工事現場
今から3年半ほど前に仕事で、老人ホームの設計を依頼された。
その当時俺は東京のT市に住んでおり(今も同じだが)依頼の場所は、俺の住むT市の隣M市だった。
ちょうどその時はH市の病院の増改築工事の設計の仕事をしており、
掛け持ちでやる仕事としては、立地的に現場から現場への移動、そして自宅から向かうにも楽な場所で
あったため、快くOKの返事をだした。
そして打ち合わせのために俺は呼ばれ、初めてその現場に向かうことになった。
自宅から車で約15分程で付くだろうと思い、車でO環状を走り、10分程走り指定された脇道へと
それ、坂道を上ると正面にM斎場があり、M斎場の脇の私有地を抜け、現場らしき場所にたどり着いた。
今考えるとえると、もの凄い立地条件だ。
斎場からわずか300m程の場所に、老人ホームなんてあまり気分の良い物ではない、
近くには葬儀屋まであるしそれ以外はなにもありはしない。
それから何事もなく打ち合わせも終わり、俺は関係者の
見送りをすませ、最後にその場所から立ち去ろうとすると
一人の爺さんが、老人ホームの建つ方向を眺めていた。
散歩でもしてるのか?気になった俺はその爺さんに
話しかけてみた「お散歩ですか?」すると爺さんは
いやいやと首を振り、逆に俺に話しかけてきた。
「ここには何が建つのですか?」そう聞かれた俺は
看板を指さし「老人ホームが建つんですよ」と答えた。
爺さんは、「ほーこんな静かでいい場所に建てるんですか、
私も出来たらこんな場所で余生を過ごしたいですね。」
そう聞いた俺は、半分嫌味もはいっているのだろうなと
思いながら答えた「場所的には縁起がよくないかも
しれませんね」爺さんは笑っていた。
病院の現場に向かう事もあり俺は、それではと言いながら
車を発進させ後ろを何度も気にしながら俺は、病院へと急いだ。
それからしばらくして、基礎打ちのための掘削に立ち会う事に
なり、俺は現場に向かった。
俺の到着を待っていたのか、掘削のためのユンボ2台の
オペレーターが、俺のほうに向かってきた。
一人はよく一緒に現場で仕事をしているために、笑いながら
「またよろしくお願いします」そう挨拶してきた。
もう一人は今回が初めてのため、緊張した面もちで
「よろしくお願いします。」と挨拶した。
一通りの打ち合わせを終えて、掘削を開始した。
掘削を初めてから3時間ほど経っただろうか、
顔見知りのオペレーターの、ユンボが動きを止めた。
Iくんは自分が掘削したばかりの場所へと降りていった。
どうしたんだろう?俺はそう思いユンボのほうに向かった。
その時掘削で地盤が緩んだのか、ユンボのキャタピラ部分が
崩れだしてしまった。その衝撃で固定していたはずの
ユンボのヘッドの部分が、I君に直撃してしまった。
あわてた俺は、もう一人のオペレーターに大声で
「ユンボのヘッドを引き上げてくれ」そう告げて俺も
I君のいる場所へと降りていった。
幸いな事にI君は腕を強打しただけですんでくれた。
俺は何でいきなり下に降りて行ったのかを聞いた。
するとI君は「自分がヘッドを向けた場所にお爺さんが
居たんです」・・「危ないと思ってユンボを止めたら
誰もいなくて、気になってそこを確認しようと思って
下に降りたらユンボが傾いちゃって」
すいませんと言いながら痛みをこらえているようなので
俺は現場代理人に、I君を病院に連れていく事を告げ
病院に向かった。
治療も終え、骨にも異常がなかった事から、俺とI君は
現場に戻ることにした。
夕方現場に戻ると作業が中断していた。
どうしたのかと思い代理人に事情を聞くと
「いやーさっきI君が怪我した場所を掘ったら妙な物が
出てきてしまって」そう言って指をさした。
指さされた場所を見ると、古びた壺のような物があった。
何なの?代理人に聞くと、「骨なんすよ、骨壺ですね」
俺ははっとして、「他には何も出てない?」と聞いた。
工事現場で致命的な事は、その場所から遺跡が
でてしまう事なのだ。
代理人は「取りあえずあれだけですんで」それを聞き
俺は安心した。骨壺の状態からかなり古そうであり
殺人などはないだろう、不謹慎だけど工事現場では
出来るだけささいな事はもみ消す事になってしまう。
遺跡や事件にかかわるとどうしても、工事日程が
くるってしまう、それは関係者としては避けたいのである。
現場責任者を呼び、相談した結果骨壺を少し移動して
埋葬する事になった。掘削場所から10m程離した
場所に穴を掘り、骨壺をきれいにしてから埋葬した。
当然線香やお花もそえて。
それから工事はトントン拍子で進み、1階部分が
完成した。しかし1階部分が完成してからこの現場では
妙な事が起こり始めた。ある場所に限り事故が多発
しだしてきた。
死亡事故にまでは発展しないが、指の切断、脚立からの
転落による骨折、転倒した弾みで鉄筋に肩をぶつけて
貫通、落下物による頭部裂傷、一歩間違えば・・・
