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【聞いた話シリーズ】短くて読みやすい怖い話 全45話 – 洒落怖 ショートショート

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【聞いた話シリーズ】短くて読みやすい怖い話 全45話 - 洒落怖 ショートショート 短編
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聞いた話シリーズ – 短くて読みやすい怖い話

 

 

迷い道

 

杣人に聞いた話。

通い慣れた山で何故か道に迷ってしまい徘徊していると、前方に小さな人影が見えた。
おぉい!と声を掛けたが聞こえた様子はなく、人影はずんずんと先へ進んで行く。
付いて行けば知った道に出られるかもしれない、と考えて後を追った。
小一時間程歩いたが、風景は異様さを増してゆくばかりだった。

尾根はぐんぐんと遠く、谷は恐ろしく深く、周囲には見た事も無い巨木が立ち並ぶ。
ふと妙な考えが浮かんだ。体が縮んでいるのではないか?
改めて頭上を見上げると、巨大な笹の葉が空を覆い隠すように揺れていた。
ピリリリリリ!突然ポケットの携帯電話が鳴った。取り出す間もなく耳元で声がした。

「お前、そんなところで何やってんだ?!」聞き間違えようの無い父の声。

次の瞬間、いつも通っている山道に立ち尽くしている自分に気が付いた。
携帯の着信履歴には、昨年他界した父の家の電話番号が残されていた。

 

カリカリ・・

 

杣人に聞いた話。

山で仕事をしている最中、カリ…カリ…という音が聞こえてきた。
音の行方を追って、とある木の足元に。どうもその樹上から聞こえるような気がする。
見上げると、幹から生えた人の指が3本、木の皮を引っ掻いていた。
翌日その場所へ行くと、木は一夜にして枯れ上がっていた。

 

杣人に聞いた話。

梯子の上に立って高い木の枝を切っていた時のこと。
木に固定していた紐が突然切れて、梯子が倒れてしまった。
とっさに幹にしがみついて事なきを得たが、危うく命を落とすところだった。
幹をゆっくりと伝って降り、落した鉈を探して視線を巡らす。
あたり一面に、赤、紫、黄、黒に塗り分けられた米粒が散らばっていた。

弔い

 

杣人に聞いた話

ダム湖の畔を通った際、少し前にそこで村の若者が水死したのを思い出した。
何気なく手を合わせて眼を瞑った。小さく念仏も唱える。

ヒタリ

額に何かが触れた。冷たい指先が皮膚を這う感触…
驚いて眼を開けると、パシャッと派手な音とともに足元が水浸しになった。

たき火

 

杣人に聞いた話

数人で山に入った時のこと。昼の休みに周囲の木切れや葉を集めて火を焚いた。
持参した弁当を食べて茶を飲み、一服しながら世間話を交わして小一時間。
「さぁて…」と、おもむろに立ち上がり、熾き火に砂をかけてかき回す。
カラリ…と軽い音。灰の中に綺麗に焼け残った人の腕の骨があった。

同乗者

 

知人に聞いた話。

山中を車で走っている最中、不意に何かが道を横切ったので急ブレーキを踏んだ。
「今の見たか!?」 ひどく興奮して助手席の方に話しかけた。
が、そこには誰もいない。そもそも、誰かを車に乗せた記憶がない。
灰皿には吸いかけの煙草があった。知人には車内で煙草を吸う習慣などない。
いったい助手席に何がいたのだろう?

 

峠にいるもの

 

測量会社の社員に聞いた話。

日が暮れてから、常宿に向かうために人里離れた峠を車で越えた時のこと。
途中、何度もヘッドライトに浮かび上がる人影に急ブレーキを踏んだ。
その度に停車して周囲を伺ったが、道の両肩は切り立った崖で、人の気配など全く無い。
ようやく宿に着き、案内された部屋の襖を開けた途端、お香の匂いが鼻をついた。

常とは違う様子にとまどいつつ足元に目をやると、小さな皿に塩が盛ってある。
急に背筋が寒くなり、早めに風呂に入ろうと浴衣に着替えて襖を開けた。
スリッパ越しにペチャリと冷たい感触。
足元を見ると、廊下は一面水浸しだった。

 

激しい揺れ

 

コンサルタント会社の社員に聞いた話。

地質調査のため山中でボーリングを掘っている最中に地震があった。
足場がすべて崩れてしまうほどの激しい揺れだったが、
近くのダムに設置された地震計には何も記録されていなかった。
後日、破損したボーリングマシンを回収して調べたところ、
地中を掘り進んでいた先端の刃に、血で固まった毛が絡み付いていた。

 

山の恵み

 

