禁じられた山で変なヤツをみた
昔の話だし、普通に動物と見間違えたのかもしれない
オカルトってほど上手くできた話じゃないんだが、あれがなんなのか分かる奴がいたら教えて欲しい
小学校低学年の頃だったか、県内の車で一時間くらい離れたところにあるじーちゃん家に
年に何回か泊まりに行くことがあった
こっちはこっちでド田舎だし、じーちゃん家もド田舎
何て言ったらいいのかな、こっちは平地なんだが、じーちゃん家はちょっと変わった地形だった
トンネル続きの山の中に一本だけ車がびゅんびゅん通る大きな道があって
じーちゃん家はそこを少しはずれたところにあった
目の前には大きな池があって、後ろを向くとすぐそこに山がある
池と山の間をUの字みたいに道路が走ってて、Uの底の部分にじーちゃん家があるんだ
民家は数軒あるんだが、どれも道沿いの麓にあってある程度山を登るともう家も何も建ってない
そんな感じの田舎だった
3泊くらいする予定だったかな、最初の日は目の前の池で魚を釣りまくったり
ちょっと歩いて大きな道沿いの公園に行ったりした
じーちゃんは大の犬好きというか、犬方面に限りものすごくカリスマ性のある人で
山に住んでる野良犬たちのボス的存在だった
デカくて凶暴な野良犬もじーちゃんが口笛を吹けば山から降りてきて
じーちゃんのいる前では大人しく撫でさせてくれた
多分当時7匹くらいはいたと思う
二日目になり、ひとりで外で遊んでたんだがものすごーく暇だった
何にもやることがないし、庭のすぐ隣にある崖にも上るなと言われているのでつまらない
庭が結構広いので探検でもするかと木の棒を持って歩いていると
裏庭で朝じーちゃんに呼ばれて集合していた野良犬たちを見つけた
二匹いたんだが、一匹はいつもどこか狭いところに隠れたがるチビでわりと気弱なやつ
二匹目は体がでかくてブチ模様の、多分じーちゃんを除けばボス格のやつだ
近づいていくとチビのほうはダッシュで物置に逃げたが、ブチは触らせてくれた
牙が見え隠れして怖かったが、なかなかどっしり構えてていい奴だなと思った
そうしてブチを撫でながらふと思いついたんだ
そういえばこいつらどこに住んでるんだろうなって
いつもじーちゃんに呼ばれたら山から降りてくるが、こいつらの家や寝てる姿は見たことなかった
どうせ暇だし、今日はそれを探しに行くかとか思っちゃったんだよ
ばーちゃんから山には行くなと言われていたが、そんなに強く言われていたわけでもないんで
ちょっと覗くならいいかと思ってた
でかくて強いブチがいるからイノシシが出ても余裕じゃね?とか気が大きくなってたんだと思う
普段たまにしか行かない山へ続く道のほうへ歩き出すと、ブチは後ろを付いてきた
物置に隠れてたチビも、ビクビクしながらだいぶ後ろを付いてきた
山へ続く道に出て、チビが追いついてくるのを待ちながらあたりを見渡した
はじめてじっくり見たんだが、隣の家も見えるし奥のじーさんの畑も道沿いにある
結構拓けてて怖くないじゃんと思いながら、小石を固めたような細い坂を上っていった
右手には畑、左手には小川で、きれいな田舎の風景だったと思う
じーちゃん家を見下ろせるくらいの高さまで、ぐいぐい上っていった
疲れが来るまで一気に駆け上がって、振り返ると下のほうに池とじーちゃん家が見えた
ブチを撫でながらまた遅れて歩いてるチビを待ってまた上ろうとすると
急に雰囲気が変わったというか背筋がすっと寒くなった
今までは拓けてたんだが、急に左右の木が高くなって、色もなんか黒々としてるんだよ
可愛らしい感じだった小石の道も、ひび割れたコンクリートの舗装になってて怖くなってきた
そもそも、麓にある民家より上には何もないはずなのに、コンクリート舗装されてるのがおかしいんだ
ひび割れてるから人がいなくなってしばらく経つんだろうが、これなら上には廃屋があるんじゃないかとひらめいたんだ
普段オカルト番組も見れないくらいビビりなのに、今回はせっかく来たんだしという思いと
学校でこれを話せばヒーローになれるんじゃねとかぬるい考えで進むことに決めた
この山に住んでる野良犬を二匹も連れてるんだし、大丈夫かと思って
ブチとチビの真ん中に立って進み始めると、ちょっと上った右手の奥にボロボロの屋根が見えた
よし、とりあえずあそこまで行こうとビクビクしながら進んでいったんだよ
ついてみると、壁が黒ずんでてコケとツタの這ってる、いかにもな感じのボロい民家だった
幸い道沿いに窓がなかったから、そこまで怖くならなかったんだろうな
窓が付いてたら誰かが覗いてるんじゃないかと焦って即逃げたと思う
さすがに入り口を探して入りはしなかったが
随分古いから、これは大発見じゃないかと思ってえらくテンションが上がった
道はゆるくカーブしていて先が見えないが、まだ続いているようなのでもうちょっと行こうと歩き出したんだ
この先で例のへんなやつを見ることになる
今まではちらちら振り返って麓のじーちゃん家を見て安心してたんで
カーブの先に行くのにはさすがにちょっと戸惑った
しゃがんでブチに心の中で「進んでも大丈夫?」と話しかけてみちゃったりしたんだが
ブチはじーっと顔を見つめ返してきたんで大丈夫な気がした
ついでにブチの口の端っこを持ち上げたら鋭い牙が見えて安心したんだ
