『リンゴ』霊感主婦シリーズ|洒落怖名作まとめ

『リンゴ』霊感主婦シリーズ|洒落怖名作まとめ 短編
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リンゴ

 

ほのぼのというか、どこか哀しいというか、そういう話です。

彼女の子が二歳になる少し前、ベビーカーで散歩をしているといつも同じ家の前に立っているお婆さんがいたそうだ。
晴れた日はよくそこでひなたぼっこ?をしていたりして数回見かけていて「こんにちわ」と挨拶しつつ少しずつ立ち話をするようになった頃、そのお婆さんから
「家の中からリンゴ取ってくるからちょっと待っててね」と言われ、大きなリンゴを二つ貰ったそうだ。
彼女の子が「ありがとう」と言うと、「良い子だねえ。おばあちゃんて呼んでみて」と。言われたとおりに「おばーたん」と言われ、大喜びのお婆さんだったそうだ。

数日後、お礼をしようと頂き物の伊予柑のお裾分けを持っていったが、インターホンが外されている。玄関も鍵がかかっていたが、
「もしかして、家の中で倒れてるのかも!」と思い、「入りますよー!」
と庭へ回ってみた。

□ □ □

すると、雨戸が開いているが中はもぬけの殻。
誰かが住んでいるという気配がない。
そういえば表札もかかってないし、ポストもよく見たらガムテープで口をしめてある。
「もしかして、具合が悪くなってお子さんが引き取ったのかも・・・」
と思ったそうだが、どこか釈然としなかったそうだ。
「住んでいた気配がまるでない」と思ったから。

すると、不審者と思われたwのか、向かいの家の人が出てきて「どうされたんですか?」と聞かれたそうで。
「この前子供にリンゴをいただいてね、お礼に来たんですけど何かあったんですか?」と彼女が聞くと、向かいの人は少しだけ変な顔をして。
「ここはもう二年空き家ですよ」と言ったそう。
「えええ? 嘘でしょう? わたしがリンゴを貰ったのって、ついこの前ですよ、この家の中から持ってきて、家族で食べたんですよ。」
そこまで言うと、その向かいの人は「たまにあるんですよ、そういうこと」
としか言ってくれなかったそうだ。

□ □ □

近所でも通りを挟んで自治会が違うため、自宅のそばの人に聞いてもよくわからなかったそうだが、「二年以上空き家だった」「一人暮らしのお婆さんがいた」というのは本当らしい。
彼女の夫も、「あそこは空き家だよ」と言い、「だってリンゴ貰ったって言ったじゃない」と言ったら、「新しい住人が入ったのかと思ったんだよ」と。

「何回も挨拶して、子供が七人もいて、戦後で育てるのも大変だったとか
少しだけお話ししていたあのお婆ちゃんが、幽霊とはとても思えない。」
そう彼女は言う。
「そもそも、幽霊だったらあのリンゴは何?ね、訳わかんないでしょ?」
ていうか、そこそこ霊感持ちなのに全く違和感を感じなかったそうだ。
彼女の子供は凄く愛嬌があって可愛らしく、つい何かあげたくなっちゃう
ような赤ちゃんだったから、お婆さんもつい、出てきてしまったのだろうか?
(ちなみに、今は「毎日かあさん」を笑えないような子供に成長している)

ちなみにリンゴの味ですが。消えることもなく美味しくいただいたそうだ。
「今まであんなに美味しいリンゴを食べたことがないってくらい、美味だった。
みつもたっぷり入ってたし本当に美味しかったよ」と彼女曰く。

その後、一度も会うことは無いらしい。
空き家はまだ残っている。

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