『神父の子』全6話|洒落怖名作まとめ【シリーズ物】

『神父の子』|洒落怖名作まとめ【シリーズ物】 シリーズ物
スポンサーリンク

神父の子

 

 

はじめに

親父が死んでからちょうど今日で一年たった。
キリシタンだから一周忌とかないんだけど
親父はキリスト教の神父だったけど幽霊の存在も認めていた。

同じ体質の俺もキリスト教に入るかどうか未だ迷っている
ほかの神父や教会の人たちからは異端というか悪魔憑き扱いされていた親父だったが
不可解な存在に悩む人たちを無償で助け続けた人生だった。

我が家と親父を襲ったさまざまな悲劇をここに書いてもいいだろか?
誰にも言うなと言われたが親父の生き様を自慢させていただいてもいいだろうか?

みなの返答を待つ

□ □ □

はじめに
キリスト教にもたくさんの種類があるのでよそのことはよくは知らないが
キリスト教の考え方は基本的に死んだ人間がこの世に化けてでることはないとされている。
つまり幽霊というものはいない。という考え方だ。
幽霊が見えたならそれは悪魔が幻覚を見せていると考える。

親父は小さな頃から幽霊というものがよく見えたらしい。
気が狂いそうになる中で救いを求めたのがキリスト教だったと聞いている。
だがそれでも幽霊は見え続けいつしかそれ(霊)を救えるようになったのだという。
それは神様のお力添えがあったからで自分は幸せなのだと常に言っていた。

教会には2週間に一度はこの手の悩みを持った人が現れていた。
親父は一人一人の話を親身に聞いて悩みが解決するように頑張っていた。

でもやっぱり狂ってしまって1年前に首を吊って死んだ。

神でも救えないほどいろんな出来事があった。
自慢話に聞こえるかも知れないが自慢の父の話を書かせて欲しい。

 

 

親に呪われている

ある日のこと
学校から帰ってくるとウチの小さい貧乏教会にパトカーが止まっていて中に警官が2人いた。
何事かと母に聞くとなんでも「秋山さん(仮名)が暴れて倒れた」との事。
近所の人が大声にびっくりして勝手に気を回して警察を呼んだらしい。(そのくらいいろいろあることで有名だった。)
そのまま秋山さんは警察に抑えられるようにパトカーに乗せられた。
親父もあとで警察に来るように言われていた。

□ □ □

秋山さんは45才くらいの独身のおばさんで最近、教会に通うようになった人だ。
こんなことを書くと語弊があるのだが日本で宗教に入る方は心に病気を持っていたり
社交性が低いことが多い。無宗教の人から見るとみんなでわいわいやっているように見えるが
決してそんなことはない。人知を超えた神という存在があるからこそまとまれる人たちであって
通常のルールやマナーでは浮いてしまうような人が集まってしまうこともある。
決してその人達が変人な訳ではなく、ウチの教会で言えば見えてしまう人や憑かれてしまっている人だと言っても過言ではない
もちろん基本的にはいい人達なのは言うまでもないが・・・

□ □ □

秋山さんは「自分の親に呪われている」と言って教会に来た。
親父は「子を呪うような親はいない」と言って慰めたが秋山さんは呪われていると自己暗示にかかっていた。
「なぜ呪われていると思うのか」という親父の問いに「長い間、顔を見に行っていないから」と答えた。
驚いたことに秋山さんの親は生きているのだ!
呪われているなどと言うからてっきり亡くなっているのだと思っていた。

そうとなれば話は早いので秋山さんと親父と母で親御さんに会いに行くことにした。

無論、学生で信者ではない俺はお留守番だ。

□ □ □

数時間後、母から車で迎えに来るように言われて電話で聞いた住所をカーナビに入力してむかった。
ついた先はゴミ屋敷と呼ぶに相応しいオンボロの家でなんとも言えない匂いを放っていた。
すでにパトカーと救急車が数台来ていて夜のゴミ屋敷を赤く照らしていた
家のそとでオロオロした母を見つけ「いったいどうしたんだ?」と聞いている最中

家の中からこの世のものと思えない異臭とともに頭蓋骨を抱いた秋山さんが警察に両肩を支えられて出て来た。
その匂いと異様さに俺と母は胃の中のものを道端に戻した。
野次馬たちも数人戻していた。
その後を追うように親父が出てきた。
真っ青になりながら「残念ながら亡くなっていたよ」と言った。
服は泥?だらけになっておりものチーズのようななんとも言えない匂いが染み付いていた。
俺は服を捨てるように頼んで、パンツ一枚の親父を警察まで送っていった。

