【山にまつわる怖い話】『藪の中のなにか』など 全5話|洒落怖名作まとめ – 山編【37】

【山にまつわる怖い話】『藪の中のなにか』など 全5話|【37】洒落怖名作 - 短編まとめ 山系

 

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山にまつわる怖い話【37】全5話

 

 

求めさまよう

わたしが大学の時に、群馬県の方に旅客機が墜落しました。
季節は巡り、悪友とツーリングに行こうという事になりコース関係上、墜落した付近の峠を走らねばなりませんでした。
悪友はいっさい、心霊や妖怪といったものは信じない人なので、「毎年、供養のために花とか関係者が上げているじゃないか。出るわけないよ!」と、平気な顔をして言います。
わたしは彼に、「みんな(身体の部分)見つかっているわけじゃないだろ……あぶないって」
と、言ったのですが、聞くわけがありません。
だって、コースを変更すると、目的地へは4時間は余分にかかるのですから……。
しぶしぶ、そのコースを取ることとなりました。
果たして、問題の峠の入り口に着きました。路肩にバイクを止め、一休みしていると、悪友はわたしを尻目に、
「ひとっ走りしてくるわ」と言ってコースに入って行きました。
しかし、10分もしないうちに戻ってきます。戻ってきた友人に、「早かったな。何かあったのか?」
と聞くと、友人は何をあせっているのか、バイクのサイドスタンドさえ立てるのもおぼつきません。
平静を装おうとしますが、震える彼の手がすべてを物語っています。
ようやく、ヘルメットを外した彼の顔は、蒼白状態でした。「出た……。出たんだよ……」
「何言ってんだよ。いつもの担ぎだろう。お前に見えるわけないだろ……」
と言って、わたしはバイクのエンジンをかけようとしました。しかし、なかなかかかりません。
「あれっ、おかしいな……さっきガソリンを入れたのにな」
「やっぱり……、冷やかしに来た俺たちに来るなといってるんだ……」

「冷やかしに来たのは、お前だろ……」再度キックするとエンジンはかかりました。
「じゃ、ひとっ走りして見てくるわ」走り出して、7~8分位すると、なにやら山の雰囲気が違います。
いつもの生き生きした躍動感なく、時間が止まっている感じです。
「まずいな……やっぱり近くにいるぞ……」つぎのコーナーを曲がった時、それは的中しました。
肩のもげている者、足がへし折れている者、頭が潰れている者、全身ただれている者……。
上げたら切りが無い程の人たちが、ボロボロの状態で列を成し、奥へ奥へと歩いています。
「うわ…、これはまずい……、気付かれないうちに戻ろう」出来るだけ静かにバイクを停止し、Uターンをしました。
いや…気付かれてはいるのでしょうが、こちらへは近付こうという気配はありませんでした。
戻ると友人が心配そうに待ってました。
「な……」
「うん……」
わたしたちのやっと出来た会話はこれだけでした。言葉少なく、わたしたちはコースを変えました。
それ以来、この夏の時期はそこを通ることはしませんが、今も出るんでしょうか……。
自分の身体を求めて……。

 

山は異界

木曽の御嶽山に行った時の事。

桃色(高坊)2年の1学期、来週から期末テストが始まる頃、同じクラスで山岳部の新谷から「テスト休みに御嶽へ行かないか」と誘われた。
普段、口を利いた事もない相手だし、金欠なので「無理」と断ったが、何のかんのと説得され、御嶽には一度登って見たいと思っていたから、結局、二つ返事でOKした。

新谷は乗物に乗っている間中、俺に山のウンチクと御嶽の良さを吹聴していた。
が、コイツ、どういう気持で電車を選んだのか、田の原に着いた時には既に昼過ぎ。
それでも3時間余りで山頂に到着。以前乗鞍山岳に登った時、御嶽を見てずいぶんどっしりしたいい山だと思ったが、その期待どおり登れて良かったいい山だ。

そこから約1時間歩いた二ノ池の小屋が今夜の宿泊地だった…ハズだった。しかし、新谷の伝え間違いで、予約は明日になっており、おまけに今日はなぜだか超満員。
小屋の人は気の毒がったがどうしようもない。