親父の代に、そこはたいそう豊かな山だった。
木は真っ直ぐに形良く伸び、春には山菜、秋には茸がどっさり採れた。
日当たりや土質は周囲の土地と変わるところはなかったが、一つだけ異なる点があった。
真ん中に小さな祠があり、中に真っ黒な石が据えられている。

どちらかと云えば無精者の親父だったが、その祠の手入れだけは欠かしたことがなかった。
妙ではあったが、特に悪い事とも思えず、そんなものかと思っていた。
親父は今際の際にも「あの祠を大切に守れ」と言い残して死んだ。

四十九日が過ぎた頃、夢枕に親父が立った。
大層やつれた風情でこんなことを言う。
「すぐに祠のある山の木を切れ。その後は決して立ち入ってはならん」
翌日から山の木を伐採し、売り払った。
随分と儲かったが、夢のお告げ通り伐採跡には何も植えず、入山禁止とした。

ある時、その山を売ってくれという話があった。
そのためには改めて山を検分する必要がある。
親父が死んで既に二十数年、平穏な日々を過ごして来た。
『…もう良いか』
正直そんな思いもあり、代理人と一緒に山を見に行くことにした。

二十年以上放置された山の際面はツルやツタ、野バラなどか絡まり合っていた。
まるで侵入を阻む壁のように、中を覗くことも出来ない。
手近なツルを掴んで鎌の刃を当てた。

「阿呆!」

耳もとで怒鳴り声が聞こえた。
久しぶりに聞く親父の声。思わず辺りを見回した。

「うわあああ!」

同行していた男の悲鳴が聞こえた。
指差す方を見ると、ツルの切断面から真っ赤な液体がまるで血のように滴り落ちている。
二人して屋敷に逃げ帰り、売却の話はそれっきりとなった。

山は改めて入山禁止とし、以後、家のものは誰も近寄らなかった。

瘤の毛

 

現場監督に聞いた話。

林道の工事にあたって木を伐採することになった。
手配師が連れてきた人夫が、切り倒した木をチェーンソーで小切ってゆく。
中に背丈ほどの高さに瘤のある木があり、その瘤のところに切り込みを入れた。
途端に凄い音がしてチェーンソーが止まった。チェーンに何かが絡みついている。

錆びた鉄釘を巻き込んだ恐ろしく長い髪の毛。
人夫が恐る恐る鉈で瘤を割ってみると、中から大量の黒髪がぞろりと出てきた。

その日以来、人夫は現場から姿を消した。
手配師に尋ねても「知らない」の一点張りで、理由も消息も分からずじまいだった。

 

黒い蓮

 

自転車仲間に聞いた話。

夕暮れ時。林道をMTBで爆走し、小さな湖のほとりで休憩していた。
日没に赤く染まった湖面を眺めていると、妙なものが目に入った。
水際に、黒い蓮の葉のようなものが浮いている。
(黒い蓮の葉なんてあるのか?サイズもアマゾンの大蓮なみに大きいし…)
そんなことを考えながら水を飲んでいた。
と――― 蓮の中央がゆっくりと盛り上がる。最初は耳。次に鼻。口…
長い黒髪の女が水面から姿を現した。
肝を潰して自転車に飛び乗った。全速力で来た道を下る。
麓の駐車場に着いた。一息つく間もなくキャリアに自転車を積み込む。
ふと、下ってきた道の入口に目をやった。全身が凍りつく。
さっきの女がこっちを見ていた。こんな時間で追いつけるハズがないのに…
青白い顔に、そこだけが紅い唇を少し開け、ゆっくりと近づいてくる。

車に乗り込み、猛然とスタートさせた。
国道に出るまで、バックミラーは一度も見なかった。
自宅にたどり着いても震えが止まらなかった。
自転車を玄関から放り込んで鍵を掛ける。
そのまま、友人の家に転がり込んだ。

翌日の昼、友人と一緒に自宅に戻った。
鍵を開けて中の様子を伺ったが、妙な気配は無い。
玄関に放り出しておいた自転車を仕舞おうとしゃがみ込んだ。
前輪のスポークとサスペンションに、長い黒髪が絡みついていた。

 

人型

 

消防団で年寄りに聞いた話。

夜警をしている最中に、妙なモノを見たことがある。
少し離れた尾根で蠢いているモノが見えたので、相方と二人して目を凝らした。
『それ』は次第に人の貌をとり、やがて立ち上がろうとしているように見えた。
相方の「ぎゃー!」という絶叫の直後、人型はサーッと解けるようにして形を崩した。
悲鳴を聞きつけて集まった何人かで現場へ向かったが、
木の枝や落葉がこんもりと盛り上がっているばかりだった。

 

ツララの下

 

ちょっと前の話。
その滝には、毎年冬になると巨大なつららができる。
ある年、寒の入りに行ってみると、つららの中に小さなイワナが閉じ込められていた。
分厚く透明な氷を通して、天を向いたほっそりとした魚体が見える。
鉈でつららを叩くと、イワナは尾鰭をひらめかせて氷中を駆け昇り視界から消えた。

