目の覚めるような美少女
私子:中肉中背ひたすら美人ではない
彼男:高身長、一般人としてはイケメン
可愛子:その辺のアイドルより可愛くて綺麗
友子:可愛子の友人で美人系
化粧子:私子の友人で顔面詐欺師
ある日、電車の中で目の覚めるような美少女を見かけた。
女の私でも一目ぼれしそうなほど可愛かった。
当然他の男性の目も彼女に釘付け。
私の彼氏だった彼男も彼女から目が離せない。
もうあそこまで可愛かったら、嫉妬とか妬みなんて出したくても絞りだせない。
目の保養とか眼福とか、いいもの見せてくれてありがとうってくらい。
帰り道、綺麗だったね~といいながら彼男と一緒に帰った。
だがその日から彼男が一変。
私子の容姿を責める責める。
なんでロングヘアじゃないんだ。
なんで髪がこんなに太いんだ。
もっと細くてサラサラじゃないなんておかしいじゃないか。
なんで色がこんなに黒いんだ。
なんでお前はタレ目ぎみなんだ。
なんで奥二重なんだ、二重に見えないじゃないか。
自分が美人ではないと知ってはいたが、ここまでどうしようもないことで責められるいわれはない。
テレビで女優さんやモデルさんを見るたびに、私子を見て較べて責める。
腹を立てた私子は
「なんでそんなこと言うの?そんなに言われたら私だって傷つくよ!」
すると彼男は
「あ~あ、開き直りかよみっともねぇ。自分のブス度棚に上げて。俺って不幸だよな。外見悪いはそれ反省しないは、中も外も最低女とくっつけられて。」
言い返すどころか、私子ぽか~ん。
元々彼男はDQNではなく、むしろ優しい穏やかな男性だったから。
いつの間に知らない他人と入れ替わったの?としか思えないここ数日の豹変ぶりだった。
今日こそは彼男が元に戻ってくれるという思いと、あれが本性?もう無理だという気持ちでグラグラしていた。
そんな時に彼男が
「別れる」
と言ってきた。
好きな子がいると。
びっくりしたが、電車で見かけたあの可愛子だと聞いて納得した。
あの子が相手なら仕方ない。
私子が敵うどころか同じ土俵に上がる気も起きない。
別れを告げられた瞬間に彼男への未練は嘘のように消えたが、同時に「彼男に可愛子は無理じゃね?」と思った。
以前の優しい彼男ならともかく、ここ数日の暴言を吐きながら醜く顔を歪ませる彼男じゃどうていあの子はむりだろうと。
思ったと同時にうっかり口にも出してしまってたようだった。
瞳孔が開いた目ってのを初めて見たような気がした。
気が付いたら、私子は彼男に襟首を掴まれてファーストフード店内の壁に叩きつけられていた。
別れ話をファースト店でして正解だったな。
二人っきりの場所でなくて良かったな。
なんとなくそう思いながら、視界が狭まっていったのを覚えてる。
実際は気を失うというほどでもなかったし、失ったとしても1秒もなかったようだ。
店の人が倒れた椅子やテーブルを片づける横で、見知らぬ女性に介抱してもらった。
彼男はいついなくなったのか分からない。
電車で可愛子を見かけてから一週間目の出来事だった。
私子を清算した彼男は、そのまま可愛子に告るのかとおもいきや。
ただ同じ電車に乗り続けただけ。
フリーになったんだから堂々と付き合えるはずと胸張って、可愛子とラブラブになるのを夢見ながら待てど暮らせど夢は叶わない。
ラブラブどころか存在すら認識してもらえない日々が続いたようだ。
その愚痴が知り合いの知り合いを伝って耳に入ってくる。
いったい何をやってんだとは思ったが、関わり合いのないことだったので放置した。
ほどなくして、可愛子ほどじゃないがこれまた綺麗な女の子に呼び止められた。
それが友子。
話があるというので、見知らぬ相手だったが「美人とお茶って役得?」なノリでついていった。
友子の話は、
「あなたの彼氏のせいで私の友人が迷惑をしています。痴話げんかに巻き込まないでください」
だった。
その時の私子は彼男と別れた後も誰とも付き合っていなかったのでフリー。
「いやいや、彼氏なんていませんよ。つか募集中」
と言った。
友子は「え?」といった顔をしていたが、しばらく考え込んでて
「そうですか、いろいろ確かめた方がいいかもしれませんね。突然すみませんでした」
といって席を去って行ってしまった。
気がつくと私のお茶代も支払われた後だった。
いいのかな~、でも美人にお茶奢ってもらえるなんて何かいいことの前触れ?と思ったりしていた。
その日の夜、別れた彼男からいきなりメール。
「お前、友子ちゃんに何告げ口してんだよ!」
本気で意味が分からない。
「友子って誰?告げ口って何?あんたなんかやらかしたの?」
と返信。
彼男「友子ちゃんは可愛子ちゃんの友達だよ」
私子「可愛子ちゃんって?」
彼男「可愛子ちゃんっていったら可愛子ちゃんだよ!俺の天使(←マジで言った)だよ!」
私子「へ~。あのすっごく綺麗な子って可愛子ちゃんって名前なんだ」