新谷は「アテがある」と言い、先頭切って歩き始めたので、俺も後に続く。
まもなく日は暮れ、おまけに霧まで出始めた。これはマズイ。バイクでもそうだが、体が濡れて冷えると極端に体力を消耗する。しまいに体が動かなくなり、最悪の場合、死に至る。それにまずい事はもう一つ。新谷のヤツ、どうもさっきから同じ所をただ歩き回っているような気がする。俺はヤツに声をかけた。

「今日はこの辺でテント張ろうや。おまえの知ってるトコ、もうすぐかもしれないけど、俺ド素人だからさ」
新谷は一も二もなく承諾した。もしかしたら、俺が言出すのを待ってたのか?しかも、コイツはテントを持って来ていなかった。小屋泊りの予定だったからだろうが…

俺が何も言わないせいか、新谷が一生懸命しゃべってくる。もう少しで行きたかった避難小屋に辿り着けたはずだとか、このシーズンに霧に出くわすのは珍しいとか。

適当に相槌を打ちながら、俺は別の事を考えていた。俺は狭いのが嫌いだ。まして、一人用のテントに野郎同士で寝るなんざ、大嫌いだ。他にもまだ言いたい事はある。
が、明日にしよう。昔、祖父ちゃんからこう言われたから。

「いいか、海も山も異界だ。人間の世界じゃねぇ。そこでは決して怪しい事と不満を口にしてはならん。一言は百言に、二言は千言になって返ってくる。不審と不信は人里へ戻ってから言え。わかったな」

ふと、なんだか表が明るいような気がしたので、顔を表へ出してみた。さっきまでの霧が嘘のように晴れている。雲一つない夜空に、満月がまるで真冬のように強く煌々と輝き、満天にちりばめられた星々が瞬いている。

いいな。タバコが吸いたくなって表へ出た。ウエストバッグをごそごそやっているとかすかに法螺貝のような音が聞えた、それは下の方から徐々に強く上がってくる。
しまった、ここは行者道だったのか?

焦る俺の目に、白っぽいヒラヒラしたものの大群が映った。
蝶か?いや、飛び方はよく似ているが蝶ではない。
「なんだあれ?」後から出てきた新谷が、うきゃあと叫んで腰を抜かした。

それは無数の人魂たちだった。
きれいに表現すれば横向き涙型、ぶっちゃけて言えば尻尾の短いオタマジャクシで、それらが尻尾を上下あるいは左右にくねらせながら、ヒトの腰ぐらいの高さをあるものはオオムラサキのように素早く、あるものはモンシロチョウぐらいの早さで飛んでいた。かすかな法螺貝のような音は、この群れが発する音だったのだ。

それまでにもいろんな人魂を見た事はあるが、こんな人魂の群れを見たのは初めてだ。怖さや恐ろしさは全然感じなかった。

大部分は俺を除けていったが、俺の体に当り、ほわんと跳ね返るものも幾つかあった。
(その感触は、目一杯ふくらませた風船を何日か放置した時の感じに近い)
人魂であるからにはきっとどこかの誰かのご先祖さんだろう、そう思うからその都度、ご免なさい、済みません、と謝りつつ彼らの行過ぎるのを待った。
やがて、最後の一つが通り過ぎ、後には静かな夜が還ってきた。
俺はタバコを一本吸い、眠りについた。不思議な夜だった。

翌朝、俺が先になって歩き出した。
俺たちが昨夜テントを張ったのは、二ノ池からすぐのサイノ河原らしかった。
新谷は昨夜からずいぶんと口数が減っている。

黒沢口へ下り、そこで新谷に言った。
「いい山だったよな。」
うん。ヤツは頷いた。
「けどな、俺はもう二度とおまえと山はやらん。次は誰か他をあたれ」
それ以上何も言う気にはなれず、泣き笑いのような奇妙な顔になった新谷を残し、俺は一人町へ帰った。

