『遭遇した霊で打線組んだ』|洒落怖名作まとめ【長編】

『遭遇した霊で打線組んだ』|洒落怖名作まとめ【長編】 長編

 

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遭遇した霊で打線組んだ

 

ワイが遭遇した霊で打線組んだ。

 

1(ニ)迎え提灯
2(左)浦田先輩の同室者
3(右)ふきちゃん
4(中)謎の祭り
5(一)祭囃子
6(三)アパートの子
7(捕)お客さん
8(遊)ヤマセミさん
9(投)バッバ

 

1(ニ)迎え提灯

 

ワイは高校卒業するまで相当な田舎で生まれ育ったんや。

 

中学が町に1つしかなくて
同級生は20人切るくらいの山間の自治体や。

 

その中学卒業して後、
隣市の高校に片道12キロを自転車で通っとった。
高1の6月の夜、
部活帰りの真っ暗な中を帰宅してた時のことや。
ワイの通学路には山と田んぼの間を走る道があって、
所々に二三件の家が固まって建ってる集落があるんや。
そこまで来ると、
もうワイの家まで五分くらいで、
ワイはちょっとチャリのスピードを緩めたんや。
ふと目を上げると
その集落の一軒にお盆の迎え提灯が立っとったんや。
明かりのついてない日本家屋の玄関先に、
家紋付きの縦長の提灯が見えて、
いまどきロウソクなのか暗めの灯がゆらゆらしとったわ。
ワイの地域は7月半ばがお盆なんやが当時は6月、
ひと月も前から提灯を出す家があるんか?なんて思っとったら
不意にその明かりが消えた。
一瞬にして辺りは真っ暗になったんや。
その日は不思議に思いながら帰ったんやが
後日その家から葬式が出た。
ジッジにその話したら
「それはご先祖からの『迎え提灯』たい」
とのことやったわ。

2(左)浦田先輩の同室者

高2の4月ごろの話や。
ワイは人数の少ない体育系部活に入っとった。
1つ上に選手はおらんかったが
なんでか女子マネージャーがおった。
それが浦田先輩や。
2月頃に浦田先輩が大きな病気をして、
都市部の大学病院に入院したんや。
そんでお見舞いの品を顧問と部員でお金出し合って買って、
何故かワイとキャプテンの二人で届けに行ったんや。
県庁所在地にある大きな病院の、
わりと高層の部屋に先輩はおった。
たしか3つベッドがあって、
先輩は一番奥の窓際、入り口側は空き、
先輩の向かいのベッドはカーテンは閉ざされているが
ちょうど席を外してる、って感じやった。
浦田先輩は思ったより元気そうやったし、
翌月から学校に行けると言っとったから
ワイらは安心して他愛もないバカ話をした。
ひと通りくっちゃべったあと、
ワイらが帰ろうとして病室の入り口に歩いて行った時、
ちょうどパジャマの女の子が入ってきた。
たぶん中学生くらいで、
三つ編みを片方から前に垂らしとったから、
妙に大人っぽい髪型やなと思ったのを覚えとる。
その時、後ろから浦田先輩が
「あ、おかえり☓☓ちゃん」
と言ったんをワイははっきり覚えとるんや。
後日退院した先輩に
「あの三つ編みの子どうしてるんすか」
と聞いたら、誰?と返ってきた。
なんでもちょうど見舞いに行った日には
同室のベッドは退院だかで完全に空いており、
そんな子は居なかった、と。
キャプテンには
「ベッドは先輩以外空きで
『3人部屋なのに寂しいですね』
って話したやろ?」
と聞かれてワイは困惑した。
じゃああの生活感のあるベッドは、
あのお下げの女の子は何やったんやろうな。