1ヶ月の間にその手の事故が11件も起きてしまい
関係者の間で、「あの骨のせいなのだろうか」と言う
話が出始めた。
俺もその可能性はあるのだろうなと思わざるえなかった。
会議で現場の休日に、お払いをしてもらうことになった。
お払いの当日外部から見えないように、ブルーシートを
使いその場所をぐるりと囲み、お払いは行われた。
これで事故が無くなってくれればいいのだが。
事故は減った、でも無くなる事はなかった。
どうしてこの場所だけ起こるのか、この施設が完成したら
どうなるのか、完成するとここは風呂場になる。
老人の転倒、洒落にならん。
そんな事を考えつつ数日が過ぎた日、I君から会社に
電話があった。俺に話があるらしい、嫌な予感。
病院の現場事務所で待ち合わせる事にして
I君を待っていると、時間通りに来てくれた。
結構深刻そうな顔をしている。「どうした?」俺は
I君の顔を見ながら聞いてみた。
するとI君は「あの事故からへんなんですよ」そう言って
話しはじめた「事故の直後は、こんな夢は見なかったんですが
ここんとこ毎晩同じ夢なんですよ。」おお何か面白そうだ
俺はそう思い続きを聞いた。
「夢であのお爺さんがでて来るんですよ」
「それが工事途中のあの現場に居るんです」居るかもな
そう考えながらも話を聞いてると、とんでもない事を言いだした。
「現場であのお爺さんが、Mさんの背中にしがみついてるんですよ」
それを聞いて俺は思わず、叫んでしまった。
「何で俺なの?ねえ何でよ」たじろぎながらI君は
「嫌、俺にもまったく分からないんですよ」そりゃそうだ
原因がわかれば俺の所にも来ないだろうしな。
だからといってそんな事言われても困る・・・
「どうしてもMさんの事が気になって今日訪ねて見たんですけどね」
それからI君は、現場で線香をあげたいからつき合ってもらたいと
俺に頼んできた。そんな話をされた後に断れるほど俺は、
強くはない。
今から向かえば6時過ぎには、現場には行けるだろうから
すぐ向かう事にした。
現場に向かう車の中で、I君が見たと言う爺さんの話を
聞いてみた「なあI君が見たっていう爺さんなんだけどさ
どんな感じの人なの?」するとI君は夢で何度も見ている事から
詳細に話してくれた。髪の形、年齢層、着ている物、
冷や汗ものだった。俺が最初に話をした爺さんだ・・・
現場に着くまでの間、他の話で紛らわせる事にした。
そして現場に着き、I君は埋葬場所に向かった。
俺のほうはどうしても気になり、外装の完成した風呂場に
向かった。骨壺を移動した事がいけなかったのかな、
そう思いながら風呂場を見渡した。
しばらくすると外からI君の声がした。
「Mさん終わりました、帰りましょう。」それを聞いて俺は
「おー」と返事をして外に向かおうとした。
その時突然足が動かなくなった、どう説明していいのか
こんな感じは初めてだった。
簡単に言うと(プチ金縛り状態)動かん。
しだいに腰まで重くなってきて、とうとうその場に倒れ込んで
しまい、焦りながら何度も立ち上がろうとした。
腰のほうに目を向けても何も見えない。
すると、カタンと音がした。音のするほうを見ると
立てかけてあったスライダー(多段ばしご)が俺の背中に
向かって倒れてきた。直撃はしたものの背中だったため
たいしたダメージはなかった。
スライダーの倒れる音に気が付いてI君が来てくれた。
「大丈夫ですかっ。」そう言いながらI君は俺を助け起こして
くれた。ただおかしかったのがI君で、俺を助け起こした
後に、どうしたんですか、とは聞かずに「Mさんも
線香あげたほうがいいですよ」と言ってきた。
気にはなったが、I君の言うとうりに俺も線香を
あげることにした。
線香をあげたあと、俺とI君は現場を後にすることにした。
その帰りの車中でI君がいきなり俺に謝り始めた。
「すいません、俺のせいで怪我させて」気にしないでいいよ
俺は笑いながらI君に言った。するとI君は
「さっき本当はMさんの背中にお爺さんが乗ってたんです。」
それを聞いたとき俺は思わず急ブレーキをかけてしまった。
ビビった、近くのコンビニに車を止めて俺はI君に聞いてみた。
「俺と爺さんは何か関係あるの?」するとI君は
「自分でもわからないんです、ただMさんはあの現場には
近寄らないほうがいいような気がします。」
そう言われて俺は素直に、完成するまで建物内に入る
事はしなかった。
老人ホームは完成した。大きな現場ではなかったが
それでも事故の件数は俺が担当したなかでは
一番多かった。29件の内28件が風呂場だった。
余談だけど、骨壺の件は現場関係者しか知らない
もう誰もあの場所に骨壺が埋まっている事など
知らない・・・
何も起こらないでね。お願い。
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