『よりかたさま』|洒落怖名作まとめ【○○様 ○○さん系】

『よりかたさま』|洒落怖名作まとめ【○○様 ○○さん系】 ○○様 ○○さん系
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よりかたさま

 

会社の新入社員研修の時に同じ部屋だった、同期のAから聞いた話。
研修中に毎晩魘されていて煩いので、問い質したら冗談めかして以下のような話を始めた。
多分作り話だろうけど、最近とある機会に思い出したので。

Aは都内の大学を卒業し、新卒で会社に入って来たんだけど、出身はN県。
それも実家があるのはかなり田舎の方らしい。
このAの祖母がかなり迷信深い人で、昔から色々な話を聞かされたのだとか。
その中でも一番よく聞かされたのが『よりかたさま』という妖怪の話らしい。
簡単に要約すると、実家近くの山の下には地底の国があり、そこには『よりかたさま』達の国があるという話。

Aの実家の周りは山があって、「人穴」と呼ばれる洞穴が幾つかある(と言うより、話を聞く限りだと、山にある深い穴を「人穴」と呼んでいたような印象を受けた)。
有名な人穴は神社に祀られていたらしい。
多分、パワースポット的なものなんだろうと思う。
でもその人穴の中には一つだけ「蛇穴」と呼ばれるものがあり、それは『よりかたさま』達の国に繋がっている…云々。
だから山の中で洞穴を見つけても迂闊に近寄ってはいけない、と言い聞かされてきたのだとか。
Aはその『よりかたさま』というのが何なのかよく分からなかったけど、事ある毎に
「夜遅くまで騒いでると、『よりかたさま』が来るよ!」
と祖母に言われていたため、漠然とした怖さを感じていたらしい。

時は流れてAは都内の大学に進学し、スキーサークルに入ったんだけど、二年の冬休みに友達3人とAの実家に泊まろうという話になった。
Aの出身のN県は豪雪地帯で、実家から近くにスキー場があるので、ちょうど良いからそこに泊まってスキー合宿をしようという事になったみたいだ。
A達と友達の3人は冬休みの間、どっぷりスキー三昧だった。
ただ流石に毎日スキーばかりだと飽きてくるらしく、大晦日はAの実家でゆっくり過ごしていた。
年末特番にも飽きてきて適当な雑談をするも、話題が尽きてくる。
ついついAは『よりかたさま』の話を友達にしてしまったらしい。
テレビもつまらないし、やる事も無いという事で、肝試しも兼ねて「蛇穴を探してみよう」という話になった。
Aは「いや、流石にヤバいから」と拒否した。
と言うのも、Aの地元では山にまつわる迷信が幾つもあるのだが、その中に
「大晦日は山に入ってはいけない」
というものがあったからだ(Aの地元だけではなく、N県には結構○日は山に入っていけないという迷信があるそうな)。
しかし完全に友人達は乗り気で、Aもこれに水を差すのもどうかと思い、最終的には蛇穴探しを承諾した。

子供の頃ならともかく、A自身『よりかたさま』の話なんて信じてはいなかった。
冬眠中の熊に出会さないようにとか、そんな理由で子供が洞穴に無暗に近付かないように作られた与太話だと思っていた。
結局、ちょっとスリルを味わってテンションを上げてから新年を迎えよう、くらいに思って山に入ったんだと。
地元の人の間では幾つか「近付くな」と言われている洞穴があって、Aはその内のどれかが件の蛇穴だろうと当たりを付けていたらしい。

Aと友人達の計4人はそれらを一通り周る事にして、山に続く道を歩いた。
ただ、ちょうど『ここら辺りから山だな』と思った辺りから、Aは心なしか違和感のようなものを覚えた。
幼い頃から遊び場にしたりして、何度も登っていた筈なんだけど、全く見知らぬ土地に迷い込んだような…いわゆる未視感を覚えたらしい。
夜の山に入るのはAも初めてで、真っ暗な山道を懐中電灯だけで歩いたから、それで違和感を覚えているんだろう…。
そんな風にAは自分を無理やり納得させたのだそうだ。
背筋が凍えるような嫌な感覚を覚えつつも、A達4人は洞穴を周った。

