシーに右手を挙げた。

「安さん。事情が有って、このお姫様を榊さんの所にお送りしなきゃならない。
榊さんたちは今夜忘年会、○△ホテル。今からだとどの位掛かるかな?」
「この時間だと道も少し空いてきてるけど、まあ22~23分、2000円って所ですかね。」
「じゃあ20分以内で3000円、もし15分切ったら5000円、どう?ただし安全運転で。」
「毎度っ!5000円札はお持ちでしょうね?」
とても小さいとは言えない車体が魔法のように細い路地を抜けていく。
「有り難う御座いました~。」 「助かったよ。また頼むね。」
上機嫌で5000円札を受け取った安さんに声を掛け、タクシーを降りた。
続いて降りてきた少女の全身を注意深く観察する。
大丈夫、さっきのアレはもう見当たらない。執着が強いと一度では祓えない事も多いのだが。
加減したつもりだが、つい力が入り過ぎたかも知れない。
しかし、それで本体が深刻なダメージを受けたとしても、良心の呵責は感じない。

 

宴会場の入り口、既に賑やかな声が聞こえている。
スタッフが開けてくれたドアを2人でくぐり、少女に声を掛けた。
「此処で待ってて。まず榊さんに話してくる。」
勿論部屋中が俺と少女に気付いている。しかし黙り込んで俺たちを見詰める粗忽者は居ない。
「おやおや、何の冗談かと思ったら、ホントに女子高生とは。一体どんな事情だい?」
「『売り』をさせられる寸前で保護しました。」 「組織が絡んでる?」
「いえ、母親の再婚相手です。母親が亡くなってから生活が荒れて。汚した後で自分が、と。」
俯いていた榊さんが顔を上げた。『万事心得た』という、いつもの笑顔。
振り向いて少女に手招きをした。おずおずと、頼りなげな足取り。
「榊さんに保護してもらおうと思って連れて来たんです。ほら、自己紹介。」
「○本、恵子です。さっき、Rさんに助けてもらって。それで、此処なら保護してくれる人が。」
「外は寒かったろ。こんなに怯えて、可哀相に。でも、もう大丈夫。」
嗚咽。榊さんの柔らかな雰囲気で、張り詰めていた気が緩んだのだろう。
「恵子ちゃん。R君に出会ったんだから、君は本当に幸運だよ。泣かなくても良い。
俺は榊健太郎。君が望むなら、君を保護する。婦警さんの方が話をしやすいかな?」

 

「年上のオジサマの方が安心出来るみたいですよ。話を聞いてあげて下さい。」
その時、低くくぐもった音が響いた。その娘が真っ赤に頬を染めている。
「御免なさい。昨日から何も、食べて無くて。」
確かに、座敷を満たす料理の、良い匂い。
「もうその娘の身は安全なんだから、話を聞くのは明日でも良いでしょ?
取り敢えずお腹いっぱい食べて貰った後で考えれば良い。ね、榊さん?」
Sさんの笑顔。榊さんの両隣に座っていた青年2人は既に移動を開始していた。
さすがチーム榊、見事なチームワークだ。これこそが人の心。
キリスト教徒でなくても、最高の夜。 翠を抱いたSさんの笑顔はとても温かい。
「そうだな。恵子ちゃん、ほら、座って。そう、此処の料理は本当に美味いから。
まずはどれが良い?あ、それ?じゃ、取って上げよう。飲み物は何が良い?」
肩を寄せた2人の後ろ姿はまるで親子。本当に微笑ましい。
数歩歩いて、少し離れた席に座る。座布団の上で寝ている藍の頭を撫でた。

 

「やっぱり少し遅刻しちゃいましたね。ややこしい仕事だと分かっていたので
心積もりはしてたんですけど、それでも思ったよりずっと時間がかかって。」
姫は優しく微笑んで俺のグラスに白ワインを注いだ。
「お仕事が1つ増えたんですから、時間がかかるのは仕方有りません。
ご苦労様でした。上手くいって、本当に良かった。」
「仕事が1つ増えたって、一体何の事ですか?それに、『良かった』って?」
危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事だったのだが。
「あの娘です。きっと今夜の事は偶然じゃ有りません。
今夜あの娘を榊さんに引き合わせる、それがRさんのもう1つのお仕事だったんですよ。
もうあんな風に打ち解けて、きっと二人の間には深い縁があるんです。それに。」
姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「それに、あんな可愛い娘の面倒を見てたら、
当分は榊さんも『Rちゃんに会いたい』なんて言いませんよ。」
確かにそれなら『良かった』という事になるのだが、もしそうだとしたら。

 

渋滞を嫌って歩きを選択したのも、普段通らない近道を選んだのも、
俺自身の意思ではなく、あらかじめ約束されていた必然だったって事?
「そう、その通り。これで榊家の跡取りが生まれたりしたら、
あなたは榊家の全員から感謝されるわね。」
思わず少し、白ワインを吹いた。
「ご、御免なさい...ええっと、跡取りって事は、その。でも、年の差が、かなり。」
「榊さんは26歳の時に結婚して、翌年奥さんが亡くなったと聞いた。
不治の病だと分かっていたけど、榊さんが周りの反対を押し切ったって。
だとしたら丁度、18年前よね。」
Sさんはグラス半分ほどの赤ワインを一口で飲み干した、穏やかな笑顔。
赤ワインの瓶を取り、Sさんのグラスに注ぐ。少し、手が震えた。
奥さんに先立たれた事は知っていた。しかしそんな事を立ち入って聞くことは出来ない。
詳しい事情を聞いたのは初めてだ。そして、この不思議な符号。
あの娘の、高校の制服、多分3年生。だから17歳か18歳。まさか。
「じゃあ、あの娘は。」

