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【名作 長編】『デパートの警備』|本当にあった怖い話・オカルト・都市伝説

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【名作 長編】『デパートの警備』|本当にあった怖い話・オカルト・都市伝説 厳選
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デパートの警備

 

『エスカレーター』

 

私がビル警備員のバイトをしていた時の話です。
場所は都内のSデパートですが、当時でも既に一般的な設備は乏しく
防火シャッターの開閉は勿論、エスカレーターやエレベーターの
設定変更等も、中央管制で管理室から・・・という訳にはいかない
処でした。
閉館になり、お客さんを導線に誘導し、Sデパート社員を無事に
建物から追い出したら、店舗内の異常がないか確認をしながら巡回します。
そのデパートは、建物の構造上細長く、警備の巡回ルートも
かなりの距離になります。
そのせいで、私がI号ES(エスカレーター)の前を巡回したのは、
待機所に近いにも関わらず深夜1時頃でした。

 

モーターの動く音がするので、防火扉を開けて、中を覗いて見ると
I号ESが起動している音でした。
私は管理室に無線で確認を取ると、メンテは入っていない、多分
ES停止の担当者が停止し忘れたのだろう、とのことです。
ESの制動鍵は巡回者全員が所持しているのので、当然、ついでに
止めておいて欲しいと連絡を受け、恐らく仮眠室で眠りについている
担当者に悪態をつきながら、私はいつものように、鍵を差し込み、
停止ボタンを押して、ESを停止・・・停止・・・しませんでした。

古い建物です、設備もがたがきていても不思議はありません。
そういえば、頻繁にI号ESはメンテをしています。
私は再び管理室に無線を入れました。
担当者は、したくても停止できなかったのではないのか、だとすると
管理室に報告が入っているはずです。しかし、帰ってきた答えは、
それならば、最初の連絡時に伝える、との事。そりゃそうです。
止まらないのなら、それは仕方のない事です、私は対応を尋ねました。
と、無線のノイズとは別に、なにやら異音が聞こえます。




からかっかっ・・・とクラッチを入れ損ねたような乾いた音。次いで、
ごおん、ぐぎょぎょ・・・じゃり、じゃり・・・と濡れた砂利道を踏むような
音がします。
私は、余りに場所にそぐわない突然のその音に、身動きが取れません。
後で考えると音の中に、「・・・て・・・て・・・な・・・」と声が聞こえたような気がします。
呆然と立ち尽くしていると、突然I号ESは停止しました。

しばらくして、正気に返った私は事の次第を、I号ESが怪音を
発しながら停止した事を管理室に告げました。
すると、整備業者に連絡をとったので、いったん待機室に戻り
着き次第作業の立会いをするように言われました。最悪です。

 

1時間と待たずに業者は到着しました。
整備業者は、何も言わずI号ESに向かって行きます。
私は管理室から連絡を受けたのだろうと思い、慌てて後を付いて行く
格好になりました。
I号ESに着くと、おもむろに業者は整備ハッチを開け、ESの下に潜っていきます。
私は、黙ってES室から離れた場所に立ち会っていると、ほんの10分もしない内に
ごうん、ヴィーンと音を立ててESは私に向かって登るように動き出しました。

 

しかしその後待てど暮らせど、業者が出てきません。
更に10分ぐらいすると、下の方から人影がESに乗って登って来るのが見えました。
私は、業者が下のハッチから出たのかと思い、「ご苦労様です、早かったですね。」
と声をかけました。しかし、確かに人影に見えたのに誰もいません。
只、空気が揺らいでESに人が乗っているかのように見えるだけです。
私は、突然全身を恐怖に襲われて、動く事が出来ません。
口をパクパク上下させるだけで、声も出ません。




10分ぐらい固まっていたでしょうか、突然無線から応答があり
それを合図に全身の緊張が解け、カラダが動くようになりました。
管理室からでした。
整備業者が到着したので、早く待機所に戻って来いと怒鳴っています。
え?・・・。

 

後で聞いた話によると、I号ESは、以前整備中にESが動いて、
ベルト(足を乗せるところ)巻き込まれて死んだ人がいるそうです。
その後も、1人同じように亡くなり、事故が絶えないESだそうで、
整備業者の人も、作業を嫌がっていました。

 

時給は良かったのですが、これ以外のことも起き、私はこの仕事を
早々に辞めました。

 

デパートの婦人服売り場

 

これは、警備員のバイトをしていた時に、職場の先輩から聞いた話です。

都内Sデパートが縦に長い建物である事は、先程述べましたが、(『エスカレーター』)

当然、一人で受け持つ巡回経路は複雑で長いものです。

新人である私が覚えきれているはずもなく、最初の内は先輩と共に異常確認を行います。

EVボックスの位置や、火元確認場所、シャッターボックスの位置など、

その際に念入りに引き継がれ、その後に一人で回るようになります。

そのフロアは、婦人服売り場がメインの場所でした。

 