山に入った時点で「ヤバい」と感じつつも、他の3人がノリノリで洞穴に入って行ったせいで、止めるに止められなかったそうだ。
ただ一つ目と二つ目の洞穴は本当にただの洞穴で、5メートルも続いていなかったらしい(でも洞穴の中は本当に真っ暗で、懐中電灯だけで中を照らしていたので「マジで怖かった」との事)。
三つ目でついに『当たり』を引いてしまった。

その穴は急な斜面を上った先にあって、A達4人は殆ど崖みたいな角度の坂を登って行った。
穴の入り口自体は斜面の下からでも見えるんだけど、普通の横穴にしか見えないらしい。
でも実際に入り口まで登って行くと、明らかに異常だと解るんだと。
まず臭い。
入り口の近くには鏃のようなものが散らばっていて、その内の幾つかには蛙の死骸が刺さっていたのだとか。
それが物凄い腐敗臭を放っていたらしい。
友達3人(仮にB、C、Dとする)は「くっせえ(笑)」などと言いつつ笑っていたんだけど、Aはもう内心ビビリまくりで軽く膝が震えていたらしい。
ただ、やはり明らかに蛙の死骸と鏃が大量に転がってるのは異常だという事で、その内Bも「これ、ヤバくないか?」と言い出した。AもBに同調した。
でも残りのCとDは変に強がり、ズカズカと洞穴に入って行ったらしい。
なし崩し的にAとBも着いて行く事になった。

洞穴は結構深くて、多分10メートル以上あったんじゃないか、との事。
横幅も結構広く、二人くらいは並んで歩けたらしい。
やはり中にも鏃やら、それに刺さった蛙の死骸やらが放ってあった。
4人とも顔を見ただけで解るくらいビビっていたんだけど、肝試し特有の強がりで帰るとも言い出せず、洞穴の奥まで進んで行った。
横穴を奥まで進んで行くと、更にそこから斜め下方向に小さな穴が延びていたらしい。
大きさは人の頭より少し大きいくらいで、「大人ではギリギリ入れないくらい」だったとか。
穴の1メートルくらい前には、洞窟の両端に石の柱があり、間に注連縄が掛かっていたらしい。
懐中電灯で照らした瞬間、注連縄の白い紙垂が見え、Aは思わず情けない声を漏らしたとか。
流石に4人とも神社などで注連縄を見た事はあるものだから、良いにしても悪いにしても、どんな由縁があれ、軽々しく触って良いものではないと思ったらしい。
暫くみんな黙り込み、重苦しい空気が漂い始めた。
誰からともなく「どうするよ?」なんて疑問が出たんだけど、普段から少し強がっているところのあったCが、
「いや、ここで帰るのも無い話でしょ」
などと言い出したらしい

以下、Aから聞いた話を想像も交えて会話風に起こしました。
A「いや、マズいって。これ絶対マズいって(迫真)」
C「何が? 注連縄くらい俺の近所の神社にもあるし」
B「先輩、まずいですよ!」
C「何? ビビってんの?」
D「携帯で撮るだけなら問題無いんじゃね?」
A「は?」
D「いや、穴の外から中の写真撮ってみようよ」
A・B「」( ゚д゚)ポカーン
C「よし、それ採用で」
D「じゃあ撮って。どうぞ」
C「俺が撮るのかよ(笑)。お前が撮るんじゃないのかよ(笑)」
という流れで、Cが携帯で穴の奥の写真を撮る事になったらしい(提案者のDは土壇場でビビって断固拒否し、Cが撮る事になった)。

Cは注連縄を跨いで穴の前まで行った。
それで穴の中を照らそうと懐中電灯を向けて携帯を取り出した途端、穴の奥で何かが動いたらしい。
Cはそれを見た瞬間、悲鳴を上げて注連縄の後ろに下がった。
残りの三人も近くまで来て穴を覗き込んでいたから、4人ともそいつを直視してしまったそうだ。
懐中電灯の先に映ったのは、ミイラみたくカサカサに乾いた茶褐色の人間の顔で、唇も眼も無くて眼窩は真っ黒。そいつが穴から這い出して来たらしい。
4人とも一瞬呆然となってそいつを見つめてたらしい。
その時、Aは直感的に『こいつが「よりかたさま」なんだ』と思ったそうだ。
ミイラみたいな顔の下に続いているのは蛇のような細長い体で、変にねじくれた尻尾が二股に分かれていたのだとか。
4人とも固まっていたのは一瞬で、次の瞬間には大声を上げて洞穴の出口に向かって走り出したらしい。
Aは一度だけ後ろをチラっと振り返ったんだけど、そいつは注連縄の向こうから動かずにジッとしていたらしい。
真っ暗で顔はよく見えなかった筈なんだけど「俺を見てニヤッと笑った気がした」のだとか。