 

粉雪

 

子供の頃の話。
親戚一同が祖父の家に集まった正月、私は屋敷を抜け出して雪の裏山へ入った。
ひょろりと高い木々はきれいに枝打ちされ、下から見上げると枝葉までが遠い。

細い幹に体当たりを食らわせると、てっぺんに抱えられていた雪が落ちてきた。
軽くてサラリとした粉雪は、地面までの長い距離の途中でパッと散ってしまう。
無数の雪片が舞う様を夢中で見上げていると、微かに女の子の笑い声が聞こえた。

近所の子が遊びに来たのかな?と思って辺りを見渡したが、人の気配はない。
視線を下に落とすと、雪面に自分のものではない小さな裸足の足跡があるのに気付いた。

 

カラス

 

村の青年団員に聞いた話。
山の中にある池の水門を見回りに行った時のこと。
池の上空に、おびただしい数のカラスが飛び回っていた。

異様な雰囲気に呑まれて立ち竦んでいると、
突然、池の真ん中あたりで「ゴボリ」と泡が湧いた。
そこを中心として赤黒く染まり始めた水面に、

今度は大量の肉片や骨が次々に浮かび上がってきた。
それを、待ってましたとばかりに舞い降りたカラス達がついばんでいく…
それは、どことなく禍々しい饗宴を思わせる光景だった。

この頃から、カラスがトンビを追い回す光景が見られるようになったらしい。

 

悲鳴

 

村役場の職員から聞いた話。
台風の最中、村内の見回りをしていると、数軒の家から住民が出てくるのが見えた。
こんな悪天候に何故?と理由を聞くと

「裏山から物凄い女の悲鳴が聞こえるので、堪らなくなって逃げて来た」と言う。

職員は耳を澄ませたが、強風の唸りが聞こえるばかり。
兎に角、近くの小学校に避難するように住民達を誘導していた矢先、

一際強い風が吹いたかと思うと、目前の裏山の木々がドミノ倒しのように一斉に倒れた。

 

覗く赤子

 

杣人に聞いた話。
木陰に座って一服しつつ何気なく頭上を仰ぎ見ると、枝葉の間に顔が見えた。
つるりとした赤ん坊のような顔。小さな瞳はこちらを無表情に見つめている。

何故か『捨て子だ』と直感した杣人は、思わず「可哀想になぁ」と呟いた。
すると顔がクシャクシャと歪み、目から溢れた水滴が雨粒のように落ちてきた。

「退け!」突然、そいつが太い声で叫んだので、杣人は思わず腰を上げ木陰から離れた。

直後、一抱えほどもある大きな石が、彼の座っていた辺りにドスンッと落ちてきた。

 

いざない

 

会社員に聞いた話。
ダムサイトで弁当を食べた後、柵にもたれてダム湖を眺めていた。
強い陽射しの中、断崖の下の湖面には真っ黒な影が広がっている。
と、聞き慣れない音が聞こえてきた。紙を擦り合わせるような乾いた音。
聞こえると言うより、耳鳴りのように頭の芯に響いて意識を揺さぶる…

「**さん!」
突然、同僚に後ろから呼び掛けられて我に返った。
上半身が覗き込むように断崖の方に乗り出していて、両足が宙に浮いている。
いつのまにか柵を乗り越えようとしていたらしい。
そこで初めて気が付いた。
真昼のこんな時間に、影があんなにも広がるはずが無い…
慌てて柵を離れようとした時、湖面の影が無数の人型に分かれてサ─ッと散った。

 

水道施設の点検

 

村役場の職員に聞いた話。

地図を片手に、山奥にある水道施設の点検に行った時のこと。
昨夜のうちに降り積もった雪を踏みしめて、細い山道を歩く。
足元のまっさらな雪面に見とれるうちに、気が付くと分岐点を通り越していた。
慌てて引き返そうとして振り向いたその場で足が止まった。
細い道の真ん中、新雪の上に自分の足跡と、もう一つ大きな足跡がある。
背後から後を付けるかのように、ピッタリと寄り添う足跡。
辺りには何の気配も感じられなかったが、車のところまで走って引き返した。
その足跡は人間離れした大きさではあったものの、ちゃんと靴を履いていたそうだ。

水面の向こう側

 

親戚に聞いた話。

幼い日の出来事。山道の水たまりを覗き込むと、こちらに背を向けた人の姿が見えた。
後ろを振り返ったが誰も居ない。そこで、拾った石を水たまりに投げ込んでみた。
すると、向こう側の人が驚いたように振り返り、こちらを覗き込むような格好に。
笑顔で手を振ってみると、引き攣ったような顔がスッと引っ込んだきり、
気が付けば、水面に映った自分の顔が見つめ返していた。