 

「それを確かめる術はない。18年前、私は未だ榊さんと出会っていなかったから。
でも、前世で果たせなかった約束を現世で果たそうとする。
実現できなかった夢を実現しようとする、そういう例は確かに有る。
もし、この出会いがそうでないとしても、2人の魂に深い縁が有るのは間違いない。
2つの魂を引き合わせ、その縁を結び合わせた。それがあなたの、もう1つの適性。」
囁くような呟くような、Sさんの声。まるで和歌を詠むように、不思議な調子。
『そう。ほどけた縁を結び直し、壊れた心を繋ぎ合わせる。『縁結び』あるいは『魂繋ぎ』。』
その言葉の響きがすうっと染み込んで、胸の奥が熱くなる。
「だからRさんは、縁を結ぶお仕事を沢山任されてきたんですね。そして、きっとこれからも。」
確かに...しかしそれは結果的にそうなっただけだと思っていた。それが俺の適性だなんて。
縁を結ぶ適性があるなら、縁を切る適性も有るのだろうか。
たとえ責任は重くとも、俺にとって、切るより結ぶ方が誇り得る任務だと感じる。
それに姫の言う通り、それが適性なら今後も誇り得る任務に関わることが出来るだろう。
術者として、これ程幸せなことが有るだろうか?
キリスト教徒でなくても良いじゃないか。本当に良い夜だ。まわってきた酒の酔いも手伝って、
この夜を、聖夜を祝うのにふさわしい。そんな気持ちになっていた。

 

そっと、榊さんと少女の様子を伺う。
榊さんはいつもの笑顔。少女は頬を上気させて、時折頷きながら笑顔を浮かべる。
料理を勧める榊さん、美味しそうに料理を食べる少女。見て居るこっちが幸せになれそうだ。
俺と話していたときとはまるで違う、無防備な、子供っぽい表情。
母親の死、堕ちた継父。そんな話題で笑える筈がない。
榊さんは注意深く、少女が安心出来る話題を選んでいる。きっと今夜は、それだけで良い。
高校生とはいえ、安心出来る場所と人がどれだけ重要なのか、それが今更に良く分かる。

突然立ち上がった人影。明るく、元気な声。
「一番、水野。モノマネいきます。まずはSさんを待つ日の榊さん。」 拍手。
...始まった。チーム榊のメンバーは皆、芸達者だ。
『おい、みんな。この部屋片付けろって言っただろ。今日はSちゃんが来るんだぞ。全くも~。』
声は完璧だ。それに眠そうな、不機嫌そうな表情。小刻みに振る人差し指。
爆笑。メンバー全員が底抜けの笑顔。その青年は軽く頭を下げた。
もちろん今夜は無礼講だから榊さんも苦笑いするしかない。
「ええと、じゃあもう1つだけ。捜査が行き詰まってテンションだだ下がりの榊さん。」
もう彼方此方で笑いが漏れている。
水野という青年のモノマネは一級品で、そのレパートリーは数10種にも及ぶ。
しかしその中から、今夜このネタを選んだのは只の偶然だろうか?
『は~、駄目駄目。仕事が上手く行かない時はさ、もう、何やっても駄目。
こんな時、Rちゃんが来てくれたらテンション上がるんだけどな~、むさい野郎ばかりじゃどうにも。』
大爆笑。Sさんと姫もお腹を抱えて笑っているが、俺は笑えない。少女の表情に釘付けになった。
眼を丸くする少女。そのネタが通じないのは当然だが、その後俯いた表情は。

 

「あの、健太郎さん。『Sさん』と『Rちゃん』って、誰ですか?」
「え?ええと、『Sちゃん』はほら、彼処に座ってる美人で。『Rちゃん』は。」
「はい?」 「R君の事だよ。彼、結構な美形だろ。それで、ある事件の時、
操作の都合で女装して貰ったことが有る。それ以来『Rちゃん』。
2人は夫婦で、どちらも凄い超能力者だから、困った時は捜査に協力して貰うんだ。
超能力捜査。聞いた事ある?兎に角2人が来てくれると凄く仕事が進むからさ。」
ホッとしたように少女の表情が緩む。
「Rさんは『魔法使い』って言ってましたけど。本当に?」
「そう、此処だけの話だけどね。」 声を潜めた2人。少女に戻った笑顔。
もしも鋭く『Sちゃん』と『Rちゃん』を女性だと感じて、その質問をしたのなら。
それは、既に少女が特別な好意を抱いている事の証左だ。それが父でも、もっと別の。
視線を戻すと、Sさんが小さく頷いた。姫の、優しい笑顔。
本当に俺は今夜、時を越えて求め合う魂の旅路に関わったのだろうか?
まあ良い。少女の意識から俺と『女装』の結びつきを解消するのは時間が掛かるだろうが、
聖夜の奇跡に必要だったなら、それはそれで...いや、本当に、良いのか、俺?

 

 

『聖夜』 完

 

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