ここで私子、初めて電車の彼女とその友人の名前が、可愛子ちゃんと友子ちゃんだと知る。
彼男「なんで今頃名前知ってんだよ」
私子「仕方ないじゃん。一度電車で見かけただけの知らない人なんだから」
彼男「なんで知らないんだよ。あんなに可愛いのに。あの子のことを考えるだけで俺頭がおかしくなりそなくらい好きなのに!」
知らんがなそんなこと、と思った。
もうすっかり未練はなかったが、ファーストフード店でされたことは多少根に持っていた。
だがそんな気持ちもだんだん、何か可哀そうなものを見てるようなそんな気持ちになっていった。
そしてどんどん関わりたくない気持ちにもなっていった。
関わりたくなかったが、一人でこんなの抱え込むのも嫌なんで友人知人に事情を披露して酒の肴・話のネタとして提供して心を軽くした。
意外と大受けで、いつの間にか彼男は飲み会でのひそかな有名人になってしまった。
中には遠まわしに彼男に
「なあ、彼男の好きな子ってバリ可愛いんやって?」
とか言いだす輩も出た。
彼男はそれをどう脳内変換したのか「俺と可愛子ちゃんがいつの間にか公認の仲!」となったらしい。
その頃 私子は知らなかったが、私子と別れた直後から彼男は可愛子のストーカーと化していたようだった
決してアプローチはしない。
基本待ち姿勢。
でもいつでも可愛子ちゃんが俺の胸に飛び込んでいられるように、近くで待機。
電車の中や帰り道もすぐ近くで待機。
夜道はけしからん男が可愛子ちゃんに悪さをしないように、ボディガードも兼ねて少し離れた後ろに待機。
むろん彼女には何も言わずに。
影から可愛子ちゃんを見守るナイトとなっていた。
このあたりの事情はずいぶん後で友子から聞いた。
当時の可愛子は恐怖を感じて友子に相談。
昼間、人目のある駅構内で彼男と対決したらしい。
すると彼男は、自分は可愛子ちゃんを守っているだけ、彼女の気持ちを尊重して何も言わないでいる。
可愛子ちゃんがそんなに俺を気にしていたんだったら、迷わず胸に飛び込んできたら良かったのに。
という激しく頭が痛くなるような回答だったようだ。
ともかく付きまとうなと友子が宣言すると、彼男は
「これもそれも全部私子が悪い」
と言いだしたそうだ。
私子が冷たいから、私子が最低女だから、私子が理不尽だからこうなった、と。
私子は関係ないだろうと最初は思っていた友子だったが、何度言ってもストーカー的行為を止めない彼男に業を煮やし私子のところに来たようだった。
だが、話を聞くと私子に付き合っている男はいないという返事。
これもう訳が分からないから警察へ行こうと友子は可愛子を説得するが可愛子は嫌がる。
なんで嫌がるのかと聞いた時は思ったが、可愛子に一目ぼれする男は多くストーカー的になりやすい男もそれだけ多かった。
何度も警察に相談するうちに、こんなにストーカーされるってあなたに原因があるんじゃ?みたいなことを言われて警察不信になったらしい。
無理ないことだと今は思う。
本人嫌がってるのに、美人の特権だよと言われたら、そりゃ相談しなくなるわな。
ともかく、彼男がやたら私子の話を出してくるので一度関係者集めて話し合おうと可愛子と友子は思ったようだ。
とうとう、彼男と可愛子と友子の話し合いの席に私子も呼び出されることとなった。
あまり行く気はしなかったが、前にお茶代を出してもらったことではあるし、何がなんだか分からず気になってたということもあって行くことになった。
ただ一人では何かあった時のためにと、私子の友人の化粧子も一緒に来てもらうことにした。
化粧子は美人ではないが、周囲に「特殊メイクのプロ」と言われるほど化粧が上手い化粧美人だった。
本人自ら「私は顔面詐欺師w」と言うくらい。
可愛子、友子、化粧子。
一人は偽物だが美女3人に囲まれて彼男は有頂天。
私子は空気どころか別の次元に飛ばされたような気持ちになった。
話し合いの内容はだいたい次のような流れになった。
友子「可愛子に付きまとうの止めてあげてください」
彼男「付きまとってるんじゃないよ。守ってるだけ」
可愛子「守っていらないので止めてください」
彼男「いやいや守らないと。でないとここにいる最低女の私子が可愛子ちゃんに何をしでかすか分からないから」
私子&化粧子「???なんでここで私子が関係してくるの??」
周囲で彼男と可愛子ちゃんが公認の仲になり有名になりすぎてしまった。
それを聞きつけた元彼女の私子が嫉妬に狂って可愛子ちゃんに危害を加えるかもしれない。
いや加えるはず。
こいつはそういう最低な女。
外見が最低なだけでなく、中身も最低。
付き合っていた俺だからこそよく知っている。
それが彼男の理屈らしかった。
化粧子「私子は彼男に未練がないのになんで嫉妬するのよ?しかも彼男って可愛子さんと付き合ってないみたいだし」
彼男「これから付き合うんだよ!そのための障害を取り除くために俺は努力してるんだよ!」
