山にまつわる怖い話【19】全5話
近道
俺の子供の頃の話なんだけどさ。
今でも少しだけ怖いから呟いてみる。
二時間あれば往復できるような小高い山が近くにあるんだ。
まぁ、蒟蒻屋と松の伝説がのこってるだけの古びた山なんだけどさ。
そんな場所で、それこそ幼稚園の頃からその山に登ったことがあるぐらいに身近なんだ。
登った回数なんて3桁にはならないけど2桁後半にはなってると思う。
遭難なんて有り得ないような場所だから、たしか小4の遠足で登った訳さ。
その遠足、小6の先輩が先導してもらい、山頂の先生にチェックして貰えればどんな道でも良いっていう仕組みだったんだけど。
先輩が誘導する内にうちらの班だけ変な道に入って、先輩が言うには近道だって。
自信満々でどんどん先いっちゃうんだ。
で、気づけば周りにはうちらの班だけ。
本当に近道なのか怪しいと思ってたころに、ふと気がつくと頂上付近の見慣れた道に出て、しかも他の班より早い。
普通に登るより子供の足で15分くらいは短縮してたと思う。
凄い道あるんだなー、なんて子供心に思ってたんだけど、帰りは何故か普通の山道を歩いて帰った。
で、中学上がるちょっと前位に母親と妹でその山に遠足する機会があって。
山道前の鳥居を抜ける最中にふと思い出したんだ、そういえば近道があるって。
それで親も良いよって言ったし、その近道を歩くことになった。
山道を少し進んだ当たりで左右に道が別れてる。
右は何時もの正規の道。左は途中から道と言うよりも獣道になってるのが遠目からでもわかる。
もちろん近道は左だから左へ曲がったんだ。
最初は記憶通りの近道。
だったんだけど、途中から道がどこかおかしい。
最後には獣道すら無くなって、手を使わないと上がれないような斜面にあたっちゃったんだ。
こんな道は記憶にない、俺が間違ってたんだ。そう思って、戻ろうって母親にいったんだけど。
母親は後ろを一度振り返った後、前に進みなさいって頑として聞かなかった。
小学校低学年の妹を必死に支えながら斜面を登ろうと急かすんだ。
さすがにおかしいと思って俺も後ろを見たんだけど。
その瞬間だけは今も鮮明に覚えてる。
無いんだ、今まで来た道も。俺らの足跡も。
で、本当に必死になって登って、なんとか見覚えのある道に出た。
山頂の近く、先輩が通った近道を抜けた合流場所。
泥まみれ、汗まみれで遠足なんて切り上げて無論直帰。
そのあとは別になんも無し。
無事に帰れためでたし、めでたしだったよ。
ただ、うちの中学は幼、小、中ってエレベーター式だったんだけど。
班長だった先輩、探したんだけど居なかったんだよね。
台風と墓石
98年10月、台風10号が中国地方を直撃しました。事の起こりは台風通過の翌日18日の夜、私が見た夢。夢の中にかつて私が「師匠」と呼んで慕っていた恩人で、2年前に亡くなったKさんが出て来た。
全身ずぶ濡れになって、生前私には見せた事の無いような困り切った顔で「頼むから何とかしてくれへんかな?」と言ってフッと消えたのです。
何の事かさっぱり判らず、翌日仕事中、夢の意味を考えていたのですが、結局判らないまま次の晩を迎え、ベッドに入りました。
するとまたKさんが夢に出て来ました。今度は顔を真っ赤にして「あんたも相変わらずニブイ奴やな!人がなんとかしてって言うてんねんから、何とかしたらどないやねんな!」と1人で勝手に怒鳴り散らして、フッと消えてしまいました。
流石に二晩連続で同じ夢を見ると(しかも相手の怒りはエスカレートしそう)気になるという以上に、超常的なコトではないかとさえ思ってしまいます。
悩んだ末、同じく大阪に在住するKさんの妹Yさんに電話した。
すると驚いた事に、Yさんも二日続けてKさんの夢を見たと言う。
二日目の夢の中で「何ボンヤリしてんねんな!」と殴られたとか。
「多分、台風のせいで何かが起きている」という事で意見は一致しました。更に大阪では被害は無かったのだから、これはKさん姉妹と私の実家がある岡山で何かあったんだろう、という結論に達し、Yさんに実家の状況を電話で聞いてもらう事にした。
すると「台風の被害は甚大。幸い家そのものには大した影響は無かったが、近くの川(旭川という川がある)は数十年ぶりに洪水を起こし、裏山は鉄砲水や土砂崩れの被害があって、未だに入る事が出来ない」との事。