 

指示

 

山村住民に聞いた話。

ある日、山菜を採りに山へ入って迷ってしまった。
途方に暮れて彷徨っていると、突然携帯電話の呼び出し音が。
こんな山奥で?とも思ったが、山では思わぬ場所に電波が届くこともある。
ディスプレイを見ると圏外だった。番号は非通知。不審に思いながらも通話ボタンを押した。
「……そのままね、まっすぐ下ると道にでるから」

スピーカーから小さな子供の声がハッキリと聞こてくる。

「…ぜったいに、ふりむいちゃダメだよ」

そこで通話が途切れた。

言われた通りに山を下ると、程なく見覚えのある林道に出た。
その間、もちろん後ろを振り向いたりはしなかった。

 

搭乗者

 

友人に聞いた話。

夜中に一人で車を走らせていて峠に差し掛かった。
と、突然ひとりでに後ろのドアが開いて、パタンと閉じる。
半ドアだったのか?と思う間もなく、今度はカタンとロックが落ちた。
こわごわルームミラーを覗くが、後部座席には何も居ない。
やがて、山道を下りきった点滅信号の交差点で減速すると、
またもやひとりでにドアが開き、すぐにパタンと閉じた。

 

書き込み

 

登山愛好家に聞いた話。

その山小屋の食堂には一冊のノートが置かれていて、
宿泊者は、そこに一言残していく習慣になっている。
冬のある時期にこんな書き込みがあった。
「また、あいつらがやって来た。もう逃げられないのだろう」
「名前を呼びながら小屋の周囲を歩き回っている」
「窓の方は見ないようにしているが、時間の問題だ…」
食堂から見える全ての窓にはダンボールが貼付けられ、
部屋の中央には数枚の布団が積み上げられていた。
実はこの山小屋、冬は雪と氷に閉ざされて閉鎖されてしまう。
春になって小屋を開けに来た男が、食堂の異変とノートの書き込みを見つけ、
慌てて確認したが、外部から何者かが侵入した形跡はなかった。

厳寒の冬、ここの食堂に何が居たのだろう。

 

訪問者

 

親父に聞いた話。

30年くらい前、親父はまだ自分で炭を焼いていた。
山の中に作った炭窯で、クヌギやスギの炭を焼く。
焼きにかかると、足かけ4日くらいの作業の間、釜の側の小屋で寝泊まりする。
その日は夕方から火を入れたのだが、前回焼いた時からあまり日が経っていないのに、
どうしたわけか、なかなか釜の中まで火が回らない。ここで焦っては元も子もないので、
親父は辛抱強く柴や薪をくべ、フイゴを踏んで火の番をしていた。

夜もとっぷり暮れ、辺りを静寂が支配し、薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。
パチ・・・パチ・・パチ・・・
ザ・・・ザザザ・・・
背後の藪で物音がした。
獣か?と思い、振り返るが姿はない。
パチ・・・パチン・・パチ・・パチ・・・
ザザッ・・・・ザザ ザ ザ ザ ザ ァ ァ ァ ァ ―――――――――――

音が藪の中を凄いスピードで移動しはじめた。
この時、親父は(これは、この世のモノではないな)と直感し、振り向かなかった。

ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ

音が炭釜の周囲を回りだした。いよいよ尋常ではない。
親父はジッと耐えて火を見つめていた。

ザ・・・

「よお・・何してるんだ。」

音が止んだと思うと、親父の肩越しに誰かが話しかけてきた。
親しげな口調だが、その声に聞き覚えはない。

親父が黙っていると、声は勝手に言葉を継いだ。
「お前、独りか?」「なぜ火の側にいる?」「炭を焼いているのだな?」

声は真後ろから聞こえてくる。息が掛かりそうな程の距離だ。
親父は、必死の思いで振り向こうとする衝動と戦った。

声が続けて聞いてきた。

「ここには、電話があるか?」

(なに?電話?)

奇妙な問いかけに、親父はとまどった。。
携帯電話など無い時代のこと、こんな山中に電話などあるはずがない。
間の抜けたその言葉に、親父は少し気を緩めた。

「そんなもの、あるはずないだろう。」
「そうか。」

不意に背後から気配が消えた。時間をおいて怖々振り向いてみると、やはり誰も居ない。
鬱蒼とした林が静まりかえっているばかりだった。
親父は、さっきの出来事を振り返ると同時に、改めて恐怖がぶり返して来るのを感じた。
恐ろしくて仕方が無かったが、火の側を離れる訳にはいかない。
念仏を唱えながら火の番を続けるうちに、ようやく東の空が白んできた。