お前も食ってやれたものを

まだ男性が腰に刀を差していた頃の話。
ある旅の夫婦が、とある山中で道に迷ってしまった。
あたりもだんだんと薄暗くなり、どうしようかと迷っていたところに若い女と行き逢った。
聞けば、女も道に迷ったという。女一人では心細かろうと、夫婦は女と一緒に行くことにした。
三人でしばらく行くと、寂れたお堂があるのを見つけた。
今夜はここに泊まることにし、夫は焚き木を探そうと妻と女をお堂に残して出かけた。

お堂から少し離れた場所で夫が焚き木を拾っていると、突然妻の叫び声が響き渡った。
慌ててお堂まで戻った夫だが、中はもぬけのから。
周辺を探し回ると、ある大きな枯れ木の上になにかがぶら下がっているのが目に入った。
近づいてよく見てみると、それは真っ二つに引き裂かれた妻の身体であった。

夫は嘆き悲しむこと限りなく、せめて妻の亡骸を下ろしてやろうとしたが上手くいかない。
どうしようもなくたたずむ夫だったが、突然後ろから声をかけられた。
振り返ると木こりらしい男が神妙な顔をして立っている。
「ははあ、これはこの山の化物にやられなすったな。気の毒なことだ」
妻の亡骸を見上げてそういうと、男は夫に取引を持ちかけた。
「この木に登るのは大層骨が折れることだが、あなたの持っている刀をわしにくれるのなら、奥さんの亡骸を下ろしてあげましょう」
夫は仕方なく男に腰に挿していた刀を渡した。
「これだけではなく、あなたが懐に持っている小刀もくださらないと」
夫は懐に小刀を持っていたが、化物が出るような山中で丸腰というのはぞっとしない。
男はしつこくせがんだが、夫もこれだけは駄目だと固く拒んだ。

しばらく問答があった末、男は無言で枯れ木の方へ向かった。
夫はやっと諦めたのかと見守っていたが、するすると木に登っていった男は妻の亡骸のところまで辿り付いたかと思うと、その亡骸をばりばりと食べ始めたではないか。
これはどうしたことかと夫があっけに取られていると、妻の亡骸をぺろりとたいらげた男は夫を見下ろし
「おしかったなあ。その小刀も渡していれば、お前も食ってやれたものを」
と言い放つと、笑い声を響かせながらかき消えた。

 

池の底

友人の話。

彼がヘラブナ釣りにはまり始めた頃のこと。
夜中に無性に竿が振りたくなり、山奥のため池へ出かけたのだという。
餌の準備をしていると、向こう岸に誰かが立っているのに気がついた。
月明かりの下で、髪の長い女がこちらをじっと見つめていた。
思わず目を見返してしまったのだそうだ。

すると、女は水に向かい歩を進め始めた。
足が水に入っても歩みを止めない。
ざぶざぶと水音を立てながら、やがてその姿は完全に水中に没してしまった。
危ないものを見たと直感し、すぐに撤収を始めたという。
片付け終わると、もう一度池の水面を見やった。

いきなり、数メートル前の水面に黒いものが浮かび上がった。
濡れた女の頭だった。
彼女が池の底を歩いてきたことを理解するや否や、彼は猛然と車へ逃げ帰った。
車に乗り込んだ時、バックミラーに歩み寄ってくる影が映った。
即座にエンジンをかけ山を下りたのだという。

真っ直ぐに家に帰る気がせず、明け方までファミレスで時間を潰したそうだ。
彼は二度と夜釣りには行かないと言っている。

 

藪の中のなにか

うちの爺さんは若い頃、当時では珍しいバイク乗りで
金持ちだった爺さんの両親からの何不自由ない援助のおかげで
燃費の悪い輸入物のバイクを暇さえあれば乗り回していたそうな。

ある時、爺さんはいつものように愛車を駆って
山へキャンプへ出かけたのだそうな。
ようやく電気の灯りが普及し始めた当時、夜の山ともなれば
それこそ漆黒の闇に包まれる。
そんな中で爺さんはテントを張り、火をおこしキャンプを始めた。
持ってきた酒を飲み、ほどよく酔いが回ってきた頃に
何者かが近づいてくる気配を感じた爺さん。
「ツーリングキャンプ」なんて言葉もなかった時代。
夜遅くの山で出くわす者と言えば、獣か猟師か物の怪か。
爺さんは腰に差した鉈を抜いて、やってくる者に備えたそうだ。