Kさんのお墓は裏山の中腹にある。幸いと言うべきか、その週の土曜に実家の岡山に帰る用事があったので、Yさんとも相談の上で、とにかくKさんの墓参りをする事になりました。
土曜日、Kさんの実家に向かい、Yさんと合流後、Kさんのお墓がある裏山に登りました。洪水の跡があちこちに見受けられ、墓地への細い道も所々で寸断されています。時折前触れ無く踏み締めた地面が崩れたり、とスリル満点な登山になってしまいました。
Kさんのお墓の前に立った時、私もYさんも言葉を失いました。
墓石だけが、完全に吹き飛ばされていたのです。
土台の方は問題無かったのですが、墓を開いて石室の中を確認すると、石室の底から10cm程水が溜まっていたので、すくって出しておきました。
墓石は、2人で持ち上げるのが精一杯、とても元通りにする事は出来ません。仕方なく一旦山を降り、Yさんのご両親に相談する事にしました。
近所の方も集まってくれて、総勢10名程で再び山に戻り、墓石を元通りに直す事が出来ました。私は仕事の都合でその日のうちに大阪に戻ったのですが、Yさんによれば、翌日、お坊さんを呼んで供養してもらった、との事です。
以来、Kさんは夢には出てきて居ません。
杉の木の方々
その日も漏れはお気に入りの場所で木に登ったりして遊んでいた。
そうこうしているうちに陽気に誘われてか何やら眠気が襲ってきた。
普段はこんな事ないのに、その日に限って無性に眠く、それ以上遊び続けることが億劫になってしまった。
山道を下って祖母の家まで行くのも面倒になった漏れは、木の下に生えているクローバーの群生で寝転んでそのまま寝入ってしまった。
漏れ的には少しだけ眠ってそれから帰ろうと思っていたのだが・・・・・。
目が覚めてみると、辺りは月の光に照らされた、薄明るく青い世界が広がっていた。
そんな状況で心細くなった漏れは、居た堪れなくなり、速攻で家に帰ろうと立ち上がり、走り出そうとした。
気がつくと夜になっていたわけだが・・・・
立ち上がり、走り出そうとしたとき背後からいきなり声をかけられた。
「坊主、こんなところでこんな時間に何をしてるんだい?」
突然の出来事に心臓が口から飛び出すほど驚いたが、暗闇の中心細かった漏れは人恋しさもあって、人の気配に安堵しつつふりかえった。
そこには初老の老人が二人いて、優しげな笑みを浮かべて漏れの事を見ていた。
老人の笑顔を見てさらに落ち着きを取り戻した漏れ。
今までのいきさつを話し、これから山を降りる所だということを伝えた。
すると老人は口をそろえたようにこう言った。
「坊主は良くこの辺りで遊んでいるな?ちょくちょく見かけていたよ」
「そうかぁ、XXXさんとこの孫か」
どうも二人は漏れの祖父祖母を知っている様子。
漏れはこの近所に住んでいる人なのかなぁ?などと思っていた。
「まぁこれから山を降りるんじゃ暗いだろうからこれをもって行きなさい」
そう言って片方の老人が懐中電灯を貸してくれた。
「あぁ、それからこれももって行くといい」
もう片方の老人がそう言いつつ漏れの手に渡したもの、それは笹の葉でくるまれた何だか分からないものだった。
おれは唐突に現れた二人の老人の親切極まりない行動に、少し警戒心を抱き始めていた。
子供の考えることなど、年を重ねてきた人間には手に取るように分かるものなのだろう。
その感情は二人の老人には、さも訝しげにしているように見えたようでこう切り出してきた。
「私たちはこの近所に住んでいるものだから、そんなに怪しまなくても大丈夫だよ」
と。
母の生家の事情も知っているようだし、終始優しげな笑顔を浮かべている老人達だったので、漏れはそれ以上老人達を疑うことを止めた。
その後少し話をして、切りの良い所で礼を言い老人達と別れて漏れは登ってきた山道を降りていった。
道に入ればそこは木の生い茂る暗い道。
老人が貸してくれた懐中電灯がなければ、それこそ鼻をつままれても分からないであろう暗闇の中を歩く羽目になったはずだ。
難なく山を降り、母の実家へたどり着いたとき、実家では一騒動巻き起こっていた。
もちろん渦中の人物は漏れである。
日が落ちたというのにまったく帰ってくる気配のない漏れを心配して周辺地区の人を集めて捜索に出るところだったというのだ。
あの時は本当にこれからの人生分のお叱りを合わせても余るほどにこっ酷く怒られた。
そんなこんなで落ち着いて、山の上での出来事を話し、老人に借りた懐中電灯と謎の包みを家族に見せたのだ。
