動物にまつわる怖い話【3】全5話
いぬ
20年近く前のことなんだが
家の両親は共働きで、夜間作業でよく家を空ける事が多かった。
だから、まだ幼い自分と二つ上の兄は、長期休みなんかはよく父の実家(婆様の家)に預けられてたんだ。
その父の実家は、新興住宅地だった俺らの家から10キロも離れてないのに
全く開拓されてない山々に囲まれた盆地にあって
道路はまともに舗装されていない、周りは山と川と田んぼしかないような、それこそど田舎だった。
勿論遊ぶ場所なんてほとんど無いし、子供だけで山や川に行くのを厳しく禁止されていた俺と兄は
100歳近い寝たきりの曾婆様(口は達者だった)もいたので
ほとんど婆様と手を繋いで畑に行ったり、散歩がてらヨモギなんかの野草を取ったりして過ごすくらいだった。
しかし婆様もどうしても家を空ける日があり、自分達だけで遊ぶという日があった。(続く)
そういう時には曾婆様から「寺(すぐ近所に寺がある)を越えたら駄目だ」「いぬを見たら逃げろ」って言われてたんだ。
怖かったのもあって、いつもはちゃんとその言葉を守ってたんだが
ある日、遊びに夢中になってまぁ大丈夫だろって事で、兄と共に寺より先へ行った事があった。
そしてその日、俺は軽い失踪事件をおこした。といっても、その時の事は全く記憶がないんだけど。
話によると兄が虫取りをしているうちに、いつの間にか居なくなって
その数時間後に、偶然その日墓参りに来た伯母さん夫婦に、山の上にある墓の手前でぼんやり座ってた所を保護されたらしい。
気が付いたら伯母さんたちの車に乗っていた、って感じだ。
何がなんだか、未だに納得いかない話なんだけども…
100歳生きた曾婆様は、なんで寺を越えたら駄目か知ってたんだろうか
あと、異常に『いぬ』に対して警告されてたんで
もしかして犬以外のモノだったんじゃないかと、後々になってヒヤリとした。
別に怖い体験じゃないんで、オチとかなくてすまん。
いぬって呼ばれる怪奇とかあるんだろうか?
狐の嫁入り
ウチの実家は山の中腹で、俺の部屋は谷側に面してた。
谷側ってもすぐにまた小高い峠みたいになってて、
そこの林の中には小さい神社があった。
ある夏の夜。 もう25年も前の話だけど。
夜寝る前に雨戸を閉めようとして窓を開けたら
林の中の神社に明かりが灯ってる。 神主さんとか居ないホントに小さな神社なのに。
そのまま見てたら、参道に沿ってぽぽぽっ、と明かりが次々と灯り出した。
そしてその明かりがゆーらゆーらと揺らめきながら神社に向かって
物凄くゆっくりだけど動き始めた。
何かすごく幻想的な感じがして、しばらく見てたんだけど、
その様子を見て姉が「何見てんの?」と聞いてきた。
姉はこう言う超常現象的な話は大嫌いで、言うと必ずぶたれる。
だから、別に何でもないよ、と言って雨戸を閉めて寝た。
動物の骨
5月の連休になると、ここらは県外の釣り人が押し寄せ釣り場に不自由する。
そこで俺は新たな穴場を探し、朝から様々な沢を歩きまわっていた。
その日は「小さな沢でも、登っていけば可能性はある!」と、
護岸整備されてしまった沢を登って行った。
10分ほど歩いただろうか?護岸整備は終わり可能性が見えた。
沢の幅は15mほどで大きな石がゴロゴロしている。
川幅は2m程だが魚は居ないであろうほど浅く、左右は高い木に囲まれており、
何ともイイ気分になる景色に期待が高まる。
沢のはるか先は右に曲がっている。そこから先の川幅が気になる。
「川幅狭いのに、なんでこんなに開けていて、左右の林は急に大木なんだ?」
あまり山に詳しい訳でもない俺は景色に不思議な感覚を覚えたが、釣り場を
探す釣り人の心は10代の性欲の様に強い。
見えていた右曲がりに差し掛かり、その先が見えた。
巻き機山かな?そっちに向かって続く沢は、まだまだ浅瀬が続き落胆した。
しかし、ここまで来た道のりを思うと引き返せない。
「熊出たらどうしよう」
「帰りもこの道のりを魚を腐らせずに持って帰れるのか?」
「このまま小川で終わったら台無しだな。」
と、色々なことで心細くなりつつも歩く。
沢は多少くねりながらも、ほぼ直線。左右の林は均一の高さのまま続く。
視線は先にあって欲しい深場を探す・・・はるか先の左の林に何かある。
「岩?」
10m近くあるであろう杉林の際に、林と同じくらい巨大な岩がある様だ。
「ほかに岩も無いところに、なんであんな巨大な岩があるんだろ?
