『可視不可視』先輩シリーズ【怖い話】|洒落怖名作まとめ

『可視不可視』先輩シリーズ【怖い話】|洒落怖名作まとめ 先輩シリーズ
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可視不可視

 

「肝試しに行きましょう」

俺は先輩のアパートに乗り込んで、開口一番そう言った。
高校一年の秋、未だ残暑のきつい頃だった。
先輩はきょとんとしている。
「珍しいな。お前が俺を誘うのか」
そうなのだ。
いつもいつも先輩の無茶に付き合わされる形でいろいろ巻き込まれてきたが、今日は違う。

ことの経緯は単純だ。
中学からの同級生、同じくオカルトマニアの知人がいる。
ハナヤマというのだが、そいつが面白い話をしてくれた。
「峠にさ、未開通のトンネルあるだろ。あそこ、いたぜ」
峠、というのは学校のすぐ近く、俺たちが華麗峠と呼んでいる場所だ。
華麗と言う字は本当は違うのだが、華麗さのかけらもないその峠を皮肉ってそう呼んでいる。
そこに、確かにトンネルはある。
未完成のまま、舗装すらされずに工事が頓挫したトンネル。
俺たちが生まれる前からあったんじゃないだろうか。
一応立ち入り禁止になってはいるが、不良や暴走族なんかがしょっちゅう入っていた。

「でもお前、あそこ行った事あるだろ。そん時にいなかったのかよ」

そもそもあそこは噂に名高い心霊スポットだ。
先述の不良や暴走族も、肝試しと称して中を荒らしているらしい。
もちろん、町内一のオカルトフリークを自称していた(不思議なことにお互いそう言って譲らなかった)俺たちも何度か訪れたことがある。

「まあな。けど昨日さ、夜通ったらいたんだよ、結構すごいのが。あの人誘って行ってこいよ」

たまたま通ったというのは恐らく嘘だ。
こいつの家は逆方向だし、たまにそういう場所を見に行きたくなる気持ちはすごくわかる。

この話は前提として、ハナヤマの霊感が本物であることが必要なのだが、その点は安心できた。
なにせあの先輩のお墨付きだ。
俺は、たまには先輩を驚かせてやろうなどと、今にして思えば非常に無謀な事を考えて、放課後突撃したのだった。

「で、今夕方なんで、もうちょっと待って日が落ちてから行きましょう!」

珍しくやる気に満ちていた俺をなだめる様に、先輩は落ち着いて言った。

「夜は駄目だ。行くなら今・・・・・・いや、もっと早い時間がいい。昼間とか」

俺ははっきり拍子抜けした。
夜の世界に恐れをなしたとでも言うのだろうか。
腹の内に夜そのものを飼っているようなこの人が。

「なんでですか。肝試しってのは夜暗くなってから行くもんでしょう。雰囲気とか、いろいろありますし」

先輩は黙って首を振る。
「・・・・・・じゃあいいです。俺だけで行ってきますよ」

立ち上がろうとする俺を手で制して、先輩は一旦口を開き、あー、とかうー、とか言ってまた閉じた。
何か言うのを躊躇っているらしい。
まさか本当に怖いんじゃないだろうな、と今まで憧れていた先輩の地位が下がり始めた頃、ようやく一言出てきた言葉。

「見えないよ」
意味がわからず首を捻った俺を見て、続ける。

「夜じゃあ見えないんだ。少なくとも今の俺は。お前達なら夜の方が見えるだろう、お前達だけで行くならそれでいい」
わけがわからない。

お化け、幽霊は夜出る物と相場が決まっている。
それにこの人だって今まで散々「夜」にそういうものを見てきたはずだ。

「どういうことですか」
先輩は自嘲気味に笑う。

「考えてもみろ。昼は見える物が見える時間。夜は見える物が見えない時間だ。昼、当たり前のように見える物は、夜は見えなくなるんだよ」
「つまり・・・・・・?」

「つまり、俺にはそういう連中が、お前達人間と同じくらいにはっきり見える。だから、夜はもっとヤバいヤツじゃないと見えなくなるんだ」
理解するのに数秒を要した。
え、それは、つまり。
「俺が今まで見てきた物は、本来お前程度じゃどう足掻いても見えない物だ。俺と一緒だから見えた」
「お前や、例えばハナヤマが騒ぐ程度の物は、そこらを歩いてても見えるんだ。だから多分、夜は見えない」
「夜は、見えない物こそ見える時間だからな」
例えば、お菓子の空き箱や、外を歩く人間。自転車や猫、そういう物質と、本来物質と呼べるのかどうかわからない異形。
それが同じ密度で見える。だから、夜は見えない。
夜は、本来見える物が消え、見えない物こそ見える時間だから。
「まあ、もう少ししたら昼も夜も関係なくなる気もするけど、今は見えない。また今度、もっとヤバい所に行こう」
今日はもう帰れ、と手を振られた。
素直に従い、アパートの前に停めてあった自転車にまたがる。

既に日は沈みかけていた。
俺は華麗峠に向ってみた。
一応舗装してあるが、ところどころひび割れている上り坂を登る。
頂上付近にトンネルがある。
片方は、開通した立派なトンネル。
少し外れた所、未舗装の道の先に件のトンネルがあった。
自転車を降り、手で押して近づいてみる。
日は殆ど沈み、トンネルの奥は暗く、闇しか見えない。
何か見えないかと首を延ばしたが、その奥にはただ、暗闇だけが、広がっていた。

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