『嫁のメシがまずい』|洒落怖名作まとめ【長編】

『嫁のメシがまずい』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編

また悲しくて涙が出た。それを見た嫁が「なんでこの料理じゃ駄目なの!?普通のお味噌汁と同じじゃない!!」と、またガン切れ。
「どこが普通だ!!!」と泣きながら言うと、嫁も泣きながら「普通じゃない、油揚げとかあぶらものだし、長ネギでしょ!」 (゜Д゜)ハア?

 

「これは セ ロ リ だ!!!」「何言ってんのよ!!」

「お前が何言ってんだ!!」

会社でAにそれを話して、もう疲れたもう嫌だ、そんな言い逃れをする女じゃないと思うんだ、と愚痴った。
A「もしかして、根本的に食材の名前が分かってないんじゃない…?」 よく思い出してみると、嫁の作るものはいつも何かがおかしい。
味付けもおかしいんだが、ハッシュドビーフに豚肉、さばみそと言って出すものもサゴシ。ちりめんじゃこの浮かんだ味噌汁もよく出てくる。

とりあえず同僚に「奥さんにはとりあえず保留と言うことで、申し訳ないと言っておいてくれ」と伝えて、その日から一緒にスーパーに通った。無理矢理連行した。
案の定、肉類は何の区別もついていない。牛豚鶏の区別がついていない。肉は「肉」というひとくくり。

魚は丸のままだと何の区別もついていない。切り身になると赤身白身の区別はついていた。

煮干とちりめんじゃこは同じもの、干物類は「ちょっと大きな煮干」(だしが取れる)という認識。
味の開きのぶつ切りが入っただしなし味噌汁の理由が分かった。
わかめと昆布の区別も同様。わかめが大量に入っている鍋物や味噌汁の理由が分かった。

酷かったのが野菜。本気で長ネギとセロリの区別がついていない。ラディッシュとさつまいもの区別がつかない。
書いてあるだろ?と言うと、スーパーで買い物なんかしたことないから、棚に書いてあっても、その上の物を指すのか下のものを指すのか分からないし、そもそも偽装するから信用出来ないそうだ。

ひとつひとつ教えたんだが、「肉なんかどれでも一緒でしょ?いちいち貧乏臭い!」とか
「(店が)嘘ついてるかもしれないでしょ?!」と話にならない。
肉がどれも同じはずはないと思うんだが、

本人曰く「ビーフステーキもチキンステーキもあるじゃない。同じだから同じ調理法なんでしょ」だとさ。屁理屈すぎる…。

 

そんなこんなで2週間ばかり、「これは鶏肉で、これは長ネギだよ。今日は親子丼とかどう?」みたいな感じで、
食材を限定してなるべくシンプルな夕食を作ってもらっていた。
Aの奥さんにレシピノートをコピーしてもらったんだが、それも奥さんのお母さんからの代の昭和40年代からの新聞や雑誌や料理本の切り抜きに細かく書き込みがしてあるもので、嫁に見せるとまた「貧乏臭い!」とかキレられそうだったので、いちいち俺が文章に起こして渡していた。

それでもまだ、ウスターソース(調味料をすべてこじゃれた瓶に詰めなおして置いてあるので、濃縮だしと間違えたのか、創作なのか未だに不明)に鶏肉と長ネギを入れて、割りいれただけの卵(といてない)をかけて焦げ付いたりしたものが出てきていたが、食材を買うところからいちいち口を出しているので、調理過程には口を出していなかった。

その2週間がすぎると、急にものすごく料理が手抜きになった。
ごはんはサトウのごはん、味噌汁はインスタント。惣菜はスーパーやデパ地下。
嫌になったかなあと、ちょっと反省しながら

「なあ、Aの奥さんに教わるのが嫌なんだったら、お義母さんに教わろう?ちょっとずつさ、習おうよ」と言ってみたら、嫁顔真っ青。

「嫌!!やめて!!お母さんになんか習いたくない!!」「え、あ、そう…?」
「……Aさんの奥さんに、習ってもいい…」「習ってもいいじゃなくて、教わりたいだろ?」「うん…」

別に義母と嫁は仲が悪いわけじゃない。ごく普通だ。
なんだろうこのリアクションと思ったけど、嫁なりのプライドかと思って何も言わなかった。

ごめんちょっと気分良くなった。

Aの奥さんは仕事を持っている人で、正直とても多忙。
それから日程の調整をつけるまで、またちょっと時間がかかった。
その間、2日手抜き(俺にとっては天国)が続いたら、1日は何やかしと作ってくれる。

相変わらず味はおかしかったし、謎のものも入っていたが、俺はその頃割と楽観していた。嫁は大人しいし。

「絶対作ってるところ見ないで!!」と言うけれど、食後の片付けも何もかもやってくれるので、心を入れ替えたかなと思っていた。

それから16日後、俺が多分一生忘れられない日に、「味噌汁」「ごはん」「目玉焼き」「厚焼き玉子」「焼き魚」
「野菜炒め」「鶏のてりやき」「カレー」を教えるために、Aと奥さんが朝から来てくれた。

一日中朝昼晩と一緒に作って、それなりに楽しく過ごす予定だった。
……が、嫁が朝からいない。何か食材に買い足しだろうか、それともDVDでも借りに行ってるんだろうかと(そういう遊びの部分もあるつもりだった)軽く構えていた。

奥さんは「私勝手に台所はいらないほうがいいですよね?」と言うんで、

「あ、じゃあちょっと茶でも」
「じゃあ私お手伝いします」とものすごく久しぶりに台所に入ったら

「あああああああああああああああ!!」

奥さんが俺の後ろで悲鳴を上げた。アヒャアアア!!ヒャ、ヒャアア!うわあああ!!みたいな感じで。
仕事柄もあって肝の据わった彼女がそんな悲鳴を上げるなんてありえないと思っていたんだが、俺も遅れて絶叫。
壁にびっしり張り付いた蛆、大量に飛び交う小バエ。
流しにはゲル状の腐りきったものが入ったままの鍋やフライパンが山積み。そこにも蛆がうじゃうじゃいた。
ふたりで叫びまくって、Aもやってきて三人で絶叫。
驚きが終わると、「もしかして俺はここで作った飯を食ってた?」と気付いてその場で吐いた。

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