□ □ □

後日。

母親を孤独死させてしまった秋山さんを教会のみんなでなぐさめた。
ただあのゴミ屋敷を見た俺としてはたとえ親とはいえ見捨ててしまうだけの事情があったのだろうと察した。
それでも秋山さんの中で罪悪感があったのだろう。だから呪われたなんて思ってしまったのだと思っていた。
落胆する秋山さんは毎日のようにお祈りに参加した。
俺の目から見ても少しづつ元気を取り戻しているように見えた。

元気になった秋山さんは逆に亡くなった母親の悪口を言うようになった。
はじめは教会のみんなも黙って聞いていたのだがだんだん耳に耐えられなくなって秋山さんを避けた。
それでも親父は黙ってうなずいて秋山さんの暴言を聞いていた。

□ □ □

ここからは母に聞いた話。
問題の冒頭の秋山さんが暴れて倒れて教会に警察が来た日の話だ。
いつものように暴言を吐き続ける秋山さんについに親父が言った。
「あなたのお母さんは首を絞められてもあなたを恨んだりはしていませんよ」
その言葉を聞いた秋山さんは泣き暴れながら「殺してヤルー」と何度も叫んで気を失ったという。
母は「お父さんはじめから知っていたんだよ」と言っていた。

秋山さんが自首をしたという話は聞いていない。
親父にこれでよかったのか?と尋ねると「誰にも言うなよ・・・」とだけ言った。

 

 

 

集まるもの

ある日のこと
親父が早朝から神様に祈っていた。
これは決まって昨日の夜に怖いことがあった時のお決まりのパターン。

幽霊が見える人が慣れるとか普通に見えると言うが親父はその気持ちはよくわからんと言っていた。
気分は悪くなるし突然でてくるとやっぱり怖いと言っていた。 親父は怖がりだったのかもしれない。

親父の早朝お祈りも3日目に突入すると母も俺も流石に心配になってくる。
おそらく親父は一睡もできていないと思うし、俺たちにも聞こえるほどの強烈なラップ音が鳴り響く。

その日は土曜で休みだったので親父にどんな霊が来ているのか?と聞いてみた。
俺にできることなど何一つないがなんとか親父を楽にしてあげたいという気持ちだけはあった。

□ □ □

その瞬間、握り返した手に温度を感じないと思った瞬間! 30メートルくらい引っ張られた感覚に襲われた!
「騙された」というなんともいえない感情が頭の中を回った。 正直、死んだと思った。
その時、親父が吼えた。 吠えたとも言える。 人の怒号ではなかった。 獣のような謎の怒号だった。
俺は布団の中で片手をあげた状態で金縛りになっていた。
母が頭までかぶっていた俺の布団をはいだ瞬間、天井に感覚的に女だと思われるたたみ2枚分ほど巨大な顔があった。
怒りと憎悪にまみれた嫌な感覚の塊だったと今でも思い出す。

□ □ □

夜が明けて親父に昨日のはなんだったのか聞いてみた。
「最近死んだ女を中心に100を越えるものが集まるとああなるのだと思う」と言っていた。
「今は目的があるがそのうち溶け込んでただの悪意の塊になってしまう。ああなると神のそばにはいけないな」
とぶつぶつ説明してくれた。
俺としては今夜のことが心配だったのだが、親父は「昨日が最後だから心配ない」と言っていた。
根拠は教えてはくれなかった。

次の日、親父は夜まで寝ていた。

夜ご飯時に外国人の女性が死体で見つかったニュースがやっていた。
その時、やっと起きてきた親父が「これだったのかな?」とつぶやいた。
(それで教会に来たわけ?)と思ったがもううんざりだったので口には出さなかった。

 

 

子猫の里親

ある日のこと
「拾った子猫を飼ってもらえないか?」と小学生くらいの女の子とその母親が来た。
商売柄?と言っていいのかわからないが教会にはこの手の相談がよく来る。
残念ながら拾ってくる小動物全てを飼っていたら見事なワンニャンランドが出来上がってしまうので
貰い手を一緒に探すのを手伝うという形で一時的に預かる感じにしていた。
命を大切にするのはとても大切なことだから親父も母も嫌な顔1つせずに里親探しを手伝った。
俺はもっぱらインターネット部隊として里親探しを頑張った。
猫は去勢や予防接種なども里親がみつかる重要な部分でもあるので親父は貧乏だったが自腹を切って払う時もあった。