もしかしたら、伝説とかあるんかな?」不思議なもの好きの心が躍る。
「だいぶ歩いたし、あの岩のところで休憩して帰るか」
急に心が折れ、釣りではなく岩を目標に変えた。
岩まであと50m・・・キツネの死骸発見。
キツネを至近距離で初めて見た。キタキツネとは違って汚かった。
「エキノコックス!」と避けて歩く。
林の密度は濃く、まだ岩の全体は見えないが、確認できる限り削った様に丸い。
「何だ何だ!?早く全体が見たい!」足場の悪い沢を、残り僅かと走った。
また何かの動物の死骸がある。
「川原だから動物集まるんかな?」
また動物の骨・・・
そしてまた動物の骨・・・かなりの骨の量だ。
骨は岩に向かって(岩からか?)続く。
岩の全体が見えてきた。本当に丸い。まん丸だった。
「これは凄い場所を見つけた!今までこんな不思議な場所見たことない!」
そう感動したのは一瞬だった。
それまでは、あまりの巨大さに惹かれ、岩の上と自分の足元だけしか見ていなかったが、
岩の付け根に1mくらいの穴がある。
骨はその穴に続いていた。そして、穴の口には沢山の骨とカモシカの子供の
死骸と半分骨になったキツネの頭、ウサギの耳があった。
「これ、絶対に普通じゃない。大変な所に来てしまった・・・」
動けなかった。
「どうする??ナタしか持ってねーよ、戦えるのか?」
穴を目の前に未だ動けないでいた。
目の前にある光景に自分の未来が半分見えた。
「この中にこれ食ったヤツ居るんかな・・・逃げてぇ。けどダッシュしたら
追いかけてくるよな。」
落ち着いて行動しなければと思うものの、恐怖が勝る。
腰のナタに手を掛け、そーっと後ろ歩きで下がった。
「どんなんがこれ食ったん!?てか、なして食わない獲物も捕獲してんの!?」
もう恐怖に限界になった俺は一気にダッシュした。今までで一番本気で走った。
「どうしよう!どうしよう!俺、食い殺されるん??」
無事に戻ってこれたから、こうして書き込んでいるんだが、野生の動物で巣穴の
回りに獲物の残骸や、食わない獲物を持ってくるヤツなんているのか?
あと、この岩知ってる人いたりする?
当時、魚沼で暮らしていて、地元の山に詳しい老人に聞いたら、
岩の存在も知らないし、そんな習性の動物も知らなかった。
別の先輩(老人)に聞いたら「山は不思議なこともあるからな」と言われた。
その先輩は毎年、GW頃に数週間山に篭もり、ワラビを取っているんだが、
自分以外に誰も居ないであろう山奥に一晩中人の話し声みたいなのが聞こえたり、
動物の死骸が固まってある場所に遭遇したりすると言っていた。
山って不思議だね。
コダマネズミの話
ある猟師たちが山小屋で獲物待ちをしていると
臨月間近の女が助けを求めてきた。
女の上に妊婦など、ケガレの最たるものだが
あまりに苦しそうで哀れな様子に、猟師たちは招きいれ介抱してやった。
翌日、女は12人の赤ん坊を産んだ。
産まれたばかりだというのにもう元気にはいはいをして居る。
女は礼をのべ、山神であることを明かした。
そしてこの小屋に来る前に尋ねたコダマの小屋では
けんもほろろに扱われとても悔しい思いをしたと語った。
後に猟師たちがコダマの小屋へ行ってみると
そこには栗色で背中に3本線が入ったネズミがいた。
コダマの人数と同じ6匹だったという。
猿の恩返し
知り合いの爺様から聞いた話なんだが、
その爺様は若い頃は山で猟師をやっていたそうな。
あるとき畑に悪さをする猿の群れを追い払うようにとの依頼をされて、
猿の群れに向かって撃ちまくったそうな。
爺様はとにかく一匹でも多く退治しようと山の中に入っていき、
そこで一匹の猿をみつけたので、ためらいもなく引き金に指をかけたそのとき、
その猿が爺様のほうを見て「どうかお助けください」とばかりに
手と手を合わせて拝んだそうな。
よく見るとその猿はメスでお腹が大きかった。
まわりを見ると前年に生んだ子供なのだろうか、若い猿が心配そうに見ている。
母猿はなおも必死で手を合わせて拝み、涙まで浮かべていたそうな。
爺様はそのことがあってから猟師をやめた。
都会に出て工場で勤めながら、趣味で仏像を彫っていたそうな。
そんな日々が続いたある日、仕事に行こうと玄関から出たら
アケビが山のように置いてあったそうな。
不思議に思って調べてみると、猿の毛があちこちについていたらしい。
そんな不思議な話をしてるときの爺様は始終にこにこしていた。
コメント