先輩と2人で回っていると、丁度建物の中程の、非常階段付近の防火シャッターの前で、

おもむろに上を指差して言いました。

「この警報死んでいるから」そう聞いても、その時の私には『故障かな?』位にしか気にとめなかったのです。

警報には幾つか在りますが、火災報知気(いわゆる煙感)と赤外線の2種類が、そのデパートでは主流でした。

赤外線は、天井張り付いた白濁の半球状のもので、注意してみれば今でも何処のデパートでも見られると思います。

「でも、ドア警は生きているんでしょう?」と私が尋ねると、「あたりまえだ」と先輩は答えました




非常階段付近には、大抵お手洗いがあります。

警備巡回時には、不審者が一番潜んでいやすい場所ですので、勿論中を調べます。

婦人服売り場だけあって、女子トイレしかなく、個室内に人影がないかどうか確認します。

私達は、用具入れを含めて通り一遍確認を行い、その場所を後にしました。

私は、その時から先輩の顔色が悪い事に気が付きませんでした。

 

待機室に戻ったのは、深夜3時を少しまわった頃でした。

引継ぎ巡回のため遅くなり、他の皆は仮眠室に行っているようで、私達2人しか残っていませんでした。

先輩は椅子に腰掛けるなり、私にぽつぽつと話し始めました。

「あのさあ、さっきの警報・・・なんで殺していると思う?故障しているわけじゃないんだ」

私は、『何を言いたいんだこの人は?』と思いつつ、大人しく「さあ」とだけ答えて、先輩の話を促しました。

「ほんというとさ、俺、あそこの女子便所、あんなに丁寧に見回ったの初めてなんだ。

あそこの便所さ、用具入れの、ほらモップを洗う深くてでっかい洗面器あるだろ、

あそこに以前、子供が捨てられていたんだ」

 

何でも、ある若い女性が、気分が少し悪くなったので、トイレに駆け込んで用を足したそうです。

そうすると便器には、かろうじて人の形をした赤ん坊があったそうです。

その女性は自分が妊娠していた事など全く気が付いておらず、

『最近遅れているなあ、シンナーのせいかな、楽でいいや』位にしか思っていなかったそうで、

それを見たときは、どうしていいか分らなかったそうです。

その赤ん坊・・・といっていいかどうか分らないほどの未熟児は、既に赤黒く変死していました。

そのために流産したのでしょう。

女性は流れ出た胎盤と一緒に流してしまおうか、とも考えたそうですが、

見つかったら誰かが埋葬してくれるのでは、という期待から、

用具室の洗面器にそれをすくい移し、逃げるようにSデパートを後にしたそうです。

 

すぐにそれは発見されました。第一発見者は清掃業者のおばさんでした。

当然、警察が来ましたが、未熟児の状態では、誰の子供かなんてわかる筈もありません。

簡単な現場検証をした後、早々に引き上げていったそうです。

発見された日の夕暮れに、警察に、本人もまだ子供な年齢の母親が出頭してきました。

気になって戻ってみると騒ぎになっており、どうしたらいいのか分らなくなって、名乗り出たそうです。

女性の年齢が年齢だけに、確認が終わると、後は内内で処理され、

Sデパートの関係者にも緘口令が敷かれたそうです。

 

事件の夜、夜警に先輩の友人が当ったそうです。

その時点では皆も、気味が悪いな、位にしか思っていなかったそうです。

それって普通な感性なのかと思われるかもしれませんが、

寒い冬の夜等、前日に駅の地下通路を追い出された浮浪者が、

朝に外部シャッターを開けると横たわって・・・凍死していた、という事が年に何度かあります。

変な具合に慣れているのでしょう。

先輩の友人も、蛮勇なのか慣れなのか、そのまま巡回に出発したそうです




婦人服売り場は、普通に巡回していれば1時過ぎに通りかかります。

先輩の友人は、女子トイレの前に来て流石に緊張して、通路から辺りを照らしてみたそうです。

店舗内には異常は見られませんが、何か変な気がしたので、もう一度懐中電灯を向けてみました。

そこにはマネキンが置かれているだけです。

「異常なし」

その人は、あえて声を出して確認したそうです。

すると、マネキンの瞳が、目頭から目尻に向かってぐるりと動いたそうです。

その人を見据えるように、一斉に他のマネキンも、ぐるりと視線を向けたそうです。

背後にあるマネキンの視線までも、背中越しに突き刺すように感じ、

その人は体中が硬直して、全くその場所から動けなくなったそうです。

『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・』

心の中でひたすら念仏を唱えたそうです。

 

するとどのくらいか時間がたったのか、不意に体が動くようになり、

それまでの硬直のせいか、どっと倒れるようにひざが崩れたそうです。

先輩の友人を突き刺していた視線も感じなくなりました。

しかし、体中から脂汗が染み出して、鳥肌と、遅れて来た震えのせいで、

満足に立ち上がることがなかなか出来なかったそうです。

 