□ □ □

俺は早速、インターネットの里親募集に写真を載せた。
親父と母親はいつものペットショップとパン屋さんに写真を張ってもらえるように頼みにいった。
猫を拾った女の子は学校の帰りにいつも猫に会いに来ていた。
子猫を中心としたあたたかい人情の輪のようなものを感じていた。
2週間ほどでインターネットで里親が見つかり、むこうから車で引き取りに着てくれることになった。
おまけに予防接種や去勢はこちらで致します。と言ってくれてとても大助かりだった。
正直、我が家はみなさんのお裾分けで食いつないでいるような貧乏な家だからだ。

□ □ □

子猫の受け渡しの日、親父はたまたま別の教会に出張に行ってしまっていた。
俺と母と女の子で里親になってくれる山田さん(仮名)にあまった餌や匂いのついた毛布などを渡した。
子猫がいなくなってほっとしたようなさみしいような夕食時に親父は帰ってきた。
親父も子猫がいなくなったことを少し寂しいと感じているようだ。

その時、親父がケモノの匂いがするといって鼻をくんくんしながら部屋を徘徊した。
その夜、親父が猫がいると言って家の中と外を探しはじめたがもちろんいなかった。
次の朝、親父が山田さん(仮名)に連絡を取ろうとしたが、置いていった連絡先はまったく関係のない電話番号だった。
俺はインターネットで残っている情報から山田さん(仮名)に連絡が取れないか?と聞かれてあわてて連絡をくれるようにメールをしてみた。

次の日、メールの返事が来ていないことを親父に伝えると親父は肩を落としながらこう言った。
「あの子猫、ミキサーに入れられて死んだかもしれん。申し訳ないことをした。かわいそうなことをした。」と

 

 

エンジェル様を怒らせた

ある日のこと
教会の電話に面識のない中学生からの電話があったらしい。
どうやら複数人のグループで電話をかけてきたらしく電話を受けた親父も内容の把握に困惑していた。
内容を簡潔に言えばエンジェル様を怒らせてしまったので謝り方を教えてほしい。との事。
さすがの親父もエンジェル様を怒らせた。の意味がわからなかったが、俺がこっくりさんの別名だと説明すると
「なるほどなるほど」と電話全体の意味を理解したようで、次の日曜に説教もかねて子供達を教会に呼び出した。
多少の興味もあり日曜に俺も教会で待っていると、おどろいたことに先生と生徒4人の計5人でやってきた。
正直、この手の話に大人が噛んでくるとは思わなかったので逆に先生に親父が怒られるのかも?と心配したが
どうやらそうではないらしい。 話を聞くと先生もエンジェル様の被害者だというのだ。

□ □ □

若い女性の先生と4人の女生徒。
神妙な面持ちの先生を後ろに女生徒の一人がエンジェル様を怒らせた理由を話し始めた。

放課後、教室でエンジェル様を4人でしていたところ教室の見回りをしていた先生にみつかった。
急いでエンジェル様にお帰り願って終了しようとしたがエンジェル様が思うように帰らない。
しびれを切らした先生が強引に紙を奪って破いてエンジェル様を終了させてしまった。
それが1ヵ月ほど前の話でそれからずーっとエンジェル様の呪いに4人は悩まされているという。
具体的には風邪で高熱を出したり、車に轢かれそうになったり、夜に謎の気配を感じたりと
数え出したらきりがないほどの不幸な目にあっているそうだ。
親父はエンジェルは神の意思を伝える神の子供だから教会で心から謝れば必ず怒りは必ず収まると話した。
少し聖書を読んで聞かせた後、女生徒たちは神に懺悔してエンジェルの怒りから解放された。
念のため、先生の連絡先だけを教えてもらって2時間ほどで帰っていった。
帰り際に女生徒たちは「体が軽くなった!」と1ヵ月におよぶ永い呪いからあっという間に開放された。

□ □ □

教会の日曜日は忙しい、今日は異例のお客様もあったことでかなり遅めの昼食になった。
俺は親父に今日のエンジェル事件の真相を聞いてみた。答えはわかっていたが一応確認がしたかった。
答えは予想外のものだった。
「先生はかなりつらい状態だな・・・なんともならないかもしれない」
いったいあの先生になにが憑いているというのか?気になった俺は親父に詳しく聞いてみた。