あたりの様子が判るくらいに明るくなった頃、
祖父(親父の父親)が、二人分の弁当を持って山に上がってきた。

「どうだ?」
「いや、昨日の夕方から焼いてるんだが、釜の中へ火が入らないんだ。」
親父は昨夜の怪異については口にしなかった。

「どれ、俺が見てやる。」祖父は釜の裏に回って、煙突の煙に手をかざして言った。
「そろそろ温くなっとる。」そのまま、温度を見ようと、 釜の上に手をついた。
「ここはまだ冷たいな・・」そう言いながら、炭釜の天井部分に乗り上がった・・・

ボゴッ

鈍い音がして、釜の天井が崩れ、祖父が炭釜の中に転落した。
親父は慌てて祖父を助けようとしたが、足場の悪さと、立ちこめる煙と灰が邪魔をする。
親父は、火傷を負いながらも、祖父を救うべく釜の上に足をかけた。
釜の中は地獄の業火のように真っ赤だった。火はとっくに釜の中まで回っていたのだ。
悪戦苦闘の末、ようやく祖父の体を引きずり出した頃には、
顔や胸のあたりまでがグチャグチャに焼けただれて、すでに息は無かった。

目の前で起きた惨劇が信じられず、親父はしばし惚けていた。
が、すぐに気を取り直し、下山することにした。
しかし、祖父の死体を背負って、急な山道を下るのは不可能に思えた。
親父は一人、小一時間ほどかけて、祖父の軽トラックが止めてある道端まで山を下った。

村の知り合いを連れて、炭小屋の所まで戻ってみると、祖父の死体に異変が起きていた。
焼けただれた上半身だけが白骨化していたのだ。
まるでしゃぶり尽くしたかのように、白い骨だけが残されている。
対照的に下半身は手つかずで、臓器もそっくり残っていた。
通常、熊や野犬などの獣が獲物の臓物から食らう。
それに、このあたりには、そんな大型の肉食獣などいないはずだった。
その場に居合わせた全員が、死体の様子が異常だということに気付いていた。
にも拘わらす、誰もそのことには触れない。黙々と祖父の死体を運び始めた。
親父が何か言おうとすると、皆が静かに首を横に振る。
親父は、そこで気付いた。これはタブーに類することなのだ、と。

昨夜、親父のところへやってきた訪問者が何者なのか?
祖父の死体を荒らしたのは何なのか?
その問いには、誰も答えられない。誰も口に出来ない。

「そういうことになっているんだ。」

村の年寄りは、親父にそう言ったそうだ。

今でも、祖父の死因は野犬に襲われたことになっている。

 

入山禁止

 

親父の代に、そこはたいそう豊かな山だった。
木は真っ直ぐに形良く伸び、春には山菜、秋には茸がどっさり採れた。
日当たりや土質は周囲の土地と変わるところはなかったが、一つだけ異なる点があった。
真ん中に小さな祠があり、中に真っ黒な石が据えられている。
どちらかと云えば無精者の親父だったが、その祠の手入れだけは欠かしたことがなかった。
妙ではあったが、特に悪い事とも思えず、そんなものかと思っていた。
親父は今際の際にも「あの祠を大切に守れ」と言い残して死んだ。

四十九日が過ぎた頃、夢枕に親父が立った。
大層やつれた風情でこんなことを言う。
「すぐに祠のある山の木を切れ。その後は決して立ち入ってはならん」
翌日から山の木を伐採し、売り払った。
随分と儲かったが、夢のお告げ通り伐採跡には何も植えず、入山禁止とした。

ある時、その山を売ってくれという話があった。
そのためには改めて山を検分する必要がある。
親父が死んで既に二十数年、平穏な日々を過ごして来た。
『…もう良いか』
正直そんな思いもあり、代理人と一緒に山を見に行くことにした。

二十年以上放置された山の際面はツルやツタ、野バラなどか絡まり合っていた。
まるで侵入を阻む壁のように、中を覗くことも出来ない。
手近なツルを掴んで鎌の刃を当てた。
「阿呆!」
耳もとで怒鳴り声が聞こえた。
久しぶりに聞く親父の声。思わず辺りを見回した。
「うわあああ!」
同行していた男の悲鳴が聞こえた。
指差す方を見ると、ツルの切断面から真っ赤な液体がまるで血のように滴り落ちている。
二人して屋敷に逃げ帰り、売却の話はそれっきりとなった。

山は改めて入山禁止とし、以後、家のものは誰も近寄らなかった。

 

迫る女

 