チビが山に上がってから想像以上に歩くのが遅いのでゆっくりカーブの道を曲がっていった
曲がってからの道は、心なしかさっきの道よりも明るくなってたのでほっとしながら歩いていった
そのとき左手のほうに分かれ道があって、奥に建物が見えることに気がついたんだ
もちろんその分かれ道のほうに歩いていって建物をよく見ると、壁がない柱と屋根だけの建物だった
上手く伝えられないんだが、農具なんかを片付けておく元から壁がない倉庫みたいな感じ
木の柱だか鉄筋だかは思い出せないが、結構広くて床は白っぽくきれいな印象だった
なぜか雰囲気的に豚小屋かなと当時小学生の自分は思った
確か大きめのわらの束みたいなのがあちこちにあったんだと思う
なぜか子豚ちゃんがわらの影に隠れてるような気がして、無意識的に屋根の下へ入っていこうとしてた
そのとき後ろから、「キャンキャン!」みたいにほえる声がしたんだ
チビとブチどっちが吠えたのかは分からないが、とっさに振り返るとチビがもと来た道へ走ろうとしていた
なにに驚いているのか分からなくてまた建物のほうへ向き直ると、さっきまで確実にいなかったのに
建物の奥になんか黒くて大きなのがいるんだよ
見たときすぐに、「あ、アレだ」となぜか思った
そのアレがなんなのか自分でも分からないが、動物というよりサルや人間みたいな感覚を
なんていったらいいかわからずにアレと言い換えたんだと思う
書いててもなんのことやらわけがわからないが
黒いのは熊とかいのししという感じじゃなくて、なんか人間に蜘蛛の脚が生えたみたいなモサモサした感じだった
一瞬でそこまで覚えてるのも謎だけど、脚か腕なのか分からないが頭の上に一本細長いのが見えて
それがこっちに向かってくるような感覚がしたんだ
ダッシュで逃げた
コンクリートの坂道をダッシュで下りながら、全力で逃げた
後ろを振り返っちゃ駄目だと感じて、だけど前を見るのも怖くてうつむき具合に逃げた
ちょうどボロボロの民家の隣を通り過ぎるところだったから、その民家からまた黒いのがでてきそうで
全身が縮みそうだったんだ
下のほうに池とじーちゃん家が見えたとき、ほっと安心して走りながら後ろを振り返ってしまった
何で振り返るんだよ!と心の中でつっこんだが、幸い何もいなかった
斜め前を走ってるブチを追いかけながら、庭へと駆け込んでいった
このときはなぜか気づかなかったんだよ
気づいたら玄関の中へワープしてた。記憶が飛んでるだけだと思うが
すごい勢いで家の中にはいってきたことにばーちゃんが気づいて
台所から顔を覗かせながら「何で犬を入れるんだ!」と怒鳴ってきた
横を見るとブチがこっちを見ていて、ここで気が抜けて玄関に座り込んだが
犬嫌いのばーちゃんが犬を外に出せと怒るので嫌々立ち上がって玄関の扉に手をかけた
ここでやっと思い出したんだ、あれ、チビがいねぇ
確か吠えて真っ先に逃げ出したんだが、俺が逃げるときにそういえばチビを一回も見ていない
走るのが遅いから先に逃げたという説は潰れるとして、全力で走ったんだからチビを追い越してないとおかしい
しかも追い越したのなら、麓近くで振り返ったときにチビを後ろに見ていないとおかしい
よたよた帰ってきてるのかと思って恐る恐る玄関を開けて庭を見たんだが、チビはどこにもいなかった
それからは探しに行く気にもなれず、ブチを外に出してからずっと部屋に閉じこもってた
テレビを見て風呂に入って、今日のことは忘れようと居間に敷いてもらった布団に入った
寝付く前、屋根の上や壁からドンドン音がして
庭に面した窓の光がぼんやり映ってる障子に黒い影が横切った気がしたんだが多分気のせいだ
翌日母に迎えにきてもらって帰るまで、犬達には一度も会わなかった
そういえばじーちゃんもいなかったから、山から降りてこなかったのかもしれない
それからはじーちゃん家に泊まりに行くこともなくなり、小学生の頃の話はそれでおしまい
ばーちゃんがちょくちょく家に遊びに来るので犬のことを聞くと
嫌々野良犬達の住みかを教えてくれた
当時の自分は山に住んでいるんだと思っていたが、ブチたちは夜は二軒隣のじーさん家の
敷地で寝ているらしい
遠まわしに家の隣の道を上がったところは?と聞くと、あそこは犬でも行かないよと言っていた
チビがどうなったのかは、今でもよくわからない
最近じーちゃん家をあのときぶりに訪ねたとき、じーちゃんにチビのことを聞いてみたが
そんな犬はいたかどうかわからないとのことだった
チビというのは自分がつけた名前で、じーちゃんは犬の名前を特に決めていなかったので
どの犬か伝えづらかっただけというのもあるが
久々に犬達に会いに行ったら、みんな世代が代わっていて知ってる犬は一匹もいなかった
ただ怖そうなのに意外とすんなり触らせてくれるひときわデカイ犬と
車の下でビクビクしてる犬がいたので、もしかしたらブチとチビの子孫なのかもしれない
犬達は増えに増え、数は二桁に突入し保健所の人たちが度々やってくる上に
犬関連だとすぐにキレるので近所からも煙たがられてじーちゃんは完全に変人扱いですが
とりあえず大きな被害はなく皆元気なようです
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