3(右)ふきちゃん

平たく言えばイマジナリーフレンドやな。
小2か3の頃、
母方のジッジの家に
夏休み前半まるまる預けられた事があった。
ジッジはワイに気遣って
プレステやガンプラを用意してたけど、
数日経つとやっぱり退屈やから、
ある日ジッジの家の離れに行くことにしたんや。
離れは母屋から続く廊下を渡った奥にあって、
その廊下から庭園風の庭を望む事ができた。
離れは母屋から続く廊下を渡った奥にあって、
その廊下から庭園風の庭を望む事ができた。
離れにはジッジの集めた全集物や図鑑、
戦争資料集なんかが保管してあって、
ワイは図鑑に夢中になって、
毎日引き出しては読んどった。
ここから記憶が曖昧なんやが、離れで
「ふきちゃん」と過ごしたことが数回あるんや。
少し年上の女の子がお昼すぎになると
庭の先の生垣から顔を出して、
ワイはそれを確認すると
廊下のサッシを開けてその子を離れに招いてたんや。
お互いに多くを喋ったことはないけど、
ふきちゃんがおるとワイはすごく安心して、
何時間も飽きずにそこに居れた気がするわ。
ある昼、
バッバに離れで何をしてるか聞かれたワイは
「ふきちゃんとおる」
と答え、
ふきちゃんの事を話した。
バッバは首を傾げて、
その夜、それをジッジに報告したと思う。
その当時すでにバッバは認知症が始まってたから、
ジッジは真に受けなかったのかもしらんが
「友達ができたとや、よかなぁ〜」
と言うて撫でてくれた。
でもその日以降、
ふきちゃんが現れることはなかった。
バッバはもう故人で、
ジッジも呆けて施設におるから
その当時の事を確認しようがないんや。
ただ先日里帰りした際、
例の生垣から向こうはどうなってるか気になって回り込んでみたところ、
道を挟んで雑木林になっとって、
下草に紛れて石蕗が群生しとった。

4(中)謎の祭り

ワイはよく中学まで親父と釣りに行った。
泊まりがけで、夜通し防波堤から投げ釣りをやる、
夏休みの定番行事や。
たぶん中1の時やけど、
行きしに親父の車が迷った。
その日はいつも行く港が
護岸工事の関係で使えんくなってたんやな。
ほんで急遽他のポイント探しに出たんやが、
親父もワイも山の人間やから土地勘がないねん。
そうこうするうち、
漁村とおぼしき集落に降りる道を見つけたんやが、
妙に明るいんや。
よる8時は回ってるはずやから、
この辺の夏とはいえもう暗いのに、
人もずいぶん多くなった。
皆浴衣や作務衣で、
いかにも夏祭りの風景が見えた。
もともと車一両がやっと、という道の両脇に、
次第にたくさんの出店が現れ、
行く手はいつしか人で埋め尽くされて
車は徐行のような状態になったんや。
ワイは引き返したほうがいいのでは、
と言おうと顔を助手席から親父に向けた。
親父は険しい顔をして、
ブツブツ何かを呟いとった。
よく聞くとそれは阿弥陀経やった。
ワイは親父がおかしくなったんかと思ったが、
すぐに合点がいった。
この祭りは音がしないんや。
いくら冷房のために窓を締め切ってても、
すぐ近くで行き交う人々の声や屋台で何かを焼く音とか、
おおよそ祭りの喧騒が聞こえてこないんや。
消音にしたテレビみたいやな。
しかし、人々は
ワイらの車を不思議そうに避けるだけで、
決して迷惑そうにされたり、
ドアを叩かれたりすることはなかった。
その状態が体感的には50メートルばかり続くと、
視界が開けて船着場に出たんや。
船着場には小さな漁船が10台ほど停められていて、
それらは現実のもののように思われたんやけど、
そのいちばん奥にギラギラ光る大きな木造船が泊まっとった。
傍目には巨大なイカ釣り漁船にも見えたが、
よく見ると船全体がいろんな色で光ってるのが分かった。
帆まで着いとったが、
蒸気で動きそうな煙突があったんが印象的やった。
祭りの人たちは遠巻きにその船を幸せそうに眺めとって、
ワイらはその群衆と船の間に飛び出したような状態やった。
見とれていると、
不意にタバコの匂いがしたんや。
親父が珍しくタバコに火をつけとって、
ゆっくり車を出したんや。
しばらくするとその集落を抜け、
海沿いの暗い道になった。
なんとなく普通の道に戻ったことが分かったわ。
親父は窓を全開にすると、安心したように
「大潮の日にはあぎゃんこつもあっとだろ(ああいうこともあるんだろ)」
と言うた。
ちなみにその日は全く釣れなかったし、
調べても似たような祭りは無かった。
ワイらは何を見たんやろうな。

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