自転車仲間に聞いた話。

夕暮れ時。林道をMTBで爆走し、小さな湖のほとりで休憩していた。
日没に赤く染まった湖面を眺めていると、妙なものが目に入った。
水際に、黒い蓮の葉のようなものが浮いている。
(黒い蓮の葉なんてあるのか?サイズもアマゾンの大蓮なみに大きいし…)
そんなことを考えながら水を飲んでいた。
と――― 蓮の中央がゆっくりと盛り上がる。最初は耳。次に鼻。口…
長い黒髪の女が水面から姿を現した。
肝を潰して自転車に飛び乗った。全速力で来た道を下る。
麓の駐車場に着いた。一息つく間もなくキャリアに自転車を積み込む。
ふと、下ってきた道の入口に目をやった。全身が凍りつく。
さっきの女がこっちを見ていた。こんな時間で追いつけるハズがないのに…
青白い顔に、そこだけが紅い唇を少し開け、ゆっくりと近づいてくる。
車に乗り込み、猛然とスタートさせた。
国道に出るまで、バックミラーは一度も見なかった。
自宅にたどり着いても震えが止まらなかった。
自転車を玄関から放り込んで鍵を掛ける。
そのまま、友人の家に転がり込んだ。
翌日の昼、友人と一緒に自宅に戻った。
鍵を開けて中の様子を伺ったが、妙な気配は無い。
玄関に放り出しておいた自転車を仕舞おうとしゃがみ込んだ。
前輪のスポークとサスペンションに、長い黒髪が絡みついていた。

 

鈴の音

 

杣人に聞いた話。

山道を歩いていると、後ろから チリン… チリン… と鈴の音が聞こえてきた。
誰かが熊よけの鈴を付けているのだろう、と後ろも見ずに歩み続ける。
チリン… チリン… 音は次第に近づいて、いまや真後ろから聞こえてくる。
さすがに気になって振り向こうとした矢先、冷んやりとしたものがうなじに触れた。
リン… 頭蓋の内側で鈴の音が響いたかと思うと、口の中に冷たく丸い金属の感触。
思わず口を開くと、ソレは舌の上を滑って外へ消えた。
周囲を見回しても動くものは何もなく、鈴の音だけが遠ざかっていった。

墓石

 

旧家の主に聞いた話。

十数年前の春、前年に亡くなった父親の墓石が裏山の墓地に置かれた。
ところが、しばらくするとその墓石が倒れて破損してしまった。
すぐさま新たな墓石を建てたが、数日を置かずして倒壊してしまう。
只の悪戯とも思われたが、その為に不寝番を置く訳にもいかず、家の者は弱り切っていた。
秋になって、台風による強風のせいで墓地近くの木が何本か倒れてしまった。
その中の一本は父親が生まれた際に植えられた木だったが、
根っこに大きな石を抱えたままひっくり返ってっていた。
石を引きずり出して調べてみると、表面に父の名前と戒名までもが刻まれている。
そこで、それを洗い清めて墓地に据えることにした。
以来、墓石が倒れるような事はなくなった。

話の意味は私にもわかりません、聞いた話ですから。
多分、話を聞かせてくれた人にも解らないのではないでしょうか?

木が墓石を倒したのか?誰かの悪戯なのか?
木が墓石を用意していたのか?
先祖がすでに墓石を用意していて木を植える時に埋めたのか?

解釈はいかようにもできますが、オチはありません。
怪異譚の多くはそういうものだと、私は思っています。

 

氷中のイワナ

 

ちょっと前の話。

その滝には、毎年冬になると巨大なつららができる。
ある年、寒の入りに行ってみると、つららの中に小さなイワナが閉じ込められていた。
分厚く透明な氷を通して、天を向いたほっそりとした魚体が見える。
鉈でつららを叩くと、イワナは尾鰭をひらめかせて氷中を駆け昇り視界から消えた。

 

笑い声と足跡

 

子供の頃の話。

親戚一同が祖父の家に集まった正月、私は屋敷を抜け出して雪の裏山へ入った。
ひょろりと高い木々はきれいに枝打ちされ、下から見上げると枝葉までが遠い。
細い幹に体当たりを食らわせると、てっぺんに抱えられていた雪が落ちてきた。
軽くてサラリとした粉雪は、地面までの長い距離の途中でパッと散ってしまう。
無数の雪片が舞う様を夢中で見上げていると、微かに女の子の笑い声が聞こえた。
近所の子が遊びに来たのかな?と思って辺りを見渡したが、人の気配はない。
視線を下に落とすと、雪面に自分のものではない小さな裸足の足跡があるのに気付いた。

 

待ち受けていたカラス

 

村の青年団員に聞いた話。

山の中にある池の水門を見回りに行った時のこと。
池の上空に、おびただしい数のカラスが飛び回っていた。
異様な雰囲気に呑まれて立ち竦んでいると、
突然、池の真ん中あたりで「ゴボリ」と泡が湧いた。
そこを中心として赤黒く染まり始めた水面に、
今度は大量の肉片や骨が次々に浮かび上がってきた。
それを、待ってましたとばかりに舞い降りたカラス達がついばんでいく…
それは、どことなく禍々しい饗宴を思わせる光景だった。
この頃から、カラスがトンビを追い回す光景が見られるようになったらしい。

