【長編- 名作】スカッとする話
弟がものすごく食べ物に卑しくなって帰って来た
三年間大学の寮住まいだった弟が、
「就職先が実家近くなのでしばらく実家に住んで金を貯める」と宣言し帰ってきた。
それはいいんだが、ものすごく食べ物に卑しくなって帰って来た。
唐揚げや生姜焼きなんかを大皿で食卓の真ん中にドンと置いておくと
家族の取り分を気にせず4/5くらい食べてしまう。酢豚とかだと肉だけ全部さらっていく。
仕方なく銘々皿にあらかじめ分けて配るようにしたら
ちょっと目を離したスキに皿ごと取り替えたり、人の皿に箸を突っこんだり
ひどい時はまだ食べてる家族の横で
「もう食わないだろ?もう残せよ、腹いっぱいだろ。デブ、ブタ。残せ、のーこーせー」と
呪いのように隣でずーーーっと貧乏揺すりしながら言い続ける。
卑しい真似はやめろと怒るが弟は「寮生活じゃ弱肉強食はあたりまえ」と涼しい顔。
最終的に老齢の祖母の大好物であるキスのてんぷらを
皿からかっさらったことで父が激怒し、弟だけ食事の時間を分けられることになった。
そしたら弟は冷蔵庫や鍋の中のおかずを勝手に盗み食いするようになった。
うちは基本的に全員働いてるので、手の込んだものは前夜に作って冷蔵庫に保管することが多い。
それを帰ってくるなり空腹にまかせて全部食べてしまう。
食事どきになって母や姉が冷蔵庫をあけてみると、鍋の底にビーフシチューや肉豆腐の残骸が
かろうじてこびりついて残っているだけ。
もちろん肉は食いつくされている。
買い置きのプリンやアイスは全滅。父のビールも飲まれ、仏壇の果物までやられた。
炊飯ジャーをあけてごはんを直箸で立ち食いしてるのを目撃したときは殺意が湧いた。
しかも約束どおりに食費を入れたのは最初の1ヶ月目だけだった。
結果、半年足らずで「追い出そう」と家族の意見が一致した。
しかしあんな奴でもいちおう家族なので教育せず世に放りだしてはいけない。
食べ物の恨みは恐ろしいのだということを教えるため愛の教育をすることになった。
まず冷蔵庫に鍵をつけた。暗証番号は弟以外は皆知ってるが弟にだけは教えない。
そして基本的に全員、家では食事しないことにした。水はさすがに飲むが、ジュース一本飲むにも
いちいち自分の車まで行き、中でロックして飲む。
食事は弟には「仕事帰りに各々外食した」と言い、絶対に家では食べないようにした。
実態は本当に外食だったり、計画を打ち明けて協力してくれた親戚の家でとったりしていた。
(もちろん食費+お礼はした)
仏壇にはその間、申しわけないが本物のお菓子や果物ではなく「個人の好物シリーズ」という蝋燭を供えさせてもらった。
わずか2週間で弟ブチギレ。
「一緒にメシも喰えない家族なんて家族の意味があるか」と言う弟に
父が「その家族でさえおまえとは食事したくないんだ」
「おまえと食事することは本当に本当に不愉快だ。こうまでしてでも皆、おまえと食べたくないんだ」
と静かに説諭した。
弟はまだキレていたが、祖母にまで「ごめんねケイちゃん。でもおばあちゃんも
もうケイちゃんとはごはん食べたくないよ」
と言われ、元おばあちゃん子だった弟は泣き出した。
祖母に「これがおばあちゃんがあげられる最後のおやつ」と渡されたお菓子を泣きながら食べていた。
弟は一人暮らしになった。
最初のうちは一人暮らしイエー!で大学時代の仲間を呼んだりしていたようだが、
そいつらに寮生活のノリでかけなしの食料を食い尽くされたことでやっと完全に目が覚めたらしい。
うちに謝罪の電話をかけてきた。
今も食い意地は張ってるが、もとの弟にだいぶ戻ってきた。
先日、詫びがてら弟の給料ではじめて家族全員分の出前をおごってもらったので、記念書きこみ。
ちなみに弟はデブです。
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