懐中電灯は後で返しに行かなくてはなぁ。
そんなことを父が口走りつつ、笹の葉で包まれた珍妙な包みを解いた。
中からは杉の葉っぱがもさっと出てきたが、それをどかしてみると桜の葉が巻かれた旨そうな桜餅が3つ出てきた。
何か不思議な光景だった。
謎の二人の老人と懐中電灯、そして桜餅。
父はキョトンとしていたのだが、祖父と祖母、そして母はなんとも言えない表情をしていた。
漏れが子供の頃に山で体験した話はここまでなのだが、その後高校に入った漏れがそのときの話を何とはなしに両親に振ってみたら面白いことが判明した。
実はうちの母も、幼少の頃に漏れと同じような体験をしていたというのだ。
そのときもやはり老人が出てきて桜餅を貰って山を降りてきたらしい。
ただ少し違っていたのは、懐中電灯ではなく老人の一人が一緒に山を降りてくれたことと
老人は3人居たということだった。
その話を聞いてから母の実家を訪ねた際に、祖母と祖父にも同じ質問を投げかけてみたが漏れのときと同様な話を聞かせてくれた。
件の裏山は母方の実家が、先祖代々受け継ぐ持ち山だそうで、漏れや、母が遊んでいた平地の杉の木も、ご先祖が植えた物らしい。
しかし、漏れが生まれる少し前にそのうちの一本は枯れてしまって今では、枯れても尚頑丈な幹と太い枝を少し残しているのみだ。
漏れが遊んでいた頃はもう少し枝が張り出していたのだが、年を追うごとに風化してしまい、近々切除しようかと言う計画が持ち上がっている。
漏れ的には何かの形で残したいとは思うので、母の実家の上がりかまちにでも輪切りにして置こうかという話もある(w
で、老人のことだけど、ここまで来ればもう落ちというか、正体らしき物も掴めているだろうけど、祖父、祖母、母、漏れの4人の見解は満場一致で杉の木の方々だろうと言うことで落ち着いています。
いろいろ話し合った結果、そんな知人やご近所さんは居ないし母子そろって同じ体験をしているし、という事で・・・。
怖い話でもあり、微笑ましげな話でもあり。
なんともつかみ所のない奇怪な体験でした。
杉の木の方々に感謝。。。
信じられないかもしれないけど、信じてくれとも言わない。
ただただ、全ては思い出の中にあるのみ。
ちなみに懐中電灯は行方不明なのだ。
いつの間にかなくなったらしい。
大切に仏壇にしまっておいたそうだけどねぇ。
滑落
怖い話じゃないんだけど、中学生の時の話。
瑞垣山@山梨に父親と一緒に登山に行った下りの事。ここは山頂付近は巨大な岩がいくつもあって、ちょっとした鎖場もある。登りで既に疲れていたので下り初めてすぐに膝に来た。気を付けろよー、先を行く父親の声。
あっ、と思った時は既に遅く、たまたま突き出ていた枯れ枝が腰のベルトに当たったのに気付かず、前に踏み出した体はテコの原理でポーンと斜面に投げ出された。
あーと言う声を出す暇もなく、迫ってくる大岩の上をポン、ポンと跳ねながら落ちて大きな松の木? の根本にぶつかって止まった。血相を変えた父親がすごいスピードで斜面を駆け下りるのをぼーっと眺めていた。
結局、標高差で300mくらいを数分で落ちちゃった? 訳なんだけど、全身のどこにも怪我が無くて、けっこうな勢いで樹にぶつかったのに打ち身すら無かった。もちろん捻挫も。残りは普通に歩いて下って帰った。
子供は体が柔らかいって言うけど、それで済む話じゃないような気がする。
いまでもあの時の滑るように岩を跳んでいく感覚は忘れない。怖いと言うよりワクワクしていた。
夕立
山に登った時に夕立に祟られたことがあった。
登山じゃなくて間伐で登っていたから持ち物が多い。
帰ろうかと思ったけど過ぎるまで待つことに。
大きめの木の下に避難して、ポンチョをかぶった。
30分ぐらいしゃがんでいたら、「失礼するよ」って爺さん声が聞こえた。
あまりにも自然だったから「はいどうぞ」と言い、声のほうを見た。
誰もいなかった。
ちょっと焦ったが、なぜか恐怖は感じなかった。
それからしばらく何かがいる気配がしたが、小降りになってきたので帰ることに。
帰り際に「これどうぞ」って言って発泡酒置いてきた。
帰って親父に話したら、キツネなら家までついてくるぞっていわれた。
そんなおかしな気配はしていなかったから、自分は勝手に山神様の類だと思っている。
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