友子「なんで可愛子が彼男さんと付き合わなくてはいけないんですか」
彼男「好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ!」
可愛子「お付き合いする気は申し訳ないけどないです」
彼男「本当に好きなんだよ。信じてくれ。愛してると言ってもいいくらいなんだ!付き合えないと俺おかしくなってしまうくらいだよ!」
私子「とっくに既におかしいじゃん、何もかも」
彼男「うるさい。可愛子ちゃんが可愛いからって嫉妬して俺たちを引き裂くつもりだろ。うはいかないぞ」
私子「・・・はあ・・・?」
化粧子「引き裂く以前に付き合ってないって言ってるよ可愛子さんは」
彼男「そ、それは・・・まだ出会って間もないから照れてるだけだ!」
可愛子&友子「・・・・・」
言葉も出ないようだった。
私子の未練が可愛子ちゃんとの仲を邪魔している。
私子が悪い。
私子謝れ。
二度と可愛子ちゃんに悪さをするな。
もう彼男の頭が狂ったとしか思えなかった。
彼男の可愛子ちゃんへの説得というか口説きは続いた。
彼男「大丈夫、一生守って見せるよ」
「必ず私子をやっつけてみせる」
「俺を信じて!」
私子「やっつけるもなにも関わりたくない。彼男、あんたなんか要らん。人の外見けなす男は要らん」
彼男「自分の責任をすぐ人になすりつけるんだな。相変わらず根性悪い女だ。可愛子ちゃん、見ました?こいつこういう女なんですよ。ブスのくせに。ブスのくせに。ブスのくせに」
可愛子「・・・最低なひと」
彼男「ほーら、聞いたか?私子!こんな美人に最低な人間って言われた気持ちはどうだ?どんな気持ち?ん?ん?ん~?」
今までの人生にこれほどブスと連発されたのは初めてだった。
小学校の頃ですらない。
美人から程遠いことは知ってるが、なぜここまで彼男に言われなきゃならないのだろうと思うと涙が出てきた。
友子「可愛子が最低って言ったのは彼男さん、あなたのことです」
可愛子「彼男さん、最低です」
化粧子「あんた 頭おかしいんじゃないの?」
今思えば彼男は私を落とすことで可愛子を持ちあげて口説いてるつもりだったようだ。
私子をけなして見せることで、私子に未練がないということをアピールしてたらしい。
当然のことながらすべて裏目に出て、可愛子ドン引き。
化粧子「おかしい奴といくら話しても無駄。行こう私子。もう私らに関わるな」
私子「あんたに未練なんかないよ。むしろ別れて良かったと心から思ってる」
といって二人してお茶代5人分プラスα置いて出た。
可愛子と友子もすぐに出てきて、その後4人で気になってたカフェでお茶をして仲良くなって帰った。
その後彼男から私子へメールが来た。
「なんで俺と別れて良かったなんていうんだよ。俺達上手くやってただろ?あんなに仲が良かったじゃないか!」
これが噂の復縁迫るロミオかなと思っていたら
「別れて良かったなんて前彼女のお前がそんなこと言ったら、可愛子ちゃんから俺が最低男って思われちゃうじゃんか!」
という怒りメールだった。
その後 可愛子や友子と仲良くなった私子と化粧子は 一緒にカフェめぐりや雑貨めぐりをして遊ぶように。
その後を彼男はついてきてたらしい。
「可愛子ちゃんとの仲を橋渡しして」
という正気とも思えないメールが来るようになった。
こんなおかしなこと さすがに同性の友人には知られたくないだろうと思って彼男の友人には何も言ってなかったが、話して男同士なら納得してくれるかと思った。
彼男の友人とは親しく無かったが、簡単にあらましを話した。
が、彼男はそれをどう受け取ったのか、可愛子ちゃんを狙うライバルが増えた!と思い込んだらしい。
私子には誰か分からないが、実際彼男の友人の2人が可愛子に本気になったらしかった。
その後はどういう経緯なのか分からないが、男同士で可愛子ちゃんには抜け駆けしないという協定のようなものが出来たらしく、私子はもちろん可愛子の身辺は静かになった。
その後、可愛子ちゃんは10歳年上の経営者だか実業家だかのお金持ち&イケメンな彼氏が出来て婚約した。
婚約パーティでローストビーフを好きなだけ食って私子満足。
結婚式でも好きなだけ食べてねと言われて天国にいるような気持ちだ。
彼男はというと、可愛子の相手のスペックを知った途端いきなり正気に戻った。
男にとってのヒエラルキーってすげえぱねぇなと思ったよ。
その後
「あのころの俺は」
「魔女にだまされて」
「女は外見じゃないよ(ミャハ☆)」的なメールが来てる。
そして友子も化粧子も 可愛子の彼氏関係の高スペック彼氏が出来た。
私子は相変わらず 美人に生まれ変わりもせず化粧の腕も上達せず非モテ女一直線。
あんたは美人じゃないから自分で経済力を持てと言った母は正しかったと実感している。
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