膝を突いて通路の床をしばらくじっと見ていると、不意に腰につけた無線の呼び出しがかかりました。

「場所○○○発報!」

管理室からでした。感知器が反応しているという事です。

条件反射で無線を手にとり、「発報了解」とうわずって答えたそうです。

そのお陰かどうか、その人はそのやり取りで気持ちを落ち着ける事ができ、何とか立ち上がる事ができました。

場所は、先輩の友人のいる場所の側。そう、女子トイレ前の感知器です。

もう、マネキンの視線を感じる事はありませんでしたが、目を向ける事ができなかったそうです。

 

2mほど先にある、警報機の解除ボックスの所まで行き、本来なら異常を確認しないといけないのですが、

そのまま<解除→再設定>としたそうです。

「発報○○○異常なし」

管理室に連絡を入れ、その人は、そのまま足早に立ち去ろうとしました。

しかし、一瞬視界の中にはいった店舗の異変を遮る事ができず、

辺りにあるマネキンの首だけが、ぐっぐぐ・・・と女子便所の方に回りだしたのが、視界に入ってしまったそうです。

しかも、首の動きとは逆に、瞳だけはその人の方を睨むように動いています。

「場所○○○再発報!」

腰の無線が怒鳴っていいますが、動く事ができなかったそうです。

 

そんな状態が数十分続いたので、管理室では先輩と何人かが借り出され、様子を見てくることになったそうです。

駆けつけてみると、その人は固まったまま立ち尽くしていて、

暗闇でも分る程汗をかき、紺色の制服はじっとりと濡れていました。

先輩はとりあえず警報機を再設定して、友人に手を貸して待機所に戻ったそうです。

 

先輩は、しばらくして落ち着いた友人から話を聞いたそうです。

その当時、婦人服売り場のマネキンは、瞳の部分をガラスがはめ込まれた物を使っていました。

普通は、ブラシで描かれているのですが、リース料金も変わらず、チョット豪華に見えるので、

店内の総てのマネキンをガラス目にしていました。

そのガラスの瞳は、ライトを当てると、視線を向けたかのように見えるので、

その見間違いだろうと、友人を慰めたそうです。

警報機の発報は、セットしても10分ほどで又再発報するので、故障だろうという事になり、

後日取り替えるまで解除したままで、その日は終わったようです。




先輩の友人は、何日か休みを取り、気持ちを落ち着かせて、再度あの婦人服フロアの夜警に挑んだそうです。

きっと、そうしない事には、決着が着かなかったのでしょう。

休みの間、他の人が巡回しても、特に怪現象はなかったそうです。

警報機は、それまでに何度も新品に取り替えたのですが、

夜中になると無闇に発報を繰り返すため、原因不明のまま、デコイ、つまり殺したままになっていました。

 

先輩の友人が婦人服フロアを巡回したのは、前と同じ1時過ぎでした。

気持ちを落ち着かせて、異常確認をしたそうです。

今度は、マネキン達は動いていません。

その人は、『やっぱり気のせいだったのか』と思い、女子トイレの中に入っていきました。

そこも特に異常はなかったそうで、外に向かおうとしたとき、それが目の隅に映ったそうです。

女子トイレには壁一面に化粧鏡があり、そのうちの1枚が用具入れの扉を映していました。

その、扉が、徐々に透けていくように見えたそうです。

先輩の友人は、横に向いた顔を鏡に向ける事ができず、片方の目で鏡を凝視していたそうです。

すっかり扉の透けた用具入れは、白くて大きい洗面器を鏡の前にさらしていました。

その中には、溶けたような腕を洗面器の縁に掛け、頭とおぼしきモノが、

ゆっくりと立ち上がろうとしているのが見えたそうです。

 

その人は凄まじい勢いで、先輩達のいる待機所に駆け込んできました。

その後の夜警をすっとばして帰ってきたそうです。

流石に、先輩達も気味が悪くなり、そこにいる全員で、その人の残りの巡回経路埋めたそうです。

先輩の友人は、翌日仕事をやめました。

そのせいかどうか、マネキンの瞳は、ガラスから再びブラシか、もしくはマネキンそのものを配置しなくなりました。

それまで鍵のなかった用具入れには鍵がつき、警報機は、殺したままになりました。

 

私は、黙って先輩の話を聞き終わり、「それで、もう何も起きないのでしょう?」と、声をかけると、

その時初めて、先輩の顔色が真っ青なのに気が付きました。

「いや、わからない。言っただろう?

それ以来、俺を含めて誰も夜警で、あの女子トイレをまともに巡回する奴なんていないからな」

「でも、今日は何もありませんでしたよ」

私がそういうと先輩は黙って、

「そうか、そうみたいだな、おまえには」といって、口をつぐんでしまいました。

私にはその後も、その場所では怪異と呼べるものはありませんでした。

勿論、女子トイレは巡回していませんが。

 

先輩は、私が仕事を辞めるまで、それ以上は話してくれませんでした。

私と巡回したその日、先輩は、女子便所の鏡を見てしまったそうです。

そこには、無数の子供の手の跡があり、それがどんどん鏡に映った先輩のほうへ移動していくのを。

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