親父いわく(キリスト教の考え方とは全く異質の考え方だが)
霊というのは単体で動いていることはほとんどなく強い意志を持った霊を中心に無数の霊で構成されていることが多い。
強い意志=霊長類なので動物霊や虫などの霊を単体で見ることはほとんどないのではないかと言っていた。
人間同士の霊がくっつく時は同じ意思を持った霊が合体することが多く、個人的な恨みを残して霊になったとしても
いくつも合体することで漠然とした恨みの塊になりいわゆる成仏への道が完全に絶たれてしまうわけらしい。(個々が原初の恨みを解消できない)
脳を持たない霊魂は霊になってまで達成したかった目的をいつまでも記憶できないのでどうしても漠然とした悪霊になってしまう。
神父がいうのも変な話だがほとんどの人間は死んですぐにお経などを聞かせたりすることでこの世そのものとの未練を断ち成仏していくことが多いらしい。
生前に死んだら無になる。死んだ人間はなにもできない。幽霊などいない。という考え方の人も幽霊になることは少ないと言っていた。

□ □ □

先生には1つの強力な悪霊がついている。その霊に吸い付けられる様に様々な人間や動物や謎なものの霊が集まっているのだという。
その強力な悪霊は先生を不幸に貶めるだけの力も十分に持っていると親父は言っていた。
親父は後日、先生に電話で連絡して教会に遊びに来るように自然に呼びかけた。
先生はやはりエンジェル様事件から身近にポルターガイスト現象のようなものが起こり始め悩んでいると打ち明けてくれた。
それは前回、生徒たち来た後も変わらず続いているらしい。 一番相談したかったのは先生だったのだ。
親父は先生に「この世に幽霊など存在しない」と説教をはじめ、まさしくキリスト教の司祭としての説教を始めた。
これには正直、驚いた。 親父の口から幽霊が存在しないなどという言葉は聞いたことがなかったからだ。
その後も先生は仕事終わりになんども教会に顔を出すようになり親父の説教を熱心に聞いていた。
だがポルターガイスト現象は一向に収まらないと悲痛な面持ちで泣きながら話していた。

□ □ □

先生が通い始めて1ヵ月、シビれを切らした俺は親父になぜ先生を除霊してやらないのか聞いてみた。(わかりやすく伝えるために除霊と書きます)
親父はやれやれといった顔をしながら「先生に憑いているのは自分本人の生霊だ」と答えた。
親父いわく生霊はもっともタチが悪く払うことはほぼ不可能。しかも自分自身の生霊をまとってしまうと最悪、自殺してしまうことが多いらしい。
生霊も霊なのでほかの霊を吸収する。しかし原初の意思をいつまでも持ち続けることが多いので(意思の発信源が生存しているため)
その霊の大きさ(物理的ではない)は死者の霊とは比べ物にならない。
先生は極度のマイナス思考、自虐体質、もしくは人に言えない悩みを抱えている、自分に嫌悪を抱いている可能性があるらしい。
それがエンジェル様の呪いという暗示をきっかけに自らの力でポルターガイスト現象を引き起こしてしまっている。
若い子供などに多い現象(自分の顔が嫌いだとかが原因)だが恋をしたりすることで改善するよくある現象だと教えられた。
霊の存在は真実だがそれを誰もが認識する必要はないと言っていた。 神父が説く「知らぬが仏」というやつである。

□ □ □

最後に親父は正直、先生を救うのは難しいかもしれない。と言った。
それから先生は何度も教会に足を運んでくれたがポルターガイストは収まることはなかった。
先生は病院で「重度の鬱病」と診断され学校をやめて実家の田舎で養生すると言ってそれきり来なくなった。
何度か手紙が来たがポルターガイスト現象は実家でも起こると書いてあった。
その後、音信不通になってわずか半年で先生は自殺してしまった。
自殺した場所は勤務していた中学校。
都会で教師になることに憧れて夢が叶ったのに田舎に帰ったのがさらに追い詰めてしまったのだろうか?と俺は想像したが時すでに遅し。
自殺の一報を聞いた親父は自分の無力さに朝の懺悔を昼までしていた。

 

 

殺してくれないか!

