なつのさんシリーズ『ウサギ穴』|【1】洒落怖名作まとめ【シリーズ物】

なつのさんシリーズ『ウサギ穴』|洒落怖名作まとめ【ホラーテラーシリーズ】 なつのさんシリーズ

 

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ウサギ穴

 

小学校の頃、僕の通っていた学校の裏には小さな山があって、みんなからは普通に裏山と呼ばれていた。
小学校は三階建てだったのだけれど、裏山はその小学校の二倍程度の高さしか無かった。
学校側から裏山を上って反対側に降りると、細い県道に出る。
学校の規則で、裏山には休み時間は上っちゃいけなかった。
それでも僕は、友達と一緒によく裏山に上った。大体昼休みに。
まばらに木が生えてるだけの何も無い山だったけど、子どもにとっては十分な遊び場だった。それで良く先生に叱られた。
「ごめんなさい。もう裏山には行きません」って100回は言った気がする。
今からするのは、そんな裏山の話だ。

さっきはまばらに生えた木以外は何も無い山だって言ったけど、実はあった。一つ。子供心をくすぐる様なモノが。
僕と友達数人がみつけたのだ。僕らはそれを『ウサギ穴』と名付けた。
三階の廊下の窓から見える裏山の斜面に穴はあった。

勢いを付けて斜面を駆け降りる、と言う遊びをやっていた時のことだ。
友達の一人が何かに躓いて転がった。だいぶ転がった。
膝から血が出てたけど、田舎だったから、そんくらい唾付けときゃ直るということで、僕らは別のことに興味をひかれていた。
友達は穴に躓いたのだった。
斜面の一部が草ごとえぐれていて、おそらく友達が踏み抜いたのだろう、その部分から穴が露出していた。
縦穴じゃなくて横穴。今までは草と土に隠れて見えなかったらしい。
穴は小さくて、人は絶対入れない。
でもウサギなら入れそうだと言うことで、決まった名前が『ウサギ穴』。
屈みこんで覗いてみると、中は真っ暗だった。
まっすぐ伸びている様に見えたけど、いかんせん暗過ぎて良く分からなかった。

その穴はそれからしばらくの間、好奇心旺盛な子供たちの心をとらえて離さなかった。
まず、「何がこの中にいるのか」という話になった。
モグラという意見と、ヘビだという意見と、やっぱりウサギだという意見に分かれた。
僕はウサギ派だった。山に住むじじいから、ウサギはこんな巣を掘ると聞かされていたから。
「ウサギの巣なら、出口は一つじゃない。もっとあるはずだ」と僕が言ったことがきっかけで、
僕らは裏山を、他の穴は無いかと探し始めた。
その日は、探している内に昼休みが終わってしまい、結局見つけることは出来なかった。

別の穴が見つかったのは、それから三日くらい後のことだった。
丁度学校とは反対の県道側の斜面に穴はあった。同じような穴だった。
見つけたのは僕だった。かくれんぼをしていて偶然見つけたのだ。
「穴ー。あなー!」と叫ぶと、みんなが集まって来た。
「ほら見ろやっぱりウサギだった」「いや、へびだ。違うモグラだ」
そんな不毛な言い争いのあとだった。
誰が言ったのかは忘れた。僕だったのかもしれない。まあ、とにかく誰かが言った。
「じゃあさ。この穴によ、ウサギ入れてみん?」
よし、やってみようぜ。面白いかは二の次だぜ。何てたって僕ら小学生だぜ。でも今は少し後悔している。

僕の通っていた学校では、ウサギを飼育していた。
そして学年には一人ずつ(※クラスは無いよ。全校生徒八十人くらいだったから)飼育委員というのがいて、
昼休みになるとウサギに餌をやったりするのだ。
そして何と、その時の五年生の飼育委員が、僕だったのだ。

決行されたのは次の日だった。
昼休み、僕は『チャーボー』と名札の貼られた檻を開けて、茶色い毛がボーボーの可愛い兎を一匹抱えて、
『ウサギ穴』へと向かった。
到着すると、もう友達の一人は穴で待機していて、反対の県道側の穴の方にも数人スタンバっているらしい。
友達が運動場の倉庫から持ってきた五十メートルの巻き尺の紐を、チャーボーの身体に結んだ。命綱のつもりだ。
「チャーボー。ほれ、いけ」
穴の中にチャーボーの頭を突っ込む。チャーボーは嫌がって足をパタパタさせた。無理やり押し込む。
それほどきつくはなさそうだけど、無理しないと方向転換は出来ないだろうな。
「はよういけ。帰ってきたら餌やるから」
棒で尻をつつくと、チャーボーは嫌々そうに穴の奥へと進んで行った。
途中で途切れているだなんて考えはなかった。二つの穴は、当然つながっているものだと思っていたのだ。
「よんメートル」
隣で友達が、チャーボーが進む動きに合わせて巻き尺を引っ張り出しながら、一メートルごとにいちいち報告する。
「はちメートル」
当時は、小さな山だったので、学校側の穴から県道側の穴まで五十メートルも無いだろうと思っていた。
今考えると、もう少し距離はあっただろうけど。

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