 

悲鳴と暴風

 

村役場の職員から聞いた話。

台風の最中、村内の見回りをしていると、数軒の家から住民が出てくるのが見えた。
こんな悪天候に何故?と理由を聞くと
「裏山から物凄い女の悲鳴が聞こえるので、堪らなくなって逃げて来た」と言う。
職員は耳を澄ませたが、強風の唸りが聞こえるばかり。
兎に角、近くの小学校に避難するように住民達を誘導していた矢先、
一際強い風が吹いたかと思うと、目前の裏山の木々がドミノ倒しのように一斉に倒れた。

 

それはなんだ?

 

杣人に聞いた話。
ラジオを流しながら枝打ちをしていると、薮の中から一人の男がのそりと這い出てきた。
「それはなんだ?」ラジオを指さしてそんな事を聞く。
「ラジオに決まっているだろう」と答えると
「そうか…それがラジオというものか…」などと独りごちて薮の中へ消えた。
男の背格好は普通だったが、見たこともないような襤褸を身に纏っていたそうだ。

 

覗くモノ

 

杣人に聞いた話。

木陰に座って一服しつつ何気なく頭上を仰ぎ見ると、枝葉の間に顔が見えた。
つるりとした赤ん坊のような顔。小さな瞳はこちらを無表情に見つめている。
何故か『捨て子だ』と直感した杣人は、思わず「可哀想になぁ」と呟いた。
すると顔がクシャクシャと歪み、目から溢れた水滴が雨粒のように落ちてきた。
「退け!」突然、そいつが太い声で叫んだので、杣人は思わず腰を上げ木陰から離れた。
直後、一抱えほどもある大きな石が、彼の座っていた辺りにドスンッと落ちてきた。

 

呼ばれる

 

会社員に聞いた話。

ダムサイトで弁当を食べた後、柵にもたれてダム湖を眺めていた。
強い陽射しの中、断崖の下の湖面には真っ黒な影が広がっている。
と、聞き慣れない音が聞こえてきた。紙を擦り合わせるような乾いた音。
聞こえると言うより、耳鳴りのように頭の芯に響いて意識を揺さぶる…
「**さん!」
突然、同僚に後ろから呼び掛けられて我に返った。
上半身が覗き込むように断崖の方に乗り出していて、両足が宙に浮いている。
いつのまにか柵を乗り越えようとしていたらしい。
そこで初めて気が付いた。
真昼のこんな時間に、影があんなにも広がるはずが無い…
慌てて柵を離れようとした時、湖面の影が無数の人型に分かれてサ─ッと散った。

 

ピンぼけ写真

 

市役所の職員から聞いた話。

何年か前、補助金がらみの調査で市内の山林を回っていた。
現場で調査と撮影を行い、車で次の現場へ。
移動の際は、紐をヘッドレストに引っかけてカメラを運転席の背後に吊しておいた。
後部座席に向き合う形で吊されたカメラは、悪路に揺られてピョコピョコと跳ね回る。
「そんな扱いで故障しないのか?」同僚にそう聞かれると、
「これは現場用に作られた丈夫なカメラだから心配ない」と答えた。
調査が終わり、現像した写真を整理していて妙なことに気付いた。
撮った覚えのない写真か何枚か紛れ込んでいる。
ピントが合っていないブレまくった写真。
後部座席とリアウインドウが写っているところを見ると、
吊しておいたカメラのシャッターが誤作動で落ちたのかもしれない…
何とはなしに、ピンぼけの写真だけを並べてみる。
そこで初めて、ある共通点に気付かされた。
リアウインドウ越しに、遠くの道端に佇む人の小さな姿が写っている。
どの写真にもクッキリと。
ピントはその人物に合っていたのだ。
白っぽい服を着たその女の視線は、真っ直ぐにこちらを向いていた。

 

伸びる手

 

杣人に聞いた話。
梯子に登って枝を切っている最中、後ろから背中を叩かれた。
振り向くと、上の枝葉の間から異様に長く毛深い手が伸びている。
肝を潰した杣人が慌てて地上に下りてみると、
ちょうど、近くで仕事をしていた仲間が梯子を下りてくるのに出くわした。
血の気の抜けたような顔で、恐る恐る話しかけてくる。
「お前さんの後ろに手が伸びていただろう?」
杣人が頷くと、仲間の男は曇天の空を指差して言った。
「…その手、雲の中から出ていたぞ」

 

私の山

 