それで4人は這う這うの体で洞穴から飛び出て、斜面を転がり落ちるようにして降りた。
でもそこからの記憶が曖昧で、気が付いたらAの実家の部屋で目を覚ましていたらしい。
Aの母親が言うには、年が明ける前くらいに4人で青白い顔をしてフラフラと帰って来たのだとか。
母親もおかしいと思って声を掛けたんだけど、4人は無視して部屋に入って行ったのだとか。
Aは夢だったのかとも思ったんだけど、4人とも洞穴で見た人頭蛇身の妖怪を覚えている。
4人揃って同じ夢なんか見る訳がないという事で、また4人とも意気消沈。
スキーをやれるようなテンションじゃないと言うので、次の日に東京に帰ったそうだ。

ただ、注連縄を越えて穴の近くまで行っていたCはそれ以来、毎日あの『よりかたさま(仮)』の夢を見るのだとか。
それが妙にリアルで、Cは日に日に情緒不安定になって行き、就活が終わったくらいの時期に鬱で大学に来なくなったらしい。

Cが大学に来なくなってから暫くして、Aも奇妙な夢を見るようになったのだとか。
夢の中でAは両腕を斧だか鉈だかで肩から叩き落とされ、足の骨を砕かれて、例の注連縄の張ってあった穴の中に落とされるのだとか。
肩が叩き落とされ細くなっているせいか、Aはすんなり穴の底に落とされる。
穴は相当深くて、いつも落ちて行く途中で目が覚めるのだそうだ。
Aが頻りに「次は俺の番」と呟くのを見てゾッとしたのを覚えている。

流石にAも気になり始め、家族に『よりかたさま』の事を聞いたのだけど、Aの祖母はAが高校進学した時に、祖父は小学校の時に亡くなっていて、両親も『よりかたさま』の事は詳しく知らないらしい。
近所の人にも「大学の文化人類学の授業で必要だから」と言って『よりかたさま』の話を聞いて回ったが、近所の寺の住職や、本当に高齢な一部のご老人が少し知っていたくらいだったそうだ。
それでも判ったのは、せいぜい
・Aの地元には昔から、蛇神信仰があった(と言うか今でもある。神社も多い)
・両腕をもがれた神様が蛇になってN県まで逃げて来て、土着の神様になったという神話もある
・Aの地元の近くを舞台にした御伽噺で、男が洞穴に落とされ、地底の国を旅して大蛇になり地上に出るというものが幾つかある
・『よりかたさま』は他にも『さぶろうさま』や『みなかたさま』と呼ばれるらしい
という事くらい。
それでAが言うには夢の中の光景は、恐らく何かの儀式ではないかとの事。
また上述の御伽噺や神話に準えて、蛇に見立てて両腕を落とされた人間を『よりかたさま』と呼んだのではないか、とも言っていた。
最近は少しずつ夢も長くなってきていて、穴の底に落ちた後の光景も分かるらしい。
穴の底では自分と同じようになった『よりかたさま』が沢山居て、這いずり回っているのだそうだ。
その『よりかたさま』達に先導されてどこかに連れて行かれるんだけど、まだ最後まで夢は見られていないので、どこに連れて行かれるかは判らないんだそうだ。

「最後まで見たら多分、俺もCみたいになる」
Aは最後にそう言って話を締めたんだけど、正直、途中途中でニヤニヤしていたし、かなり冗談めかしていたので作り話だと思っている。
いつも冗談ばかりを言っている奴だったし、おちゃらけた奴だった。
大体、パニクっている時に見た『よりかたさま』の特徴をそんなに覚えているとは思えないし、夢の話も御伽噺の話も凄く胡散臭かった。と言うかBとDはどうなった。

ただ、この間同期を集めての研修が東京の本社であったんだけど、Aは来ていなかった。
同じ支店に配属された同期の話だと、自律神経失調症だかになって休職の後、退職したらしい。
休職の話を聞いて、長年忘れていたAから聞いたこの話を思い出し、どうしても誰かに伝えたくなった。

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