やがて藪を掻き分ける音と共に、「なにか」が目の前に現れたのだそうな。
この「なにか」というのが、他のなににも例えることが出来ないものだったので
「なにか」と言うしかない、とは爺さんの談である。
それはとても奇妙な外見をしていたそうだ。
縦は周囲の木よりも高く、逆に横幅はさほどでもなく、爺さんの体の半分ほどしかない。
なんだか解らないが「ユラユラと揺れる太く長い棒」みたいのが現れたそうだ。
爺さんはその異様に圧倒され、声もなくそいつを凝視しつづけた。
そいつはしばらく目の前でユラユラ揺れていたと思うと、唐突に口をきいたのだそうな。
「すりゃあぬしんんまけ?」
一瞬なにを言われたのかわからなかったそうな。
酷い訛りと発音のお陰で、辛うじて語尾から疑問系だと知れた程度だったという。
爺さんが何も答えないでいると、そいつは長い体をぐ~っと曲げて
頭と思われる部分を爺さんのバイクに近づけると、再び尋ねてきた。
「くりゃあぬしんんまけ?」
そこでようやく爺さんは「これはオマエの馬か?」と聞かれてると理解できた。
黙っているとなにをされるか、そう思った爺さんは勇気を出して
「そうだ。」とおびえを押し殺して答えたそうだ。

そいつはしばらくバイクを眺めて(顔が無いのでよくわからないが)いたが
しばらくするとまた口を聞いた。
「ぺかぺかしちゅうのぉ。ほすぅのう。」(ピカピカしてる。欲しいなぁ。)
その時、爺さんはようやくソイツが口をきく度に猛烈な血の臭いがすることに気が付いた。
人か獣か知らんが、とにかくコイツは肉を喰う。
下手に答えると命が無いと直感した爺さんは、バイクと引き替えに助かるならと
「欲しければ持って行け。」と答えた。
それを聞いソイツは、しばし考え込んでる風だったという。(顔がないのでよくわからないが)
ソイツがまた口をきいた。
「こいはなんくうが?」 (これはなにを喰うんだ?)
「ガソリンをたらふく喰らう。」 爺さんは正直に答えた。
「かいばでゃあいかんが?」 (飼い葉ではだめか?)
「飼い葉は食わん。その馬には口がない。」 バイクを指し示す爺さん。
「あ~くちんねぇ くちんねぇ たしかにたしかに。」 納得するソイツ。
そこまで会話を続けた時点で、爺さんはいつの間にか
ソイツに対する恐怖が無くなっていることに気が付いたという。

ソイツはしばらくバイクの上でユラユラと体を揺らしていたが
その内に溜息のような呻き声を漏らすと
「ほすぅがのう ものかねんでゃなぁ」(欲しいけど、ものを食べないのでは・・・。)
そう呟くように語ると、不機嫌そうに体を揺らしたという。
怒らせては不味いと思った爺さんは
「代わりにコレを持って行け。」
と持ってきた菓子類を袋に詰めて投げてやったという。
袋はソイツの体に吸い込まれるように見えなくなった。
するとソイツは一言「ありがでぇ」と呟いて山の闇へ消えていったという。
その姿が完全に見えなくなるまで残念そうな「む~ む~」という呻きが響いていたという。
爺さんは、気が付くといつの間にか失禁していたという。
その夜はテントの中で震えながら過ごし、朝日が昇ると一目散に山を下りたそうだ。
家に帰ってこの話をしても、当然誰も信じてはくれなかったが
ただ一人爺さんの爺さん(曾々爺さん)が
「山の物の怪っちゅうのは珍しいもんが好きでな、おまえのバイクは
山に入った時から目を付けられていたんだろう。
諦めさせたのは良かったな。意固地になって断っておったら
おまえは喰われていただろう。」
と語ってくれたのだそうな。
以来、爺さんは二度とバイクで山に行くことはなかったそうだ。
ちなみに、件のバイクは今なお実家の倉に眠っている。

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