林業指導員に聞いた話。
森林を調査している時のこと。
こみいった話をしている役場の職員と山主に背を向け、目下の森を見下ろしていた。
と…100m程離れたところに少女が一人、ぽつんと薄暗い木立の間に佇んでいる。
一人で遊びに来ている里の子なのか、身に纏った真っ青な着物が遠目にも鮮やかだった。
ちらりと横合いを見て、再び視線を戻す。
すると、目の前に少女が立っていた。
「ここは私の山なんだよ…」
心なしか自慢げな表情でそんなことを言うと、少女はグイっと顔を寄せ、
指導員の体を通り抜けて消えてしまった。

 

猿聟入

 

「猿聟入」
昔ある村が日照りに襲われたため水を引く事になり、その際猿男の力を借りた。
猿男はその働きの対価として「村の娘を嫁にくれ」と言いだした。
話し合いの結果、長者の三女を猿男の下へ嫁入りさせることとなった。
長者は嫁入り道具として臼と扇子を持たせることとし、
猿男は臼を担ぎ、娘は扇子を持って猿男の住む山へ向けて出発した。
途中橋を通る際、娘は扇子を川へ放り投げ、猿男にそれを取ってくれと泣きついた。
猿男はすぐさま川に飛び込んだが、臼の重みでたちまち溺れてしまった。
進退窮まった猿男は「俺はこうなってもお前の事が忘れられん」
と言い残し、川底に沈んでしまった。

 

亡き社長

 

土建屋の社員に聞いた話。
ある日、現場作業員が青い顔をして本社にやって来た。現場で社長を見たのだと言う。
作業員が足場のパイプを運んでいる最中に、繁みの中から社長が飛び出してきて、
両手を振り回したかと思うと目の前で消えてしまったそうだ。
社長は、その年の初めに現場近くの山で、猟師の流れ弾に当たって亡くなっている。
「足場のパイプを鉄砲と間違えたのかもしれない」作業員は真顔で言った。
「社長とは古くからのつき合いだが、祟られるのは御免だ」

 

佇む男の子

 

寄り合いの場で聞いた話。
冬の夕刻、一人の女性が暗くなりかけた山道を下っていた。
池のほとりに差し掛かった時、向かい側に子供の姿が見えた。
暗い木立の中で、やや俯き加減に佇んでいる。
こんな時間に?と、いぶかしんで見やるうちに、ふと目が合った。
次の瞬間、子供がこちらに向かって近づいてきた。
水面をスーッと滑るように池を渡ってくる。
愕然と立ち竦む女性の方を悲しげに見つめながら目の前を横切り、
道端の木の中に吸い込まれるようにして、フッと姿を消した。
木の根元には、しなびた花束とラジコンカーが置かれていた。

 

山頂の光

 

村人に聞いた話。

朝早く起きて井戸に行く途中、遠くの山の頂上が光っていた。
その季節の日の出の方向とは違うのでぼうっと見ていると、彼は気づいた。
その光は巨大な、満面の笑みを浮かべた、しわの寄った顔だった。
驚いて井戸で顔を洗い再度見るとその顔は無くなっており、群れて飛ぶ鳥の影だけが見えた。

 

 

登山者に聞いた話。

山の稜線を歩いている最中、前を行く人の影がいきなり伸びて谷底の木立にまで達した。
影は生き物のようにうねうねと動いていたが、やがてスーッと縮んで元に戻った。
後で影の主に聞いてみると「よくあることだ」と平然としている。
「時々どっかへいっちまう事もあるな」素っ気ない口調でそう言い、水を一口飲んだ。

 

木彫りの玉

 

山主に聞いた話

昔、家の納戸に木彫りの玉があった。鞠ほどの大きさでかなり古い。
幼い頃の娘がよく玩具にして遊んでいたが、いつの頃からか無くなってしまった。
やがて娘は結婚することになり、費用調達のため樹齢二百年の木を切り倒すことになった。伐採現場へ行ってみると、大きな切り株の真ん中に、ポツ、と小指ほどの穴がある。
周囲を削ってみると洞が現れた。腐れもなく綺麗にくり抜かれたような丸い空洞。
そういえば、娘が遊んでいた玉が丁度これ位の大きさだった。

 

タブーの日

 

村の年寄りに聞いた話。
山の神の祭りの日に、山に立ち入った男がいた。いつものように自分の山を見て回る。
ふと辺りに何ものかの気配を感じ、思わず立ち止まった。
とのとたん、肩を凄い力で下に押さえつけられ、足が地面にズブズブと沈んでいく。
とっさに「御免!御免!」と謝ると、肩を押さえる力が一瞬弛んだ。
男はその隙に逃げ出したが、後で年寄り達に呼び出され、ひどく怒られた。
「もう少しで木にされるところだったんだぞ」年寄りの一人がそう言った。

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