ある日のこと
教会に来る信者さんでホームヘルパーの仕事をしている田中さん(男・仮名)に一緒に行ってほしい家があると頼まれた。
老人の一人暮らしなのだがどうにも薄気味悪く、一人だと神経がまいってしまうらしい。
親父に一応相談すると「行ってあげなさい。」と言われたのでお礼のガストでステーキに釣られて手伝いに行った。
ご老人は80歳くらいのおじいさんで古い県営の住宅の4階に一人で暮らしていた。(表記は501号室)
田中さんの話ではもう県営マンションができた時からここで暮らしているらしい。
県営マンションのほとんどは空き家。正面に同じくらいの大きさのキレイなマンションが建っているとこを見ると
順番に取り壊して新しいのを建てる計画があるのだろうと、なにもしらない俺でも想像できた。

□ □ □

エレベーターで4階に移動して501号室にむかうと奥の部屋の半開きのドアがバタンと閉まった。
空き家だらけだと思っていたが割と人が住んでいるんだなと思ったが田中さんはそのドアの閉まった部屋の前で止まった。
そして書類ケースから鍵を取り出し、チャイムも鳴らさず鍵を開けて「おじいちゃーん」と元気良く部屋に入っていった。
部屋の中にはおじいさんが一人で寝ていた。
昼間なのにカーテンを閉め切って真っ暗な部屋の中は正直、汚物の匂いで充満していた。
田中さんは慣れた手つきで窓を全開にして換気扇を回すように僕に指示した。
「おじいちゃーん」と大きな声を出しながら布団を捲り上げると中から蠅数匹飛び出した。
おじいさんは「あうあう」と言った声を出して田中さんに応えている。

□ □ □

田中さんはおじいさんの下の世話を手際よく片付けるとうまく寝返りさせてシーツをスルリ抜き出した。
まとめて大きなビニール袋に入れると「代えのパジャマとシーツを車に取りに行ってくるよ」と言って部屋を出て行った。
俺はおじいさんに話しかけることでこのなんとも言えないやりきれない思いをぬぐおうとおじいさんのそばに近づいて
「おじいちゃん! はじめまして!」と大きな声で話しかけた。
すると驚くことにおじいちゃんははっきりとした口調で 「殺してくれないか!」 と訴えてきた。
その声のトーンは「あうあう」と言っていたおじいさんの声ではなく50才くらいの立派な男の人の低くて太い声だった。
俺はびっくりしてしまってただ立ち尽くしていた。
すると田中さんが走って息を切らせて帰ってきた。汗びっしょりの田中さんに「どうしましたか?」と聞くと
「なんでもない。なんでもない。」と答えるだけだった。
その後は新しいシーツを敷きパジャマを着替えさせてご飯を食べさせて帰る事になった。
帰り際に体を拭くタオルや雑巾といった小物類を台所で洗ってベランダに干して帰った。
「さようなら!」と大きな声で挨拶すると、おじいさんは「あうあう」と答えた。

□ □ □

ガストでステーキをご馳走になりながら田中さんと話をした。
少し迷ったが田中さんが口を開くきっかけになればとおじいさんが「殺してくれないか」といったことを話してみた
すると堰を切ったように田中さんがあの部屋でいろんな不思議なことが起こると話始めた。
やはりキリストの教えを疑うようで俺に話していいか迷っていたらしい。
ホントは親父に相談したかったがとりあえず俺に体験させることでワンクッション入れようと考えたようだ。
田中さんが見る現象でもっとも頻繁なのがおじいさんがマンションから飛び降りているところが見えることらしい。
マンションの外からおじいさんの部屋を見るとおじいさんが飛び降り自殺をしているのだ!
駆けつけると下に死体はなく、部屋に入るとおじいさんは寝ているらしい。
この現象は田中さんの前任者、その前の前任者、ホームヘルパーの主任さんとたくさんの人が見ているらしい。
そして目撃者はご近所にもわたり今やこの県営マンションがほとんど空き家状態。 近所でも噂になっているという。

□ □ □

教会に帰ってこの話を親父にすると「死にたがっている生霊というわけだな・・・」と答えた。
どうしたらいいと思う?と親父に尋ねてみた。
「どうしようもないだろう。願いを叶えてあげるわけにはいかないのだから」
俺はなんとも言えないせつなさと怖さを感じていた。
もしおじいさんが老衰で亡くなっても、生霊はホントの霊となって消えないのではないだろうか?
時間にプライドと羞恥心は破壊され、なにもできなくなってなおも孤独に生き続けることを
常識に強要されている悲しい人間のぶつける場所すらない怒りと怨みはどんな「負」を作り出していくのだろう・・・

そして今は高齢化社会。 我々の未来は「負」を避ける術を持たない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました