山にまつわる怖い話【67】全5話
登ってくる人
夜、路地を歩いてると向こうから人が歩いてきて、
お互い妙に意識してしまうことってあるよね。
その日はちょっとしたハイキング気分で
前から目をつけてた登山コースを歩いてみようと思ってた。
そしたら当日寝坊しちゃって、気付いたら午後。それでも我慢できずに行ってみたわけ。
結構メジャーな場所だから、道は踏み固められて、ヘンに曲がってもいない。
本格登山したい人は物足りないだろうけど、俺には十分だ。
登っているとすれ違う人が沢山いた。おそらく帰りの人だろうね。
こんな時間から登るの?って顔されて、ちょっと恥ずかしかった。
引き返そうかとも思ったけど、登り始めたし、無理矢理行ってみた。
上まで行って俺が帰ろうとしたときは、あたりは夕暮れで誰もいない。
急に怖くなってさ。
昼間は賑やかだったろう登山道も、放課後の校舎みたいな不気味さが感じられて。
でも、帰り道だからあとは急いで降りるだけだし、迷わず下山しはじめた。
足早に、ちょっと足を滑らせながら降りていると、
道の向こうに人影を見つけたんだ。俺と反対に登ってくる人。
一本道のあちらとこちら、夕闇の中に俺とその人。
この違和感、わかるかな。
心臓がバクンッって跳ね上がって、汗がダラダラ出てきてさ。
なんだかわからないけど、このまま進んではいけない気がした。
けど瞬時に「今ここで立ち止まったら、相手に意識されるかもしれない」とも思った。
気にせずすれ違う、これが最善と判断したよ。
だけど、相手との距離がだんだん縮まるにつれ、足がすくんでくるんだ。
冷静になったら、やっぱりおかしいんだよ。この時間に登ってくるのは。
俺、知らぬ間に立ち止まっちゃってた。進みたくないんだ。
そしたらさ、何故か相手も立ち止まるの。
俺の方からは相手の顔までは見えないけど、登山客っぽくはあったと思う。
そんで、じっと俺の方を見てるんだよ。いや、俺を、見てる。
でも、このままじゃ帰れないし、
もう1Kmくらい歩けば人気のある場所に出れるはずだった。
気の迷いだと勇気を振り絞って一歩踏み出してみたらさ、その人もまた登り始めて。
で、俺がビックリして止まったら向こうも止まる。
既に俺の中では人間かどうかも疑わしい状態。
ダッシュで脇をすり抜けようとしたら、相手も俺に向かってダッシュし始めた。
それを見て慌てて止まれば、そいつもピタリと止まる。
そんとき顔が見えた。形は普通のオッサンだった。
でも、表情が笑ってるんだから怒ってるんだかわからないもの凄い顔だった。
で、全身が微動だにしないの。顔も能面みたい。
ヤバイヤバイヤバイって頭の中がぐるぐるして、
少し戻るけど別の道から降りようと思った。
予感はしてたんだ。走り出したらもう止まれないって。
案の定、踵を返してダッシュしたら、背後からもの凄い勢いで追いかけてくる誰かの足音が。
もともと疲れてたから、足は遅々として進まない。てんぱっちゃって。
でも、追われるから走った。
気付いたら下山できてた。振り向いても、誰もいなかった。
それが何かトラウマでさ、人気の無いところで人とすれ違うのが怖い。
助けてくれた
うちの田舎は茨城の山の中で代々農家をしている
小学生の頃、夏休みになるといつも泊まりに行っていた。
大学生の従兄弟たちが山の中腹にツリーハウスを作っていて
中は虫もあまり入ってこなくて木陰で涼しく昼間は良くそこで昼寝などをしていた。
ある日いつものようにハウスで遊んでいて、ハウスの屋根に登りたくなり
壁に足をかけて登っていたんだけど、足を滑らせて転落。
高さは3m弱だったと思うんだが落ち葉などでクッションになって大事には至らなかった。
ただ落ちた時の衝撃で気が遠くなり意識を失って居た。
気が付いた時には意識が朦朧としていたが、何故か山道を家に向かって下っている。
鼻につく獣臭と真っ白な毛が目に入る。
何かに運ばれてるんだなと思ったが怖さはなく何故か安心できてまた気を失ってしまった。
次に気がつくと田舎の家で布団に寝かされていた
家族みんなで俺の顔を枕元でじっと見つめてて、気がつくと良かったねと。
何でも田舎の納屋で頭から血を流して倒れていたそうだ。
運ばれていた事を話すとじいちゃんが「それは山神様だ」と涙ぐんで話してくれた。
その後じいちゃんと親父が酒と収穫した野菜などを持って山の祠に供えてきたらしい。
俺は頭部裂傷と手足打撲で済んだが動けず、完治してから祠にお礼に行ったよ。
池のほとり
冬の夕刻、一人の女性が暗くなりかけた山道を下っていた。
池のほとりに差し掛かった時、向かい側に子供の姿が見えた。
暗い木立の中で、やや俯き加減に佇んでいる。
こんな時間に?と、いぶかしんで見やるうちに、ふと目が合った。
次の瞬間、子供がこちらに向かって近づいてきた。
水面をスーッと滑るように池を渡ってくる。
愕然と立ち竦む女性の方を悲しげに見つめながら目の前を横切り、
道端の木の中に吸い込まれるようにして、フッと姿を消した。
木の根元には、しなびた花束とラジコンカーが置かれていた。
マヨイガ
鹿児島。昔話なので、江戸時代くらいの話だったと思う。
ある男が山(どの山だったのかは不明)に入って道に迷い、一軒のの大きな屋敷にたどり着いた。そこは山奥とは思えないほど美しい屋敷で、中に住んでいた人たちもみな美しい衣をまとい、美味珍味が山ほど供されたという。
やがて男がその屋敷を後にして里に戻るときに、何やら一冊の書物を渡された(んだったか盗んだんだったか)が、その書物はセミの羽のような素材でできており、そこに書かれていた文字は誰にも読めないものだったらしい。その書物は近年まで残っていたが、戦争で焼けてしまったらしい。
20年以上前に読んだ本(鹿児島県の伝説・民話系)なのでうろ覚えなのだが。
河原の足音
高校の頃、夏休みに友人達とあちこちで違法キャンプしていた。
んで、ある山(一応スキー場が近いので伏せる)の河原でキャンプをした夜のこと。
みんなで結構遅くまで騒いでいたが、さすがに2時頃にはぐっすりだった。
普段朝まで目が覚めない俺なのに、まだ暗いうちにふと目が覚めた。
テントの外から河原のジャリを踏む音が聞こえたからだった。
「ああ、だれかションベンか・・・」と思って寝ようとしたが、テントの中には
全員そろっていた。
「あれ・・・?」思わず声にだしてしまうと、みんな寝袋に入ったままこちらを見た。
小声で言うには、なんでもしばらく前から誰かがテントの周りを歩いているそうだ。
怖くてみんな固まっていたらしい。俺が起きたのは一番最後だった。
ここは民家などからかなり離れていて、しかも外は漆黒の闇。
明かりはテント内につるした懐中電灯の薄暗い明かりのみだった。
「熊か?」「いや、ぜったいブーツの音だ!」「外真っ暗なのに??」など
俺達はパニックになりながらジャリを踏む音がやんでくれるのを祈った。
だが、一向にやむ気配無し。
俺達の精神状態も恐怖であぶなくなってきた。
どうやら相手は一人(?)らしい。怖いが全員で出て行って何が起こっているか
確かめようという事になった。
ありったけの明かりをつけながら「ワーッ!!」っと外へ飛び出すと、そこには誰もいない。
飛び出す直前まで踏みしめる音が聞こえるにもかかわらず。
俺達はみんなであちこちに光を向けながら何者かを探ったが、なんの手がかりも無い。
しばらくは大きな音を立てたり叫んだり(熊対策)していたが、あっけないほど
何も無いので不思議に思いながらも寝ることにした。
それから
やっと寝れる・・・という頃、ザッザッとまた河原の石を踏みしめる音が。
一発でみんな目が覚める。熊じゃないか?と思いこもうとしていたが、
あらためて聞くとやはりブーツで踏みしめるようにしか聞こえない。
しかも二本足なのは確実だ。
またもや「こぇぇ~~」とか思いながらも、全員でテント外へ特攻。
しかし、やはり何も見つけることはできなかった。
こんな事が計3回ありました。
みんな何も見つからずに不満そうでしたが(俺も)、今考えるとあの時、
何かを見てしまったらどうなったであろうと思うとちょっと震えがきます。
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